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あくまで怠惰な悪役貴族   作者: イコ
序章
14/380

チョーカー

 婚約が決まった11歳から、ボクの世界は少しずつ変わっていった。

 怠惰には変わりはないが、これまで美容やダイエット、魔法や勉強に夢中になってきた。


 つまり、子供ということもあり外に出ていなかった。


 そんなボクを変えたのはカリンだ。


 婚約後の三年間はほとんど毎日カリンと過ごす日々だった。

 何をするのも、カリンとシロップが側にいる。

 カリンが忙しいときは、家でシロップと本を読んで過ごし、カリンが居るときはご飯を作ってもらい、三人で街へ出かけていた。


 カリンは凄く行動的な女の子で、ボクが提案するとすぐに行動する人だった。


 あるときは孤児院で炊き出しを始めてしまう。

 あるときは料理が美味しいからレストランをしたらと言えば、レストランを始めてしまう。

 あるときはもっとヘルシーなメニューが健康的だと言えばダイエット食の研究を始めてしまう。


 そんな日々もカリンが学園に入学してしまったことで終わりを迎え、ボクはヒマになってしまった。

 カリンの料理のお陰なのか、14歳のボクは身長がテスタを越えるほど高くなり、身体はキモデブガマガエルへ成長する兆候も見られない。

 声変わりもして、顔つきも男らしくなってきた気がする。


「リューク様、本日も本を読まれますか?それともお出かけになりますか?」


 シロップは21歳になり、大人の女性として魅力的な成長を遂げた。

 肌艶も良くなり、尻尾の毛並みもフカフカに成長を遂げた。

 身体は男性達の視線を集めるようになった。

 膝枕をしてもらったら、凄く柔らかくて気持ちいい。


「そうだね。たまには出かけても良いかもしれないね」

「珍しいですね!リューク様がお出かけを選ばれるなんて」

「まぁね、ボクも来年には学園に行かなければならないからね。少しばかり世間のことに目を向けてみようと思っただけだよ」

「それはいいことだと思います。それではご準備をしますね」


 ほとんどの日を家で過ごすボクとしては、カリンが居なければ街に出ることもない。

 だって、買い物で欲しい物もなければ、外に友達もいないからね。


 カリンと婚約してからは忙しかった。


 ダイエット食の開発に、レストランの下見、カリンの筋肉痛に回復魔法をかけに行って、忙しい日々は何もない退屈な日常に彩りがあり楽しかった。


 ボクにとってカリンとシロップは大切な人だと言える。


 ただ、カリンがいなくなった反動で、半年ほど引きこもったことはカリンには内緒だ。


「馬車の準備も終わりました。今日はどこに行かれるのですか?」


 シロップは綺麗な尻尾をスカートの中に、犬耳を帽子の中へしまって変装を完成させていた。

 ボクの服を着替えさせながら、目的地について聞いてくる。


「うん。行きたいところがあるんだ」

「本当に今日は珍しい日ですね。雨が降らなければいいのですが」

「はは、雨は降るかもね。だけど、雨が降っても行けるから付き合ってね」

「かしこまりました」


 シロップはどこか浮かれた様子で、一緒に出かけるのを喜んでくれているようだ。

 街を歩くのは獣人にとって気持ちいい印象はないのに、ボクと一緒に散歩に行けることを喜んでくれるのは嬉しい。


「じゃあ行こうか」


 ボクは公爵家の家紋が入った馬車へと乗り込む。

 街に出るなら公爵子息としての立場を存分に使わなければならない。

 隠れてお忍びなど絶対にしない。

 なぜなら、公爵家の家紋のお陰で道は譲ってもらえるし、どの店でも入りたい放題だ。


 特権階級最高!!!


「どこに行かれますか?」

「大商店マイドにお願い」


 大商店マイドは所謂大手のデパートで、ゲーム内にも登場する。

 各階層で売っている物が違って、主人公として使うときはアイテムや装備を買いに行くか、女の子へのプレゼントを買いに行く場所として使う。


「あら、人混みですが大丈夫ですか?」

「仕方ないよ。ちょっと見たい物があるんだ」

「かしこまりました」


 シロップに御者をしてもらって馬車が走り始める。

 獣人は身体能力が高いので、馬車の操車もお手のもので、シロップは頭よりも身体を動かすことが好きなので、馬車の操縦は楽しいと言っていた。


「リューク様、着きましたよ」

「速いね」

「公爵家の馬車を塞ぐ者はいませんので」


 シロップがスピード狂にならなければ良いけど。


「じゃあ入ろうか、シロップも欲しい物があれば買って良いからね。どうせ父様がお金を出すんだし」


 お金だけは腐るほど持っている家なのだ。

 ボクが使っても父様は何も言わない。


「ありがとうございます」


 店内に入ったところで、一人の男性がボクの前に立つ。


「いらっしゃいませ。デスクストス公爵家のリューク様ですね」


 あまり外に出ないボクのことを一発で当てた男性、身形からして良い服を着ている。

 ゲームの登場人物だと知っていなければ、分からなかったけど、ボクはこの人を知っている。


「ボクのこと、知っているの?」

「商売人は、情報こそが武器ですので。こちらでは人が多くてゆっくり見られませんので、どうぞこちらへ」


 男性に連れられて奥へ入るとVIP専用の外商席へと案内される。


 テーブルとフカフカのソファー、専用の給仕がいて飲み物やお菓子が食べ飲み放題になっていた。


「わたくしはマイド商店の店主。モースキー・マイドと申します。

 リューク様におかれましては、ご来店して頂きありがとうございます。

 私のような年配がお相手ではつまらないでしょう。

 そこで、本日は我が娘がご案内させていただきます」


 モースキーは40前後の男性で年配という感じよりは人の良さそうなオジサンといった印象だ。

 そして紹介されて姿を現した少女は、太く多いゴワゴワの髪を編み込んで綺麗にまとめて、少し奇抜な衣装を纏っていた。


 バランスが難しい服装を着こなしていて、彼女によく似合っている。


「お初にお目にかかります。モースキー・マイドが娘。アカリ・マイドです」


 攻略対象の一人である商人の娘が目の前で自己紹介をしていた。


 大人向け恋愛戦略シミュレーションには、メインヒロインと呼ばれる女の子が七人+α存在する。


 アカリはその一人で、彼女を選ぶと立身出世パートでは商人としてスタートする。


 今日は同じ学園に通う彼女を見に来た訳だけど、まさか、接客されるとは思わなかった。

 彼女と出会うためには、大商店マイドである程度買い物をする必要があるんだけど、買い物をしなくても出会えちゃった。


「リューク・ヒュガロ・デスクストスだ。そして、こっちはシロップ」

「シロップでございます」


 紹介したことで、シロップも名乗る。


「リューク様、シロップ様、よろしゅうお願いします」


 アカリはシロップにも丁寧に挨拶をしてくれた。

 悪い子ではないようだ。ボクは上機嫌で買い物を開始した。


「シロップは何がほしいの?」


 ボクが買い物をしている途中で、何も購入しないシロップに質問をした。


「私は別に……」


 シロップは遠慮しているのかな?日頃の感謝なので、何か買ってほしいけど。


「でしたら、こちらのチョーカーなどいかがですか?」


 ボクが思案して、シロップが遠慮しているとアカリが可愛い赤いリボンのようなチョーカーを提案してくる。

 首輪のように見えるチョーカーには、何故か宝石で作られた鍵までついている。


「まぁ……素敵ですね。ですが……」


 チョーカーを見たシロップが嬉しそうな顔をする。


「それをもらうよ」

「どうも、マイドです!!!」

「リューク様?!」

「いいから」


 ボクはアカリからチョーカーを受け取ると、シロップの首へと巻いてあげる。

 鍵はアクセサリーなのでチョーカーの取り外しには関係ないが、ボクが彼女を縛っているように見えてしまう。


「まぁ素敵です」

「よう、似合ってます」


 鏡の前で試着姿をアカリに褒められ、チョーカーを見てシロップが喜んでいる。


「まぁシロップが喜んでいるならいいか」


 攻略ヒロインを確認して、学校に必要な物を購入したボクは、シロップの笑顔を見られたことに満足した。

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