３０話 報告
「ガインだけ呼んでくる。注意することはあるか？」
「モンスターでも動物でもないものが表にいるって言ってたら大丈夫だと思う」
「分かった」
ギルドの前にたどり着き、深きものを地面に落としたエヴァンはそのまま中へと入って行った。
しばらくしてエヴァンとガインさんが表に出てきた。
「なっ！」
そりゃそうだよね。説明受けてもこれはびっくりするよね。ってかガインさんSAN値大丈夫かな？
「こ、これはなんだ」
倒れてないし、大丈夫そう。驚いてはいるけど。
「中央広場で現場を調べてたところ襲われたから返り討ちにした」
「こいつらは……人、なのか？」
気絶している者たちを首を傾げながら見つめるガインさんに、説明していくエヴァン。
「あかりが言うには『深きもの』という名前のものらしい」
「ふかきもの？」
首を傾げたまま、ガインさんの眉間に皺が寄っていく。まるで何もかもわかっていないかのような。
エヴァンやゾーイが知らないのはわかるけど、クトゥルフのステータス表記があるのに、なぜこの世界の人たちの方が分かってないの？ STRとかの用語は知っているのに。
「ガインさん、今のステータス表が使われるようになったのっていつぐらいからですか？」
「俺が子供のころからあったから、それより前からじゃねぇか？」
腕を組み、目をつぶって思い出しているのだろう。
「ガインさんより年上の方っていたりします？」
「元気で話せる奴となると、長命種のエルフやドワーフだな。この街にはいねぇから探しに行かないとならないが」
「だいたいどこらにいるとか」
「すまんが、分からん」
分からないのは仕方ないか。となると地道に探すか、他に知っている人に聞くのがいいかもしれない。長い道になるな。
「ありがとうございます、ガインさん。それと、もう１つだけ聞きたいことがあるんですけど」
「なんだ？」
ガインさんが子供のころからあったというステータス表記。もしかしたら本を保管している場所にその歴史を記したものが残されているかもしれない。
「探したいものがあって、その保管している場所には行けたりとかできます？」
「……普段は禁止しているんだが、俺同伴でなら許可しよう。本は大切に扱うと約束出来るか？」
「もちろんです」
とんとん拍子で進んじゃったけど、この後大変なことが起きるとかないよね？ 大丈夫だよね。 ちょっとだけ不安になってきた。
とりあえず深きものは、誰にも見られることのない牢に連れていくことが決まった。あんな姿を見たら更に発狂とかしちゃう人が出てくるだろうから。
おっと、本が保管されている場所へ行く前に、報告とかしとかなきゃね。深きものって名前と三又の槍を持ってどう撃してくるとか。姿を受付の人に聞かれたけど、それは言わないことにした。想像力が高い人だったら、聞いただけでSAN値が減るかもしれないことを危惧して。
どうしても知りたい場合は私にそのことを伝えてくれたら教えるとも言った。本当は私みたいな初心者冒険者が権限なんて持つことは出来ないのだけれど、深きものの名前と対処の仕方を知っているということで、ガインさんが特別に許可をしてくれた。
「知っているかは分からんが、ここについての説明をするぞ」
受付の裏に入るドアの前でガインさんが振り返った。
ルールは
・持ち出し禁止
・故意に傷付けない
の２つだった。図書館と同じルールだね。
「わかりました」
ガインさんがドアを開けた時、後ろからひそひそ声の後に「ヒッ」って声が聞こえた気がしたけど、気のせいかな？ エヴァンはなんで後ろ向いているんだろう。
「エヴァン、もしかして威圧した？」
「何のことだ」
エヴァンが振り返り、何もしてないぞっといった顔をしている。
「何もしてない？」
「ああ」
「そっか。ないとは思いたいけど、事を荒立てるようなことはしないでね？」
エヴァンの言うことが本当かどうかは分からないけど、もし喧嘩になったら私不安になっちゃう。喧嘩で負けることはないとかもしれないけれど。
「開いたぞ」
私とエヴァンが会話している間にガインさんが開けてくれた。ただドアを開けるにしてはちょっと時間がかかったような気がする。ドアノブには鍵穴とかないし、鎖が巻き付けられているわけでもない。まさか、魔法で開けたとか？ その場面見たかった！
