九十四話 ウグルガ公国
10月10日。
とある場所にて起こった出来事。
★
午前8時。
某国、検問所前にて。
南東100kmに位置するウグルガ公国。
その入国審査に一人の女が阻まれていた。
彼女は松薔薇から渡されている白銀腕章を付けているにも関わらず、問答無用とばかりに突っぱねて来る検問官に思わず怒鳴り込む。
その勢いに咄嗟の抜剣を見せるも、容易く刀身の半ばを横から肘突きで折られ唖然とする。
(この国にはギルドが浸透していない様だな。)
全くもってギルドも国交も機能していない様子から溜息を吐く。
ベルデーナは身に付けている腕章を睨みながら、ガレトロ帝国側に発行して貰っていた通行許可証を見せ一応通る事に成功した。
そんな彼女の只ならぬ風格に人々は釘付けになっていた。
国内を見渡す。
石で舗装された路面、明るく照らす陽の光を受け何色にも反射する硝子を天井屋根にした通り。
見るだけでも割と目が疲れる。
またも溜息を吐く。
そんな彼女自身が誰よりも目立っているのだが。
並の貴族よりも圧のある顔付きと気品漂う黄色い毛髪。
日頃であれば戦闘に備え髪は後頭部から腰の手前までを固い交互編みにしている。
が。
今の彼女は表向き国政を執り行う位置付けにある為、純金で作られた髪留めを耳上に付け左右の毛髪も全て裏へ流していた。
前髪の左右は耳下を潜りつつ後ろ髪と一緒に銀色の紐で纏め、この国の爵位者すら見返す品格を滲ませていた。
服装は光沢のある貴重な白絹で織られたノースリーブ、羊毛を黄に染めたスカートを膝下まで履いている。
一回り上の大きさ故に空気で揺れ、その丈は膝に届く丁度の長さ。
首元には銀を鋳造した十字架に金のチェーンを通したネックレスを巻いており、175cmと高身なのも加味して実に近付きにくい風貌である。
そんな彼女は周囲の国民や旅行者らしき人の向ける物珍しげな視線を浴びて一喝する。
「っ…………一々見るなッ!」
「私が誰か知らないのか貴様らはッ!」
「目を閉じるか下を向け、不躾だ。」
「ーーーーーそこっ覗き見るなッ!」
彼女の声を浴びせられた商人らしき恰幅の良い男は深々と頭を下げて退散していく。
同じく人々は畏れる様相で足早に過ぎていく。
それを見て一先ず落ち着いたベルデーナは、通りの隅にあったベンチに座る。
そこはお菓子を売っている店の席であったが、先のやりとりを見て萎縮した店主の婆は声を上げない様に黙っていた。
そんな婆に向かってベルデーナが一声掛ける。
「店主。」
「は、はいぃっ。」
(何かしてしまったのかいな…………っ)
「茶菓子はあるのか。」
「はっはいっ有りますぞえ。」
「最近の流行り物から他国の物まで広く流通しておりますから、誰でも一つは気に入りますわぁ。」
「ふうむ、成る程。」
そうして店内の棚を歩いて見始める彼女からは圧など何も感じず、婆は安心する。
それにしても何だか輝く様な目付きで菓子を吟味するベルデーナを見ていた婆は、昔ながらのマーマレードを塗ったパンや、チョコを贅沢に使ったソフトクリームなどをお勧めする。
中々のお値段なので自国でも貴族や旅行者しか食べる事は無いが、一つ1銀貨もするチョコのソフトを流れる様に購入して直ぐに食べ始めていた。
しかも払われた貨幣は金貨であり、すぐにお釣りを返そうとする婆を見て手を翳す。
それは余分に払った分だ、とだけ伝えると彼女は再びベンチに座りゆっくりとソフトクリームを食べ始める。
何故多く払ったのか理解出来ないでいたが、婆は幾らなんでも申し訳なく思い後から食べられるクッキーの袋詰めを一つ、オレンジジュース3瓶をベルデーナへと手渡す。
甘く良い香りのするそれ等を受け取ると、ハンカチで綺麗に口元を拭きながらお礼を口に店を出て行く。
不思議な女性に出会った婆だが、見せている厳しい態度と違い優しさを見せる彼女を不思議と記憶していた。
★
ウグルガ公国。
南方100kmに有るイルディア公国とは国交を持っており、相互に特定の貿易を行っている。
この国では硝子や装飾、絵画の職人が多く居り、その出来に応じた評価や賞などを贈る事から芸術の国とも言われている。
生前は良く陶芸品を好んでいたベルデーナは、切咲やデレルを圧し込んで率先する様にウグルガ公国への開拓を申し出た。
既に通りを抜け出てきた場所は宿屋や鍛冶屋など生活、冒険関係の店が多く露見している。
……………冒険者が集まる分、治安も悪めだが。
鍛冶屋には腕自慢とばかりに傷や筋肉を誇示する男が散見できた。
正しく馬鹿らしい外見に去り際鼻で笑う。
それを、男達は聞き逃さなかった。
ーーーー待てよぉ!お嬢さんよォっ!
ーーーー今俺達を馬鹿にしてたよなぁ〜?
集るようにして彼女を囲む。
その外見に見惚れかけるが、気を持ち直してベルデーナへ食って掛かる。
中には彼女の肌や胸元、脇を舐める視線で見つめる者も居る。
不快な連中を前にどうしようか悩んでいると、ギルドらしき建物から一人の人間が出て来る。
その男は鉄の鎧で首から下を固め、面倒毎に絡まれている(様に見える)綺麗な女性を助けんとばかりにぬるりと近寄って来る。
その男は名をヘルユス・ウグルガと言い、この国の中で正当な公爵継承候補の一人。
お困りな女性を放ってはおけない性分で有名な彼がでしゃばってきた為冒険者達も煙たがる。
それでも、引けぬとばかりにベルデーナの左肩を掴む男が居た。
それが、面倒な事態の切り出しとなる。
「俺ァ貴族みてえな権利振り回す馬鹿が嫌いでなぁ、テメェもそんな匂いがするんだよォっ!」
「俺達庶民や平民を屑みてえに笑いやがるっ!」
「どうしても我慢出来ねぇんだよォッ!」
「ーーーーー手を離せ。」
「3秒やる………早くしろ。」
「うるせぇ!」
「俺はなぁ!正にこんな感じの女がーーー
言葉を遮られる。
原因は、ベルデーナが左脚を軸に右半身を前傾にした右脚突きをその無精髭な男の顔へ蹴り込んだから。
勢いが消えぬまま後方へ5〜6m転がされ、その場で意識を失っている。
それを見てヘルユスは危険を察知すると、男に追撃を加えようとするベルデーナの前に塞がる。
彼は右腰から綺麗な螺旋状の鍔を手元まで付けた鉄剣を抜き、剣先を向ける。
それに一瞥もせず自身の右横を通り過ぎようとしたため咄嗟の判断で右払いしてしまう。
女性に対してまずい行動をしたと後悔しかけたが、その剣先が彼女の左肩に当たっても1mmの怪我すらないままなのを見て思考が止まった。
(ーーーーこ、これは。)
(ーーーーガイユス様と同じ………英傑っ?!)
声を上げそうになるも、堪えて剣を仕舞う。
再度男の前に立ち塞がるヘルユスに一言だけ忠告するが、退く気配がない。
それを耳にしたと同時に右脚を少し前の地面へ踏み付け、そこにあった煉瓦を砕く。
ある種の威嚇だ。
震えてはいるものの、それでも引こうとしないヘルユスを見て幾らか目を細める。
解った、とベルデーナは何歩か後退する。
ヘルユスはその後暫く固まっていたが、1分ほどして意識を戻す。
その時にはもう彼女の姿は確認出来なくなっていたが、急ぎ捜索する事にした。
(もし。
万一ガイユス殿に見つかったら大変な事にっ!)
★
その内、貴族達の居住区画の手前まで着く。
そこには国の検問とは別に新たな検問所が配置されていた。
周囲には誰も入ろうとする人は居なかった。
そんな中、自然な足取りで入ろうとしたベルデーナに検問官が慌てて止めに入る。
彼女は通行許可証を見せたが、そんな物では入れないと怒られてしまう。
それに対して生前の口癖を言い放ってしまう。
「私はガレトロ帝国の女帝だぞっ。
態度を改めろッ!」
「がはは!
本当にガレトロ帝国の女帝様が来よう事態なら特別待遇も良いとこだろうねぇー?」
「だが、ウグルガ公国とは歴史上ただの一度もガレトロ国と国交を持った事は無い!
つまり今更来る訳など無いのだよ!」
「……………?
そんな筈はない、11世紀頃は良くウグルガ公爵と会食を開いていた仲だぞ。」
「何せ私は芸術が好きだったからな、あの頃は陶芸品を通じてその道に長けた陶芸家だったベルバス公爵の宮殿にお邪魔していた程だ。」
「な、何を言っている!?
ベルバス公爵の名を気安く語るとは、許せん!」
「ここで待っていろ、警備を連れて来るからな!」
「あぁ、好きにしろ。」
「おかしいのはお前だ、検問官。」
「く、馬鹿にしやがってこの女っ!
ーーーーん、あれは!?」
後ろから馬車が走って来る。
その車体は木材に美しい銀の装丁をあしらった外観をしている。
そんな荷車に付けられた前に開く形式の両扉を開け、誰かが降りて来る。
伸ばされた銀の前髪が右の鎖骨に届きそうなその男は、名をガイユスと言う。
いつかのバルト王国の騒ぎに駆け付けなかった反英雄の一人である。
独特な孤高さを放つガイユスは、現在この国の当公爵であるバルダス・ウグルガを裏から操り国政を行っていた。
そんな彼がイルディア公国から朝帰りしてくると、すぐ前の検問所にて一人の女性が言い争っているのを発見する。
その女性は自身を見ても尚一切引けを取らない品を持ち合わせており、現世に召還されてより初の対等な女であった。
検問官が慌てながら事情を説明すると、ガイユスはその面貌を見て次第に顔付きを変えていく。
その場では体面を取り繕い、何とか冷静を保ちつつベルデーナを共に通過させてやる。
ーーーーーー。
ーーーーー。
ーーーー。
ーーー。
ーー。
ー。
「ベルデーナ様ぁ!私を覚えていましょうか!?」
「私です私っ!」
「…………さぁな、解らない。」
「誰だ、貴様。」
「私はベルバス父上の長男、ガイユスですっ!
ここまで言えば分かるでしょうっ?」
「ん……………………あぁ、あの甘えん坊主な子供。」
「そうか、そんな名前だったのか。」
ガイユスは、11世紀を代表する反英雄。
ベルデーナが30歳頃に当時6歳程で、良く同じ年代の父と交流を持ち自宅へ訪れていた彼女に片手間で遊んでもらっていた。
密かに理想の女性像としてベルデーナを想っていたガイユスであったが、自身が20歳の成人を迎える頃には既にベルデーナは47歳頃の中年女性。
時期も合わず恋が報われる事は無かった。
だが、今のベルデーナは最も若く強かった20歳頃で現界している。
それに対しガイユスも同じ年頃で現界している。
ーーーーーこの上ない、好機である。
懐かしそうな顔をするベルデーナの横顔に見惚れていたが、気持ちを平常に戻す。
彼女を自身の私有地である屋敷に招待すると伝えると、ベルデーナも(目的が早く叶うと思い)喜んで承諾した。
思っている以上に乗り気な彼女に期待感が増すが、今は冷静を保つべきと判断し静かに馬車を走らせる事にした。
そうして、時刻はゆっくりと正午頃へ進む。
★
「よくお戻りになられた、ガイユス公爵。」
「ん?その女性はもしや………また連れ込みで?」
「連れ込み?何を馬鹿な。
私はそんな軽い男ではないぞ。」
「はぁ、しかし日頃から良くイルディアの女性を口説いて連れてきているのは一体ーーー
「黙れぇぇいッ!」
「し、失礼しましたぁっ!」
「ーーーー女遊びとは。何やら軽くなったか?
私の知っているガイユスはもっと小さく可愛げのある頃だったからな、相違があっても仕方ない。」
「な!?ち、違うのですベルデーナ様ぁっ!
その女性達というのは私の作る硝子の首飾りや手鏡を見たいと押し掛けてきたファンでしてぇ!」
「ふぅん、そうなのか。
ーーーーーまぁ、【達】と言う部分が気にはなるが、取り敢えずはそういう事にしてやろう。」
「は、はは、そうですよっ、もうっ!」
(ーーーーあの馬鹿公爵、後で懲罰だ。)
一瞬冷たい殺気を纏ったガイユスの気配に気付いたが、気にせず玄関へと上がる。
家の廊下は長く、その壁には様々な絵画が飾られている。
時折通路に台座が置かれており、見事な陶器が飾られているのを見て足を止める。
夢中になり立ちながら前屈みで両手を膝に突く彼女の寄せられた谷間が服越しに強調され、ガイユスはその一点に興味を奪われていた。
そうして数十mもある廊下を進み、左右に広がる使用人の自室や台所の間取りを抜ける。
突き当たりから螺旋階段が有り、そこを登ると垂直に二階へと上がっていく。
そこからは赤い敷物が足元に置かれた区間となっていた。
壁は赤や青の硝子で作られており、天井から提げられた灯りに照らされる事で何色もの影を生む。
綺麗な光景に偶に立ち止まる、ガイユスはそんな彼女の全身を注視する。
後から改めて見ようと歩みを再開させる。
2階廊下の左右にある扉の先は色々な芸術品が置かれている部屋で、ベルデーナの興味が刺激される。
そんな発見を繰り返す内、3階へ続く螺旋を登る。
この階は外見こそ2階と似ているが、全て公爵やその家族、側近が住まう居住区となっていた。
ガイユスはその中でも突き当たりの正面にある鏡の扉を開け、彼女を誘う。
そこはガイユスの自室であった。
作品を構想する為のメモが記されたノートや構造を書き記した画用紙が何十冊も収納された棚が部屋を囲んでおり、右奥の角には薄く灯された蝋燭に照らされた机があった。
現在制作中の硝子作品に関する苦悩、試行錯誤が書き殴られているのを見てガイユスも父ベルバスに似て芸術家なのだな、と感心する。
そんな中。
ガイユスは右手前のベッドに座りながら、ベルデーナに自身の気持ちを打ち明け始めた。
「ベルデーナ様、少し良いでしょうか。」
「うむ、何だ?」
「良ければ一緒にベッドへ座って頂きたい。
駄目ですか………?」
「いや、別に構わん。
ーーーーーん…………ほう、良い羽毛だな。」
「何だか眠くなるな、不思議な物だ。」
「はは、寝ても良いんですよ。
…………【貴女】だけは。」
ベルデーナは、彼が自身へ持っていた気持ちを伝えられる。
生前から知っている、と返すと酷く驚く。
真面目な顔付きでガイユスは口にする。
ーーー貴女が、欲しい。
急な提案だ。
それに対して一考の余地もなく、
「断る。」
「私は色恋に興味が無いのでな。」
「な、何故ですかっ?
貴女は昔から色々な人に告白されていたが、全て同じ様に蹴っていた。」
「だが私は彼らとは違います、強いんです!」
「………………それは、そうだろうが。」
「私が産まれたガレトロ帝国は元来女が男より上に立つ国でな。
他国へ行く度告白を受けはしたが、相手の地位や強さに関係なくお国柄として決定権は私にある。」
「異性に興味がない訳では無いが、魅力的な奴が居なかったんだ。」
「ガイユス、お前も私からすれば友の可愛い子供だ。」
「………………そん、な。」
「すまないな。
例え魅力的でも、やはり友人の子を恋愛対象には見れない。」
「だがお前を良く思う女は沢山いるのだろう?
だからその女達から伴侶を選ぶと良い。」
「……………………」
ガイユスを目の前にしながらも毅然として断る。
そんな強く美しい彼女だからこそ、私はっ。
部屋から出て一旦現公爵と話がしたいと言うベルデーナに対して、ガイユスは突如冷酷な対応を見せる。
「ーーー不法侵入者を無傷で返す訳にはいかない。
この私ガイユス・ウグルガがお前を拘束する。」
「…………………無理だろうが、抵抗はするな。」
「なっ?」
「急にどうした、ガイユス坊。」
「ーーーー《黙れ》。」
「…………何だと、何を言う貴様っ!
私を、誰だ………と………っ」
その言葉を耳にした時。
不可思議な現象が起こる。
………1秒、いや2秒程か?記憶が飛んでいる。
ーーーー口が、いや、言葉が出せない。
まるで先のガイユスの一言が言霊の様にベルデーナの脳を駆け巡る。
それを見た途端に恐怖を感じさせるほどに満面の笑みを浮かべるガイユス。
外へ向かう為扉の取っ手を握っていた右手を愛おしそうに両手で握り、ベッドへと引っ張る。
気味の悪さから拒絶反応で振り払う。
体は動く、なら問題は無いッ。
ガイユスへ別れの言葉を掛けようとするが、やはりあわあわとして口がほぼ機能しない。
全身に高電圧の電気を纏い、右半身を前方に構えた姿勢から指先を伸ばし揃えた状態の発勁を打ち込む。
それに対し何をするかと思えば、再度言葉を口にした。
「…………………《私の顔を撫でろ》。」
「(誰がしてやるか、そんなーーーー)」
ーーーーー何故だ。
私は何を、しているんだ?
私は、何故ガイユス坊の左頬を撫でている。
思考が一瞬塗りつぶされる様な感覚に襲われたかと思えば、自我を取り戻した時点で既にそうなっていた。
彼は続け様に言葉を掛ける。
「《私に従え》。」
「……………っ。」
「これを言ったら、相手はもう終わりだ。
さぁ、もうskillは必要無いか。」
「ベルデーナ様………いや、私のベルデーナ。
ベッドに寝ろ。」
「あ………………っぅ……………っ!」
「あぁ、もう喋っていいぞ。」
「ーーーーこれは、お前のskill、なのか?」
「なんて、なんて非人道的なっ。」
「これはきっと、私が幼少の頃抱いた夢が要因。
【自分の理想を叶えたい】一心が、このskillを作り出した。」
「私はね、生涯でこのskillしか覚えられなかった。」
「でも、これ一つあれば十分過ぎる。
現に今も貴女をこうして、
自らの脳が発信する電気信号は、彼の言葉に乗せられた電気魔素に阻害、上書きされてしまう。
そうしてベッドに勝手に向かう肉体を止めようと自身の脳に電気魔素を流そうとしたが、
《魔素を使うな》
と言う一言で文字通り封印される。
そのまま寝床へ横になる彼女の体へ毛布を掛けると、ガイユスは上に来ていた茶色のYシャツを脱ぎ上半身を裸にする。
そのまま自らも布団へ潜り、彼女の体温で温まった毛布に震えながら涙を流す。
ずっと夢に見た、二人での就寝。
ベルデーナは未だ困惑しているが、それでも外聞を捨て去り彼女へ抱き付く。
柔らかく弾力のある胸と、触り心地の良い絹。
胸に顔を埋める彼へ目を細めて睨み付けるベルデーナだが、その顔に遠慮も無く頬擦りする。
嫌だとばかりに顔をそっぽへ向けるも、こんな時に限って命令はせずこちらが抵抗出来る余地を残しながら、強引に顔を密着させて来る。
最悪の気分だ。
そうしてそのまま何分、何十分と飽きもせずベルデーナへ冷めぬ興奮を解放し続けた。
それから暫く。
外に諦めた顔を向けガイユスに好きなだけ甘えさせてやるベルデーナの姿が、そこにはあった。
亡き母を重ねているのか、ずっと離れず頭と腰に手を回し抱き締めてくる。
しかしそれとは別に性的興奮もしているのだろう彼に対して、性的な恐怖心が湧いてくる。
半ば放心状態とはいえまだ逃げ出すつもりのベルデーナではあるが。
それを読んでいるかの如く耳元で囁く様に、
《私から一生離れるな》と、skillを使用される。
念入りに何度も何度も、十数回の重ね掛け。
(ーーーーーわ……ったし………………)
脳の思考回路が溶かされる様な感覚に襲われ、意識が混濁する。
そんな彼女の、呆然と口を開き目を虚ろにする表情に堪らなく興奮してしまい。
吸い付きながら口付けをする。
動物的な甘さの舌を吸い出し、唾液を流し込む。
彼女は生理的に吐き気を催し何度も跳ねるが、全体重を乗せられており身動ぎすら叶わなかった。
その内ガイユスも魔素を枯渇させた疲労感と極度の興奮から重い疲れを感じ、ベルデーナを抱きながら深い眠りに就く。
ベルデーナも脳を掻き回された影響で思考が彼への服従に支配されて行き、本能的に彼を胸に抱き寄せて眠ってしまう。
ガイユスのfirst skill《制言》。
その能力は、発声により揺れる空気へ電気魔力を乗せ対象の耳へ侵入。
自身の思いを乗せた【言葉】を相手に聞かせ脳に意図的な電気信号を流し込み操る力。
防ぐ手段は、同じ電気魔力使いが彼の能力を知っている上で即座に脳内へ電気魔素を流し相殺する以外に無い。
絶対的支配力を持つ、非殺傷系の極致。




