八十七話 特別試合
色々と話が進みます。
──────時間を戻す。
午後2時に病室にてレイレンと再び会うブレイドとは別に。
「皆の者ぉぉぉぉおおぉぉおぉっ!!」
「ここで今儂の考えた即席試合を第六試合として組もうと思うッッッ!」
「頼むから応えてくれよ御二方様ァっ!」
指を指された二人。
それは、中央正面に座していた男達。
巳浦と、凛堂。
巳浦は思考が停止していたが、凛堂は即答でそれに返すように立ち上がり跳躍で舞台中央へ着地する。
巳浦も何となく反射で立ち上がると座席の前にある1m程の仕切りを飛び越え中央に向かう。
突然の超人同士による試合が取り組まれレインドやヴェルウェラ達が口を開く。
レインドは目を見開き唖然とし、ヴェルウェラは口を薄く開けて驚く。
観客達は噂に聞くハイデン王国切り札の魔王と、
バルト王国に戻って来た嘗ての大英雄。
理解も追いつかぬまま勢いで歓声が上がる。
凛堂は即魔力を放出し超密度の魔素から長すぎる程の刀を一振り作り出す。
それを見ていたブレイド関係の者達は勿論、ハイデン側の者達も皆が鳥肌を立てる程の殺気が込められている。
巳浦は無言で正面に両手を突き出すと、暫し目を閉じた末2本の刀剣を握る。
右手には【不折】左手には【狂い】を持っており、どちらも純粋な魔素を放つ。
意識が冴え渡る。
その流れで誤魔化される前に巳浦が国王へ文句を言う。
「おいジジィ!
何勝手に化け物と戦う場所なんか作ってんだ!?」
「何じゃとコラァ!国王にジジィ呼ばわりとは貴様赦せんぞぉ!?」
「よおし儂は怒った、怒ったぞ!」
「勝たなければお主に半日説教じゃあ!
勝っても1時間の説法程度覚悟しておれ!」
「すみませんでしたァァっ!!」
「────つう訳で、やるの確定か。」
凛堂が大きく笑い上げる。
その気に呼応し三色の魔素が頭上へ吹き上がる。
その秒間の出力だけでブレイドの放つ真空剣など過剰に掻き消す程の総量だ。
巳浦は凛堂が瞬きの後に途端真顔になるのを見て。
右手に持つ不折にfirst skill《刀衝》を纏う。
その状態は直径20m幅10mと凄まじく、舞台の半径50mを半分近く黒く染めていた。
学院の生徒達はそれを見た時ブレイドを一瞬過らせるが数段上の出力を見て驚愕する。
しかもそれを維持する事に汗一つ出さない風体から魔力総量が人間離れしている事を示唆していた。
凛堂がそれを見て段々と燃えてくる。
意趣返しの様に長刀へ強化、電気、流液の三魔力を込めそれを軽く上空へ突き上げる。
その行動から生まれるのは、頭上30m近くまで昇る咆哮の如き衝撃。
互いの見せる準備運動の時点で既に並の英雄が気押されるほどのやり取りである。
現に今レインドすら汗を掻いて来ている。
凛堂が確認で訊いてくる。
本気でやっても良いのか?と。
周囲に損害が出ない範囲なら、と告げると巳浦は呆気なく《刀衝》を解除して自然体で構える。
凛堂も初っ端から上半身を前屈みにすると、右足を後方へ伸ばしながら膝を畳んだ左足に重さを乗せる。
居合の構えだ。
ザラデス家達は凛堂が今見せている居合が正しく辿り着くべき目標であると感じ。
ロルナレ家達は巳浦が見せつけている立ち姿に薄く感じられるロルナレ剣術の原型に憧れを抱き。
国王が10秒前の宣言を始める。
ヴェルウェラがふと立ち上がる。
いつの間にか巳浦の左に移動していた。
巳浦が突然割り込んでくる彼女にすぐ戻る様伝えたが、左手に握る狂いを指差し一言告げる。
『男らしくないからそれ一本で戦え』
急な要求に顔が固まるが、取り敢えず右手の不折に申し訳なさを感じながら気化させる。
凛堂がそのやり取りを見ながら一切表情を変えず見つめるのを見て、ハイデン関係者は静かに恐怖していた。
普段なら軽く笑ったりする筈なのに、何だ?
未知の部分を目の当たりにしている事に気付いた時、流れが変わる。
「黒人の武器で戦ってくれる方が私は嬉しい。」
「後はお前の本気を見せて。」
「…………分かった。
出来る限り頑張るよ。」
「でも俺一刀じゃそんなに強くな、」
「負けたら罰ね。」
「悪いな凛堂、殺す気で行くぞ。」
「──────俺ぁ、最初からそのつもりだぜ?」
「何だよお前、あの日見た顔と同じじゃねえか。
…………こりゃ真面目にやばいかもな。」
凛堂が嘗て巳浦に命懸けの居合を叩き込んだ戦いがあった。
その時も今と同じ顔をしていた。
こいつの揶揄い性な部分が全部消えて、戦いの要素を煮詰めた純粋な殺気。
巳浦が狂いに魔素を纏わせて左手を軽く前に突き出す。
そして目を閉じ、開けた時。
巳浦が意識が追い付くのとは別に反射で下を見ると、凛堂が足元まで一回で踏み込んで来ていた。
そして振り抜かれる居合は紙一重で狂いを真下に向け防いだが、巨大な斬撃が一瞬遅れてから発生する。
それを元々知っていた巳浦は鍔迫り合いのまま狂いの《剣圧拡散》で迎え撃つ。
稲妻を奔らせる青黒い魔素。
只々膨大な霧状の黒い魔素。
双方が衝突し観客席に黒い風が吹き荒れる。
技術も凄いがそれ以上に規格外な戦闘規模に人々が絶叫に近い雄叫びを上げる。
凛堂は【迷宮刀】を使って撃った斬撃波すら見事に相殺する巳浦の魔力出力に改めて敬意を表す。
そのまま黒風が晴れて行く。
そこには交わる度鉄板を強打する音が響く剣戟を瞬きも無しに続ける両者がいた。
一太刀受ければブレイドであろうと腕が骨折する程の衝撃を秒間に2〜3発交わし続ける。
ヴェルウェラは満足そうにその立ち合いを見つめていたが、レインドは以前戦った時に巳浦の強さを理解している分凛堂が平然と攻撃を受けそれを軽く往なしている事に鳥肌を立てる。
そして恐らくは巳浦よりも強烈だろう長刀の一撃へ、真っ向から刀を当てがい威力を殺し切る巳浦の防御技術にも驚かされる。
視認が追いつかない者達には解らないが、巳浦の受け流しの練度を見たレインドは次第に口を大きく開け目が乾燥する程その鬩ぎ合いを注視する。
真面に威力を受ければたった1発で後方へ転ばされる威力の攻めを、往なすだけに留まらず。
差し返す0.1秒の猶予があるか無いかの隙。
ただ派手なだけではなく、内に包まれたあまりに分厚い基礎と応用の積み重ね。
凛堂は遥か昔の大魔戦記に全力で戦った時と比べて遥かに強くなっている巳浦に内心驚いていた。
技術にこれ以上伸び代が無いと断言出来る者は居ない、それが凛堂の持つ持論だ。
しかしそれを否定する男が、前に居る。
成る程、英雄と大英雄の違い此処と見たり。
90%と100%の違いは途轍もなく大きい。
本来であれば辿り着けない筈の境地に、どうやってか到達しやがったんだ。
それ程までの修羅場が、有るのか?
疑問が尽きぬままに攻防が続く。
一回刀が衝突する度に半径10m近くへ吹き荒れる風圧。
これですら互いに大技を使っていないと言うのだから驚愕である。
しかしそれを許可したら文字通り闘技場が灰になるだろう事は皆が理解していた。
立ち合いを見ているロルナレ家一行は、時折既視感のある巳浦の体捌きがロルナレ剣術由来の物であると理解し始める。
ほぼ我流ではあるが偶に受け流す際の動作に編み込まれている【二式】。
一瞬の攻めに転じる際に足指から起こる踏み込みは【三式】。
そして受けと攻めの切り替えを極端に短くしているのは、両方の性質を持つ【一式】による連携の最適化。
では修得困難とされる【四式】とは何か。
文献によるとその正体は【守りと攻めの両立】。
巳浦からしても神経を削る難しい技術だ。
稀に生まれる攻撃の甘さに合わせて往なしを合わせながらそのまま攻撃に変化させる。
現在も徐々に肩や頬、脇腹に切り傷を負い始めている凛堂の焦る顔を見ればそれの異常性に気づくだろう。
ロルナレ剣術の理論値と言える男を前に、誘われて見に来ていたミルナ・ロルナレス婆は生前に夫のジャマイ・ロルナレトが言っていた言葉の意味を解した。
【ロルナレ剣術の修得は死ぬまで叶わない】
そりゃあそうだ、こんな動き100歳まで生きても出来ないだろう。
老齢の技術と若齢の肉体、両方が最高峰まで磨き上げられて初めて成り立つ動き。
それは人間では辿り着けない領域なのだから。
そうして眉間に軽く切り傷が入る凛堂が大きく後方へ飛び退く。
お手上げだー、と軽く告げて負けを認める。
巳浦は大量に掻いた汗をそのままに止まっていた呼吸を急いで再開する。
尋常ではない疲労感に襲われその場に足を広げて座り込む。
そうして凛堂が一騎打ちで負けたのを見せられたザラデス家は、目前にいる巳浦が何故大英雄と呼ばれるのかを体感する。
しかも前に凛堂が言っていた話が本当なら、巳浦は【居合】も修得しているという事だ。
勝てる可能性を砂一粒程も想像出来なかった。
本来ならその戦闘内で最初に見せた莫大な魔素の攻撃も混ざると考えたら尚更不可能だ。
「特別試合、勝者巳浦ァァぁぁぁァっ!!」
「いよっしゃぁぁぁぁ勝ったぞぉぉおぉっ!!」
「────でも何で俺悪い事してないのに罰とか説教だとか言われてんだ?」
「お手上げだよ巳浦ァ。
お前強くなり過ぎだってのぉ、どこでそんな技術身につけたんだ?」
「あぁ、色々理由はあるけどさ。
やっぱ1番はプライモとの手合わせだな。」
「……………ハハハ!そりゃあ強くなるわぁなぁ!」
「あんな異次元の奴と対一でやり合うとか人間辞めてるよお前っ!」
「俺だって嫌だったんだよ!?
毎日毎日やろうやろうってさ!!」
「カァぁぁぁぁぁっっ!面白ぇぇぇぇッ!!!」
そうして笑い転げている凛堂を無視してヴェルウェラが左に座り込む。
【狂いの漆刀】を元に魔王を打ち負かす巳浦に2000年振りに心が躍った。
塩と砂糖が入った水入りの水筒を渡しつつ彼女が提案する。
「ねぇ巳浦、後で私ともやろうよ。」
「え、普通に嫌だぞ。」
「お前下手すりゃ凛堂より普通に強えし、あと早過ぎて技術どうこうじゃなく反応出来ねぇ。」
「じゃあ私と戦うか丸頭の魔王と戦うならどっちがいいの?」
「それってダンジョンかガイダルか分からねえな。
まぁダンジョンだとしてもお前の方が嫌だな。」
「……………嘘。
お前私に気遣ってるんでしょ?」
「──────傷付けたくないって意味ではな。
でも真面目に段違いの速さだから俺もskill使わないと戦いにならねぇ。」
「しかもアレ使うと身体中激痛になるから嫌なんだよ、それと狡いし。」
「でも、貴方が格上にも勝てるのは技術以上に技の才能だよ。」
「全てを破壊する《刀圧剣衝》。
一切を躱す《完全回避》。」
「こんなの、魔王や黒人よりも上だ。」
「……………嬉しくねえな、その件については。」
現在時刻は12時20分頃。
訳も分からずただ口を開き続けるバルト組とハイデン組を放置して中央に居座る夫婦。
凛堂はハイデン側へ帰る際に一言、
『愉しかったぜ、またな』
と告げて行く。
勘弁して欲しいな、俺がどんだけ疲れるか分からねえのかコイツらは。
……………でもまぁ、これからの修行付けには必要なのかもしれないな。
巳浦が汗だらけの黒いコートと内着の白シャツを脱いで彼女へ渡す。
一瞬意味が分からなかったが、それが巳浦なりに彼女へ送るこれからの日常の始めなのだ。
そうして観衆に晒される肉体は凄まじく。
5%の体脂肪率、86kgのほぼを筋肉で構成させている彼の身体は現役で最盛に当る【20代】。
偶然に切れる髪留めの紐から解放される背の中間まで伸びる長髪は美しさを兼ねてすらいた。
そんな民衆を虜にする芸術的な巳浦と良く似ているブレイドは、まだまだ甘く未完成。
だが素質も伸び代も十分な彼へ期待を寄せる者は実際多い。
ブレイドは自覚していないが。
以前有った原初と魔王二人の戦いの際に観戦していた各国の英雄達も、かの大英雄と瓜二つのブレイドを軽く気に留めていたほど。
それは外見だけの話ではなく、寧ろ若くして既に【既視感】を覚えさせる程の真実味をどこか帯びているという事。
その点に於いてレイレンは美しく才能もあるが、矢張り興味を引くのは後が分からない方。
ダイエン共和国にて行われた闘技場試合の内容は水晶に録画されており、その録画水晶を松薔薇から貰い自宅で見たヴェルウェラは既に並の人間では辿り着けない領域に踏み込みつつある少年に大きな予感を過らせていた。
だがそれは余興の様な感覚だ。
どの道巳浦の通り名でもある【大英雄】に到達できる者はこれまでもこれからも存在しない。
しかし【英雄】くらいは目指せるかも知れない。
ふとそう思ったヴェルウェラは巳浦に後で、と伝えると先に席へ向かう。
彼女の中で今、ブレイドを今後どうして行くかの会議が始まっていた。
巳浦は熱くなった身体を元に戻す為、数秒魔力を全身に吹き荒らす。
それにより表面の汗は大気に飛ばされさっぱりとした気分になる。
しかしその黒霧に髪を靡かせる剣士は自然体ながらも堂々とした覇気を持っていた。
ブレイドはこの頃既に搬送されていたが、大きな期待と責任を感じ寝ながら震えていた。
★
そして現在時刻2時に戻る。
どうやらレイレンが気紛れに病室まで付いてきていたらしい。
周囲からは16の少年の付き添いをしている20歳の女性に見えており、真っ黒なブレイドと真っ白なレイレンという正反対も相まって非常に目立っていた。
勿論外見の華やかさもある。
何故この女性がハイデン王国の制服を着ているかは分からないが、もし学生の時分にこんな女子がいたら誰しもが報われぬ恋心を抱いただろう。
レイレンはブレイドが乗せられた馬車に共に乗る事をレインド達一行に伝え後日帰る事を伝えるとそのまま12km弱を道に揺られていた。
13時頃に着くと早々に運び込まれるブレイドに付いて行ったが、病院の人間から身内か知り合いか?などと訊かれた。
片親違いの姉(見方によっては妹?)です、と伝えると救護者は何度も顔を見比べて疑問を感じていた様子だったが取り敢えず承諾を得られた。
そして14時現在に至る。
ブレイドという兄妹とも姉弟とも言える存在にこれまで興味を持つ点は無かった。
だが口だけではない実力と自身を凌駕する破壊力はこれまでにない楽しい一戦を贈ってくれた。
そうして名だけでなく実際に兄妹、うん兄妹。
兄として認めても良いと思える人物と認識し。
レイレンはブレイドにある話をしに来た。
「ねえお兄ちゃん。
私今日は凄く楽しかったんだ。」
「こんなに近い実力の人と戦えたの初めてだったから、感動しちゃった。」
「ふん、俺はちっとも楽しくないね。」
「勝つどころか負けるわ、1発も攻撃入らないわで酷い目に遭ったぜったく。」
「そう?
私毎日でも戦ってあげたい位にはお兄ちゃんの事認めたよ?」
「だからさ、提案があるんだよね。」
「…………なんだよ、もう。」
そう返すと、彼女は真横に立てていた椅子からベッドへと這いずる様に移動してくる。
別段色仕掛けのつもりもなく自然とそうしていたが、それは側から見れば怪我する少年を別の意味で襲っている風に見えた。
何を話すのかと疑問に思っていた途端の急な接近に思わず顔を背ける。
しかしあちこちが痛み動くに動けない体では抵抗も出来ず彼女の肩まで伸びた銀の後ろ髪が横から垂れ此方の胸元に掛かる。
カチューシャで止められているのもあり前面に強調される顔付きは不思議に思えるほど整っており、ソディアの様な活発な印象を受ける表情と大きく差異がある。
まるで母親程に歳の離れた女性の様な気さえする大人びた空気は、到底妹と思わせない圧を放つ。
先刻来ていた男女共通の学服ではない。
自前だろう絹製の衣服は胸元の谷間が当たり前の様に見えている。(Vネック)
平均より明らかに大きい、ソディアも人を煽らない為に晒しを着けているのを思い出した。
顔の両側に手を突かれる位置関係になる。
まるで女子が男子に迫られている光景だがこの場合、かなり珍しい逆か。
妙な汗を掻く空気感の中、彼女に言葉を掛けられる。
それは、理解し難い物であった。
「バルト学院、辞めなよ。」
「……………何、言ってんだ?」
「そんな事できる訳ねえだろっ!」
「私は真面目に言ってるんだよ。
お兄ちゃんにハイデン側へ来てもらいたいの。」
「そうすれば多分父に相談して一緒に暮らす事も可能だと思うし、悪くないでしょ。」
そういうレイレンの顔は初めて見る集中した顔であった。
だが、それはあまりに受けられない提案だ。
将来を交わしたソディアと、親友。
競い合うガトレット達もいる。
離れられる訳がない。
ブレイドはそれを告げ早々に断る。
するとレイレンは呆けた顔で暫く固まる。
そして少ししてから次の言葉を発する。
「彼女って、そんなに大切なの?
私で良いならなってあげようか。」
「………代わりになる奴なんか居ねえんだって。
それとお前、自分を安売りするのは止めとけ。」
「仮にも俺は兄貴なんだろ、注意くらいはするからな。」
「え、それって家族を想う言葉?嬉しいなぁ。」
「────分かった、ならこうしよう。」
……………。
何を考えたのか、驚くべき行動を取る。
突然俺の鼻と口を手で塞いでくる。
意図が分からなかったが腰回りを跨がれており膝で両腕も抑えられている。
呼吸が出来ず何十秒、1分と経ち反射的に肺が引き攣り喉が上下する。
そして2分近くなり視界が暗くなる頃、唐突に手が離される。
本能で大きく息を吸おうと口が開かれる。
そこにレイレンが自身の右手の指を何本も突っ込んで来た。
理由は分からないが呼吸に必死でそれの理由などどうでも良かった。
そんな中何故か彼女の顔は紅潮しており興奮している様子であった。
想定していなかった、まさか加虐趣味とは。
レイレンはそのままブレイドの喉奥に指を入れて咳き込ませたり鼻を左手で閉じたりして延々と拷問に近い嫌がらせを続けて来る。
途中から生存本能で股間が硬くなりそれを隠そうとしたが思いっ切り腰を擦り付けられていつまでも元に治らない。
「ほはぇっひゃにがしひゃいんひゃっ!」
「えー何、聞き取れないよ。」
「ちゃんと言葉喋って。」
「ふひゃけひゅんじゃにぇぇっ!!!」
「ころひゅじょおはへぇっ!!」
「殺すって言った、今そう言った。
私怒ったら怖いんだよ。」
「罰として後10分これね。」
「ぎゃぁぁぁあいぃぁァっ!!?」
──────。
そうして宣言通り10分が経ち。
涎が滴る指を紙で拭きブレイドの口も拭く。
ブレイドはかなり疲れておりレイレンに対して抵抗する気力は残っていなかった。
そんな彼を横目に椅子に座り直す。
レイレンは恨めしそうに見つめて来るブレイドに微笑する。
そして先程の行動は反抗するブレイドへの罰だと告げる。
理不尽すぎる。
「私、一旦外に出るね。
何か買って来てあげる。」
「……………食べ物の事か………?」
「うん。
でもあんまり汚れるのは駄目だよ。」
「まぁ涎まみれだったの考えれば大した事じゃないかもね、あはは♪」
「うるせぇ。
まぁ、じゃあ牛乳とパン買ってきてくれ。」
「え、そんなので良いの?
もっと良い物あると思うけど。」
「………………好きなんだよ、昔から。」
「ふーん、分かったよ。
あと、さっきの話はまだ終わってないからね。」
「じゃあ行ってきまーす。」
「…………………」
そうして部屋から出て行く。
色々あり過ぎて疲れたが、それでもハイデン王国への移住はやっぱり受けられる話ではない。
あの凛堂が日頃からいるという点では強くなるのに最適だろうが、レイレンは身近に居て欲しくないし仲間と離れるのは嫌だ。
すると数分して扉がノックされる。
…………帰ってきたにしては早過ぎる。
入って来たのは、真剣な顔をしたソディア。
どうやら暫し前に病院に着いていたらしい。
さっきの部屋での物音は何か言及されるが、答えられる訳もないのでベッドの上で跳ねてたと適当な嘘を吐く。
その身体で?と明らかに疑問を向けられるが骨は癒着してるから思ってるより元気なのを伝えると彼女は安心する。
今日の第五試合の後に起こった凛堂と巳浦の戦いを録画した水晶を国王から関係者へ幾つか渡されていて、別れと準備で出発するのが13時になったらしい。
そして渡された水晶を病室の木棚に置かれた台座に設置すると早速付けようとする。
一旦待つ様に伝える。
ソディアは何故だ?と不可解そうな顔をする。
ぎぎぃ、と扉が開く。
そこには帰って来たレイレンが居た。
ソディアがどういう事かブレイドに問うが、逆にレイレンが押し掛けている事を自ら伝える。
聞けば兄妹とかなんとかという事だが、全く似ていないじゃないか。
どういう状況だ?
ソディアは自身がブレイドの彼女であると告げる。
レイレンはそれを聞くとふーん、とソディアに顔を近付ける。
妙に怨みを持たれている気がしたが、気のせいだろう。
少し多めに買っていたパンや牛乳、バター等を三人分に分けながら何やら面白そうな映像が空間に映し出される。
さながら映画鑑賞だろうか。
レイレンは椅子、ソディアはブレイドの足辺りの淵に座りそれを見始めた。




