01
それは夏も終わりを迎える10月の比較的涼しい休日。自分は趣味の多い男とは思わないが、目立つ趣味が無い代わりに細かい趣味が多い。
買い物もネットで済ませられるが、散歩がてら秋葉原まで足を伸ばす。
少し疲労を感じたのは残暑のせいだろうか?
少しめまいもしてきた。両手には買い物バック。プラモデルなどが入っている。
ふとまぶたを閉じる。数秒のつもりが意識が朦朧としてまぶたを2度上げることができない。それでも往来に目を閉じたまま突っ立っているわけにもいかないので、なんとか顔を上げる。
肌に当たる空気の質が変わった気がした。 暑さが抜け、爽やかなそよ風が吹いてくる。
そこでようやく目を開ける。
「ここはどこだ?」
見知らぬ路地裏だった。
「おかしいな、こんな場所あったかな」
通行人と目があった。と思ったのはつかの間、相手はぎょっとしたような顔で辺りを見回すと顔を背けて駆け出して去っていってしまった。
「 なんだって言うんだ」
失礼な対応である。
ここは建物裏、路地のようである。
「 移動してみようか、この先に物音がする。そっち行ってみよう」
家屋の角、最初の角を曲がるとすぐに開けた道がある。いく人もの人が行き交っている。雑踏へ踏み出す。
先程の女性と同様に、最初に自分の姿を見つけた青年が、驚いて声を上げる。走り出しはしないものの、数歩後ずさり、つられて目を向けた他の通行人も同様に後ずさり。中には腰を抜かす者もいた。 立ち止まった通行人の背中に後続の者がぶつかる。彼を中心に同心円状に人の輪が広がる。
「 なんでなんで、俺の顔に何かついているのか」
真相は逆であったのだが。
こちら側も異変に気づいた。ここは日本ではない。どこの外国だと、よく見れば道路も舗装されていない土の道だ。
「う、うわあ」
「なんだ、あいつ、魔物か」
「マモノ? 魔物と言ったのか?」
欧米人風の往来の人々だったが、なぜか言葉は日本語を話していた。
「魔物でもあんなのいるか?」
畏怖、と言うより恐怖の念を抱いた群衆だ。しかしながら、魔物と思われる存在と対峙してパニックにもならずに遠巻きにしているのは大した度胸だ。
「魔物なんてどこにいる?」
彼らの視線が自分の方に向けられていることで嫌な予感がした。後ろを振り返る。何もいない。どうやら彼らは自分を指さしているようだ。
「なんだ、外国人差別か? 日本人がそんなに珍しいか」
「顔が無い」
「影が」
彼女らは似たり寄ったりの言葉を口にしていた。
「顔、影? なんのことだ」
手を見てみた。