九十三話 退け
大分展開あります。
舞う、空へ。
永澤は両掌の中心、松薔薇は銃口から魔素を噴出させる事での滞空を可能としている。
永澤の場合通常の走りが秒間20m程なのに対して飛行中は30m程まで高速化する。
松薔薇は基本走行が秒間15mと遅めだが、飛行中のみ秒間20m程に到達する。
その二人による空中からの攻撃、及び回避はルシファーの鈍重な動きでは捉えるのが難しい。
魔王のダンジョンは速度。
黒人のフシューゲルは体格。
天使のルシファーは水準と個々で特化している。
しかしそれは三名同士での比較であり、根本的に相手を変えてみれば誰もが鈍足の範囲内に纏められる。
※松薔薇は上記の遅い部類に入っている事から本来非戦闘側に当るのだが、その低速を銃移動により克服している。
そうして二名の英雄に蠅の様な集りを見せられ、ルシファーは躊躇いもなく力を解放する。
ーーーーcollapse skill《吸魔生》。
その発動を境に、半径100mを強大な重力魔力による力場が支配する。
松薔薇は己の肉体をthird skill《完全分析》で確認し、無視出来ない速度で体力と魔力を削られているのを確認する。
永澤にもそれを告げ、一旦後方へ離脱する。
ルシファーを一人で抑えるべく。
両手に宿していた黒炎を消し飛ばし、次の技を行使する。
(……………久し振りに使うな、これ。)
右手に意識を集中させ。
赤炎、青炎、そして黒炎と色を変化させていき。
ーーー軈て彼の右手に、紫の火炎が纏われる。
永澤が熱使いとして歴代最高とされる要因。
「これ、second skill《紫炎》って言うんだ。」
「ふむ、お前は彩豊かな熱使いだな。」
「だが威力を上げようと、それを殺すまで。」
「そう、みんなそう言うんだ。
昔、【アッシュ】って元黒人の魔人が居てさ。」
「そいつは腕を落としても、仮に首を落としても死ななかったんだ。」
「其奴を、どう殺したと思う?」
「………………木っ端にする、俺ならな。」
「無理だね、絶対。
灰になっても復活しかねない化け物だから。」
「其奴を殺せるのは、この《紫炎》だけ。」
「扱いが難しくて、熱魔力をちゃんと理解してないと自分の意思を超えて暴走するんだ。」
「これはね、消えない炎なんだよ。」
ーーーー水を掛けても消せない炎が有ったら、怖いと思わない?
ルシファーは、そんな炎など存在しないと一蹴する。
そんな彼を前にしながら、地面の土に触れる。
本来なら燃えない土に、へばり付く様にしてその紫炎が延焼する。
そしてそれは徐々に周囲の大地へと炎上して行く。
ルシファーの足元までそれは迫り、彼は煩わしそうにその炎へ全力の振り下ろしを行う。
それにより直撃した地面を直径10m程抉る。
だが、その風圧や魔力を浴びても尚一向に勢いは消えず、飛ばされた周囲の大地へとその炎は燃え移って行く。
それを見て反射的に自身の右手に握る大剣を凝視する。
彼の大剣は既に柄の手前まで燃え上がり、その魔の手は彼の右手にあと一歩まで迫り来ていた。
今回の戦闘で初の危険を悟り手を離すと、その大剣から足元の地面へ炎が移る事は無かった。
理解の出来ない事象に困惑するも、永澤はそれに一言言及する。
その炎は、繋がって炎上はするけど間を置くと別の物体へは延焼しない。
だけど土から土へはどれだけ時間を空けようが火は移るし、逆に本を燃やしてもそれを地面に落として燃え上がる事はない。
そんな厄介な性質を持つ炎を自在に止める為、永澤は【凍結】と呼ばれる熱魔力の逆転操作を覚えるに至った。
これが無ければ地面に触れた炎が無限に広がり続けて焦土と化すからだ。
もしそれを敵へ掠らせでもすれば、時間で強制的に勝てる狂った性能を誇る。
ルシファーは地面に足を付けている事は【繋がっている】判定になると考え徐々に後方へと退がる。
それが松薔薇と永澤の狙いであった。
因みに、永澤はバルト王国側へと迫る紫炎に自ら手を突っ込み、【凍結】させる事で相殺し続けている。
それでも【大地を通じて紫炎と氷が触れ合って】いる為完全に全氷結させなければ消えない。
それにより分の悪さを感じると、ルシファーは一時的に背中を向け後退していった。
その背中が見えなくなるまで数分程待ち、それから【凍結】により全紫炎を凍らせる。
神懸かり的な芸当を前に松薔薇でさえ息を止めしまう。
硬直していると、永澤が極度の疲労によりその場で倒れ伏してしまう。
(《紫炎》はその非常識な力と引き換えに、自身の魔力を全部使い切ってしまう。
それがルシファーに露見せずに済んで良かった。)
松薔薇は以前から考えていた案を実行に移す為に暫し前から戦線を離脱していた。
それは、各国の召還者と代表者を出席させて意見を交わす場。
まだ後のつもりであったが、ここまでの脅威が現れるとそうも言ってられない。
永澤は偶々相性で撃退出来ただけで、他の英雄達では恐らく止められない。
少し前からハイデン王国に連絡を送り、現国王のゲルゲー・ハイデンに水晶で交渉していた。
そして反英雄のレインドと共に所定の場所へ向かう約束を取り付ける。
ーーーーじっとしてられない、早く他の国にも連絡を。
その日、松薔薇は現時点で連絡網のある国全てに現在起きようとしている危機を話し始める。
★
10月7日。
あの戦いから2日が経ち、この日正午時点。
松葉杖を左脇に添えて歩く酷い姿の松薔薇を目にした周囲の者が目を背ける。
既に左膝下は跡形も無く、その緩やかなスカンツズボンの長裾に通すべき脚は見当たらない。
松薔薇はそんな状況など意にも介さず、眼鏡を掛け直しつつ声を発する。
「今回集まって頂いた英雄及び反英雄の皆様には礼を言いたいと思います。
私の戯言を信じて頂き、感謝しかありません。」
「やぁやぁ大丈夫か、眼鏡の英雄さんよ。」
「これはどうもウォーレンさん。
何をする訳でもなくバルト王国で散歩していた時は驚きましたよ?」
「いやすまんすまん、あの涼木が育った国とはどんな場所かと気になってつい、な。
いやぁ良い国だ、貧困もほぼ無い上に少年少女をギルド冒険者に育て上げる【学院】に至っては世界でも上澄み。」
「私が現役だった頃はそんな公共施設は無かった。
いや、私の生まれた場所には無かったのかな。」
「レンゼル社会主義国、ですか。
ダイエン共和国程では無いにしろあまり良い国政ではありませんからね。
そんな国に産まれた唯一の英雄である貴方は、自国を良い環境にするべく生涯を冒険に捧げた。」
「彼だけではありません。
英雄は明るい功績を残し、反英雄は暗い歴史を残している。」
「だが本質的に悪であれば、そこまでの力を付ける事は無理なのです。」
「それだけの努力を行う事も、才能を持つ事も無いのですから。」
「悪は、結果ではなく内容で決まると私は思う。」
「嘗ての領土侵魔紀、正確には2070年から2100年の間。
その時期に綺麗に嵌まる様に産まれ、その30年の人生を魔物討伐に費やしたゼツ鎖国の英雄。」
「切咲さん、貴方に質問したい。」
「ん、なんですかー?」
「もし、1%の勝機もない敵が居たとして、だけど自分以外に戦える力を持った者が一人も居なかったとして。」
「貴方はどうしますか?自分の国に迫るその敵を目前に逃げますか?戦いますか?」
「そんなの戦うに決まってる。
何の為の力なのー!」
「あ!あと私は負けませぇーん。」
「………………そう。
その気持ちが無ければ、高位の者には歯が立たない。」
「良いですか皆さん。
ハッキリ言います、ここにいる全員を合わせてもルシファーには勝てない。」
その言葉を聞き、全員が各々行なっていた妄想や手遊びを止めて松薔薇に刺す様な視線を向ける。
その中の一人であるレイブンが、同伴として来ていたダイエン代表のアルバを置いて松薔薇の座る席の前に立ち止まる。
ここはバルト王国三階、無の空間。
ただ仄暗い石の煉瓦に包まれた静かな広間。
そこに数十の席を縦向きの円形に設け簡素な卓を用意していた。
それに腰掛け静聴していた英雄達だが、反英雄のレイブンは今までに凛堂やプライモ、裏天使マリウェルと対峙した経験則から松薔薇の発言に意地を張る。
だがその戦闘すら軽いお遊びでしかなく、プライモが本気を出してもルシファー相手にどう立ち回るのか想像出来ない程に実力が拮抗した怪物である事を伝える。
それを聞きレイブンはその相手が余程の実力者であると理解して一時的に席へ戻る。
因みにこの座席、英雄達が産まれた年代順に時計回りとなっている。
レイブンは2世紀出身で1時に座る最古参側のため、自分以外の者は全員が後世に産まれている。
ある種畏敬を向けられている建前、自分はそこまで強くない事を言い出せずにいた。
そんな時、デレル王国から一人で赴いて来たアレン・デレルが松薔薇に質問する。
じゃあどうにも出来ないの?素朴な疑問だ。
それに対して松薔薇は断言する。
倒せる、と。
その根拠を問う。
「倒さなくてはならないから、です。」
「ーーーーーあはは、何それっ!」
「なんか、思ってるより面白いんだねっ。」
「いえ、ふざけているのではありません。
倒せなければ、今より約1ヶ月以内に英雄達が全員殺されると考えて下さい。」
「ーーーーそいつ、そんなに強い………?」
「えぇ、エルメーさん。
貴女は私と同じ非戦闘系の人間でしょう、能力を見れば想像が付く。」
「見るって………………見せた?」
「あぁ、すみません。
skillの一つに他人の情報を見抜く物が有るんですが、強い人を見掛けると癖で掛けてしまって。」
「公言はしませんから、安心してください。」
「ーーーー次やったら、怒るから。」
「いえ、一度見れば十分です。
あぁ、ここにいる皆さんの能力はこの場で再確認させて頂いているので何もエルメーさんだけでは無いですよ。
安心して下さい。」
「気持ち悪いわ馬鹿者がーーっ!!」
「やれやれ、怖い能力だねぇ全く。」
「俺は………確か前戦った時見られてたな。」
「ふん、庶民がこの私を覗き見るなど不敬だぞ。」
「えぇ、えぇ、すみません。
そして、それを込みの上で彼には勝てない。」
陣鉄が15世紀に当る5時席から立ち上がり、20世紀出身の6時席に座る涼木に通り際思いっきり抱き付く不意打ちをかましながらその直ぐ横に座る松薔薇に喋り掛ける。
涼木は口を開けて固まっていたが、事情を知らない多くの者がそれに目を見開く。
まさか?そんな視線が送られる。
涼木は卓の上に両腕を寝かせ顔を埋める。
現実逃避する仕草が可愛らしくて、松薔薇と喋りながらも時折犬を見る様な視線を送ってくる。
最悪だ、帰りたい。
横で見てた永澤は知らん顔で真上を見つめており、恨めしそうな目を向けてしまう。
「儂は訊くぞ、お前に。」
「ーーーーーーその脚、やられたのか?」
「………………2日前に、彼の攻撃が掠って。」
「そうか、なら其奴は儂の、儂らの敵じゃ。」
「儂はな、今のこの世を気に入っておる。
他の者達もそうじゃろ〜?」
各々がそれに頷き、応える。
松薔薇の姿を最初見た時、英雄として情けない姿を晒してまで会おうとした彼の気迫に応えたいと思った。
でなければ、それだけの信用が無ければここまで猛者は集まらない。
現に松薔薇は、自分が話している際もずっと左脚を気に掛ける素振りを見せている。
どれだけ悔しいだろうか、心境を悟ると同情が湧く。
そんな中、ベルデーナが物申す。
あの原初と魔王が戦った日と比較してどうなのか、良い例えだと周りが興味深そうに松薔薇へ目を向ける。
答えは、圧倒的にルシファーが上。
それを聞きベルデーナはあの時自分の攻撃を全て受け切った上で更に凶悪な姿を見せ反撃して来たダンジョンとどちらが強いのか、聞き直す。
ダンジョンの異様な攻撃力、耐久力、回復力は英雄達から見ても攻略はほぼ不可能な次元である。
それを耳にした松薔薇は、尚もルシファーが上であると発言する。
身を以て魔王の強さを知っているベルデーナやレインド達が抗議を入れる。
ーーーーーその言葉を皮切りに皆が松薔薇を疑問視する様になる。
しかし、待ってたと言わんばかりに自身のコートからある水晶を持ち出す。
昨日バルト王国ギルドにて各国に連絡を入れていた松薔薇の元へ突然現れたサキエルが渡して来た、ある映像を記録してある水晶。
松薔薇本人もまだ見ていなかった、きっと冷静に話せなくなる可能性があったからだ。
それを円形の卓の中央に設置された小さい机に置き、壁に掛けられた紙へと放映する。
それは、デルヴァ森林で突如ダンジョンがルシファーと対面した所から流れ始めた。
ーーーーー。
ーーー。
「な!?あの男が両手でも負ける腕力だと!?」
「あの日見せた翠に光る魔力の光線。
ーーーーー何だ、消し飛ばされたのか?」
「こ、これはダンジョンの《狂追》ですか!」
「これなら、或いは…………」
「ーーーーー今の右へ薙いだ一撃、確かに効いた様じゃぞ!
…………それでもこの男は怯まんのか!?」
「仮面。
ダンジョンの奴の最強の第3形態じゃねえか。」
「うん。
ーーーーーあの天使の重力波を、今度は相殺。」
「やっぱり、アイツ強いね。」
「当たり前だ。
ダンジョンだぞ?俺達をいつも先導してた。」
そんな、熾烈で苛烈な上映会。
どう考えても倒せる未来の見えなかった鎧の男を相手取り互角に立ち回るその魔王の姿は、英雄と反英雄双方の心にいつか夢見た【最強】の幻想や妄想を恥ずかしくも思い出させる。
その彼を敵に防戦に追い込まれ始めたルシファーであったが、最後に見せた左の突きは映像越しでもこの場の全員に鳥肌を立たせる程の殺意と魔力が込められていた。
それを予想外に直撃したダンジョンは、終に動きを止めてしまう。
皆が立て!殺せ!と殺気立って声を挙げるが、最終的に心臓を刺し潰されてその幕を閉じる。
…………………駄目だ、勝てない。
倒す為に一致団結していた熱意は、最後の幕引きを見て急激に士気を落とす。
それでも、引き攣った顔をしながらネイシャが口を開く。
「わ、私、ね?前に彼と戦った事、あるの。」
「彼は、私の本気を全部受け止めて、その上で楽しそうに笑ってた。」
「私ね、許せない。
いや、赦せないんだよっ!」
「彼はね!強いだけじゃなく優しかったんだ。
強さを悪として振るわなかった!」
「でも、あの黒い奴は違う。」
「あれは、戦闘に身を置く事を生き甲斐にしてる様に感じた。
きっと、根っからの悪。」
「天使なんかじゃなく堕天使って言われるよ。」
「私も同感だねぇ。
この私よりも大きい彼を更に上回る上背の怪物。」
「興味あるな、本気の対一で闘いたいね。」
「ちょっとウォーレンさん!?
あんなの勝てる訳無いでしょ。」
「ん?やってみなければ分からんよ。
そうだね、3%くらいで勝てるかも知れんよ?」
「全然無理じゃん!?」
「良いですか、まだこの場には10人以上も不参加の英雄や反英雄がいます。」
「東に1人。」
「西に2人。」
「南に2人。」
「北に2人。」
「北東は1人。」
「北西は揃ってますね。」
「南東は3人共不明。」
「南西も同じく3者不明。」
「ーーーーそして、私達のバルト王国出身でいて歴史上最強の【大英雄】巳浦。」
「彼も、不明です。
というか探したら奥様に怒られるので戦力としては期待しない方がいいでしょう。」
「おい貴様松薔薇と言ったな、その巴、じゃなくてエイレー、じゃなく!」
「巳浦は旅か旅行にでも行っているのか!?」
「えぇ。
よりによって唯一友好的な黒人であるヴェルウェラと共に、夫婦旅行です。」
「クソ!羨ましいぞその女………ヴェルウェラ。」
「私は知っているぞ、その女を。
生前に会った事がある、黒人の連中と。」
「成る程、彼女が巳浦と………」
そうして二人の超強力な戦闘員を失い、松薔薇は現時点でこの場に集まっている英雄と反英雄に指示を出す。
自身達の方角に居る状況不明の英雄や反英雄達と連絡網を持ち、松薔薇率いるバルト王国と国交連携させる。
中々難しい任務だ、だがやらねばどの道終わる。
北西組はこの8組でたった1組だけの終了組であり余裕の顔で席に座る。
松薔薇がそんな三名へ手薄な南東と南西の探索組に割り当てる。
苦情が(主に切咲から)殺到するが、他のアレンとエルメーは解ってた顔で了承する。
えぇ!?と落胆する切咲が可愛らしく、皆が軽く鼻で笑う。
★
それを最後にこの日の会合は終わる。
正午半を迎え、互いに用のある者達が喋り合う。
レイブンはネイシャに近付き先程の発破は見事だった、いつもより綺麗だと褒める。
アルバはそれを見て少し苛っとするが、折角バルト王国に来たのでバルト学院に顔を見せたいと思っていた。
ーーーーーブレイドが理由だがな。
涼木は自分が生まれ育った地という事もあり普段通りであったが、陣鉄からせがまれ仕方無く観光へ連れて行く事にした。
松薔薇は然りげ無く子供の事を訊くが、涼木は静かに無視して外へ出ていった。
(連れないですね。)
松薔薇はそんな中、レイブンと話し込むネイシャをじーっと見つめる一人の少年に声を掛ける。
今回ただ一人話す事の無かったデルゼロだ。
最近までずっとイルディア公国でネイシャやエルメルと共に過ごしていた為嫉妬心が湧いていたが、松薔薇に話を振られ現実に戻る。
「な、何だよ………僕に用あるの。」
「いえ、ただ彼と相性が良さそうなので二人で外出でもどうかな、と。」
「…………松薔薇、僕を何だと思ってんだ。」
「…………永澤だよね、バルトの英雄。」
「まぁ、ね。
君はフォンツォ王国の王様だっけ……?」
「まぁ、うん。」
「ーーーーーーはぁ、二人とも暗いですね。」
「この王城には各時代各国から取り揃えられた様々な本や文献を納めた書斎が有ります。」
「バルト王国南街アルァにも図書館がある。
これは私宛に発行して貰っている無料券です、2枚あげますから行ってみてはどうです?」
「本、あるの?」
「アルァ、あの図書館そんな凄かったかな。」
「えぇ、今となっては世界最大の図書館です。
それ目的に他国から旅行してくる人も居る位には需要があります。」
永澤にはデルゼロを任せておく。
今の内に英雄間での交流を持っておいた方が後々の連携で活きる。
そう思っていると、松薔薇のコート越しに背中を指で突いてくる者がいた。
意外にもその人物は切咲である。
何事かと振り返ると、切咲は輝いた目をして松薔薇へ質問をする。
「最初から気になってたけど、やっぱり領土侵魔紀に人界を率いてた【賢者】様だぁ!」
「私、2090年代にゼツ鎖国のギルドから派遣されて他国に行った時あったんですけど、何度かバルト王国のギルドでお会いしたの覚えてます!?」
「えーーーーーあぁ、有りましたね。
何せ当時の私は90代でそれ相応に老人でしたから言われるまで知り合いだと解りませんでした。」
「全っ然っ!気にしてませんっ!
賢者様、じゃなくて松薔薇様はあれから今までずっと生きてるんでしたよね、凄いですっ!」
「いやいや、毎日家にも帰らず戦場で暮らしていた貴女は当時の魔物討伐に於いて私と館の組に次いで2番目の戦績を残してましたね、実に素晴らしい功績です。」
「ーーーだから切咲さん。
今生は自由に生きて下さい。」
「っっ、はい"っ!」
そう言葉を掛けると、初めて報われたと実感が湧き泣き崩れてしまう切咲。
彼女に気紛れで【あれ】を渡してみる。
っす。
そんな言葉が両膝から聞こえて来る。
涙を拭いて見てみると、あのダンジョンとか言う魔王にそっくりな目付きのスライムが居た。
ゲジ眉の【ダン】の方を渡された切咲は、生前一度も戦場で出会った事のない友好的な魔物を目にし驚いて言葉を失う。
っす!と甲高い声で喋り掛けてくるスライムを何となく可愛く思い、胸元に抱き締める。
松薔薇は彼女に【ダン】を譲渡すると伝える。
※面倒を見る暇がないから。
切咲は日頃座敷でゆっくりしているのを思い出し問題ないと返し、ダンを頭に乗せて色々と言葉を教え始めていた。
残る【ジョン】をどうするか悩んでいると、まさかの人物がジョンを横から取る。
ベルデーナだ。
彼女にどうするつもりか聞く。
「なに、特殊な魔物は調教次第で仲間になる。
ジョンとか言ったな、私に預けろ。」
「まぁ、構いませんが。」
「そうか、助かる。」
そう言い卓上に乗せられるジョンは体を縦に伸ばしながら景気良く【おっす!】と飛ばす。
それを聞いた途端に頬を軽く叩く。
松薔薇と切咲は唖然とするが、突然厳しい母親の様に言葉遣いを矯正し始める。
※気の毒なジョンを見てダンは震えていた。
「おっす……………?」
「何だそのふざけた喋り方はぁ!?」
ーーーーおっす!?
「おい!
そのおっすとか言う気色の悪い喋り方は即刻止めろ!真面な言葉を口にしろ!」
ーーーーお、おぉ、おっ。
ーーーーおっす。
両頬を叩かれる。
返事としては間違っていないが、確かにダンジョンの語尾をただ一つの単語として口にするスライムは苛々する。
ネイシャは遠目にそのベルデーナの様子を見つめながら厳しい母親を思い出していた。
切咲も、手厳しい教育者だった母を重ねて本能的に萎縮してしまう。
「解ったか?ん?」
「お、おぉ、おー、」
「あ?何だ、口にしてみろ。」
「お!?おー、おぉおおおおおぉ。」
「ーーーーーー押忍!」
「む。
おっすではなく、押忍。」
「お前、人語を理解しているのだな?」
「押忍、魔王様のお陰で言葉を知りました。
ダンジョン様には感謝してまっす。」
「そうか。
それは良いが、語尾を変えろ。」
「え、なんすか?」
そう口にした瞬間優しく両手を頬に当てつつ微弱な電気を流す。
感電して【おぉぉぉぉぉっっっ】と震えるジョンに何度も言葉遣いを教え込む。
松薔薇は取り敢えず問題無しと判断してこの場を後にした。




