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13話 仮の名前

「すごい、気持ちいい」



 ゆっくり歩を進める馬の背に乗りながら、頬に当たる冷たい風と暖かい太陽光が心地よくて、のどかな気持ちでずっといられるな。



「初めてだったか? 馬に乗るの」

「うん」



 現代のように舗装(ほそう)されていない道は凸凹(でこぼこ)が激しくて、初めて乗る車みたいにすぐ気持ち悪くなるほど自分は酔いやすいのに、それを感じさせないように彼がしてくれている。

 乗馬してるから完全に揺れが無くなるってわけではないんだけど、何も聞かずに揺れを抑えるようにしてくれる優しさが見えるのはいいよね。

 自分のだけど、さすが私の()し。これだけかっこいいといろんな人から言い寄られそうだけど。



「ここらへんか? 場所は」



 一旦馬を止めて私の方に振り向いたエヴァン。

 鞄の中に入れていたスマホを取り出し、冒険者ギルドで今回の依頼の品を忘れないようにと、念のため撮っていた薬草が書かれている場所の写真を確認する。



「『生い茂った森の中に、生息している。近くには青い池も、ある』って書いてあるよ」



 スマホで撮った写真をエヴァンにも見せて共有する。

 私はたまに文字を間違えたり読み飛ばしたりしちゃうから、彼にも見てもらわなきゃ。

 二度の確認は大事だからね。



「まずは青い池がどこにあるか探すべきだな」

「うん」



 お互いが確認したあと、私はスマホを落とさないように鞄の中に入れて、それを確認したエヴァンがまた馬を歩かせた。

 速度は先程と変わらない。



「あのさ、エヴァン」

「ん?」

「この子に名前付けない?」



 森の中に入ってからふと頭の中に浮かんだことだったんだけど、ずっと馬って呼ぶのって何か可哀想かなって思った。

 私の都合で呼び出しちゃった子だけど、せめて名前をつけて可愛がりたいって思う。

 それに馬はかしこいって聞くから、名前も呼ばないであの馬って呼ぶのはなんか私は嫌だな。



「いいんじゃないか? つけるんだったらいい名にしてあげな」

「うん、そうする」



 『いい名前にしてあげな』って彼が言ったし、この子に似合う名前考えてみるかな。

 エヴァンの体が大きくてほとんど前が見えないけど、方向転換した時にたまに見えるこの子の体と、そよ風に揺られるたてがみは黒色で、光の入り方次第でたてがみが濃い青色にも見える。

 紺色っていうのかな。

 彩色の知識が私にはないから間違えているかもしれないけど、その色が太陽光に反射して輝いているし、とてもかっこいい姿をしてる。

 そんな子に名前を付けるとしたら、雄か牝でも似合いそうなのがいいな。



「ネイビーサン」

「人を呼んでいる名前みたいだな」



 紺色を英語にするとネイビーだったよね。

 それと、太陽光の反射でたてがみが綺麗に見えたからサンってつけた安直な名前候補に、ふふっと笑う声がエヴァンから聞こえてきた。

 微かに肩も揺れていた。言葉からして馬鹿にしている雰囲気ではなかったから、良かった。



「これしか今頭の中に浮かばなかった」

「いい名前だが、どうしても君の言葉の(なま)りのせいか人を呼んでいるようにしか聞こえん」

「訛りはどうしようもないでしょ。育った場所がこういう話し方をするところなんだから」



 さっき言った馬鹿にしていないって言葉やっぱり撤回しよう。

 私が生まれ育った場所は田舎で、しかも訛りがきついと言われるようなところだけどさ、こればっかりはどうしようもないじゃん。


 でもまぁ、言葉を矯正する気はないけどね。田舎だとしても生活してきた場所は自然豊かで好きだし、このまったりした性格だってそこで(はぐく)まれてきた証拠だし。



「訛りは置いとくとして、その名前にするか?」

「……もう少し考えてもいい?」

「ああ」



 依頼先に着くまではもう少しかかるだろうか、その間にゆっくりと考えよう。


 そよ風で馬のたてがみと私たちの髪が揺らめくのを楽しんでいると、彼が馬をゆっくりと止めた。

 目的地に着いたのかな。



「あそこに青い池があるぞ」



 エヴァンが指差してるけど、貴方の体が大きすぎて前が見えません。

 

 倒れない程度に体を横に倒して、彼が指差す方を見ると確かに青い池があった。

 想像していたまさしく青って感じの色ではなくて、透明感があって底がみえるほど綺麗な青だった。あれだよ。確か青池だったかな。それっぽい感じがする。



「綺麗だね」

「そうだな」



 これほど神秘的な場所に来ると言葉が少なくなるってよく聞くけど、本当だね。

 エヴァンでもそう思うってことは相当綺麗なところなんだと思う。



「依頼の薬草、探すぞ」

「うん」



 エヴァンが先に降り、私に手を差し出し降ろしてくれた。

 さっきまでゆっくり前後に揺れていたから、その感覚がまだ抜けてなくて地面に足を付けた時、少しだけよろめいたけど大丈夫。


 さぁ、お仕事開始。

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