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七剣聖の指南役  作者: 黒浪
第一章 七人の剣聖候補
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第四話 続きはまた今度

 皆の視線が一斉にその少女──エロウラに集まる。

 妖艶なサキュバスは、相変わらず宙にふわふわ浮いたまま、長い髪をくるくる指で弄びながら面倒臭そうに言葉を続けた。


「カレだってオトコだもん。目の前でおっきなオッパイが何度もブルンブルン揺れてたら、そりゃ思わず手が伸びるわよ、モミモミしちゃうわよぉ。それが本能、オトコの性ってヤツでしょ?」

「っ!? いや、だからちが──」


 一ミリもフォローになってない言葉にロンが慌てて口を開くが、エロウラは彼を完全に無視してオリガを横目で睨んだ。


「アンタも、たかが胸をひと揉みされたくらいでビビッてんじゃないの。これだからガキは……」

「べっ、べつに、オレはビビッてねェッ!」


 オリガが反射的に怒鳴った。


「たっ、ただ、ちょっと……は、ハジメテだったから驚いた──じゃなくて、ビックリ──でもなくて、ちょっと、おぉっ? って思っただけで……」


 どうやら、根っからの武闘派で誇り高い彼女にとって、「ビビる」という反応は絶対にあってはならない恥辱であるようだ。

 それを知ってか知らずか、エロウラはニィと悪い笑みを浮かべる。


「ふぅん……。ってことは、アンタももう気にしてないわよねぇ? 全っ然大したことじゃなかったわけだしぃ?」

「あ、当たりめェだろッ! オレは、男に胸揉まれたくれェでギャーギャー騒ぐようなケチな女じゃねェッ! なっ、なんなら、もう一回揉ませてやってもいいゼ? ほ、ほら、スキなだけ揉めヨ……。オレは、チットモ気にしねェからヨ……」


 ふたたび真っ赤になりながら、いまにも泣きそうな顔で己の胸を差し出すオリガをみて、ロンはぶんぶんと首を横に振る。


「いやっ、大丈夫、アリガトウ! でも、大丈夫デス」

「はーい、これで一件落着、ね?」


 巧みな誘導尋問であっさりオリガを丸め込んだエロウラは、勝ち誇ったような顔でイルマを見た。


「アンタも、本人がこういってるんだから文句はないわよねぇ?」

「……っ」


 イルマは、その冷艶な美貌を歪めてエロウラをキッと睨みつけたが、まもなく、ふっとちいさく息を吐いて、肩をすくめた。


「そうですね。本人がこれ以上騒ぎを大きくするつもりがないというなら、私も今回だけは見逃すことに致しましょう……」


 そうは言ったものの、イルマは絶対零度の冷眼でエロウラを凝視したままで、エロウラもそれを堂々と受けて邪悪な笑みを返す。


 二人の少女の視線が真っ向からぶつかり、バチバチと青い火花を飛ばしはじめたのをみて、ロンはまた顔を引き攣らせた。


(一難去ってまた一難かよ……。この新生活、前途多難すぎるだろぉ……)

 

 女たちの静かな、しかし怖ろしい闘いに割って入る勇気もなく、ロンがその場でオロオロしていると──、

 

「せんせぇっ、トイレッ! トイレにいきたい、ですっ!」


 ふいに、ウィナが元気よく手を挙げて、ニッコリと無垢な笑顔を浮かべた。


「えっ、と、といれ? あ、トイレね」

「あっ、場所を教えてもらったら、ちゃんとひとりでできますっ!」

「ウン。それはわかってる。そうじゃなきゃ困る」

 

 エルフ少女がみせた天真爛漫さに、凍りついていた場の空気がゆるゆると和んでゆく。


「アタシも行きたぁい」


 エロウラが肩の力を抜いていうと、イルマも視線を逸らして腕を組んだ。

 二人がひとまず休戦することを知ってほっと胸を撫でおろしたロンは、あらためてオリガを見つめて、微笑んだ。


「そういうわけだから、()()はまた今度にしよう」

「エッ……!?」


 オリガはひどく驚いて、なぜかまた両腕で胸を隠す。


「つ、続きって、ナニするつもりだヨ……」


 潤んだ瞳でこちらを上目遣いに見つめながら唇を噛んだ少女をみて、ロンは、はてと首を傾げる。


「いや、手合わせの続きだけど……」

「へっ? ……あっ、それ! それなっ!」


 少女はホッとしたような顔をアサッテのほうへ向けて、ガシガシと頭を掻いた。


「そっ、そうダナッ! マ、マァ今日ンとこは、こンくらいでカンベンしてやるよッ! ハッ、ハハ、ハハハハッ!」

「勘弁って……まあ、いいけどさ」 


 ロンは呆れてため息をつきつつ、六人の少女たちの顔を見回した。


「じゃあ、ともかく自己紹介も終わったことだし、これからこの城を案内します。これから三年間、君たちが暮らす家になるわけだから、ちゃんとどこに何があるか覚えてください。部屋が百くらいある上に造りも複雑で迷いやすいから、ちゃんとついてくるよーに」

「はい」「……」「ハイッ!」「はぁーい♪」「ケッ!」「はぃ……」


 こうして、元勇者の無職と、《剣聖》志望の個性豊かな六人の少女たちとの共同生活が、兎にも角にも幕を開けたのである。


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