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あくまで怠惰な悪役貴族   作者: イコ
第八章

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月夜の再会

 事件は、ユダ・タコブがロリエルに《催眠術》をかけて意のままに操り、事件を発生されたことが明らかになった。


 それはロリエルが、エリーナを手に入れたいという気持ちにつけ込まれ。

 預言者アケガラスの隠された想いを呼び覚まし。

 聖女ティアへの忠誠心を利用されたヒルカラス。


 三人の心のスキマをユダはついて催眠術で落としていったのだ。


 そして、アケガラスたちが行えなかった大放火を、ロリエルはミカに幻覚を施すことで、聖女ティアの命令という最悪な方法で実行させた。


 ユダとロリエルは事件の主犯として、教皇及び聖女ティアによって教国へ連れていかれることになった。


 大図書館は、火事の影響ですぐには再開が難しく。

 集めた書物は、塔のダンジョンから出た際に火を取り除いたのがよかったのか、無事に済んだ。


 シーラスが雨を降らせてくれたおかげで、街全体の全焼も避けられた。

 半壊した街は通人至上主義教会の使徒たちのおかげで修復は順調に進んでいる。


「さて、ボクは約束を果たさないといけないね」


 事件を解決するために、ボクはアイリス姉さんに協力を要請した。


 その際に契約も結んでいた。


 アイリス姉さんの手の甲にキスをして。


「誓いを。全てが終わり、君がボクを許す時、君を受け入れる」

「約束しましたの」


 異母姉弟で、血の繋がりは半分。


 心に至っては、すでにリューク・ヒュガロ・デスクストスは五歳の時に毒によって死んでいる。

 

 ずっとアイリスの弟ではない、ボクとして生きている。


 だからこそ、ボクとしてはゲームに登場する悪役令嬢アイリス・ヒュガロ・デスクストスのイメージが強かった。

 それは美しくも棘があり、近寄ってはいけない存在に思えていた。


 だけど、アイリス姉さんの情報はタシテ君から色々と聞いていた。

 

 リュークが死んだことで挙げられた葬儀で激昂して、《色欲》に覚醒したこと。


 誰よりもボクの死を悲しみ涙を流してくれたこと。


 そして、ヤマトを殺すために皇国へ戦いを挑んだこと。


 それにボクを大切に思ってくれていたことは、カリンから聞いていた。


「それが、どんな思いによるものなのか、わからないけれど。答えを出さなければいけないだろうね」


 ボクはアイリス姉さんが泊まっているスイートルームに降り立った。

 テラスにあるテーブルへ、ワインと軽食を置いていく。

 

 おつまみは即席でボクが作ったものだけど、味は悪くないと思う。


「夜分遅くに失礼。約束を果たしにきた」


 ヨルカラスの仮面とマントをつけ、テラスに現れたアイリス姉さんに挨拶をする。

 多少緊張しているのは、ボクなりにアイリス・ヒュガロ・デスクストスというキャラに偏った思考があるからだと思う。


 アイリスは、ゲームで正しく悪女だった。

 公爵家の権威を傘にやりたい放題。

 欲しい物をなんでも手に入れ、男性も女性も、色欲の限りに蹂躙していった。


 その姿は悪役令嬢と言われるのに相応しい女性だった。


 だが、今の姉さんは色欲として覚醒をしているのに、狂うことなく理知的な表情を見せている。

 ただ、漏れ出ている色香は普通の女性よりも遥かに強く。気を抜けば意識を奪われてしまいそうになる。


 それほどまでに魅力的に成長したアイリス姉さんを危険な人物だと思ってきた。


「来ましたのね」

「ああ、事件を解決することができた。心から感謝する」

「ふふ、わたくしは何もしていませんの。ディアスとエリーナ王女の従者をしているクロマなる子が頑張ったんですの」


 驕り高ぶることなく他人を評価する。

 それはイメージのアイリスからかけ離れた、有能な上司や貴族の姿だった。


 アイリス姉さんが動いてくれたからこそ、全ての事柄は上手く回り出して解決を早めてくれた。


「それでも全ては終わった。一緒にワインでもいかがかな?」

「いただくわ」


 アイリス姉さんには赤ワインが似合うように感じたが、今日はボクがリンゴのワインが飲みたくて用意した。

 ほのかな酸味と、りんごの香りが素晴らしい。

 後味に甘味が口当たりによく、酒精が高い割に飲みやすい。


「ふぅ、ふふ、美味しいわね。初めて飲む味だわ」

「ああ、ボクが作ったんだ」

「あなたが?」


 リューの街で作ってもらっている。


「ねぇ、ヨルカラス。あなたの正体を教えてくれるんですの?」

「ああ、ただ、君がボクを許すのかはわからない」


 ワインを飲み干し、ボクは月夜に照らされたテラスでマントを脱いで、仮面を外した。


「久しぶりだね。アイリス姉さん」

「……リュークですの?」


 しばしの沈黙。

 

 そして、アイリス姉さんはボクの名前を呼んだ。


「ああ、リューク・ヒュガロ・デスクストスだよ。あなたの弟だ」

「そう、リュークでしたの」


 どこか納得した顔をするアイリス姉さん。

 ただ、その表情では何を考えているのかわからない。

 ワインの影響なのか、ほんのりとアイリス姉さんの頬は赤みを帯びていた。


 妖艶で美しい色香は、今まで以上に強くなり、存在と気配が今まで以上に強くなる。

 この場に他の者がいたならば、意識を保つのも難しいほどの魅力が、アイリス姉さんから溢れ出していた。


 アイリス姉さんが立ち上がって、テラスの手すりにもたれるようにボクに迫った。


「よかったですの。あなたが生きていて」

「怒られるかと思ったよ」


 後一歩進めばキスをしてしまう。


「ええ。怒っておりますの。今までわたくしに隠し事をしていたんですの。怒っていますの。だけど、それ以上にリュークが生きていたのが嬉しいんですの」


 そう言って抱きしめてくれた。

 アイリス姉さんからは、いい香りがして、ボクも優しく抱きしめ返した。


「リューク」

「なんだい?」

「わたくしはあなたを愛していますの」

「えっ?」


 あまりにも素直で意外な言葉に驚いてしまう。


「子供の頃、あなたがカリンと婚約を表明する前からずっとあなたを愛していましたの。だけど、素直になれないわたくしは強がって、ずっと言えませんでしたの。あなたの死を知った時、とても後悔しましたの。どうして素直に言えなかったのかと悩みましたの。ですから、リュークが生きていて嬉しいですの。そして、あなたを愛していると今なら素直に言えますの」


 そういって、アイリス姉さんはボクにキスをした。


「ふふ、女性とは何度もしていますの。だけど、男性とするキスはリュークだけですの」

「アイリス姉」


 ボクが姉さんという言葉をいいかけて、アイリス姉さんの細い指で口を塞がれる。


「アイリスと呼んで欲しいですの。あなたは死んで私の弟ではありませんの」

「……アイリス」

「嬉しいですの」


 もう一度強く抱きしめられる。


「アイリス。ボクは君に話をしなくちゃいけない」

「いいえ」

「えっ?」

「わたくしは全てを許しますの。あなたがリュークである以上。わたくしはもうどんなことよりもあなたを優先すると決めてしまいましたの。ですから、あなたもわたくしを受け入れなさいですの。カリンや他の女性たちがいようと、わたくしは構いませんの」


 意思の強さは変わっていない。

 学園で見た優しさもアイリスのものだった。


 何一つ変わることなく、そしてボクという存在を愛してくれていることも変わらない。もう、ボクでは勝てないね。

 

「全てを受け入れる」

「当たり前ですの」


 そう言って二度目のキスをした。


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