裏方
ボクはダンの広範囲高威力攻撃を避けてクロマの元へと帰ってきた。
「ふぅ、なかなかいい演技だったんじゃないかな?」
「ふぇっ! あっ、あのリューク様?」
「うん? どうしたの?」
「あの攻撃をどうやって避けたんですか? アクージ様の攻撃は、完全にリューク様を捕えていたと思いますが?」
空を割るほど眩い光の放流を生み出したダンの聖剣は、ボクを確実に捉えているように見えた。
「ああ、それはアクージの糸は最初からボクを捕まえてはいなかったんだよ」
「えっ?」
「あの中で、ボクを正確に認識していたのは、ノーラとアクージの二人だけだ」
「認識?」
「ああ、ボクのことをリューク・ヒュガロ・デスクストスとして、アクージは認識していたんだ」
糸を使って、上空まで上がってきたディアスボラ・グフ・アクージは、ボクへ囁いた。
「ご依頼、完遂しました。後は犯人を逃さないようにしておりますので、ご心配なく」
そう、あの上空でアクージはボクへ依頼完遂を伝えるためにやってきた。
今回の一件は教皇派と聖女派の問題がことの発端ではある。
それは教皇が聖女の力を疑い。
聖書に書かれていることよりも、宗教という仕組みを利用しようとして、政治力を発揮していた。
教皇は優秀が故に現実主義者で、人身掌握が得意だった。
それは戦闘面では力を発揮されることはなかったが、政治という場面では絶大な力を発揮した。
そして、それに目をつけた人物がいた。
ボクがアクージに仕事を依頼したのは、たまたまだった。アイリス姉さんに会いに行った帰り道。
アイリス姉さんの護衛をしていたアクージと出会った。
対峙した瞬間に互いに強敵であることは理解した。
そして、アクージの方が先に武器をおさめた。
「どうした? やらないのか?」
「一つ。お聞きしたいことがあります」
「なんだ?」
「あなたはリューク・ヒュガロ・デスクストス様ではありませんか?」
全身を隠したヨルカラスの姿をしたボクに対して、アクージがそうやって質問をした。
「……そうだと言ったら?」
ボクの答えを聞いたアクージが膝を折って頭を下げた。
「でっあれば、私が刃を向ける道理はありません。私の仕事はあくまでアイリス・ヒュガロ・デスクストス様の護衛と、それを取り巻く環境への対処。あなた様はアイリス様の敵ではございません」
「そう思うか?」
「はい。ここに来た時も、そして、武器を構えている時も私を殺す意志を感じません。それにあなたの実力ならば、私が命を賭して挑んだとしても、腕を一本いただけるかどうかです。ですが、その身につけている魔導具に阻まれて、それすらも難しいでしょう」
ヨルカラスの下には、バルニャンを纏っている。
二重で装備をしていることをアクージは見抜いたようだ。
「相当に優秀なんだな。なら、お前に私から依頼を頼みたい」
「何なりと」
「報酬の話はいいのか?」
「テスタ・ヒュガロ・デスクストス様より、仕事をしたら、した分だけ報酬はデスクストス家が払うと確約を頂いております」
「なるほどな。テスタ兄上が」
「はい。ですから、デスクストス様の依頼ならば、私はお受けいたします」
というのが、アイリスお姉さんにあった後に行われたやりとりだ。
「なら、アンナさんが誘拐されたのも」
「アンナが、真実に近づきつつあったんだろうな。危険に近付く前に保護したんだろう。クロマの報告とアクージの仕事は連動していた。そして、全ての誤解に決着がついた。後は」
ボクは戦場となった広場へと視線を向ける。
スリープはすでに解除して、人々は目を覚ましていく。
ボクが魔王として登場した姿を見た民衆は、それを倒した勇者と聖女を崇め奉る。その舞台は整えた。
「さすがは勇者ダン! そして、聖女ティア様! あなた方が魔王を退けたのだ!」
そういったのはチューシンだった。
その声に教皇は放心状態だった意識を覚醒させて立ち上がる。
「聖女ティア様」
「教皇様」
教皇は、聖女ティアの前で膝をおった。
「あなたは真の聖女様です。魔王を退けた力は聖なる力に相応しかった。そのような聖なる力を使えるあなた様が、嘘を吐くはずがございません。そして、勇者ダンよ。聖女ティア様と共に戦ってくれてありがとう。我々通人至上主義教会は、王国に協力することを誓う。勇者が最果ての魔王と対峙する際には、必ず共に戦うと」
教皇の言葉に民衆は拍手で応える。
「そして、聖女アイリス様。あなたもまた本物の聖女だったのですね。聖女ティアと異なる力ではありましたが、あなたの力があったからこそ魔王の脅威を跳ね除けることができた。あなたにも最上の感謝を」
「とっ、当然のことをしたまでですの」
「その従者を務めるアクージ様にも感謝を」
「仕事ですから」
教皇は魔王を退けた四人に礼を述べて、ノーラを見る。
「今回の出来事は、我が教国の不手際であったことを認めます。私は通人至上主義教会が管理する宝物を貸し出して欲しいという申し出を受けました。そして、聖女様の邪魔をして蹴落とそうとした。その手口までは聞いてはおりませんでしたが、迷宮都市ゴルゴンに多大な迷惑をかけたことは間違いありません。その償いをさせてください」
今回の事件について、教皇が聖女を貶めるものだと自白を始めた。
ここまでは上手く行ったが、それは教皇だけが責任を負うべきことではない。
「異議ありです」
そう言ったのはアクージだった。
「はい?」
教皇の覚悟に異議を唱えたアクージは指を鳴らして、糸でぐるぐる巻きにされたロリエルが現れる。
「今回の首謀者は、教皇。あなたではありません。彼が今回の首謀者です」
アクージの言葉に全身の注目がロリエルに集まる。
「僕? ふざけているのかい、アクージ殿?」
「いいえ、私が捕らえているあなたが無傷なのが証拠です」
集まった視線がロリエルにそそがれる。
魔王が現れた際に押しつぶされて、気を失っていたはずだ。だが、ロリエルは一切の傷を負っていない。
「あなたは属性魔法によって、やられた演出をした。私は王国剣帝杯のときにあなたの手品を見ていましたのですぐにわかりました」
そう言ってアクージがロリエルの顔面を殴れば、その姿はブレて姿を変えてしまう。そこにはハゲたオッサンが姿を見せた。
そう、ユダがそこにいた。




