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七剣聖の指南役  作者: 黒浪
第一章 七人の剣聖候補
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第十二話 騎士と魔女

 先に仕掛けたのは、イルマだ。


「我が敵を()()()()()


 彼女が冷徹に恐ろしい命令を発すると、二体の黒魔機人ゴーレムは同時に跳躍、十歩の距離をひと跳びで詰めて、アラナに斬りかかった。

 四本の剣が、鎧に守られていない少女の頸部や大腿等の急所を狙って鋭く振り下ろされる。

 いずれも、まともに入れば即致命傷となる斬撃。


(イルマのやつ、マジで手加減する気ゼロだな……)


 ロンは呆れつつも、落ち着いて戦闘を見守る。


(まあ、この程度の攻撃なら、アラナにとっては問題にならない)


 昨夜、アラナが剣を振るう姿を見て、彼女の実力はある程度把握している。

 はっきりいって、彼女はすでに、強い──。


「……」


 ロングソードを中段に構えたアラナは、その場から退くこともせず、四本の剣の太刀筋を冷静に見極め、

 キキ、キキンッ!

 黒魔機人ゴーレムたちの絶妙な時間差攻撃を逆手にとって、すべての攻撃を剣で弾き、二体を大きく仰け反らせた。


(さすがに隙が無いな)


 ロンは、目を細めてひとつ頷く。


 アラナが操るのは、マキシア王国の伝統剣術である《天聖騎士剣術エクエスアーツ》。

 戦場における一対多の戦闘を想定したその剣術は、常に守備に主眼を置き、技の威力よりも速度と精度、省力化と連続性を重視しているため、複数の敵からの同時攻撃を弱点としない。


 あの若さですでに《天聖騎士剣術エクエスアーツ》をほぼ完璧に習得しているアラナにとって、二体の黒魔機人ゴーレムを同時に相手にすることなど、造作もない。


 その後も、その場から一歩も動くことなく、黒魔機人ゴーレムたちの攻撃を易々と捌いてみせるアラナをみて、イルマは眼鏡の奥の冷眼を細めた。


「なかなかやりますね。では、これならどうでしょう。武装倍化デュプレクス


 魔女が低く呪文を唱えると、直後、黒魔機人ゴーレムたちの肩から、やはり前腕が剣と化した二本の腕が生え、それがすぐさまアラナに襲い掛かった。


「っ!?」


 これで、黒魔機人ゴーレムたちの振るう剣は合計八本。

 さすがのアラナも、八方向からの同時攻撃に対処するのは容易ではないとみえ、焦りの表情を浮かべてその場からジリジリと後退をはじめる。


「防戦一方ですね。もう降参したらどうですか? 人間の貴方とちがい、私の黒魔機人ゴーレムたちは体力を消耗することもない。戦いが長引けば長引くほど、不利になるのは貴方のほうですよ?」


 余裕たっぷりにいうイルマを横目でみたロンは、ふたたびアラナに視線を戻してニヤリと笑う。


(いや、アラナは追い詰められているわけじゃない。あの焦りの表情もおそらくフェイクだ。彼女は、すでに黒魔機人ゴーレムたちに生まれた()()に気づいている)


 ロンの予想を裏付けるように、数秒後、事態は動いた。


「うっ!?」


 黒魔機人ゴーレムたちの猛攻を捌ききれなくなったアラナが、ついに体勢を崩して、転倒したのだ。

 いや──実際は、転倒した()()()()()

 地面に片手をついたアラナは、間髪入れず、鞭のような足払いを繰り出す。


『っ!』


 意表を突かれた黒魔機人ゴーレムたちはそれをまともに喰らい、二体はぶつかってガシャガシャ音を立てながら無様に倒れた。


(そう。それでいい)


 ロンは、満足げに頷く。


 イルマが黒魔機人ゴーレムたちに二本の腕を追加した後、たしかに彼らの攻撃回数は増えたが、同時に、彼らの攻撃姿勢は不安定になり、四本の腕を同時に動かすことに意識を集中しすぎて下半身への注意も疎かになっていた。


 アラナは冷静にその弱点を見極め、突いたのだ。


(見事だ)


 ロンの視線の先で、アラナは倒れた黒魔機人ゴーレムたちをその場に置き去りにして飛ぶように疾走、イルマに逃げる暇も与えず、彼女の喉元に鋭く長剣の切先を突き付けた。


「うっ」

「勝負あり、だな」


 ロンがいうと、アラナは剣を引き、イルマはすまし顔で肩をすくめた。


「……ええ。私の負けのようです」

「ありがとうございましたっ」


 顔を上気させたアラナは弾んだ声でいうと、さっと一礼して去っていく。

 ロンは、ぶらぶらとイルマのほうへ近づいていって傍に立つと、彼女にしか聴こえぬ声で囁いた。


「どうして本気を出さなかった?」

「……さあ、何のことでしょう?」


 イルマは、ロンの顔を横目でみながら、口の端に邪な笑みを浮かべる。


「とぼけるな。あのルーンダムドが送り込んできた君が、この程度の実力な訳がない」

「買いかぶりすぎですよ。剣の勝負といわれていましたからね。魔法を禁じられた魔女の実力など、この程度のものです」


 そっけなくいって、その場から悠然と立ち去っていく。


「……食えないやつだな」


 ロンは、その後ろ姿を見送りながら、低く呟いた。


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