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ブルーベリーは思案する

高校生というものは馬鹿である、とブルーベリーは思った。ブルーベリーというのはあだ名であり、ブルーベリーは人間であるということは留意していただきたい。

さて、そこで何故ブルーベリーが高校生は馬鹿だ、などと尖ったことを言い出したのか。別に知識的な意味で言っているわけではなく、思春期特有のアレでもない。至極全うな、現状を顧みた上の感想である。


現状を正しく伝えるには、ブルーベリーが通っている高校で起こった痛ましい事件を説明せねばならない。


事件は二人の学生によって引き起こされた。あだ名は馬と鹿である。二人合わせて馬鹿である。性別はお好きなようにご想像ください。え?こういう馬鹿やるのは大体男子高校生だろ、だって?うるせぇ女だって馬鹿やるときゃやるわ、現実見て出直してこい。語り手のブルーベリーは少々疲れていた。

二人はいつも一緒にいた。学校でも家でも授業でも昼休みでも勉強するときも帰るときも遊ぶときも食べるときも寝るときもいつでもどこでも一緒である。トイレだって連れションである。ちなみに二人は兄弟でも姉妹でもない。どうやってるんだ。

故に、悪戯を仕掛けるときも馬鹿やるときも怒られるときも一緒である。害悪すぎる。そんなこんなで先輩の顔面にブルーベリーパイ(ここのブルーベリーは果物の方)を叩きつけ、爆笑しながら去っていったあと、二人は悪戯が成功したテンションのまま次なる悪戯を考えていた。


「ブルーベリー!」


「どうした。馬鹿の馬の方」


「次は何やったら楽しいと思うー?」


「先輩の顔面にチョコケーキ叩きつけようぜ!」


「馬鹿の鹿の方はそればっかだな。その料理の得意さを別のところに活かせ」


「そうだぞ! 先輩じゃなくて後輩も狙おうよ!」


「そうじゃねぇよ馬鹿」


「私は馬鹿じゃなくて馬だぞ!」


「心から死んでほしいと思った」


「何故!?」


そんな高校生にありがちなノリと勢いとそのときのテンションに任せた会話をしていると、鹿に天啓が舞い降りた。


「先生に……ドッキリを仕掛ける……?」


「マジでやめとけ」


「天才か……?」


「あーもう馬鹿」


よって、馬鹿どもによる先生へのドッキリ『誕生日でもないのに誕生日を祝われる』が開始された。ブルーベリーは今すぐ逃げたかった。


この通達は全校生徒やターゲットではない先生、清掃員さん、事務員さん、あととりあえず学校関係者全員にされ、学校全体がグルとなった。この高校、生徒教師含めノリが良すぎるのである。馬鹿二人の悪戯が反省文止まりになっているのもこの校風のお陰である。馬鹿二人はこの学校の存在に感謝するべき。


そしてドッキリ決行日がやってきた。ターゲットはハムスター先生である。馬鹿二人の担任であるハムスター先生は学校全体が己を驚かせようと一致団結しているのを知らず、今日も職務を全うしようとしていた。


レッツパーリィーはハムスター先生が教室の扉を開けたところから始まった。


先鋒は学級委員長。彼は重なる課題の締め切りと増える委員会の仕事と大会に向けて盛り上がる部活と新発売のゲームで二徹目だった。最後に関しては自業自得である。


まずは手始めに黒板消しトラップを仕掛けておく。この学校は悪ノリの塊のため、そういうことは珍しくない。ハムスター先生も慣れきった様子で頭上に落ちてきた黒板消しをキャッチする。


「では皆さん。席に着い──」


「先生!好きです!どうか僕とお付き合いしてください!!」


そして何事もなかったかのように始めようとして、ハムスター先生は学級委員長に告白された。


「???」


ハムスター先生は疑問符でいっぱいだった。当然である。いつも通りの日々が始まろうとした瞬間に教え子に愛の告白をされたのだ。それも教室で、皆が注目してるときに。混乱しないはずがない。しかし、この世は無情。さらなる追い討ちが待ち受けている。


「今まで想いを伝えるのは我慢していました……。あなたに迷惑をかけてしまうかもしれないから。でも!あなたの誕生日が今日と聞いて!居ても立ってもいられなくなったんです……!」


ちなみにハムスター先生のことが恋愛の意味で好きなのはガチである。「合法的にハムスター先生に告白できる」と学級委員長はこの役回りを快諾した。別に告白は違法ではない。


学級委員長の言葉を聞いて、ハムスター先生はフリーズしていた。だって、どう答えても死ぬ。断っても大切な教え子を傷つけることになり、受け入れても教員としてのアレがアレするので終わりである。もっと言えば、ハムスター先生はこれがドッキリであることを知らないので、学級委員長が皆の前で自分の誕生日を間違えたと思ってる。可哀想でならない。


「???…………。……?」


まだ思考の渦から抜け出せていない。ハムスター先生の宇宙猫である。もう何が何だか。


「勿論、今すぐ答えが欲しいというわけではありません。……どうか、この答えは卒業式の日に聞かせてください。僕が生徒じゃなくなった日に」


学級委員長が逃げ場をつくってくれた。ハムスター先生は心底安堵した。良かった。告白については今は先延ばしにしておいて、まずは今日誕生日であることを訂正しよう。そう心に決めた。


「えっと、そうですね。まず──」


「ですので、今はただ!好きな人の誕生日を祝わせてください!」


「君は人の話を聞くところから始めましょう」


ハムスター先生の仰る通りである。しかし今はドッキリの時間、生徒全員がグルなのでハムスター先生以外にツッコミを入れる人はいなかった。


「「「「「Happy birthday to you~♪Happy birthday to you~♪」」」」」


わちゃわちゃやってる間にバースデーソングが始まってしまった。無駄に流暢。

並みの人間ならばここで絶望し、もうこの学校に赴任中はずっと今日この日が誕生日なのだと諦めてしまうだろう。しかし、ハムスター先生も伊達にこの高校の教師ではない。止められるチャンスはこれで最後だと声を張り上げる。


「あのっ!私は……!」


「「「「「Happy birthday dear ハムスターせんせー!」」」」」


「いえその!今日は!私の誕生日では……!」


「「「「「Happy birthday to you~!!おめでとうごさいます!ハムスター先生!!!」」」」」


「ですから、その……」


歌いきってしまった。ハムスター先生の声に勢いがなくなる。


「三組ー!何騒いでんだー!」


隣のクラスの先生(仮にラノベ先生としよう)が扉をガラッと開け放つ。救世主だ!救世主が来た!とハムスター先生は歓喜した。


「ハムスター先生の誕生日を祝うなら俺たちも呼べ!!」


ハムスター先生は絶望した。希望とは打ち砕かれるためのものなのだと闇落ちしそうだった。ラノベ先生はニッコニコしている。助けたげて。残念ながらこれはドッキリなので救いはない。チクショウ、世の中腐ってやがる。


「ピーンポーンパーンポーン。え~、ハムスター先生。ハムスター先生。全校生徒の皆さんがお呼びです。至急体育館まで来てください」


えらいことになった。ハムスター先生は確信した。再三言うが、ハムスター先生はこれがドッキリであることを知らないので、全校生徒──どころか先生方にも誤った誕生日が伝わったと思っているのだ。訂正するとかそのレベルじゃない。


そうして勘違いされてるままハムスター先生は体育館に向かった。放送は絶対なのである。「至急先生方は近くの生徒とコンビを組み、漫才をしてください。トリオでも構いません」と放送されればノリノリでネタを練り始め、「至急学校関係者は全員モノボケを披露してください」と放送されれば手近なモノでコントを始めた。この高校はお笑い養成所だった……?

そんな習慣が身に付いたハムスター先生は迅速に体育館へ向かった。その後ろを三組の生徒とラノベ先生がぞろぞろと付いていく。当然、行く途中の教室はガラガラだった。


「「「「「ハムスター先生~~!!Happy birthday~~~~!!!!!」」」」」


体育館に続く廊下で叫ぶ生徒たち。各々クラッカーを鳴らしたり、お祭りとかでよくあるピロピロの笛を吹いたり、風船を飛ばしたり、割ったりと好きにしている。好きにしすぎである。あと手でアーチをつくるやつをやっている生徒もいた。あれくぐりにくいよね。ハムスター先生は小柄なので問題なかった。「ちっちゃい……可愛い……」と小声で呟いた生徒は前半でハムスター先生ガチ勢過激派に目をつけられるも、後半で「分かってるやないか」と仲間判定された。


そんなこんなで体育館に到着。目を引くのは中央にあるウエディングケーキばりにデカイケーキだ。家庭科部が腕によりをかけて作った代物である。馬鹿の鹿の方も手伝った。

(あっ、もう引き返せない……)と悟ったハムスター先生は誕生日が今日だと自己暗示することに決めた。潔い。


「ハムスター先生」


馬鹿の馬の方が歩み出る。一時の間。静寂。

すぅっと息を吸い、言葉を紡ぐ。


「ドッキリ大成功~~~~~~~~~!!!!!!」


「「「「「いえーーーーーい!!!!!」」」」」


クラッカーの破裂音が体育館を支配する。音だけ聞くと花火。

キャッキャと戯れる男子、やったぜと勝ち誇る女子。先生、用務員さん、教頭先生、校長先生。本当の本当に全員が集まっていた。


「皆さん……」


ようやくブチギレるか、とブルーベリーは思った。むしろ良く耐えた方である。この怒りは甘んじて受け入れようとブルーベリーはハムスター先生を見遣った。


「どうしてターゲットが私なんですか!?私も仕掛ける側が良かったです!!!」


ツッコむとこはそこか??やはりハムスター先生も同じ穴の狢であった。ハムスター先生は真面目枠だと思ったブルーベリーがバカだった。


「「「「「せ、先生……!」」」」」


その場にいるブルーベリーの除いた全員が感涙した。意味が分からない。どこに感動要素があったのか。


「先生!次は一緒にやりましょうね!」


次があってたまるか。


「さて……じゃあ〆に行くか!!」


「「「「「応!!!!」」」」」


「誕生日と言えば!!!」


「「「「「パイ投げだ~~~~~~!!!!」」」」」


交差するアップルパイ、ストロベリーパイ、チェリーパイ、ブルーベリーパイ、クリームパイ、ミートパイ、エトセトラ。種類が豊富。


「ピーンポーンパーンポーン。この後、使用したパイは学校関係者が美味しくいただきました」


ブルーベリーは思った。


高校生じゃない……この高校空間が馬鹿なんだ……。


全てを理解したブルーベリーは、馬鹿二人にブルーベリーパイを叩きつけるべく走り出した。

ブルーベリー

自称極々普通の高校生。自分だけがマトモだと思っている。でも放送には従ったり、馬鹿二人と友達やってる辺り大分この高校に馴染んでいる。成績は良い方。


鹿とは親友。馬鹿。人脈が広く、全学年に友達がいる。先生や用務員さんとも仲が良い。体力バカで体育の成績はトップ。


鹿

馬とは親友。料理が得意。手芸も得意。家庭科部には入ってない。家庭科の成績はトップ。


ハムスター先生

今回のターゲット。三組の担任。国語教諭。小さくて可愛らしいと生徒に人気。一部の過激派により一定以上仲良くなるのは阻まれる。真面目っぽいが悪戯好きで、ドッキリは仕掛人になりたい派。


学級委員長

三組の学級委員で委員長。ハムスター先生にガチ恋しており、頭はかなり良いが、ハムスター先生のことになるとバカになる。愛の強さで過激派を黙らせた勇者。


ラノベ先生

二組の担任。生物教諭。いつもニコニコしてる。上げて落とす担当。人間の絶望顔が好きなサディスト。ハムスター先生の絶望の表情を見ながらニコニコしていたので、三組生徒から「変態」の謗りを受けた。


学校関係者の皆さん

ノリノリで今回のドッキリに参加した人たち。揃いも揃ってバカばっか。

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