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あくまで怠惰な悪役貴族   作者: イコ
第四章
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冒険者の仕事をしよう 終

 二人が動き始めて、ボクは奴と対峙する。

 こいつは危険だ。

 時間を与えるだけ、強さを増していく可能性がある。


「つくづく私の邪魔がしたいのですね。私は食事のためにここに来たのです。あなたのせいで、まだ魔力の塊を一つしか食べられていません」


 ノーラ先輩の鉄扇のことを言っているのだろう。

 来た時よりも苛立った口調なのは空腹だからなのか?ご立腹な様子の《暴食》が、怒りをこちらへぶつけてくる。


「全く、こちらから感じた魔力に惹かれて来てみれば、とんだお邪魔虫がいたものですね」


 ボクはおしゃべりを続ける蝿に深々と息を吐く。


「ハァー、本当にめんどうだ。厄介な相手と戦うのは嫌いなんだ。これほど面倒なことはない」


 力を使えば疲れてしまう。

 だから、適当に力をセーブして戦うのが一番いい。


「なら、邪魔するのはやめて頂けませんか?あなたが邪魔しなければ簡単な方法を教えて差し上げます!私に食べられればいいのですよ。もう、面倒などと考えなくても問題ありませんよ」


 ボクは、こいつとの戦いが面倒なので、全力でやることにした。


 一瞬で、一撃で、一発で終わらせる。


「バルニャン!フォルムチェンジ」


 バトルモードへ移行したバルニャンを纏って、全力の戦闘スタイル。


「ほう。あなたも変態ができるのですね。どれほどのものか今が試してあげましょう。この圧倒的な魔力を持つ私ですからね。あなたがどれほど戦えるのか楽しみですよ」


 余裕を見せるバカ。やつは己の力に溺れている。


「今、お前に出会えた幸福に感謝する」

「どういう意味です?」


 ボクは、面倒くさいことが嫌いだ。

 長々と相手の力を見定めたり、相手の強さを確認する戦闘狂でもない。


「もう言葉はいらない。それすら面倒だ」


 ボクはバルニャンで出せる最高速度で、やつの前に移動する。


「なっ!私よりも速いですって!!!」

「《怠惰》よ」

「くっ!なんですか?!あなたは!!!」


 バルニャンを纏った拳に力を込めて、《暴食》へぶつける。


「そんなもの!!!」


 逃げようとする《暴食》。

 だが、その動きは鈍く速度を失っていた。

 自慢の飛翔能力が全く使えていない。


「なっ!」


 全身が縛り付けられたように動けていない。


 チラリと振り返れば、ノーラが属性魔法によって縛り付けていた。

 どうやら致命傷は避けていたようだ。

 彼女なりの意地を見せたのだろう。


「お前は、まだボクの前に現れるべきじゃなかった。もっと隠れて力をつけ、迷いの森を完全に掌握するまで、じっと我慢していればよかったんだ」


 ボクの拳が、やつの心臓部を貫く。


「バカな!この私が!!!」


 もう話す声も聞きたくない。


「死ね!」


 体を真っ二つへ引き裂いて、さらにバラバラに切り刻む。


「なっ!なにっ!!!」


 最後の声を聞きながら、ボクは奴を細切れに切り刻んだ。

 それでも化け物が簡単に死ぬとは思えない。


《怠惰》の魔力で全ての肉片を包み込んで消滅させる。


「お前は強い。強いが若く力をつけたばかりだ。今の力に溺れたお前に出会えて幸福だったよ。お前は、自分よりも強い者を相手にした時の戦い方を理解していない。それは自分よりも弱い者ばかりに寄生して、相手を圧倒する行為ばかりしていたからだろう」


 魔力を強めていく。


「貴様には《怠惰》をくれてやることすら生ぬるい」


 魔力を全開にして押しつぶす。


『それを、壊すことは許せんな』


 絶望……


 全ての時間が止まったような錯覚すら覚える。


 全身を押しつぶされるほどの圧力に体が言うこと聞かない。動けない。


 突然、降り注いだ圧力に息をすることも辛い。


 それでも顔を上げると、漆黒の羽を生やした黒衣の男が立っていた。


 どうして奴がここにいる? ボクはこの男を知っている。


「ふむ。我が血脈に連なる者か……まだ未熟ではあるが、よく鍛えている。我に届くかはわからぬが、面白い」


 その顔はデスクストス公爵に似ていた。


 強さは別格……対峙してわかる異常性、本物の怪物がそこにいる。


「《憤怒》の魔王!」


 絞り出すように声を出した。

 漆黒の男は頬を歪めて笑みを作る。


「ほう、我を知るか?すでに我を知る者は、この世に二人とおらぬと思っていたが本当に面白い。博識な貴様に免じて、この場にいる者たちの命は助けよう。代わりに《それ》は連れて行くぞ」


《それ》と言われた蝿だった物は、ボクによって切り刻まれて風前の灯だ。

 あとは再生できないように圧縮して終わらせるはずだった。


「どうする……つもりだ?」

「何、そんな姿でも、我の眷属なのだ。ペットの面倒をみるのは、主人の義務であろう?くくく、久方ぶりに我が血脈と話をして楽しかったぞ。我が血は貴様らに力を与え、この地に繁栄をもたらした。そろそろ刈り取りを始めても問題はあるまい?我は気が長いほうだ。ゆるりと楽しむとしよう」


 ボクの前から蝿の残骸は消え去り、魔王の手元へと残骸が移動する。


「我が血脈に連なる者よ。貴様が持つ力の一端は、我の血によって発現したものだ。それをどう使おうと貴様の勝手ではあるが、我を楽しませる義務があることを忘れてくれるなよ」


 突然表れて、《暴食》を連れ去っていく《憤怒》の魔王。


 圧力が消滅した後に、ボクは全身から汗を吹き出していた。


 

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