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あくまで怠惰な悪役貴族   作者: イコ
第八章

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式典参加者 10

《side ー 聖女ティア》


 私は不意を食らったように現れた二人に意識を向けます。


 ミカは、私に視線を向けて申し訳なさそうな顔をしています。

 ロリエルに至っては、観客に対して両手を広げてアピールする素振りを見せていました。


「どういうことですか?」

「重要参考人ティア殿、発言は挙手をお願いするでありんす」

「いえ、申し訳ありません」


 私は動揺を隠しきれなくて、声を発してしまいました。

 今回の件は、関与してはいない。

 だが、教皇や十二使徒のユダが現れたことで、私の中では一つの答えが出ようとしていた。


 それは、教皇たちによる私を貶める作戦だと。


 現在の通人至上主義教会は、お祖父様が崩御されたことにより、教皇が変わったことで内部分裂を起こしていた。


 昔からお祖父様と聖女である私を推してくれる穏健派。

 新しく教皇に座ったあの男と、十二使徒のユダを含めた革命派。

 そして、状況を見守るために様子を伺う保守派。


 今回の事件は、革命派による作戦だったのだ。


 私がアクアリーフを出たことで、他国に迷惑をかけたという汚名をきせるつもりだったのだ。

 それを王国の人々が優秀だったために、ここまで呼ばれることになったのだと思っていた。


 だが、ここにきて、二人の登場は予想外でしかない。


「アクージ殿。二人が重要参考人ということで間違いありませんか?」

「間違いありません」

「それではどういう重要参考人になるのかご説明をお願いします」


 チューシン様とアクージ様が、目配せをして会話を進行していく。


 今回の件では、アイリス・ヒュガロ・デスクストス様は迅速な判断と決断力で、犯人を見つけ出し。私の保護をしてくださっていた。


 そして、エリーナ・シルディー・ボーク・アレシダス様は私の弁護として、異議を唱えてくださった。

 ですが、ここにきて私の陣営から重要参考人を呼べば、私が不利になることはわかっているはずです。


 私は聖女アイリス様に視線を向けましたが、アイリス様は腕を組まれて目を閉じておられます。


「それではお話をしていきます。お二人とも宜しいですね?」

「……」


 ミカは何も言わずに視線を逸らした。


「もちろん、いいよ。なんでも聞いてくれ」


 それに対して、ロリエルが大袈裟に両手を広げてアピールをする。


「それでは、先ほどの続きなのですが、私がアンナ嬢を拉致して街外れの小屋へとお連れした後。迷宮都市ゴルゴンに帰ってくると火の手が上がり始めているところでした。私はすぐさまアイリス様に知らせに走り、その道中で捕えていたはずのお二人が迷宮都市ゴルゴンに火を放つ姿を見たのです。すぐさまお二人とは戦闘になり、お二人が武器を持っていなかったこともで、辛くも捕えることに成功しました」


 なっ! どちらかではなく、二人が火をつけていた?


「ああ、間違っていない。君があれほど強いなどと知らなかった」

「お褒めに預かりありがとうございます。そして、火を放ったことを認めていただきありがとうございます。では、なぜ火の手を?」


 アクージ様の言葉に、先ほどすぐに答えたロリエルが沈黙する。

 そして、私はミカを見ていた。


 ミカとは、付き合いが長い。

 彼女がこんなことをする人間ではないことを私が知っている。

 そのはずなのに、先ほどは二人で火を放ったと言っていた。

 誰かに無理やりやらされているとしか思えない。


「それは……、全て聖女ティア様の指示だ」

「なっ!」


 ロリエルの言葉に、私は声が漏れてしまいました。

 嘘をつくことが禁じられた場所で、堂々と嘘をつくなどどういうつもりですか?


 私は咄嗟に嘘を見破る魔法使いを見ましたが、一切反応しておられない。


「うむ。どうやら本当のご様子ですね。ロリエル様は嘘をついていないようです。では、聖女ティア様にご質問します。あなたは火事を起こせと命令されたのでしょうか?」


 アクージ様の質問に、私は動揺を隠せないまま答えることになります。


「わっ、私はそのような命令はしておりません」


 誓ってしていない。だけど、ロリエルが、どうしてそのようなことを言うのかわからない。


「ふむ」


 チラリと嘘を見破る魔法使い様は、戸惑ったような表情をされる。


「嘘……、では無いようですが、動揺が見られるようですね」


 マズイ! このままでは、私が犯人にされてしまうかもしれない。


「異議、をもうさせて頂いても?」


 そう言って挙手したのは、教皇ジェルミナス・アッカーマンであった。


「アッカーマン様、どうぞ発言を許しんす」

「ありがとうございます。多分ではありますが、聖女様はお仲間が犯人だと知って動揺しておられると思われます。嘘ではないと判断していただきたい」


 敵だと思っていた教皇に庇われ、私は悔しさで唇を噛んで、自分が恥ずかしくなる気持ちを抑え込みます。


「うむ。まぁいいでしょう。アレシダス様、何か言われることはありますか?」

「はい! ミカ様に質問です」

「許可するでありんす」

「あなたも聖女ティア様に言われて放火を行ったのですか?」


 エリーナ様の質問は、動揺しているミカへの物だった。

 ここでミカが真実を話してくれれば、状況は変わる。


「……はい。間違いありません。私は最初、ロリエルに言われ。それを聖女ティア様に確認しました。そして、ティア様からはお願いと言われました」


 なっ! どう言うことなの? 私はそんなことは言っていない。


「あっ、ありがとうございます」


 エリーナ様も動揺して、それ以上質問を続けられなかった様子です。

 ですが、私もどうすればいいのか、わからない状況になっております。


 何がなんなのか、理解が追いつきません。


「一先ず、この件は保留とします。そして、ここで教皇アッカーマン様をお呼びした経緯に移りたいと思います」


 チューシン様の言葉に、私は動揺しながらも希望を胸に視界を上げました。


「こちらの調査で、ある手紙が発見されました」


 そう言って取り出されたのは、私の印鑑が押された手紙でした。


「亜人を囲う迷宮都市ゴルゴンに粛清を!」


 その一文が書かれた手紙に、私は驚きを隠せません。


「教皇アッカーマン様」


 挙手して立ち上がる教皇。


「その手紙は、私の忠実なる使徒が届けてくれたため、私は急ぎ聖女ティア様をお止めするべくやってまいりました」


 私は足元から地面がなくなっていくのを感じました。


 状況証拠が、私を犯人に仕立て上げるために、出来上がっていくのをただただ見つめることしかできないのです。

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