九十話 死滅
多くは語りません。
「一撃目の突き刺しで俺を半歩引かせ。」
「二撃目の両足蹴りにより体勢を崩し。」
「ーーー三撃目をあの投擲攻撃で締め、俺を地面に仰向けにさせるとはな。」
「…………………」
「そうか、言葉を失うのか。
それで良い、その方が良い。」
「その方が、俺としても手加減せずに済む。」
ルシファーはまだ全開ですらない。
先程までは200lv、そしてここからは300lv。
これまでの戦力差は更に悪化する事になる。
しかし無痛から来る運動能力と不自然な関節の動きから繰り出されるダンジョンの攻撃はそれでも尚処理の難しい代物であった。
ルシファーは大剣を正面に構える。
真っ向から突っ込んでくるダンジョンの両手による大剣刺突を真正面から余裕で受け止めてしまう。
だがそこから両手伝いに魔力を込めたかと思うと、ルシファーの大剣に自らの剣先を刺したまま《投擲》を強引に行う。
それを一切相手との隙間がない零距離で撃ち放ったせいでダンジョン自身の両手首に鈍い亀裂音が走る。
しかし関係無しとばかりに後方へ4mほど後退したルシファーに即飛び掛かる。
0.何秒で作り直した大剣を両手で握り、右後ろに向けた剣先を真上へと切り上げる。
それを右腕で握り抑えてきたが、またも大剣を再生成し隙だらけの右脇腹に両腕で持った大剣を右薙ぎする。
それは見事に直撃し鎧へ4cmほど食い込んだ。
ルシファーに初めて負傷を与えたのだ。
その反動で両腕の前腕部に衝撃が真面に来てしまい亀裂が入るが、問答無用で動き続ける。
今度は振り抜いた勢いで右方向に移動した両手に大剣を生成し左側へ薙ぎ払う。
ルシファーも防御無しに食らうと少し危険である事を理解し左腕を畳み完全な守りに入る。
大剣は完全に防がれてしまった。
その別人とすら思える戦闘能力の向上に、兜の中では満面の笑みが止まらなかった。
そんな堕天使は、ダンジョンという魔王にまだ上がある事を知っている。
それが見たくて我慢も限界に来ていた。
一瞬後方に引いてから更に飛び込んで低空での縦回転斬りを打ち出してくるダンジョンに対し、自らもまた大剣を両の手で握る。
そして目前に迫る迷宮大剣に返す様に正面に構えた大剣を全力で打ち込む。
勢いを乗せたダンジョンの回転斬りと静止したルシファーが放つ正面突きは全くの五分であった。
ダンジョンは裏へ数m飛ばされ、ルシファーも大剣を握った両腕ごと真上に弾き返された。
覆せない魔力と筋力の差を埋めるだけのskill。
《狂追》を振るうダンジョンの強さは素の状態の倍以上はあるだろう。
しかし魔王にはまだ奥の手がある。
瀕死で被るという【魔素で作られた仮面】。
その状態は更に現在の力を1.5倍に上げるという。
今ですら見事な手応えを感じさせるダンジョンが更に仮面を被った時、どれだけの力を持つのか。
気になって仕方がない。
「ーーーーcollapse skill《吸魔生》。」
「今から1分経つごとに互いの魔力と体力が1割削れていく。」
「肉体の持つ魔素の重量を極限まで軽く、肉体に含まれる栄養素を極限まで軽くする。」
「そうして凄まじい勢いで終わりへの宣告を告げるのが俺の能力。」
「代償に自身も巻き込むのが難点だと思うか?」
「違うのだ、身を削り合える程の相手との戦いに明確な終わりを設ける為の仕組みなのだ。」
「でなければ何日でも続けてしまえるかも知れぬからな。」
「…………………」
「ふん、やはり無言か。」
「だがそれで良い、それが良い。
この skillの影響下では先に多く体力と魔力を使った者が不利になる。」
「無駄な緊張や張り詰めは体力を使うだけだ。」
「やはりダンジョン、お前は俺に見合う敵だ。」
ルシファーを中心に半径100mを包む様に空間の歪みが発生する。
そして始まる、最強の魔王と最悪の天使の闘い。
その剣戟は5分も延々と繰り返された。
しかし。
終わりは必ず訪れる。
「っ………………どうやら、打ち止めになった様子。」
「………………っ…………ッ…………」
「いや、お前はよく耐えた。
この俺の限界まであと4割ほどだったからな。」
「さて、それでは動けぬお前の心臓にこの大剣を失礼する。」
刺し込まれた大剣の隙間から大量の血飛沫。
しかし最早再生する体力すら残っておらず、軽く跳ねる程度の反応のみを見せる。
血で汚れた大剣を引き抜く。
そこからは歯止めの効かなくなった血流が体内から体外へ噴き出す光景が映されていた。
その状況になってもまだ出る気配のない仮面にルシファーが怪訝な顔をするも、20秒、30秒が経ち動きも無くなってしまう。
終わり、か。
ルシファーは久しく出会う好敵手との戦闘に心躍っていた。
だが終わりは来る、それが《吸魔生》の力。
致し方無し、そう思い背中を向ける。
上位者は死んでも生き返る、またいつか会おう。
ーーーー途端だ。
背後に感じた気配に思わず振り返る。
………………何故、まだ動ける。
どうしてお前の顔が見えーーーー。
甚大な被害を受けた肉体から抜け掛けた命が顔面に宿る。
その本質を魔王から魔物に落とし、擬似的な転生と引き換えに肉体を全回復させる。
そして目標である相手に二度目の死を贈られない限り止まる事なく破壊を続ける、それが仮面。
仮に死んでも死ななくても今度は魔王に転生し元に戻る、馬鹿げた特性だ。
しかし仮に二度目の死を迎えれば再度の復活に莫大な時間を要する、実に1ヶ月。
その間魂だけの状態になる魔王は高い自尊心を傷付けられ深い後悔に埋もれる。
生と死を繰り返すとはいえそこまでされたらもう因縁の相手を倒すまで戦いを繰り返すしかなくなる。
ルシファーはある種それを狙っている節がある。
そうすれば日頃から強者である魔王と、しかも最強の魔王と飽くなき戦いを何度も行える。
なんと楽しい日々か、期待に笑みが溢れる。
その為にもこの場で絶対に殺しておきたい。
そうしてダンジョンの思考を復讐で埋める。
嫌でも俺を探すだろう、その度叩き潰す。
此奴との戦闘を定期的に行えればつまらぬ日々も面白くなるという物。
その度強くなるだろうダンジョンの事を考えると更に血が沸き立つ。
「さぁ、掛かってこい。」
「uooooooohhhhhッッッ!!」
「《狂追》と【仮面】の二重、流石の圧力だっ!」
「ふんっ《滅砲》ッ!」
「gigigigieeeeeehhhhhaaaahhhhッッ‼︎」
「ーーーー翠色の光線かっ!」
「ooooooooohhhhhhh!!gaaaaaahh!」
「…………………相殺、か?」
魔王は迷宮武器を使う事で威力が5割増になる。
しかしそれは天使や黒人なども同じ話。
しかし【仮面】という更なる5割増を持つ魔王は、天使の300lvに対し200lv×1.5で300lvになる。
ーーーー正確には相打ちではない、余波が此方にまで届く程の天晴れな破壊力。
ダンジョン、認めよう。
お前は俺にとって生涯最高の好敵手よっ。
間髪入れず踏み込んで来るダンジョンの斬撃は、大剣で受け止めるルシファーの足元にある土を直径2m近く粉塵として空に巻き上げる。
それだけの衝撃を伴う攻撃だけでなく、自在に大剣を消滅&生成して不規則な位置から攻撃。
ルシファーにも体力的に余裕は無く、幾らか肉体の芯まで威力が響いていた。
しかもこちらの攻撃を正面から剣で受けて防ぎ切れない負荷はダンジョンの肋や手首、肩など各所に亀裂と内出血を引き起こしていた。
ーーーにも関わらず全くそれ等の負傷を気にも留めず強引に魔素を放出して怪我を治しながら休む事なく攻撃を打ち込んでくる。
見事、実に素晴らしい男だ。
…………………。
嗚呼然しーーーー。
其れも孰れはーーーー。
終わり逝くーーーーーー。
大剣奮いーーー。
ーーーー命震わせ。
ルシファーが自らの大剣を消し去る。
そこから右肘を縦に折り畳み、掌を半開きで正面に構え。
右半身を前に、左半身を後ろへ佇ませる。
そして左腕の肘を半分畳み拳を握る。
この技を使うのは、いつか戦ったもう一人の好敵手。
あの俺をも越える背丈の【黒人】以来か。
だが奴と同じく、これでなければ真の強者は倒せん。
来い、向かってこいダンジョン。
その振るわす大剣諸共、
ーーーーーお前を破壊してくれる。
ダンジョンが右手に握る大剣を右後方から正面へ振り下ろしてくる。
その一撃目を半開きにしていた右の掌で掴む。
その瞬間大剣を消して左腕に持ち直した大剣を右払いしてくる。
それを畳んだ右腕全体で防ぎ切る。
中々の衝撃に少し歯を食いしばる。
その時、1秒の隙間が生まれる。
それに合わせて残された2割程の魔力を全て左拳に込める。
大剣による範囲型の攻撃が《滅砲》。
拳による集中型の攻撃、その名を。
ーーーーーSpecial skill《魔拳》。
それは、《滅砲》と同量の魔素を全て拳に集め相手に打ち込む技。
それは、ダンジョンが再生成し右手を剣先に添え縦に構えた大剣を容易く全壊させ。
本人の腹部に減り込み、尚も止まる術を知らず。
完全に胴体を貫通し。
ルシファーの上腕まで、ダンジョンの肉体は差し込まれていた。
それと同時にダンジョンは一瞬自我を取り戻す。
「賛美を贈ろう、賞賛を尽くそう。」
「お前は、これまでの誰よりも強かった。」
「素晴らしい打ち込み、見事な速度。」
「俺の《滅砲》を大きく削り取る程の《極砲》。」
「神は俺になんと罪な強さを与えたのか、それだけが唯一恨めしかった。」
「だがそれはお前も同じだな、ダンジョンよ。」
「どっども"っ…………次は勝ちま"すっよっ」
「悔しかろう、また挑めいや大剣の魔王。」
「俺は、いつでもお前の事を待っているぞ。」
「そうっす"かっ…………………」
「………………………」
「ーーーーー。 」
「ーーーーそうか、逝ったか。」
「此度の戦い、誠に良き内容であった。」
「………………ふむ。」
「考えてみれば他の上位者や、英雄というのはどんな強さなのだろうな?ダンジョンよ。」
「気になってきたぞ、俺は。」
「決めたぞ、お前が蘇るまでの1ヶ月間俺は各地の猛者を潰して回ろう。」
「お前程ではないにしろ幾らか楽しめるかの。」
「さて、向かうは何処か。」
その場に残されたダンジョンの骸は徐々に自然魔力へと還元されていき。
魂のみが天界へと昇っていく。
ダンジョンが殺され気配が消えていく。
ガイダル達3名とハイデン王国に居る凛堂はそれを感じるや否や。
★
ハイデン王国で胡座を掻いていた凛堂が突如目を開き切って雄叫びと共に王城から飛び出ていく。
レインドやザラデス家は何事かと声を掛けるがその声掛けも無視して大声で叫ぶ。
「ダンジョォォォォォォォォンンンンッ!!!」
「ダンジョン殿が、死んだぞ。」
「信じられない、彼が。」
「いや、儂は確かに感じ取った。
もう一つ別の化物が居た様だ、そして其奴にダンジョンが敗れたのだろう。」
「気のせいではない、天使と同じ質の魔力。」
「某も何か引っ掛かり………………ルシフェル?」
「我もそう考える、間違いなくあの男だろう。」
その時バルト王国から北西200km地点にあるデレル王国のギルド内にて提携を結ぶ相談をしていた三名。
その目前には少女と見紛う容姿を持つ、茶髪を肩まで伸ばす少年が居た。
アレン・デレル。
150cmほどの身長しかないがそこからは想像出来ない洗練された自然魔力の使い手で、松薔薇と同等の魔力操作を可能としている。
彼が不思議そうに魔王へ声を掛ける。
しかしライメスが苦そうな笑顔で気にしないで、と伝えて来たので気になりつつ無言を貫く。
だが次第に三名が会話の中で殺気に塗れた魔素を垂れ流し始めたので慌てて止めに行く。
急展開でバルト王国との連携を承諾し、急ぎ帰るよう伝えた。
「何か、あったのかな。」
「ていうか勢いで国交許可しちゃった。」
「でも、何か変な感じがする。」
「異常が起きようとしている……………?」




