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あくまで怠惰な悪役貴族   作者: イコ
第一章 

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チュートリアル戦 後半

 めんどうくさい。


 メチャクチャ嫌だ……動きたくない。


 ランキング戦とか、マジでなくなればいいのに……ハァー嘆いていてもこのイベントは無くならない。


 ゲームでは、主人公がヒロイン達と仲良くなるためのイベントの一つとして存在する。

 ランキング戦は、ヒロインとチームを組んだり、ケガをしたヒロインの代わりに代理をしたりして好感度を上げていく。


 チュートリアル戦闘で負けたキモデブガマガエルのリューク。

 三年間、他の生徒や傭兵を雇って主人公にあの手この手でランキング戦を挑むために出現する。

 卑怯な手を使って、悪逆の限りを尽くして……結局全て負けるというシナリオだ。

 今日は、その最初の一手目となる。

 あくまで悪役貴族としての役割をしなければならない。


「バル」

「(^^)/」


 闘技場に移動しながら、ボクはバルを召喚する。


「リューク様。大丈夫ですか?」


 バルを呼んだボクの横で、リベラが心配そうに問いかけてくる。


「うん。大丈夫だよ」

「父からリューク様は動くのが嫌いだと聞いています」

「そうなんだよ~マルさん、わかっているね」


 ボクがマルさんを褒めると、リベラは息を吐いて少し緊張を解く。


「本当に決闘がお嫌だったんですね。

 相手はマーシャル家の名誉騎士候補です。

 実技試験も上位だと言っていました。本当に大丈夫なのでしょうか?」

「それは心配ないかな。今の彼なら余裕だと思う」


 前を歩くリンシャンとダンの後ろ姿を見て、ボクはあくびをする。


 確かにゲームではチュートリアルとして、デブキモガマガエルのリューク君が主人公とランキング戦をする。


 ゲームではターン制の戦闘シーンになり、


 攻撃

 魔法

 防御

 必殺


 と言う項目が現われて、順番に使い方を説明されていく。

 最後に必殺を使ったダンによって、リュークは倒されるという流れになっていた。


「リューク様は不思議な方ですね」

「そう?」

「ええ。誰も想像しない魔法を作り出したり、公爵家の方なのに戦いを断ったり」

「貴族らしくない?」

「ええ。貴族らしくありませんね。悪い意味ではありませんよ」


 リベラと笑いながら闘技場へ入っていく。

 先に到着していたリンシャンとダンがウォーミングアップを始めていた。


「貴様の性根。俺が叩き直してやる」


 リベラに離れるように言って、ボクはバルに命令する。


「はいはい。相手をしてやるのは1分だけだ」


 開始の合図をされてから一分間、バルに身体を預ける。


「いいかい、バル。ボクも相手もケガをしない程度にね」

「(^^)/」


 ボクがバルに命令していると、ダンが話しかけてくる。


「お前のレベルは?」


 レベル?ああ、確か魔物を倒すとレベルが上がるんだった。


「レベル1だ」


 ボクの回答が気に入らなかったのか、物凄く睨まれた。


「それでは成績20位ダンの申し出により、成績2位リューク・ヒュガロ・デスクストスとのランキング戦を開始する。両者前へ」


 グローレン・リサーチ先生が審判役となり、闘技場でクラスメイトが見守る中で両者が立ち会う。


 たぶん、バルに任せるとダンはすぐに負けてしまうよなぁ~頼むから1分は持ってくれ。


「良い戦いにしよう」


 グレーレン先生が腕を振り下ろす。


「開始!!!」


 バルに全てを委ねる……次に意識を取り戻した時……


「はっ、離せ」


 ダンの剣を蹴り上げ、首を掴んで持ち上げていた。


「ふぅ、一分経ったか。う~ん、こういう状況か」


 丁度、ダンに触れているのは都合がいい。


「チェックメイトだ」


 ダンの属性魔法は《増加》、ブースト魔法とも言うが、魔法に上乗せが出来るチート魔法だ。

 普通の人は肉体強化を一度しか使えないが、ブースト魔法で何重にも上乗せが出来る。


 個人で使う場合は、魔力と肉体の両方を鍛えなければ意味がない。

 ブースト魔法は他の者と協力したとき、本来の力が発揮される魔法なんだ。

 つまり、一人で戦うダンはまだまだ未熟なので脅威にすらならない。


「ブースト!」


 それでも属性魔法を使わせると、肉体強化を増加させて全身の能力を向上させてしまう。ちょっと見てみたいが、今はめんどうなので終わらせる。


「やらせねぇよ。スリープ」


 まだまだ経験不足で魔法抵抗が弱いダン。

 スリープに抵抗できないため、すぐに眠りについた。


 これは少しばかりの演出だ。


 抵抗しないダンをバルによって空中へと浮かせていく。


 闘技場の天井は遙かに高く。

 人が落ちれば確実に死ぬ高さまで浮かせていく。


「なっ、何をするつもりだ!!!」


 リンシャンの叫び声が聞こえる。


「勝者 リューク・ヒュガロ・デスクストス!デスクストス君!!!ダン君を下ろしなさい!!!」


 グローレン先生から決着の声が上がる。


「いいですよ」


 ボクは一切ためらうことなく、ダンの魔法を解除して落下させる。


「キャーー!!」


 誰の悲鳴だったのかわからない。

 ただ、ボクの視線の先にはリンシャン・ソード・マーシャルが顔を青くしている表情が見えた。


 ダンが地面に激突する前にグローレン先生が空中で抱き止める。


 すぐにリンシャン・ソード・マーシャルが駆けつけてきた。


「なっ、何をする!この卑怯者めが!ダンは意識を失っていたんだぞ」


 勝った者を称えるのではなく、罵倒するリンシャン。


 ボクは少しだけイラッとする。


「ボクにランキング戦を挑んだのだろう?それくらいの覚悟は持ってもらわないと困るが?」


 リンシャンから視線を逸らしたボクはクラスメイトを見る。


「他の者たちも腕に自信があるなら、ランキング戦を受けてやる。サービスだ!」


 目を背ける者。

 視線こそ逸らさないが、言葉を発しない者。

 崇拝するように瞳を輝かせて見つめる者。


「なんだ?誰もいないのか?戦闘を行って疲れているかもしれないぞ?」


 しばらく待っても誰も声を出さない。


「ボクは知識を持つ者を尊敬する。魔法を追求する者も尊敬する。


 だが、力だけのバカを嫌う。


 こいつのような野蛮人ならば、ランキング戦で二度と再起できないようにしてやろう。待つのもあきた。ボクに挑む者は明日があると思うな……わかったか?」


 ボクの言葉を聞いたクラスメイトは、他のクラスにもボクの噂を流してくれるだろう。

 悪役貴族としての道を歩むなら、これぐらいしておいた方がいい。

 反応は様々だったが、この一回でランキング戦を挑んでくるバカがいなくなることを祈りたい。


 最後にこちらを睨んでくるリンシャンを見る。

 メンドウなランキング戦に付き合ってあげただけでも感謝されてもいいと思う。

 こちらが悪いみたいに卑怯者呼ばわりするリンシャンの態度にこれ以上の説明は無駄、正義を振りかざす奴は自分たちに都合の良いことばかり言ってくる。


 ボクはこれ以上相手をするのもめんどうになったので、リベラと共に場を後にした。


「かっ、必ずダンがお前を倒す!覚えておけ!」


 震える声でリンシャンから捨てセリフが発せられた。

 ボクは振り返ることもなく闘技場を出た。


「よかったのですか?」

「何が?」

「本当は彼が地面に激突する前に、リューク様が魔法を出現させていたことを説明しなくて」

「リベラ。ボクはね、怠惰なんだ」

「はい?」

「理解しようとしない者へ説明をすることは無駄だと思っているんだ。無駄なことはしたくない。これでも十分によく話した方だよ。これ以上はめんどうで仕方ない。

 それならリベラと魔法の話をして快適な生活を送る方が有意義だよ」


 珍しく余計な説明をしたことで、リベラも納得してくれたようだ。

 どこか誇らしげな顔をしたリベラと共に、寮へ戻る道を歩き出す。


「少し、良いかしら?」


 本当にめんどうな人物が多すぎる。

 声をかけてきたエリーナを見る。


「なんですか?王女様」

「王女様ですか……エリーナで結構よ」

「そうですか。じゃあ、ボクもリュークで結構です。それで、何か?」

「王族である私にそこまで鬱陶しそうな顔をする人はあなたぐらいよ」


 マジでめんどうだな。

 王女様だから無下にもできない。

 ボクとは相性が最悪だと思うんだ。


「あなたの実力、見せてもらったわ。ちゃんと努力しているのですね。見直したわ」

「それはどうも」

「お兄様からテスタ様の話は聞いていたけど、デスクストス家にはあなたもいることを認識させてもらったわ。

 素晴らしい戦いを見せていただきありがとうございます。それだけを言いに来たの」


 言いたいことを言って、去って行く王女様。

 何がしたかったのかまったくわからない。


「侮れませんね」

「うん?」

「いえ、リューク様は何も気にしないで大丈夫です。

 それよりも帰りましょうか」

「ああ」


 何とか、チュートリアルを終えることが出来た。

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