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あくまで怠惰な悪役貴族   作者: イコ
第三章
144/381

二年次 剣帝杯 5

《sideリンシャン・ソード・マーシャル》



 あまりにも哀れなダンの戦いに、気分が落ち込んでしまった。


「いつからダンはあんな風になってしまったんだ?」


 迷宮都市では、チームを守るタンクとして役目を果たしていた。

 あれもそういうことだったのか?むしろ、敵からの攻撃を受けることに喜びを感じていたのだろうか?余計なことを考えてしまう。


 次の相手は油断できない相手だ。

 ダンのことを考えている場合じゃない。

 身を引き締めよう。


 昨年は大会に参加していなかったゴードン侯爵令嬢。

 どんな人物なのか、噂でしか知らない。

 決勝リーグに上がってくる人物なのだ、只者ではない。


【実況】「真っ赤な髪に朱に染まった鎧【炎髪戦乙女】リンシャン・ソード・マーシャル選手が待ち受けるのは、今大会最強の呼び声高き上級生!!!」


【解説】「【ゴードンの名に負けは無し】この格言を知らぬアレシダス王国民はいないでしょう。ゴードンが戦うということは必ず勝利することを意味します」


【実況】「皆さん息をするなら今の内ですよ!!!美しき強者の登場です!!!

 腰まで伸びた黒髪、王国では珍しい着物と呼ばれる異国の出立!

 しなかやな撫で肩から、大きな胸が露出された気崩された着こなしは正規のものなのか?美しくもミステリアスな和風美女【雄女強者】ノーラ・ゴルゴン・ゴードン選手の!!!入場だ!!!」


 ゆったりとした足取りで入場してくる背の高い女性。

 シロップと同じぐらいか?だが、線は細くて色は白い。


 黒髪との対比で透き通るように美しく見える。


「わっちが珍しいどすか?」

「えっ?」

「かー様から受け継いだ黒髪はわっちにとって誇りでありんす。かー様は強く美しく。わっちも強く美しく、歌舞いていたいものでありんす」


 明らかに戦闘をするための出立ではない。

 動くのが難しい底の分厚い下駄を履き、地面につきそうなゆったりとした服は動くのに適しているとは言えない。


 最後に武器と呼んで良いのか?重い鉄扇で顔を隠している。


「あなたは戦う気があるのか?」

「どういう意味でありんす?」

「そんな服装で戦えると思っているのかと聞いているんだ」

「ふふ、ご自分の心配ではなく、他人の心配をなさるなんてお優しいことで」


 鉄扇で口元を隠して笑うノーラ先輩は、美しいがバカにされているように感じてしまう。


「加減は無用と言うことだな」

「いややわ。加減して勝てるとおもてはるん?一瞬で終わらんようにおきばりやす」


【実況】「女の戦いは言葉の中にも込められる!!!」


【解説】「ノーラ選手は、気まぐれな人です。今大会もそのカリスマ性と圧倒的な強さで勝利を重ねてきました。ここでもどのような戦いを見せてくれるのか楽しみですね」


「それでは行くぞ!」


 私は、剣を構えて炎を纏う。


「炎舞陣」


 闘技場全体に噴き上がる炎はノーラ先輩を飲み込んでいく。


「ええなぁ~温かいわ〜」


 炎の中を悠々と歩くノーラ先輩に炎が獣を型取り襲いかかる。


「綺麗な鳥さんやね!」


 鉄扇でふき飛ばされるファイヤーバードの影から剣を振る。


「ええ動きやね!」


 ーーガキンッ!


 ぶつかり合う鉄の音……


 ぶつけ合って初めて理解できる。


 どうしようもないほど圧倒的なパワー!


 細い体からは想像できない実力差は、まるで巨大な岩に剣を向けた絶望感を味わう。


 今までこれほどまでの強者と剣を交えたことはない。


 距離を取り剣を構え直す。


「どないしはりました?」

「あなたが強者と言われる意味を理解しただけだ」

「それでもやりますか?」

「ああ、私も戦士だからな」

「ふっふっふ、あんさんを認めましょう。あんさんは逃げへんかった。それだけで強者と呼ぶにふさわしいです。リンシャン・ソード・マーシャルさん、わっちの力の一端を見せましょう」


 そういうとノーラ先輩の体から黒い魔力が吹き出した。


「【闇】よ。おいでませ、ブラックホール」


 ノーラ先輩が魔法を唱えた瞬間……


 私の体は見えない力に引き寄せられて、ノーラ先輩の前へと吸い寄せられた。


「わっちは欲しいものを引き寄せます!」


【強欲のゴードン!】


 私の脳裏に浮かんだ言葉が、瞬時に【盾】を発動させる。


【盾】は発動した。


 発動したのに全身に衝撃が走り吹き飛ばされた。


「ゴホッ!」


 血を吐き出し呼吸が乱れる。

 一撃で目が霞む。

 衝撃で意識が奪われそうになった。


 属性魔法で作り出した【盾】が砕かれている。


 私が今の一撃に抱いたイメージが盾に反映されたんだ。


「ええ属性魔法をお持ちどすな。でも、その状態では戦えませんやろ」

「ハァハァハァ、一年目、二年目に出場していれば誰も勝てなかったでしょう。どうして、今年だけは出場を?」


 意識が朦朧とする中で、彼女の目的を聞きたいと思った。


「ふっふっふっ、まぁええやろ。あんたはええ女やから教えてあげます」


 そっと、ノーラ先輩が私の耳に口を当てる。


「婿探しどす。ええ男がおると聞いて来ましてん。かー様から紹介されましてなぁ。この大会で会えると思ったんどす」


 ゴードン侯爵の紹介する男と言われて、私の脳裏にリュークの顔が浮かぶ。


「そうか、なら私の出番ではないな。降参する」

「ええんどすか?」

「あなた自身で見極めればいい」

「ふっふっふっ、ホンマにええ女どすなぁ。わっちはオナゴもいけますよって、三人で楽しんでもええどすえ」

「それも含めて決めるのは彼だ」

「ふっふっふ、楽しみにしとります」


【実況】「おおっと!!!リンシャン選手が降参を宣言した。二人だけで何か話したようだが、いったい何が語られたのか?!強く美しき女の戦いは、ノーラ選手の勝利だ!!!」


【解説】「決勝リーグ第3試合が決着したことで、いよいよ四強が決まりそうですね」


【実況】「次のリューク選手対ナターシャ選手は。どちらが勝ち上がるのか!!!楽しみで仕方ありません」


 そのとき闘技場が揺れた!!!


 決着が告げられた闘技場からでも分かるほどの莫大な魔力が爆発したのだ。


 二本の光が夜空へ突き抜け、柱を作り出す。


「派手やねぇ〜ホンマに楽しみやわ~どんだけええ男なんやろね〜」


 うっとりとした最強の女に、私は苦笑を浮かべてしまう。


 リュークは自分の成すべきことを成しているんだ。


 私は夫の帰りを待つとしよう。

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