八十六話 兄妹の差
久しぶりの投稿です。
結論から。
エイガ対パムルス。
勝者、エイガ。
勝因は単純に、鍛錬環境の差。
エイガは日々ソディアも交え以前より厳しい練習を積んだ甲斐があったという訳だ。
逆にパムルスは某日に巳浦から指摘された改善点を踏まえ短剣を使用した戦法を編み出していたが、急造であり少々難しい内容となった。
ルーランとレベルタの戦い。
此方はレベルタの勝ちとなった。
原因は分かりやすく、相性。
パムルスと違い片手剣と合う居合を用いた立ち合いは、ロルナレ剣術三式を振うルーランには最悪の目となったのだ。
威勢良く飛び込み流れを取ろうとする一定間隔で速度感のある三式に対して目利きをし、反撃出来そうな甘い一撃に差し返す。
居合という剣術の完成度に泣く結果となった。
イジャエとベレッタ。
互いに交流戦で戦う事が多く日頃から競い合う関係性にあったが、今回の戦いではまさかの互角。
イジャエは一式を修めており対応力に長けているのだが、ベレッタの居合の練度は妹のレベルタを超えていた。
ルーランと違い簡単に取らせまいと甘い踏み込みを堪えたにも関わらず。
ベレッタ本人が敢えて隙のある振りなどを見せイジャエの返しを更に返そうとするのでイジャエは毎回二分の一で勝つか負けるかの土台に立たされてしまった。
結果としては国王からの止めが入り中断となる。
そして、アラガン対ブレイ。
両者共に30lv〜級であり、ダイエンで鍛えられる前のブレイド達と同等以上の力を持っていた。
展開も派手であり、アラガンが攻めと待ちを混ぜた緩急のある動きでブレイの空振りを誘い。
一方のブレイはそのアラガンが放つ偽の殺気からたった一つの本物の気配を読み取り、打ち込んでくる剣撃に対して居合を放つ。
素人の観客には少し難しかったが、巳浦達も含め観客席から見ていたソディア達やブレイド組、特待連中が息を止め緊張する程の内容であった。
そうして。
「──────これより、第五試合。」
「バルト王国主将、ブレイド。
ハイデン王国主将、レイレン。」
「両者の取組を開始するっっっ。」
最高潮の盛り上がりを見せる会場。
ソディア達はフィスタ達と共にブレイドへ声援を送る。
特待組は中立の立場でどちらが勝つか予想する。
そして入口側の最前席に座るレインドは。
ハイデン王国から連れてきた三女のベイルを最初から座らせており、先程通路から席に着いたパムルス達参加組を左右に座らせてここからの試合に注目する。
バルト王国代表は、大英雄の血を継ぐ少年。
ハイデン王国代表は、大英雄の魂を継ぐ少女。
次第に会場も静まる。
すると、ハイデン王国の学服らしき灰色の制服を身に付けたままレイレンが準備運動を始める。
制服は上下共に伸縮性のあるゴム質で生地が良く伸び、彼女の前屈や開脚などに合わせて動く。
が、その体の柔らかさが異常であった。
彼女が後方へ背を仰け反らせるのを見て大衆も可愛らしい姿だと見ていた所、立っている姿勢のまま踵の少し後ろの辺りを伸ばした手で触り始めた。
背骨が折れるのではないかと不安になるが、今度はそこから逆立ちに派生する。
その後は腕の力で空へ跳び、縦に二回転してから水平に開脚したまま地面へ座り込んだ。
それに鳥肌を立てたのはブレイドだけではない。
その柔軟性は綺麗なだけでなく戦闘に関しても不可解な動きを生む。
その後も歩く様に側転から逆立ちし、両腕で一切の揺れなく歩いたりなど様々な体操擬きを繰り返していた。
それに対してブレイドは至って一般的な範疇で屈伸や背伸びを行っており、却って目立つ。
しかし彼女の光景を目にしても直ぐに気持ちを戻し、手に持つ木剣を右手に足を伸ばして休んでいる様子は堂に入っていた。
そうして数分の時が経ち笛の音が鳴る。
10秒前の合図。
そんな中でも顔色一つ変えず美しい笑顔を見せる彼女と、真顔で見つめ返すブレイド。
心臓の音が耳に残る気さえする空気。
その時、彼女が口を開く。
それは、ブレイドの集中を解く内文。
【死なないでね】と一言。
ブレイドが初っ端から全開で魔力を纏い勘で【纏刀】で強度を上げた木剣で彼女の【何か】を防ぐ。
──────この重さっ。
強化魔力で力を底上げした脚で一気に踏み込み、速度を乗せ右下から左上へ振り上げた木剣に瞬間的に重力魔力を乗せる。
二つの魔力による恩恵を生かした只の一撃は、ブレイドの【真空剣】に匹敵していた。
ブレイドは軽く2m後退しつつも、少しの汗を見せるのみに留めていた。
レイレンはふむふむ、と少し考え込むと更なる一手を仕掛けてきた。
今度は普通に正面から走って剣の競り合いを挑んで来る。
ブレイドはそれに対して魔力を纏わせた振りを幾度となく振う。
それに対し最小限の動きのみで躱し続けるレイレンに苛立ちを覚え、振りの動作を止めてそこからは静止した読み合いが始まる。
ブレイドは動きが固くレイレン相手に攻撃を当てるのは難しい。
よって自身の動きを止めて相手の出方を窺う事にしたのだ。
レイレンはそれを理解しており、一歩引く。
そしてたった一言、ブレイドに告げる。
「待ってるだけじゃ、つまんない。」
「……………言うじゃねえかよッ!」
「お!やる気満々だね!」
ブレイドが【纏刀】のまま剣を振り続ける。
レイレンはこの状態から斬撃を飛ばせる事を知らない。
それを利用して普段は使わない刺突を行いレイレンに後方へ皮一枚躱させる。
その一瞬に────放つ。
レインドが思わず立ち上がる。
あの少年には単調な動きしか期待してなかった。
しかしあの空中に撃ち出される魔力の斬撃。
………いや刺突か、あれは誰でも喰らう。
普通の人間なら躱し切るのは不可能。
────そうだ、普通の人間ならの話だ。
一瞬舞い上がる土埃から現れたのは、膝を畳みながら地面に頭が付くほど水平まで背を反らせたレイレンであった。
レイレン本人も突きという攻撃に反射的な勘が働き、何となく大きな避けを選択した。
すると、真面に喰らえば1発で顔面に大きな傷を負う威力の攻撃が発射されていた。
思わぬ収穫に笑みが止まらない。
両足を蹴り上げ後転し立ち上がる。
「ねぇねぇ、今のは何?そういう技?
偶然避けられて良かったー。」
「ちっ勘かよっ!ふざけやがって。」
「お兄ちゃんも最初の一撃防いだのは勘じゃないの?お互い様だよ。」
「ま、そうかも知んねえけどよ。
こっちは引き出し少ねえんだって。」
「そうなんだ。
私も思ってるよりは無いけどね。」
双方の会話は聞こえなかったが、それを見ていたガトレットは驚愕していた。
前までは真空剣の幅を広げるか狭めるしかなかったのが、線状に発射出来るなんて。
速度も倍近いね、秒間20m位かな。
威力にしたって5割は増してる。
流石ブレイド、僕が認めた友達だ。
観客達も大きな盛り上がりを見せる。
だがそんな空気に待ったを掛けずレイレンがブレイド目掛けて木剣を構える。
今回はレイレンから剣を抜くつもりだ。
ブレイドも改めて構え直す。
レイレンは意図的に強化魔力だけを纏い同じ条件下で勝負を挑むつもりのようである。
ブレイドがそれに若干の苛つきを覚えた時、突然彼女が顔に向かって飛び込んできた。
咄嗟に横に構えた剣身へ木剣が振り下ろされる。
中々の打ち込みだが、耐えられる重さだ。
「甘いなっこれじゃ俺は」
「これでも?」
「な────」
「─────────ごっぶっ。」
「あれ、立ってる。
うーん。」
一瞬、理解出来なかった。
叩き付けた木剣から手を離し、即座に両脚で蹴り付けてきた。
木剣の上下を片足ずつすり抜け、ブレイドの顔と喉元へ直撃した。
予測外であり、完全に入ってしまう。
教科書に載っていない動きだ。
良い勉強になったが、ブレイドは独り言を呟く彼女へ溜めた【真空剣】を放つ。
3m程の長さと1mほどの厚みを持った魔素の塊が迫り来るが、軽く跳んで避ける。
そこへブレイドが先程見せた線状の【真空剣】が撃ち出される。
強化した木剣で受けるが、圧力に押されて思わず体勢が崩れる。
着地際に生まれるだろう隙を突こうと最速で駆け寄るも、彼女は空中で後方宙転し片脚で着地する。
そして驚いた顔のブレイドに対してお返しとばかりに突きを放つ。
それは途中まで強化魔力で速度を乗せ、最後に重力を纏わせる事で威力を上げていた。
予測を誤り、受ける力を貫通して縦に構えていた木剣毎顔面を打ち抜かれる。
何とも厄介な切り替えだ。
強い攻撃を万全に防ごうとすると軽い突きが飛び、軽い攻撃を楽に防ごうとすると強い攻撃が飛んで来る。
狡いな、複数魔力持ちは。
何とか鼻血を噴き出しつつも立ち上がる。
レイレンは頑丈だね、と声を掛けてくるが正直余裕は皆無だ。
魔素を結構な勢いで消費している此方に対し、必要最低限しか魔素を消費していないレイレン。
─────これは、もう潮時だな。
ブレイドが、これまで右手で持っていた剣を両手で持つ。
そうして残る全魔力を肉体に溢れさせる。
奥の手【魔剣】。
威力は真空剣の3〜4倍だ、防げない。
だが魔素が全快でも保つのは30秒。
今の状態だと15秒が限界か。
…………いや、今の俺なら更に工夫出来るはず。
瞬間的に発動するのは難しいが、絶対出来ない訳じゃない。
レイレンがやってるんだ、瞬発的に出力を切り替える事は無理じゃない筈。
ぶっつけ本番、さあ行くぞ俺。
「おおおおぉぉぉぉオオオオぉぉっ!!」
「うん、強そうだ。」
「だったら、大丈夫かな。」
レイレンは木剣を右腰に差す。
それは、居合の構えである。
だがブレイドは攻撃の限り限りまで【魔剣】を見せながら。
ぶつ。
突然解除された影響でブレイドが減速し、本来なら反撃が取れていた間隔に合わせて左払いを出してしまった。
その隙を逃す訳もなく、一気に【魔剣】状態に切り替えて強烈な突きを放つ。
しかし皮一枚で躱される。
だが左腕が大きく左方へ振られ、首も右方へ避け。
レイレンの体勢がこれ迄で1番崩れていた。
そこへ突きから派生した振り下ろしによる追撃を振る。
───────謎の違和感。
これは、なんだ。
勝ってるのは俺だ、だが、妙な胸騒ぎがする。
刹那ブレイドの脳裏に過ぎる赤信号。
しかし勢いが付いた振りを止めるのは不可能。
そのまま降ろされる斬撃。
揺れる前髪に隠れて見えないレイレンの眼は、その斬撃の軌道を冷静に見ていた。
箇所は、胸元から腹部。
よし、問題ない。
彼女の胸元付近に膨大な重力魔力が集まる。
それは一瞬で鎧の輪郭を成し、その内側に大量の強化魔力が流し込まれる。
必殺の一撃である魔剣を受けて尚、彼女は未だ無傷であった。
理解が遅れたブレイドに、倒れた姿勢から容赦無く放たれる強化した左腕の右払い。
当然打ち付ける時に重力魔力に変えて重さは上がり、必要ないと判断し魔剣を解いてしまったブレイドの右脇腹へ直撃する。
右肋骨2本へ当たり、その威力を受け折られる。
剰りの痛みに左へ2m近く飛ばされながら蹲る。
近付いてくるレイレンは汗を少し掻いたのみ。
それに対しブレイドは両足跳び蹴り、顔面への突き、右脇への払い。
顔、首、右脇の3箇所を攻撃されており、更には魔力の激減により極度の疲労感に襲われていた。
レイレン本人、これ程楽しめたのは初めてでありブレイドに対して見る目を変えた。
しかし結果としては。
一汗掻き笑みを浮かべるレイレンと。
地を這い呻くブレイド。
巳浦は横で俺の勝ちだと騒ぐ凛堂を無視しながら、ブレイドの心中を察していた。
そうやって努力して、それでも勝てない。
でもそれしか無いんだ、ブレイド。
一気に強くなる奴と、徐々に強くなる奴。
お前は俺と同じ後者だ、焦るな。
それでいい、良く頑張った。
そうして国王が言を発す。
「試合終了ォォォォォォっ!!!」
「勝者、レイレンッ!」
「学院戦優勝は、2勝1分でハイデン王国っ!」
歓声が鳴り響く。
想像を超える大音量にソディア達は耳を塞ぐ。
だがそれ以上に目を塞ぎたくなる程の実力差。
ガトレット達は目前にいる少女が本当に同じ人間なのか疑いを持ってしまう。
しかし試合終わりの疲れでゆっくりと膝から座り込む彼女を見て人であると安堵した。
ブレイドの目の前で姫様座りをしながら、レイレンは呟く。
「こんな試合の時に言うのもなんだけどさ。
強かったよ、お兄ちゃん。」
「私お世辞は言わないよ、喜んで良いよ。」
「──────ばっかお前………喜べるか……」
「あ、父達が迎えに来た。
また後で遊ぼうね。」
「はっ遊びかよっ。」
「……………痛ってぇっ。」
「よお、ブレイド。」
「ん?…………巳浦じいさんか。
悪い、勝てなかった。」
「勝てなくても良いさ、今回の戦いで一つ解ったろ。
人間、全員が全員同じ速度で成長しないんだ。」
「でもな、天井は等しく全員にある。」
「俺も、若い頃は何度も負けたよ。
その度どうすれば勝てるか考えはするが、考えた所で実際強くなる訳じゃない。」
「だからな、頂点は見るな。
目先を目標にするんだ。」
「……………目先って、例えば?」
「お前は前【俺みたいになりたい】って言ったな。
それは無理だ、差があり過ぎる。」
「だが、レイレンなら無理では無さそうだろ。」
「─────何だよそれ、はは。」
「でも、そうだよな。
理想が高過ぎると、足元掬われるよな。」
「そういう事だ。
そんな俺ですら、実は最近負けた。」
「え………………手、抜いたのか?」
「いや、完全な本気だ。
でも無理だった、そんな時もある。」
爺さんでも勝てないって、そいつ何なんだ?
いや、それよりも肋がっ。
すると巳浦がブレイドの右脇に手を翳す。
高密度の強化魔素を充てる。
すると、段々体の痛みが引いていく。
骨が癒着する程度に基礎代謝の回復を高め、その後は駆け付けた担架に乗せられ街内の診療所へと運ばれた。
「ゆっくり休んで行きなさい。
怪我が落ち着いたらいつ出ていっても良いよ。」
「あ、ありがとうございます。」
北街ベンデから中央街方面にある診療所に入れられたブレイドは、レイレンの力を理解したのと同時に、それを目標にする事にした。
今は勝てなくても、必ず追い越す。
兄としてとか、そんな綺麗な話じゃない。
俺が、一人の男として負けられないからだ。
机に置かれた水とパンを食べながら、午後2時になった時計を静かに見つめる。
その時、扉を誰かが叩く。
声を掛けると、その人物が入って来た。
………………は?
「大丈夫?お兄ちゃん。」
「いや、頭が駄目みたいだ。」




