九十一話 昇天しました
結構設定が出てきます。
10月、4日。
先日のダンジョン殺害は魔王達の内に収まらず。
★
既に天界に昇天してきたダンジョンを見た天使達がとても驚いた顔をする。
常にハット帽を被る筋肉質のオカマ。
ミカエルは傷心で落ち込むダンジョンに話を聞く。
そして語られる、ルシファーとの死闘。
ダンジョンが完全な状態になっても尚敗北を喫する実力、それにミカエルのみでなく横に居るラファエルも顔を渋くする。
ーーーー元々渋い顔付きっすけど。
「ルシフェル、いやルシファーの力はどうだ?
お前が再び剣を交えたとして、勝てるのか。」
「んー…………………今は多分、無理っす。」
「自我を取り戻す時って記憶も戻るんすけど、普段の自分じゃ不可能な動きや発揮出来ない強さを本気で奮っても勝てなかった。」
「通常時なんて正直2/8で自分が不利って所で。」
「そうか、天界から見ていたが正に鬼気迫る光景。
最悪の堕天使と最強の魔王の戦い、久しく見る事のなかった攻防であった。」
「私もねぇ、本当乗り込んじゃいたい位だった。
でもそんな我儘サキエルが怒るし、貴方にも失礼だと思ったから我慢したわ。」
「ふ、そうっすか。
でも、仮にミカエルが居ても勝てなかったと思います。」
「ルシファーの使う《滅砲》が停止しても、僕の使う《極砲》が同時に停止するなら結局は剣の振い合いになりますから。」
「そもそもの力と体格でも負けてますし、本当どうしたら良いんすかねぇ、ほんと……………」
「簡単な事だ。」
「え?サキエルっすか。
珍しく表に顔出しましたね、助言っすか?」
「さあな、まぁ聞け。」
「彼奴の身に付けていた防具は、彼奴自身が自分に《贈り物》を行使して作成した装備だ。
その効果は、
【装備に重力魔素を流す事で限界まで重く堅くする事】だ。」
「一見単純に感じるかも知れないが、貴様の強烈な斬撃を序盤から中盤までほぼ無効化していた原因。
終盤で刃が通るようになったのはルシファー本人の魔力量の減少が理由だろう。」
「へぇ、そんな凄い装備を彼が使えばそりゃあ強いっすよね。」
「だからダンジョン、簡単な事だ。」
「俺からは既に【自制の時計】を贈っている、もう二度は創れない。
だが他の天使からなら渡すことが出来る。」
「そうだな………………ルシエル、出て来い。」
そう言われて奥の白い宮殿から扉を開いて出てくる男。
髪の毛が上に癖付いており調子の軽い青年といった印象を受けるが、その実力はかなり。
そんな彼が欠伸をしながらダンジョンに必要な力を訊く。
そしてダンジョンは正当な力を求める事にした。
「自分は、魔力と引き換えに筋力を上げたい。」
「元々《極砲》や《強打》は対一の戦闘中で使い難いですしいっそ身体能力に魔力を回したいっす。」
「まぁ、《投擲》は使い勝手いいすけどね。」
「ふーん、良いよ〜♪
だけどさぁ、個人に二つも《贈り物》を与えるのって初だよね?サキエルさーん。」
「良いの?前例壊しちゃうけど。」
「何の問題もない。
それにルシファーを止めたくても俺の様な速度型やミカエル、ラファエルの様な妨害型では不可能だ。」
「無論、相手の力や姿を行使可能なルシエル、お前だったとしてもな。」
「お、言い切るねぇ。
根拠はー?」
「あくまで姿を似せるだけでしかない以上お前の筋力に限られる上、技の威力もお前の魔力出力の範囲内に制限される。」
「あの《滅砲》に至っては、巳浦ほどの魔力量がなければ再現する為の出力すら足りん。」
「魔力出力は魔力総量で引き上げられるからな。」
「うーん大正解だなぁ。
まぁ僕の事はいいから、作っちゃうよぉ〜!」
「よろしくっす。」
そして、神々しさを感じる眩い光に包まれる。
それから瞬き数回程の時間が経ち。
その《贈り物》は姿を晒す。
……………また、時計である。
しかし以前の時計は白い鉄を精密に加工した十段ギア付きの物であったのに対し。
黒い木を基調として一本の長針だけが12時の方向に止まり続ける怪しい外観であった。
名を、
「【変換の時計】って所だねぇ。
それさ、つまみ弄ってみてよ。」
「え、つまみっすか?
えぇーっと、これかな。」
「ーーーーーーはい、最大になりました。」
「で、魔力は出せそーかい?
欠片も出ないと思うよ、今それ起動させたでしょ。」
「今君、半端じゃないよ。」
「どうなんすかね、全然分かんないっす。」
「まぁ、【迷宮大剣】は自身の内部から体伝いに出しますから問題は無いっすけど。」
「よぉし来い、【大剣】。」
「どう?どんな感触なのかしら?」
「ミカエルは気持ち悪いから僕に近付かないでー。」
「失礼ね、もう。」
ーーーーーーあれ。
殆ど何も感じない。
前までは持つ腕全体に結構重さを感じたけど、何だか中身が空気みたいに軽い。
ーーーーーよし。
不意に景気良く走り出す。
そこから左足を踏み込み右腕に握る大剣を正面に振り下ろす様に天界の遥か天空に投げ飛ばす。
その際に生じた震動は、ダンジョンを中心に半径30m内に暴風を巻き起こす。
寡黙なラファエルや調子者のルシエル。
飄々としたミカエルに、冷静なサキエル。
その四名が瞬きの間に死を過らせる威圧感。
その投げられた大剣本体も、ダンジョンの力に耐え切れず剣身に罅が入っていた。
だが何よりも驚愕しているのは本人であった。
口が開き、空の彼方を呆然と見つめる。
以前までなら腕に痛みも来たし、飛距離も50mが威力を損なわない限度だった。
でも今確実に100m以上飛ばせた、それに身体の肩とか腕の痛みも無い。
それに投擲も大体秒速44mは出てる感じだった。
(時速160kmに該当する速度。)
前ならその半分くらい、大体秒速20m強かな。
文字通り魔力全てを身体能力に回してるんだ。
それはつまり体外への放出を制限する代償に体内で魔力を消費している状態。
「これって、身体の回復速度も倍ぐらいになったりするのかな。」
「まぁそれはその時に確かめるっすかね。」
「でもこれ、時計の秒針が毎秒減ってる。
何なんすかねぇ。」
「あぁそれねぇ、今残り時間20秒でしょー?
そうしたら魔力全部枯れるから。」
「まぁルシファーの《吸魔生》が体力と魔力の総量を1minute/10%削るとして、」
「君の《変換の時計》は、
魔力総量を6second/10%で削ってる状態。」
「だから、1分使えば魔力切れになって終了さ♪」
「6秒で1割っすか!?
僕の回復力でも全然供給仕切れないっすって!!」
「そりゃあそれだけの事やっちゃってるんだよ。」
「ダンジョン。
今のお前は身体能力だけで言えば400lvに該当している。」
「人間換算で言えば600lvだ。
まぁその無理は間違いなくお前を行動不能にする負荷を与えるだろうが。」
「え、今は何とも無いっすよ。
ほらほら、こんな元気に走れーーー」
秒針が1から0に切り替わる。
その途端、ダンジョンは全身を強烈な筋肉痛に覆われる。
先程疑問視していた肉体の回復。
それは自然魔力を負傷への治癒に回す行為であり、筋肉の力みに魔力を送る為全魔力を運用する《変換の時計》の使用中肉体への負傷、損傷は一切回復してくれない。
更に全ての魔力を失った状態で全身を筋断裂に襲われる為、魔素での治癒は不可能でその痛みに長時間拘束される。
使用中は《変換の時計》の鎮痛作用で無視出来るがその後の安否は考慮されていないのだ。
「お"ぉ"ッ!!?」
「痛"っだぁぁぁぁぁァ"ァァッ!!」
「あら、一気に圧が消えたわね。」
「まぁそうなるだろうな。」
「言った通りだねぇ〜♫」
「ダンジョン、それはあまり常用するな。」
「通常時と変換時で使い分けが必要だ。
だが最大1分間だけならルシファーの力を超える事が出来る。」
「同LV帯では力及ばないだろうが、彼奴の300LVとお前の400LVであればお前が少し勝る。」
「どうっすがねぇっッッッ。」
「そこに体力を消費する《狂追》を合わせればどうなる事か。」
「それに死んでも仮面で復活する。
限定的な条件下でのみ、お前の身体能力は600lv相当まで上がるだろう。」
「そん"なっ都合よく行きますかね"ぇ…………」
「運だな。
まぁ1ヶ月は戻れん、天界で修行でもしていろ。」
「魔王が修行ーーーーぶふっ面白いわねぇ!」
「俺達高位者が鍛錬する理由なぞ普通無いしな。」
「アハ!まぁのんびりしてってよ〜♪」
「ーーーーzzzzz………………zzz…………」
会話の中意識を飛ばす。
あまりの激痛に気を失ったのだ。
4人の天使は彼を放置して各々の宮殿に帰る。
何はともあれ出来るだけ協力はした。
後はダンジョンの頑張り次第だ。
サキエルはそう考えながらも、危険極まりない力を授けた事への危機感を覚えていた。
まぁ今更無しには出来ないので仮に問題が起きたらその時対処しよう。
サキエルはガイダル達魔王組へ状況を伝えるべく【門】を開き地上へと向かう。
★
「そうか、なら儂等が心配するべきは相手だ。」
「某も同感だ。
彼を強くした事を後悔するぞ?サキエル。」
「ふ、どうだろうな。
どの道俺は負けん、【本気】ならな。」
「………だが、我の見立てでは【勝つ】のも難しいと考える。」
「奴の巨大な大剣は避けるのが難しい、リーチの外へ離れるのが安全だからな。」
「もし受けてしまったら我や他の魔王達でも後方へ数m後退させられる腕力だ。」
「受けなどしない、先に攻撃して離れるだけだ。」
「ーーーーー久方に戦ってみたくはなったが。」
ーーーーへぇ、そうかい。
サキエルの野郎が珍しく血の気あるなぁ。
凛堂が3人の魔王の元へ到着する。
ハイデン王国から飛び出てバルト王国より北西100km地点にある中立として有名なエングゥ民主国へ移動してきた。
時間にして単純計算67分で200kmを移動した。
実際には多少ペースも落ちるので70分台だが。
ヴァンデル遺跡に訪れる際に見せた秒速50m跳躍の連続による最速移動である。
流石に息も乱れて疲れはあるが、まだまだ元気一杯である。
そんな凛堂を見て久し振りの再会となり喜ぶ四人の魔王。
なれどダンジョンが居ないのは不完全であり、5人で並ぶ日はまだ少し先である事を実感する。
「まぁ事情は説明した。
復活場所は海より東へ5km、奴の迷宮内部50層目にある王座だろう。」
「そこを、奴は間違いなく狙う。」
「「「「!」」」」
「没日の10月3日から1ヶ月後、11月3日。
正午丁度にあの魔王は復活する。」
「その時は俺達天使組も見に行く、ルシファーには手を焼いているのでな。」
「天使の身でありながら地上で生活し続ける奴は、その実力も合わさり連れ戻すのも至難だ。」
「ーーーー21世紀、黒人で後一歩まで追い詰めた猛者が居た。
フシューゲル、奴がルシファーを倒せていたらここまで地上に脅威を晒さずに済んだんだが。」
「この話はどうでもいいな。」
「いやいや気になるぜ、おい!?」
「某、興味を持ってしまったのだが?」
「我としても、黒人の巨漢男は注目している。」
「ダンジョンやルシファーを超える背丈の怪物。」
「儂は現場を見てないが、ダンジョンから聞いた話がある。
2020年にフシューゲルが黒人から魔物に変質した際、仲間である黒人のテンとシックスが地獄界の入り口で迎撃したが敗退。
若年の巳浦とダンジョンがバルト巨岩地帯にて二人掛かりで交戦、返り討ちにされたと聞く。」
「その後紆余曲折あった。
だが最期は松薔薇や涼木、永澤にあの特殊な魔物の館も揃い。」
「四人の英雄、一人の魔王、一体の魔物が協力してやっとたった一人の魔人フシューゲルを殺害する事に成功したらしい。」
「天使達高位に近いのが魔王なら、中位の存在である魔物に近いのは魔族。」
「魔王は死すと仮面を被り魔物と化すが、魔族は死すと制限無く永遠に魔物となってしまう。
そしてその強さは本来の黒人としての強さを遥かに上回る代物だ。」
「成る程、某は今大変勉強になった。
元々ルシファーに善戦する腕前を持つフシューゲルが魔物に堕ちれば、並の猛者では相手にならない訳だね。」
「我としては、一度見てみたいと思ってしまう。
良くない考えだと分かっているが。」
「同感だぜ、俺も見てみてえなぁそのフシューゲルとかいう奴の《魔人化》。」
「止めろ。
黒人達を無闇に刺激するでない。」
「ーーーーでは、俺は天界に帰るぞ。
それとお前達、エングゥ民主国での予定はどうしたんだ。」
「あ、そうだった。
某達はここに居る英雄?反英雄?の人間に用があるのだったな。」
「……………エルメー・エングゥだ。
毒魔力の達人である女子、我は彼女が生前の頃に師匠として日々を過ごしていた。」
「そうなのか、であれば儂等は不要だな。
お前が話をしに行く間、ライメスや凛堂達と国内を見てくる。」
「お!それは本当か!
であれば某はこの貿易国で有名な輸出品である乾燥果物を食べて行きたい!」
「俺ぁんなもんどうでもいいから肉が食いてぇ。」
「………我の分も何か買っておけ。
では参る。」
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「うっわぁ楽しそうーー!
僕もあそこに混ざりたいっすぅぅぅ!!」
「駄目よダンジョンちゃん、後30日間出られないって言ってるでしょう?」
「あー!ミカエル今イカサマした?」
「してないわよ!Kと6じゃ16で弱いから6と山札のJをすり替えただけじゃないっ!!」
「完全にイカサマだろう、お前それは。」
「あ、僕QとAでブラックジャックっす!」
「なぁにぃ〜、ダンジョンやるなぁー!」
「クソぉ!私は20よ!
さぁマスターのラファエルちゃん!アンタの手持ちを見せなさい!」
「ーーーー3と、7だ。」
「引くぞーーーーー4だ。」
「次も引くぞ………………7だ。」
「「「クッソォォォォォォォォォォォォ!!!!」」」
「何を勝手に盛り上がってる、お前達。」
「俺も混ぜろ。」




