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あくまで怠惰な悪役貴族   作者: イコ
第二章
110/381

努力の人

 お姉様から迷宮都市ゴルゴンで自由に活動できる許可を貰ったので、ボクは早速、人材確保をシロップとクウに頼んだ。

 鍛冶師として働くことになったメルロにも、鍛冶師仲間を当たって貰った。


 そのお陰で三名の髭面強面ドワーフが確保出来た。

 鍛冶師は一人だけでも価値があるが、四人になれば出来る幅や得意分野も変わるので、今回の収穫は上々と言えるだろう。


 シロップからは、冒険者仲間に聞いたという情報も提供された。


「選択の剣?」

「はい。冒険者数名が遭遇したらしいのです。フロアボスを倒した後に第三の魔法陣が出現して、その魔法陣に入ると声が聞こえるそうなのです。その声に認められると武器と力が手に入るらしいと言う噂です」


 なるほどな、ダンの聖剣を獲得するイベントが始まろうとしているのか……


 うん?ちょっと待てよ。確か20階層のフロアボスはミスリルゴーレムで、物理は関節だけ、魔法は跳ね返されて、先に四肢を破壊しないと倒せないんじゃなかったか?


 エリーナの氷魔法は広範囲魔法が得意で、一点突破が苦手なはずだ。

 アンナはゲームでは名前だけで戦いには登場しないのでどれくらい戦えるのかわからない。

 ダンのレベルでは、ミスリルゴーレムは倒せない。


 唯一可能性があるとすれば、リンシャンが関節の弱点に気付くことだが、指示をエリーナが出しているならヤバいかもしれないな。


「シロップ。ボクはチームに合流する。人材確保や情報収集は続けていてくれ」

「わかりました。くれぐれもお気を付けて」

「ああ」


 そうして、ボクは11日目にしてチームへ合流した。

 11階層から攻略を開始して、四人の連携は随分と良くなっていた。

 レベルも30を越えて、全体的な能力が向上しているのがわかる。

 ただ、20階のフロアボスであるミスリルゴーレムは推定レベル40だ。


 リベラたちには攻略法を伝えてあるので、突破した報告は受けた。

 ある程度レベルが上がれば情報収集の手伝いをしてもらうことになっている。


「今日はみんなの戦いを見せてもらうから、リーダーはエリーナのまま頼む。ボクは数に入れなくていいから」


 チームに合流すると、何やらギスギスした雰囲気を感じた。

 エリーナはツンツンしていて、リンシャンと目を合わせないようにしていたが、

 ボクとエリーナが話していると、リンシャンがやってきて、エリーナが謝るという場面があった。それが終わると雰囲気が良くなった気がする。

 フロアボスがいる20階層までは4人で到達することが出来た。


 フロアボスへ対しての、エリーナの判断は最悪だった。


 ミスリルゴーレムは関節を攻撃して、四肢を破壊しなければならない。

 それをしないまま、攻撃をすれば魔法が跳ね返される。


「コキュートス」


 氷属性魔法最強技を放ったが、呆気なく反射されてしまう。

 あまりにもバカなことをしたエリーナを叱責してしまう。


「エリーナ!貴様は、仲間を殺す気か!」

「わっ、私は」

「貴様の魔法は確かに優秀だ。統率力も悪くない。だが、状況判断が甘い。ミスリルゴーレムは、その強度に目を奪われるが、弱点は存在する」


 ボクはバルと二人で、ミスリルゴーレムを倒した。

 シロップが手に入れた情報通り、フロアボスを倒したボクの前には三つの魔法陣が出現した。


 一つは、上がるための魔法陣。

 一つは、帰るための魔法陣。

 一つは、ダンが聖剣を手に入れるための魔法陣。


 予定通りの結果に満足する。


「ダン」


 ボクはダンを呼んで、魔法陣へダンを押し込んだ。


「リューク!ダンに何をしたんだ?」

「別に何もしていないさ。ダンは本来の力を手に入れに行っただけだ」

「本来の力?」

「リンシャンも言ったんだろ?領域を越えなければ生き残れないと」

「どうして、それを?」

「ダンが言っていたからだ。ダンは領域を越えられる。それに必要なアイテムを取ればな」

「どうして、リュークがそんなことを」


 何故って?ボクがゲームをしたからだよ。

 リンシャンと話しているボクへエリーナが話しかけてきた。


「あっ、あの、リューク」


 それは恐る恐ると言った様子だった。


「なんだ?」

「ヒッ!アンナ」

「ガンバです。エリーナ様」

「ううう…… さっきは助けてくれてありがとう」


 さっきと言われてミスリルゴーレムが反射した魔法から、エリーナを守ったことを思い出す。


「そっ、それにごめんなさい…… 私は…… 失敗ばかりで」


 エリーナは様々な感情が溜まっていた様子で、謝ったことで気持ちが決壊して涙を溢れさせた。


「エリーナ」


 リンシャンも心配そうにエリーナを呼んだ。


「ずっと能力が全てだって思ってきた。

 私は王族だもの!誰よりも美しくて優れていなくちゃいけないの!

 だから、旦那様になる人も、優秀な人じゃないとダメだって思ってきた。

 だけど、一年次を首席で合格のはずなのに、各部門には私よりも優秀な人がいて、誰にも負けたくないって思っているのに勝てなくて……」


 それはエリーナが今まで抱えてきた心の枷なのだろう。


「それなのに二年次になって、首席からも陥落した。

 リューク・ヒュガロ・デスクストスの名が王国中に知られていくのに、私の名を知る王国の人は私を笑い者にする人だけ…… 剣帝杯でも、アイリス・ヒュガロ・デスクストスに負けて、王族はやっぱりダメなんだって……」


 凡王の娘…… エリーナにも分かっているのだろう。

 自分は特別なんかじゃない。だからこそ優秀でありたかったと。


「それなのに、リュークが代理リーダーを任せてくれて嬉しいのに上手くできなくて、少し強い魔物が出ると対応できなくなって…… 慌てて……みんなを危険に晒して、私はリーダー失格なのよ」


 何度も味わう挫折で、少しずつ失われていった自信は、エリーナを不安にさせていったのだろう。上手くいかないジレンマで我儘な心が顔を出して、それすらも今回の失敗で砕け散った。


「私…… リーダー代理を辞退するわ。私には無理よ」


 力なく座り込むエリーナ。


 リンシャンやアンナは、エリーナに近すぎるからこそ、どう声をかけていいのかわからなくなっている。


「ハァ…… エリーナ」

「何?」


 銀髪の美女は、グチャグチャな顔を上げる。美女が台無しだな。


「お前は無能だ!」

「ヒゥ!」


 追い打ちをかけるようなボクの言葉に、更に顔を歪めるエリーナ。

 リンシャンやアンナもボクを非難するような視線を向ける。


「だが、今日で無能であることを自分で理解したのだろ?」

「そうよ!理解したわよ!」

「なら、今日からお前は無能じゃない」

「えっ?」

「人なんてもんは、何でも出来るヤツの方が少ないんだ。


 戦いが得意な奴

 魔法が得意な奴

 料理が上手い奴

 生きることが上手い奴

 勉強が出来る奴

 人付き合いが上手い奴


 それぞれ得意なことや出来ることは違うんだ」


 一人一人の顔が浮かんでは消えていく。


「でもな、そんな奴らも


 不器用で自分の心を表現できなかったり

 戦いに負けて泣いていたり

 他人を羨ましいと自分を卑下したり

 隠し事を溜め込んで我慢したり

 不幸なことを抱えていたり

 人付き合いに悩んだりするんだ


 お前は、お前にしか出来ないことがあって、逆に何でもは出来ない無能なんだ」


 本当にめんどうなことだ…… 人の心って奴は……


「私にしか出来ないこと?何でもは出来ない無能?」

「そうだ。お前は無能だが、全てをやろうとする努力が出来る奴だろ?」

「私は努力が出来る?」

「そうだ。その中に得意、苦手も経験したんじゃないか?それでも苦手も克服してやろうと努力をしたんだろ?」


 もう、エリーナの瞳から流れる涙は止まっていた。


「わっ、私は努力をしてきたわよ!誰にも負けないように!誰よりも努力した。

 だけど、それでもダメなの、魔法じゃリベラに勝てない。戦闘じゃルビーに勝てない。勉強じゃミリルに勝てない。人付き合いもアカリみたいに上手くできない。恋愛でもリンシャンにすら負けてしまったもの!」

「わっ、私の枠がおかしいぞ!」


 何やらリンシャンが顔を赤くしてチラチラとこちらを見ている。


「私は…… 私はどうすればいいのよ!」

「別に…… 何か一つを勝つ必要なんてないだろ」

「えっ?」

「さっきも言っただろ。人は得意なことはあるが、苦手なことの方が多いんだ。


 戦えない奴はたくさんいる。

 勉強が嫌いな奴はたくさんいる。

 魔法が上手くない奴なんてもっとたくさんだ。


 だけど、お前は全部が出来るだろ?リーダーとして、みんなの気持ちが分かる奴になればいい」


 人を使う者は、駒のように使えという。

 だけど、それじゃあボクが【怠惰】にラクができないじゃないか、ボクのために周りを纏めてくれるリーダーがほしい。チームリーダーなんてめんどうだ。


 勝手に考えて行動して、ボクをラクにさせてくれ。


「みんなの気持ちを分かる人?」

「そうだ。お前は全てを努力して、全てをやろうと経験した。だから、大変さもわかるんじゃないか?」


 たくさん話をして物凄く疲れた。

 もう、エリーナは落ち込んだ顔をしていない。

 これ以上、話すこともない。


 バルに身体を預けて力を抜けば、魔法陣が光ってダンが戻ってきた。


 手には剣が握られているから、聖剣は上手くゲットできたのだろう。

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