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あくまで怠惰な悪役貴族   作者: イコ
第三章
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闇の中に生きる者

 雨が降りしきる日々が続くときは身体が重くなる。眠気が強くなるんだ。

 それでも約束したからには部屋から出なければならない。

 ボクは人に会うために態々学園内に存在する飲食店へやってきていた。


 オリエンタル風の店内は、赤と黒を基調とした雰囲気が異国の情緒を表現している。

 その世界観は独特で王国では見ない怪しい雰囲気で人を惹きつける。


 アレシダス王立学園には、冒険者ギルドの出張所や、学生たちの気持ちを満たすために様々な施設が用意されている。

 また、世界各国から集めた飲食店街は週末のデートスポットとしてゲーム内でも登場する。


 ダンが学園パートで、週末のデートに使うための施設だと思っていた。

 そのため全く利用する機会がなかった。

 出かけるのもめんどうな上に、カリンのゴハンが美味しかったので来る必要もなかった。


「こちらです」


 ボクは店の二階に上がって個室へと案内される。

 前を歩いて扉を開いたガッツに促されて部屋へと入っていく。

 蛇腹のパーテーションを越えると円形の回転テーブルが置かれていた。


 下座に座る人物は銀髪の美男子だった。

 その美しい容姿はエリーナとよく似ていた。


「上座に座らないのか?」


 ボクが声をかければ、ガッツが上座の席を引いてボクへ促す。


「この場には朕の位を気にする者など誰も居ない。それならば客を出迎える方が礼儀だと朕は考えただけだ」


 上座になるガッツが引いた椅子へと腰を下ろした。


「まずは、良く来てくれたリューク・ヒュガロ・デスクストス」

「名乗る必要はなさそうだ」

「ああ。君のことは調べさせた。朕がユーシュン・ジルド・ボーク・アレシダスである」


 こちらを見つめる瞳は真っ直ぐで魔力を一切感じない。

 エリーナに言われていたので警戒していたが、ボクに対して使うつもりはないようだ。


「王子様が、位も持たない貴族の子息に何のようだ?」

「無駄な話はいい。用件を」


 ――パンパン


 王子が手を叩くと、部屋の扉が開いて食事が運ばれてくる。


「まずは食事を………」

「いらんよ」

「そうか」


 ――パチン


 王子が指を鳴らすと食事が下げられて、お茶だけを給仕が置いていく。


「それでは本題に入ろう」


 その表情は無表情だった。

 終始、人を人とも思っていない冷たい瞳が印象的だった。


「朕に代わって王になってはくれぬか?」

「はっ?」

「耳が遠いのか?ならば、もう一度言おう。朕に代わって王になってはくれぬか?」


 どうやら聞き間違いではなかったようだ。

 こいつは何を言っているんだ?あまりにも意味がわからない。


「どうやら聞き間違いじゃないようだ。ならば、答えはNOだ」

「何故だ?」

「何故?お前は説明がなく、いきなり王になれと言われて受けるのか?」

「それもそうだな。では、説明をしよう」


 本題を聞いて、出された茶が不味くなった。


「現状、王国は破綻しかけている」


 王族から出ていい言葉ではない。

 それも淡々と述べる王子は、それを当然の事実として受け止めている節がある。


「それは我々王族が不甲斐ないこともあるが、民である貴族や、平民が王族の統治から離れていっているのが一番の問題だ」


 まるで悲しそうな素振りも見せない。

 この王子が何を考えているのか1ミリもわからない。


「民が求めるのは魅力的な王であり、革新的な改革が成せる者だ」

「それをあなたがすればいいんじゃないのか?」

「無理だ」

「………」


 即答で返されて言葉を失ってしまう。


「私がいくら今の治政を整えようとしても、乱す者がいる以上………

 現状を維持できても王国をよくすることはできない。

 徹底的に壊れてしまえば、あるいは可能かもしれないが………」


 初めて王子は目を閉じた。

 それはここまで無表情だった王子にとって初めての変化だった。


 だからこいつは………… 公爵の王国転覆を半分は受け入れていたのか………


 優秀なこの男ならば、王国転覆を企てる公爵の企みにも気付いてもおかしくない。


 それなのに阻止する行動をすぐには取らなかった。

 王国転覆が開始されるまで黙っていたのは、そういう事情があったのか………


「壊さないで王国を修復できる方法があるなら、朕は王の座など求めない。

 誰かに譲ろうと国のためになるなら構わないのだ。これは今できる最善手だ。

 リューク・ヒュガロ・デスクストス。朕の代わりに王になってはくれぬか?」


 国を憂えている言葉に聞こえはする。

 だがその瞳にも、顔にも一切の表情はない。


 淡々と語るだけだ。


「朕の顔が気になるか?これは生まれつきだ。朕は表情が無く、感情も乏しい。それでも朕には二人の友がいる」


 ユーシュン・ジルド・ボーク・アレシダスが言った、


 二人の友………


 それが誰を差すのか、ボクには言わなくてもわかったような気がする。


「なら、どうしてボクを選んだ?」

「リューク・ヒュガロ・デスクストス……… 貴様が、闇を抱えながら、光を歩む者だからだ」

「はっ?闇を抱えながら、光を歩む者?」


 問答のような言い回しに首を傾げる。


「そうだ。我々とは違う。ただ闇に生きるだけの我々とは………

 民は新たな光を求めている。この国を照らせる光を………

 それは勇者でも、英雄でも、王でもいい。

 この崩壊しかけた国を照らす光であるならば………」


 ボクはゆっくりと茶を飲んだ。


 様々な思いが絡み合って、ダンは英雄に成っていくのだろう。

 そのためには騒がしい立身出世パートが巻き起こる。


 ボクが犠牲になることで、止めることができるのか?


 いや、無理だな。


 すでに腐った物を元に戻すことはできない。


「やはり無理だ」

「そうか………ならば、エリーナだけでも救ってやってくれ。

 必要であれば私はこの身を捧げてもいい。

 もしも、朕の行動が時代に合わないのなら、朕は友にこの身を討つように伝えている」


 ボクはガッツを見た。

 ガッツは何も言わずにただジッとボクを見ていた。

 その瞳に一切の揺らぎは感じれない。


 ユーシュンの言ったことは事実なのだろう。


「やっぱり断るよ。でも、あんたには生きて新しい時代を見てほしいものだ」

「ふっ、それは世界が決めることだ」


 ボクはユーシュンの手を取ることはなかった。

 だが、いつかユーシュンはダンを見つける。

 ダンが強くなり、必要な仲間たちを集めていく。


 ユーシュン王子に出会うことで、ダンにとって大きな後ろ盾になるだろう。

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