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英雄までの物語  作者: ノンプロット
一年期七月下旬〜 反英雄
91/113

八十八話 普通の夢を

久しぶりになります。






10月2日。

先日の学院戦を終えハイデン側とバルト側がほぼ拮抗した実力を持っている事が判明し、両国の国民達が騎士として相応しいのはどちらかと騒ぎになっていた。


ある者はレイレンに負けた以上ハイデン側の勝利と言い。

ある者はその後の頂上戦で巳浦様が勝った以上バルト側の勝ちだと誇り。

 話に鳧付く様子がなかった。









そんな中、巳浦はヴェルウェラに連れられ生まれ故郷のカタ村に帰郷していた。

そこには自身の遠い娘に当たるブレイドの母が居り、不思議な程に昔の娘に似ていた。


旅に出る前に一度家に来て貰いたかったらしいが、あのヴェルウェラがそこまで言うとは何かあるのか。



朝の8時からバルト王国を連れ出され二人で走って向かってきた訳だが、呼吸に余裕のない俺を他所に横をピッタリ付いてくるのを見てやっぱ人間じゃないんだと再確認していた。

 そんなこんなで村に建てられた自身そっくりの銅像を見てとても不思議な気持ちになっている所にヴェイダが現れたって流れだ。







なんだか大きくなった娘を見ているようで哀愁が過るがヴェルウェラが腕を引っ張って家の一階奥にある物置へ連れてく。


そこには何やら古びた写真集が多くあった。

そして其々に年代が書かれており、遡るとーー。


………………………これは。







2020年代から2100年代までの写真が、そのアルバムに保存されていた。

当時の俺がカタ村に建てた家で二人の子とヴェルウェラの四人で暮らしていた姿を撮影した写真が出てくる。

 この頃は2030年、裏界から帰って来た頃だ。


そして俺が裏界で戦っているせいで家に居なかった21〜29年頃の頁には子供とヴェルウェラが一緒に写った写真が残されていた。

ーーーーー息子のイクスと娘のカレヌだ。




その写真を見て固まる巳浦を横から見ていたヴェルウェラが、静かに次のページを捲る。

そこには二人の子供が大きくなって成人を迎える2040年頃の写真があった。


………………俺は日頃から魔物狩りや領土の拡張に勤しんでいたから、自分の持った家族の事なんて殆ど関与してない。



それに俺は早死にだった。

丁度この子達が成人した40年代、原初と裏界へ乗り込んで最終的には【皇帝】に殺されてる。

 プライモの奴が泣く顔なんて初めて見たよ。

あいつ、俺が死んだ後すぐ帰ったらしいしな。


でも悪い人生じゃなかったと今は思う。

きっと俺は戦いの場に身を置く運命だったんだろうさ。





その後の40〜50年代の項目には孫らしき子供も写っており、その中でヴェルウェラが皆を大切に見守っていた。

…………………俺は、俺は。


アルバムを静かに畳もうとする手を何とか止めて、次の頁を捲る。

60年代にはイクスとカレヌが40歳頃になり男と女の孫二人が成人を迎えた写真が載っている。


その少し先、60年〜頃になると曾孫だろう子供が爺と婆に当たるイクスとカレヌに抱っこされている写真も載っている。

孫達は横でピースをしていた。




その後、80年頃になると還暦を迎えたカレヌとイクスが成人した曾孫達と40歳を迎えた孫二人の計6人を写した写真が出てくる。


そして、2100年。

ーーーー寿命だろう、満足げな顔をした老齢のイクスとカレヌが二人で並び座る写真を最後に二人の写真は以降一枚も無かった。

 還暦を迎える孫二人、40歳頃になる曾孫、そして新たに成人を迎える玄孫の写真が出て来る。






ーーーーーーー。

それが、41世紀現在までずっと繰り返されている様子が何十ものアルバムに残されていた。


その中でも最も新しいアルバムに載っているのは、先程軒先で迎えてくれたヴェイダという女性とその息子のブレイドがバルト学院に入学する直前に記念で撮ったと思われる写真であった。

4036年、今年だ。


……………………ヴェルウェラ。

お前なんだろ………この写真を撮ってる奴って。







「ごめん……………ごめんよ………」

「俺は、何もしてやれてない。

世界よりも、お前達を大事にするべきだったっ。」


「ごめんっごめんっごめんなぁっっ!」

「何よりヴェルウェラッ!お前の気持ちを一度でも考えておけばこうはならなかった筈だッ。」


「何がっ!何が【大英雄】だァっ!

俺なんか人並みの生活も送れねぇ屑じゃねえかよォっ!?何してんだよぉぉぉぉオォっ!!」








「………………その言葉を、聞きたかった。

もういい、皆一度だってお前を恨んだりはしなかったんだ。」

「寧ろ、誇らしかったそうだ。

自分の父は、自分の爺は世界を大きく進歩させた歴史に残る【大英雄】だ!………ってさ。」


「だから私はお前が現界するのを待ってたんだ、ずっと。」

「そうして40世紀では叶わなかった再会をこうして41世紀で迎える事が出来た。」


「ありがとう、帰ってきてくれて。」

「ーーーーお帰りなさい。」






「ーーーーーーうん。

ただいま、ヴェル。」








それを少し離れた位置から聞いていたヴェイダも、その心境と立場を考えると涙が止まらなかった。

自分達の古い両親と言える二人に揃って会えた状況を少しずつ理解すると、彼女は二人に駆け寄って行く。


急に寄ってくるヴェイダを見て少し後ずさったが、あまりにカレヌに似ている為無意識に頭を撫でていた。

彼女も今年36歳程になるので立派な大人だ。

しかし早逝であった両親達に甘えていた小さい頃を思い出してしまい、日頃から気張っていた感情に歯止めが効かなくなる。






ブレイドの父に当たる自分の旦那もブレイドが産まれる前に不幸な事に病で早死にした。


ヴェイダは本来気の弱い女性だったが、その時初めて会ったヴェルウェラに強く生きる様に言い聞かされて週に一度家に来てくれる様になった。

 そうしてブレイドが産まれてから以後、ヴェイダは毅然に振る舞う事を決めていた。



ヴェルウェラは極力家庭に深入りしたくは無い為会いに来ても早朝や夜にほんの数分であるが、それでもヴェイダにとっては実の母と同じ様な存在であった。

しかし最近ブレイドの事を知ってからは良く家に居るようになった。

勿論出かけている時もあるけど、週に3日ほどは家に居てくれる。


残念な事にブレイドが家に帰ってくる事は滅多に無いけど、それでも何故だか嬉しそうな顔をするヴェルウェラ様を見ていると私も嬉しかった。







そうして巳浦お爺様に撫でられながら横目を向けると、唇を噛んで涙を流すヴェルウェラ様の姿が見えた。

私は、そんなに昔の子供に似ているのですか?


お爺様も泣き始めてしまいました。

あぁブレイド、貴方が居なくて良かったわ。


母さんのこんな姿、見せられない。

二人のこの姿を、あまり見せたくはないから。




そうしてヴェルウェラと巳浦に挟まれる様に抱き締められて、ヴェイダは呆然と涙が止まらなかった。

ーーーーーー。


















「お前達、二人とも席に着いてなさい。」

「今私はとても気分が良い、朝の支度だ。」


「何だヴェル、朝飯作ってくれるのか?

ヴェイダにやって貰えば楽できるのによ。」





「馬鹿、お前は黙って。

ヴェイダ、暇ならお茶でも淹れておいて。」


「はい!お母さん!」

「え?」


「あ……………お婆さま。」

「別に良いよ、好きに呼んで。」


「っ!

ーーーーーはいっ!」





「なんか、俺だけはぶられてる?」


「ううん!お父さんも大好きよっ!」

「皆んなで、ずっと一緒に暮らしたいね!」


「っ!」

「………っ」





「あれ、どうしたの?

もしかして…………難しいの………?」


「あぁ、近々ヴェルと旅行にでも行こうと思う。

俺の特訓のついでなのか、旅行のついでに特訓なのかよく分からないが。」

「旅行のついでだろう?とも、う、ら。」


「そうだ旅行が中心だなお前の言う通りだ。

という訳でヴェイダ、10月から12月は暫く二人で出掛けてくるからその間少し待っててくれ。」

「うん、分かったわ。」


「ごめんな。

帰ってきたら今度はお前と3人でどこか遊びに行こう。」


「っうんっ。」

「ごめんねヴェイダ、少し巳浦と二人で居させて。」

「大丈夫だよお母さん、私一人は慣れてるから。」







そうこうしていると、ヴェルウェラが朝の食事を持って来てくれた。


根菜の蒸し物に、魚介の出汁を採った雑炊。

細かく切った鶏肉と微塵斬りの玉葱に小さく角切りにされた人参のトマト汁煮込みなど。

 どれも見た目、彩共に気持ちが逸る。



ヴェイダも腕には自信がある、しかし特に考えもせず即席で用意した割に出来が良すぎる。

それだけ数えきれないほど食事を作って来たのだろう。

3人で食事を摂るその風景は、ついに叶うことのなかったヴェルウェラの遥か昔の夢を叶えてくれる景色であった。


ただ普通に家族でご飯を食べる、当たり前の夢。

已己巳己いこみきって四字熟語があります。

普通なら巳浦=みうら、です。

しかし女の名前が巴、となっているので強引に

巳浦=ともうら、としてます。

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