5話 進展がありました
小説のように表現して書かないと出てこないということが分かっただけでも、進展ありかな。
それじゃ。
「【喉を潤せるほどの量のお水を自分の手の上に出した】っと」
さて、これで出るかな。
しばらく待っていたら、自分の両方の手のひらに冷たいものが少しずつ沸き出てくる感覚があった。
え、あ、うそ、こんな風に出るとは思わないよ! ペットボトルとかが出るって思ってたんだけど。
「スマホが」
「一応は出たみたいだが、もう少し詳しくしないといけないようだな」
「え、めんどくさい」
「ノベリストが何言ってんだが」
エヴァンが間一髪でスマホを持ってくれたから壊れることはなかったけど、手から流れっぱなしのお水どうしよう。
彼が持っていた銀製の入れ物でなんとかしのいでいるけどそれも長くは続かないだろうし、いい加減止めないとな。
これも詳細に言わないといけないのかな。
「ちょっと実験してもいい?」
「別に構わないが」
「エヴァンがスマホに書いた文字でも反応するのかとか、英語でもいいのか」
エヴァンいそういうと指を動かして私のスマホに何かを書き込み始めた。
これで止まるならもしもの時に任せられるかな。
もしもがないのが一番だけど。
「止まってないな」
打ち終わったスマホの画面を見せてくれたけど、効果はなかった。
英語で打ってくれたけど、代わりに書いてもダメなのか。
「お手上げだぁ……」
このままずっと自分の手から水が出たまんまなんだ。
大道芸人だとして最初は驚かれても、途中で飽きられちゃうよ。
「声で操作出来そうだが」
「え?」
エヴァンが見せてきたスマホ画面には、音声を拾う状態の波形が出ていた。
何それ、その機能私知らないんだけど。
「どうする?」
「声で言う」
声でなら手が塞がってても出来る。
「【自身の手を強く握りしめると流れている水は止まった】」
言葉と同じ動きしなきゃいけないけど、これで止まるなら問題ない。
スマホ画面には言った通りの文字が書かれていた。
さっきまで出てた水が少しずつおさまり、手の中に水滴がまだ残ってるけどこれはいつか乾くからいいや。
やっと止まったよ。一時はどうなることかと思った。
「減ってるぞ」
「え、何が?」
本日2度目の疑問。
スマホを見たら、充電が100パーセントから80パーセントになってた。
メモ帳に文字書いただけでバッテリーが減るなんてことある? そんな容量食うようなことしてないんだけど。
いよいよスマホ壊れた?
「どうしよう、このまま減り続けるのかな。充電器もってないよ」
「よくわからんが、あまり使わん方がいいな」
それしかないよね。仕方ないけど、無くなって大変なことになるよりかはいい。
何が大変なのかは今はまだ分かんないけど。
「少ないけど、分かったことが見つかって良かった」
「そうだな」
これで問題解決に少しだけ近づいたかな。
あ、どれくらい進んだか書いとかなきゃ。自分忘れっぽいからね。
「スマホ貸して」
「ほらよ」
手の中の水がだいぶ乾いてきたから受け取って、私が今抱えてる問題が書いてるところに今さっき出来たことを追加した。
これでわかりやすくなった。
周りは完全に夜になっちゃったからそろそろ寝ないと。
夜寒くならなくてよかった。寒いと寝にくいしね。
いまは季節的に春なのかな? 何か目印があれば分かりやすいんだけどな。
例えば、桜とかウグイスとか。
「ほら」
「1枚しかないの? エヴァンのは?」
「いらん」
薄い毛布を渡されたけど、いくら春っぽい気温だとしても何も被らないと風邪ひいちゃうよ。
隣同士なら暖かいんじゃとは思ったけど、男性と寄り添って寝るなんてこと人生で今までしたことないから、どうしたらいいかわかんない。
「本当にいいの?」
「ああ」
彼が言うならそのまま使うけど、もし必要になりそうだったら近くに行こうかな。
なかなか勇気がいるだろうけど。
明日もいっぱい歩くんだろうな。
早い段階で人に会って、あわよくば乗り物に相席させてくれてたらうれしいけど、そう上手くはいかないだろうね。
あんまり期待しないことにする。期待して乗れなかったら悲しいからね。
あんなに歩いたの久しぶりだったからめちゃくちゃ疲れたよ。
今日はぐっすり眠れるといいな。いつも途中で起きちゃうから。
「おやすみ」
エヴァンは見張りをしてくれるのかな。朝起きたら感謝しとかないとね。
「おやすみ」
彼の低い声と焚火のいい音が相まってぐっすりと眠れそう。