6話 恐怖
「ふあ……」
「起きたか」
一回も起きることなく、朝に目が覚めてよかった。久しぶりに動いて筋肉痛で体が動かないけど、頭はスッキリしてる。
「見張りありがとね」
「……ああ」
昨日よりかなんか元気なさそうな気が。夜に何かあったのだろうか。今日休めたらゆっくりして休んで欲しいな。
「今日、歩けそうか?」
「筋肉痛で動かしづらいけど、歩けるよ」
「そうか」
おもむろに自分のポケットに手を入れて何かを探してる。
一体なんだろう。
銃とかではないよね? それだったら持たないよ。使い方分からないし、反動で腕が痺れそうだから。
「朝食、携帯食料だが構わないか?」
「うん」
「なら食いな。それが終わったら移動するぞ」
彼から投げ渡された物の字は読めなかったけど、多分エネルギーバーだと思う。形的に。
「エヴァンは食べたの?」
「ああ」
私が寝ている時に食べたのかな。時計がないからちょっと時間の感覚が狂っちゃうな。寝過ぎたのかどうかすらも分からないや。
スマホの時計が動いてないから目覚ましは使えそうにないけど、タイマーとかはどうだろう。
「すっぱ! これ何味?」
「クランベリーだ」
「びっくりしたぁ。眠気が一気にふっ飛んじゃったよ」
クランベリー聞いたことはあったけど、ここまで酸っぱいとは思わなかった。
レモンと同じかそれ以上に酸っぱかった。
ちょっと食べるの抵抗があるけど、食べなきゃ栄養にならないからね。
それに、せっかく渡してくれたものを残すわけにはいかないし。
「ごちそうさま」
「それもあいさつか?」
「うん」
「そうか」
酸っぱさを紛らわすものはなにかないかな。しばらくしたらおさまればいいんだけど。
「そろそろ行くぞ」
「うん」
今日は誰かに会えるかな。会えたらいいな。
「え、エヴァン、少し休も……」
「歩いてまだ少ししか経ってないぞ」
1日寝ただけじゃ昨日の疲れはやっぱり取れないよね。
一瞬で取れるものが何かあったらいいんだけど、そんなものが本当にあったら危ないものだと思うけどね。
「仕方ない。休むか」
「申し訳ない」
普段何も動いていないのが仇になっちゃった。バイトで動いてはいるけど、決められてる場所でしか動かないから。
運動不足だって言われてるから何かスポーツ始めてみようかな。ボルダリングとか興味あるんだよね。
「きゃあああああ!」
なんて考えたらどこからか女性の悲鳴声が。
「な、なに?」
「はるか遠くで馬車が襲われているようだ。どうする?」
「どうしたらいいか分かんないから、エヴァンの判断に任せる」
しばらく考えてから悲鳴が聞こえた方へ走っていった。
は、速い……! さっきまで近くにいたのにもう遠くまで行っちゃった。もう豆粒程度にしか見えないよ。
参戦する訳じゃないけど、近くにいた方がいいのかな。こっち側で何か遭った時、迷惑にならないように。
あんまり近すぎると怖くて動けそうにないかも。
「いたたた……」
体全体が痛いと思うように足が動かせないんだよね。体を少しだけ上に跳ねながらの移動だから、凄く遅い。
ようやくエヴァンの姿が見えたけど、凄く綺麗な人とお話しているみたい。
絵本とかでみるお姫様みたいだって思った。
例えばだけど、ガラスの靴を履くお姫様みたいな感じかな。
「こっちに来たのか。何も怪我とかはなさそうだな」
「そちらの方は?」
私の息を吸う音で気づいたエヴァンが、こちらに目を向けてきた。
それよりもエヴァンの足元で、人が倒れてる。
もしかして、彼が殺しちゃった……? どうしよう。私、責任とか取れないよ。
2人はなんともないのかな。この状況下でも会話しているけど、平気なの?
「仲間のあかりという」
「初めまして、あかり様」
「え、あ、は、初めまして」
両手で裾を持ち上げてお辞儀をしているけど、お姫様もなんともないんだ。
彼らにとって、これが普通なのかな。
「倒れた者たちを見て固まっていらっしゃるのでしょうか?」
「おそらくは」
殺人罪とかで捕まっちゃうのかな。それとも、捕まる以前に即処刑になってしまう?
今まで常識とか守りながら生活してたけど、ここで死んでしまうのかな。
嫌だな。
「大丈夫ですの?」
「ご、ごめんなさい」
私、泣いてばかりだ。さっきまで怖い思いしてたお姫様が泣くどころか、近くに来てくれて逆に私を心配してくれるなんて。
それにすごく優しい。会ったばかりの人の涙を拭いてくれる。
「謝るのはよして? わたくしの直感ではあるのですが、あなたはこの状況に慣れていないのでしょう? そこの御仁は慣れているようですが」
「生業としておりましたので」
お姫様の言う通り私はこの惨状に慣れていない。だから、人が倒れているのを見て怖いと思ってしまう。
リアリティがあるものは小説で書けても、小説と現実は違うってこの空間でより感じてしまう。