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あくまで怠惰な悪役貴族   作者: イコ
第八章

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暴食の腕輪 

 ノーラの腕輪を付けた者は、預言者アケガラスに間違いない。

 だが、預言者アケガラスに暴食の腕輪を渡した者が他にいる。

 だからこそ、ボクの怒りは収まらない。


 だが、もう時間がない。


「シーラス。バルニャン。どうだ?」


 ノーラが眠る寝室に入って、質問を投げ掛ければシーラスは額に汗を流し、バルニャンは悲しそうな顔をしている。


「お帰りなさい。リューク」

「シーラス、任せてしまってすまない。大丈夫か?」


 ボクは疲労を少しでも回復させるために、回復魔法をシーラスにかけながら問いかける。


「ありがとう。少し楽になったわ」

「いいや。この程度は容易いことだ」

「ふふ、あなたの凛々しさが今は何よりも頼もしいわ。解析は終わっています。魔法陣の数は百八。吸収の重ね掛けて、何重にも施されているわ。無限に魔力を吸い続ける。それが魔力に留まることなく生命力も吸収するようにできているようね」

「それだけなのか?」

「それだけとは?」

「そんな微妙な物を作るだろうか?」


 暴食の腕輪と言われているが、これを作った人物は何を思ったのか? ボクはこのアイテムを知らない。闇堕ちした裏ルートでも出てこなかった魔導具だ。


「バルニャン! ノーラの状態は?」

「呼吸はマスターが教えた魔力吸収で、なんとか正常を保ています。ですが、脈拍、心拍、共に微弱であり、筋肉はどんどん弱まっていっております」

「つまり、生命力を最小限に維持して、生命に必要ないエネルギーを先に食しているということだろう。ノーラの全てを喰らい尽くすつもりか」


 暴食の腕輪はどんな目的で作られたのか? 

 大罪の名を冠するほど強力に作られたのに、術者を喰らうだけか?


「シーラス。百八の腕輪の魔法陣割合を教えてくれ」

「わかったわ」


 魔法吸収五十。

 生命吸収二十五。

 肉体強化三十二。

 不明な魔法陣一。

 

「難しい魔法陣ではないが、一つだけ不明な魔法陣か、バルニャン。解析できるか?」

「(^O^)/」


 バルニャンが腕輪へ解析を開始する。


「反転の魔法陣だと判明しました」

「反転の魔法陣?」


 バルニャンの言葉を聞いて、シーラスも思考を巡らせるが、寝ないで解析をしてくれた弊害が出ているのだろう。頭がうまく回っていないようだ。


「ダメね。何も思いつかないわ」

「シーラス。今は眠ってくれ」

「こんな状態では眠れないわ!」

「大丈夫だ。ボクを受け入れてくれ。スリープ」

「あっ!」


 ボクの眠り魔法で、シーラスは眠りの世界へと落ちていった。


 客間のベッドへ寝かせて、ボクはバルニャンと二人でノーラの腕輪について思考を巡らせることにした。


「反転とはどういうことだ?」

「マスター。反転の魔法陣で考えられる出来事は、物理的な反転や逆転が起こることです。例えば、時間の流れや方向が逆転する、物体が上下逆さまになる、あるいは鏡像のような世界が現れるなどが考えられます」


 物理的な反転。

 逆転。

 時間の流れる方向を変える。

 物体の上下逆さまにする。


「そうか! ノーラの腕輪は魔力や生命力を吸収する方向に力が向けられているそれを反転させればいいのか?」

「なるほど、ありえるかもしれません。ですが、どうやって?」

「バルニャン。反転の魔法陣だけに絞って発動条件を解析してくれ」

「かしこまりました」


 バルニャンがもう一度、暴食の腕輪について解析を開始する。


 もしも反転させることができれば、暴食の腕輪に溜め込まれていた力が放出されるようになって、ノーラの生命力が活性化するはずだ。


「解析を終えました」

「どうだった?」

「マスターの言うことが正しいようです。反転の魔法陣を発動することで、ノーラ様の生命維持を取り戻せると思います。ただ」

「ただ?」


 バルニャンが困ったような顔をボクに向ける。


「あまりにも暴食の腕輪に溜まったエネルギーが強く。反転させたが最後。ノーラ様がどうなってしまうのかわかりません」

「どうなってしまうのかわからない? どう言うことだ? わかりやすく言ってくれ」

「現状は、強い体のノーラ様ですから耐えられています。ですが、反転して力を放出するようになれば、自らの体に生命力が戻り、その力は必要以上に強いため暴走する恐れがあります」


 バルニャンの言葉に、ボクはノーラを見る。


「暴走?」


 元気になりすぎて、力を発散し切るまでは暴走が続く。


「はい。ですから、反転させる場所とタイミングを見定める必要があると思います。そして、反転の魔法陣は一つだけなので、何度も使えるような物ではないようです。これだけの魔力と生命力を溜め込んでいるので、一度か二度使えば、腕輪自体が壊れて消滅すると考えられます」


 暴走するノーラ。


 それを受け止められる器が必要であり、体が耐えられるか? それとも周りの環境が耐えられるか? もしも、今すぐ反転させた場合。

 ノーラは迷宮都市ゴルゴンを消滅させるまで暴れ回るかもしれない。


 いや、王国全土を滅ぼしてしまうかもしれない。


 預言者アケガラスが言っていた。

 《強欲の暴君》を超えた、《破壊の化身》として名を残すことになってしまう。


「ノーラを受け止められるのはボクだけだろうな」

「マスターが行くのであれば、私もお供します」

「うん。そして、場所は」


 ボクは窓の外を見た。


 高い高い天辺が見えない塔が、そこには立っていた。


「あそこしかないね」

「はい! ノーラ様の暴走を受けても壊れない場所はダンジョンだけだと思います」


 普通のダンジョンなら、ノーラの暴走に耐えられなくてダンジョンコアを破壊されてしまうかもしれない。


 だが、あの塔のダンジョンなら早々に破壊されることはないだろう。


「図書館の発表会は延期だね」

「ノーラ様の使用人さんに伝えて参ります」

「ああ、頼んだ」


 ボクはノーラのベッドへ行って手を握る。


「君を必ず救ってみせる。ボクの全てをかけて」


 声が聞こえていたのか、ノーラが目を開き、弱々しくボクの手を握り返した。


「リューク。わっちのことはええ。リュークの方が大事や」

 

 それだけを告げると、ノーラは瞳から涙をなして眠りについた。


「必ず」


 ボクはノーラの横で休息を取ることにした。


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