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あくまで怠惰な悪役貴族   作者: イコ
序章

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騎士と乙女

《Sideマーシャル公爵家》


 アレシダス王国には二つの公爵家が存在する。


 一つは宰相の地位に就くデスクストス公爵家。

 では、もう一つの公爵とはどのような家なのか?


 マーシャル公爵家は王国騎士団を取り仕切る元帥を輩出していきた武門の名家である。

 現在の当主も第一王国騎士団長を務める軍務大臣であり、軍関係を取り仕切る一族である。


 マーシャル領では多くの騎士を生んできた。

 力ある者であれば騎士になれる。

 実力主義社会を領内で築き上げてきた。


 それは平民ながらもマーシャル家の当主の右腕と呼ばれた名誉騎士が誕生したことでより一層、領地に住まう者たちを活気づけた。


 名誉騎士の名をダンケルク。


 彼は幾度にも及ぶ魔物の襲来からマーシャル領を守り抜き、マーシャル家当主と友人であり、直々に名誉騎士になってほしいと申し出を受けた人物であった。


 二人は唯一無二の親友であった。


 ある事件が起きたのは、マーシャル家当主と次期当主であるガッツ子息が王都へ出向いているときのことだった。

 二人の指揮官が領を空けているタイミングで、大規模な魔物の行軍が始まってしまったのだ。


 魔物の行軍は通り過ぎた街や都市を壊滅すると言われている。


 マーシャル領に住まう者がいくら、武勇に優れた者たちであっても、それは優れた指揮官がいてこそ発揮される。しかし、いない状態ではそれほどの実力を発揮するのは難しくなる。


 指揮官を失ったマーシャル領では、二日間に及ぶ、魔物の行軍によって多くの命が奪われた。

 マーシャル領に残っていた、領主の家族も窮地に立たされていた。


 そんなマーシャル家のピンチを救ったのが名誉騎士になった平民騎士ダンケルクであった。

 彼はその力、魔力、生命を燃やし尽くしてマーシャル領の人々を救った。


 二日間の行軍が終わる頃。


 やっとの思いでマーシャル家当主が領内に着いたとき……家族の安否を諦めていた。


 しかし、マーシャル家がある領の首都では、自宅は現存しており街の被害も三割程度に収まっていた。


「何があったのだ?ダンケルクは?奴はどこにいる?」


 守護を任せた親友を求めてマーシャル家当主が叫び声を上げるが、それに応える者はすでになかった。

 マーシャル家当主が聞いたのは、壮絶な彼の最後だった。


 街も人も……そして、当主の家族が生き残ったのは紛れもなく彼の功績であり、彼が数名の騎士に指示して行軍を抑えてくれなければ、今もマーシャル領は魔物の被害を受け続けていたことだろう。


「くっ!」


 親友の活躍と喪失は、マーシャル家当主にとって何よりの痛手であった。

 代わりに生き残ったのは、マーシャル家の姫君と親友が残した一人息子だった。


「奴の子か……必ず強く。素晴らしい男に育てよう」


 マーシャル家当主は、いつか親友の子と自分の娘を結婚させようと誓いを立てた。

 親友の子を貴族として迎え入れようと心に決めて、子と母へ全面的な援助を惜しまなかった。


 そうして……娘と親友の子は幼馴染みという間柄で育てられた。


「ダン。今日こそ決着をつけるぞ!」


 男勝りに育ったマーシャル家の姫君は剣を持って対峙する少年へ向けて剣を突きつける。


「へいへい。姫様には負けねぇよ」


 やる気なさげに肩に剣を担いだ少年は態度とは裏腹に、その瞳は勇猛果敢な戦士の誇りを持って強い光を放っていた。


「今日で1000戦目だ。443勝443負113分けだな」

「おうよ。姫さん。俺が勝たせてもらうぞ」

「身体が成長するにつれて、剣では確かにダンに及ばなくなった。

 だけど、属性魔法を覚えてからは負ける気がしない」

「属性魔法は俺だって使えるんだ。ちょっと魔法は苦手だけど、負けねぇ」


 互いに構えを取って無属性魔法の肉体強化と武器強化を発動する。

 強化魔法はマーシャル家のお家芸である。

 騎士たちは滑らかに素早く全身に魔力を巡らせる。


 二人の強化はまだまだ荒削りではあるが、才能を感じさせる速度であった。


「はっ!」

「いくぜ!」


 ほぼ同時に地面を蹴った二人ではあったが、僅かに姫の方が速い。


「取った!」

「舐めるな!」


 剣を交差する瞬間、少年の剣が加速する。

 これは彼の属性魔法である《増加》による効果が発揮されたのだ。


 だが、姫も同時に属性魔法を発動した。


「舐めているのは貴様だ!」


《盾》彼女の前に透明な魔法の盾が出現して、速度を増強した彼の剣をはじき返す。

 反動によって、よろめいたダンの首筋へ姫の剣が当てられる。


「まだまだだな」

「くっ!」

「これで私の勝ち越しだな」


 満面の笑みを浮かべる姫と、悔しそうに地面を見つめる少年。

 彼らは主従の関係であり、従者として、専属騎士として少年は教育を受けてきた。

 姫に負けている場合ではないが、姫もまたマーシャル家の一員として恥ずかしくない鍛錬を積んできたのだ。


「まだだ、続きは学園で」

「くくく、負けず嫌いな奴だ。いいだろう。続きは学園で受けてやる」


 負けを認めない少年を見て、姫は心から嬉しそうな顔をする。


 ライバルであり、友であり、自分の専属騎士である少年ダン……彼に対してマーシャル家の姫は好感をもっていた。


 彼の瞳は真っ直ぐで正義感に溢れていた。

 それはマーシャル家としての思想である、弱き人々の代わりとなりて、剣を持つ騎士の心を持っていることを意味していた。


「リンシャン。明日から学園なのだ。ほどほどにしておきなさい」


 マーシャル家当主の声にリンシャン・ソード・マーシャルが膝を付く。


「父上。見られていたのですか?」

「いや、今来たところだ。二人が稽古をしていると聞いてな」


 苦笑いを浮かべるマーシャル当主は、娘ながら剣に生きる我が子を愛おしい目で見る。


「お恥ずかしい限りです」

「そんなことはない。二人とも肉体強化が上手くなったな。それにダン」

「はっ!」

「まだまだお前は伸びる。学園に入っても娘を頼むぞ」

「はっ!」


 親友の忘れ形見であるダンの返事に満足した当主はその場を離れた。


 また、二人も明日の学園に向けて準備をするため、それぞれの部屋へと戻っていった。


 いよいよ舞台が始まろうとしていた。

 あとがき


 どうも作者のイコです。


 ここまでで《あくまで怠惰な悪役貴族》序章完結となります。

 次の話から学園編になりますので、どうぞ続けてお付き合いくださいませ。


 ブックマーク、ホシを5ほどいただければ、日々、執筆の励みになっております。

 どうぞよろしくお願いします。

 これからもどうぞよろしくお願いします(^

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