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英雄までの物語  作者: ノンプロット
一年期七月下旬〜 反英雄
86/113

八十三話 世界

かなり展開が動きます。






9月、25日。

ハイデン王国ではいつも通りの日々が続いていた。


6〜8時はレイレンが、8〜10時はレインドがザラデス家に稽古を付け。

気が向いた時に凛堂がどっちかに参加したりして非常に濃い修練を積んでいる。


お蔭で最初来た時は25lv程度だったのが30lv程度まで上がっており、益々ロルナレ家達との試合に気合が入っているようだ。




それはそうと以前の13日に帰って来て以来ずっと浮き足立っているレイレンの様子が気になり話を聞くと、どうやら凛堂から細剣と専用の鞘をもらったんだとか。


ヴァンデル遺跡に黒人のテンが居て、そいつに製って貰ったそう。

よっぽど気に入ってるみたいで、四階の寮にある部屋に戻っていつも抱き締めてる。

良かったね。







11時に城内2階にある食堂で好きな物を食べ、12時からは其々担っている業務をこなしている日々だ。

武家は案外休み時間も有り定時も早い為中々明るい職業らしい。


レイレンは10月1日に予定される学院戦が終わったらハイデン王国南部にある学院に通う予定なのだが、実力や容姿からして明らかに高学年以上の為現在その対応について検討中だ。



バルト王国学院と違い此方はそこまで大きな規模ではない。

だが座学を控えめに実戦に関する授業を多く入れている分実際の強さは平均して上だと。

生徒数は6学年合わせて1800人定員との事だが、全員毎年3月にある各学年下位30名の留年発表に震えて頑張っているとか。


まぁ、形式は転入という事になるだろうし問題は無いか。














「じゃあ凛堂さんと散歩してくるね、母。」





「分かったわ。

………………いつもどこ行ってるのかしら。」


「さぁな。

私達は城でゆっくりしていようじゃないか。」


「レイン。

私がバルトに戻るともう会うのは難しくなる。

その後のレイレンの面倒はちゃんと見れそう?」


「任せてくれ。

君と毎日を共にした影響か、随分と生前の自分に戻っている。

今は君か娘に何か起こった時以外に殺意が芽生える事はない。」


「………まぁ、永遠に会えない訳じゃないしね。

娘に前、会いたかったらママから会いに来て!とか言われちゃったし。

親離れが早過ぎるわ。」







そうして正午から城中心にある庭で談笑していると、ふと魂に仕舞われている刀剣が震えるのを感じた。

レインドから少し離れて木陰で四本の刀剣の柄だけを空間に顕現させる。


ーーーーうん、お前か。

そうして一本の刀を引き抜き具現化させる。

不折の黒刀だ。



その刀を胸に抱き暫し想像する。

すると、刀は霧となり半径3m程を包む。







………………レインドは目を見開く。

目を閉じたまま巴と会話する女性がそこにはおり、その外見は前髪を眉上に切り揃え他も肩下まで伸ばし同じく切り揃えただけで瓜二つなのだ。


服装は本人が好む黒の上下コートではなく下の生地が足首まで伸びた黒いシャツのみだ。

気になって仕方ないが、大人しく見守る。







裏界以降呼び出したのは初めてだが、日頃から一心同体である武器相手に緊張する要素はない。

中庭の壁に凭れ座る彼女と一緒に真横で足を伸ばし座る。


何か伝えたい事があったらしく、ゆっくりと話を始める。








「巴。

また、旅がしたい。」


「どうしたの、急に。」

「他の剣も、そうなの?」


「あぁ。

俺達に自我が無かった時、生前のお前が毎日欠かさず離さず振い続けてくれた日が恋しい。」




「此処にいては、あの下界や冥界、地獄界で戦っていた日々には戻れないだろ?」

「俺達は、戦うお前が好きなんだ。

特にあの裏界とかいう世界は楽しかったな、毎日文字通り修羅の様な化け物達と戦い、それに従う日々は幸せだった。」


「……………まぁね。

でも私はそんな単純な理由だけでは動けない状況なんだ。

昔とは違うんだよ、不折。」


「それも解ってる。」







不折はふと立ち上がると、沈黙していたレインドに後ろから静かに抱き付く。

外見が似過ぎて一瞬勘違いするが、瞼を閉じたままの顔を見て直ぐに刀の方だと理解し冷静になる。


そんなレインドに一言告げる。







「前にお前と戦った時、すぐに交代させられたからな。

次戦う時は、」


耳元で囁かれる。





「ーーーーー最後まで、な。」


「っ、あぁ。」

「………………。」





「まぁ、そういう訳だ巴。」

「俺達は今凄く暇なんだ、良ければこうして俺達を顕現させてくれよ。」


「え、なんで。」


「この姿なら色々と世界を見て歩ける。

お前達人間と同じように、な。」

「あぁまぁ、武器として使いたい時は胸に抱き締めてくれれば前みたいに刀になるから。」





「じゃあ、そういう事だ。

またな反英雄、機会を楽しみに待ってるぞ。」


「あ、あぁそうか。」

「ーーーーー何なんだあの、喋る武器は。」






「あれは、私が大英雄になった時高位に位置する者の権限として無機物に自身の魂を分け与える特性で自我を持った刀よ。

不折は私に良く似てるけど、他は別に。」


「そ、そんな力があるのか。

やはり大英雄と英雄は似て非なる存在だな。」


「でも天使の持つ法則外の装具を造る力は無いからね、違いはあるんだよ。」




「因みに原初や皇帝は別世界への扉を開ける権限を持ってて、天使は扉を閉じる権限を持ってるんだ。」

「だから今回プライモが戻って来れたのは反英雄と裏天使とのいざこざが重なってた隙に閉じていた門を原初が通って来たって話でね。」


「初めて聞く知識ばかりだな。

反英雄も英雄も、表天界と裏天界に自分だけが居る空間が人数分あるというのは共通なのか?」


「そうかな。

まぁ私は位置付けとしては中高位だから意図的に現界出来るんだけど。」


「羨ましいな、それは。」








すると。

巴は突然空を見上げ始めた。


何故だろう、何となくだった。

そう、勘だった。








意識していた。

なのに最初からそこに居たような素振りで、遥か高い空に何かが居た。


それは先まで上空5kmほどに居た筈が、瞬きすると真横に立っていた。

これは、何が起こって。




それは目を開ける度に位置を変え、今は巴の首に両腕を巻いていた。

大英雄と名高い彼女ですら、肌が粟立つ何か。


それに何故か、レインドは気付いていない。

ーーーーーいや、違う。









周囲の風が止まっている。

レインドは目を開いたまま庭の椅子に座っている。


自身が動けるのは、高位に位置するから?

それも、違う。




まるで自分だけ動けるように指定している様だ。

しかし動かせるのは首から上だけ。


そうして【それ】は話し始める。










「ーーーーー娘。」

「何故我に逆らう。」


「む、すめ……………?」

「誰、なの………」






「我は世界そのもの。」

「お前達の言う、意思。」


「ーーーーえっ………!」





「地に撒く紙は、我の意思。

取り巻く裏天は我が僕。」

「その一体が、囚われた。

嘆かわしい、人間に遅れを取るとは。」


「結局貴方は何がしたい、のっ?」








そう訊かれると、腰まで伸びる金銀の長髪を巴の胸元に垂れ掛けながら答える。


まるで昼間に友達と雑談するように、当然と。








「あぁ、世界を消そうと思うのだ。」

「無論、想定している結末の一つだが。」


「狂った事をっ。

40世記の、約束はっ?」


「親が子の約束を守るも破るも勝手だ。」

「気が変わったのだ。」


「こ、のぉ……………ッッッ」







不意に彼女が指を鳴らす。


急に動くようになった肉体に驚くが、瞬間的に男に戻り初っ端から【全開】で飛ばす。




右手に持った不折にfirst skill《刀衝》。

左手に持った狂いにSecond skill《剣衝》。


それを両方同時に左右から前方へ振り抜く。

それは視界正面で合わさり縦35m横15mの巨大な斬撃となり彼女に激突する。







気紛れに、それへ左手を向け。

心地良い風を受けるような表情で弾き飛ばし、そのまま左手の人差し指で誘ってくる。


異常事態ではある。

だが此処で1%でも勝てる可能性があるならそれに賭けるだけだっ。




不折を回帰刃に持ち替え。

回帰刃の持つ自動的に衝撃波を生み出す特性で彼女へ斬り掛かりながら、狂いの持つ魔素を消費する強烈な衝撃を叩き付ける。


その高濃度の魔素が纏われた刀剣自体を握り締め完全に静止させる。

普通なら指くらい切り落とせる程の殺傷力を持つ筈が、1mmすら動かない。







彼女は2本の刀剣を握りながら、軽く息を吐き魔力を放つ。

それは、現在巳浦が使ったskillや衝撃波で消費した魔力量を軽く超えていた。


しかも判別の出来ない特殊な色をした魔力。

金色に輝く、陽光のような魔素。




彼女はその全てを両手に集めると、刀剣へ逆流させる。

刹那、罅が入りほんの秒で砕かれた。


なんっなんなんだこれっ……………っ。








ーーーーー俺を使え。

不折が声を掛ける。


確かに、絶対に壊れない性質を持ってる不折しか使い用がないっ。

惰髄じゃさっきみたいに壊れるだけだ。




瞬間的に右手に魔素を集約させ、不折を呼び戻す。

彼女も不折の特性は理解しており、軽く口元を笑わせると先程と同じように刀ーーーーー。


いや、巳浦本人の右手首を握り締める。

悟る、手遅れである事を。








だが巳浦は誰よりも突出して秀でた性質を持っている。

それは、【平均の3倍】を誇る魔力量。


膨大な魔素を全身から放ち、辺りの半径50m程へ黒い猛風が吹き荒れる。

そしてその全てを右腕に纏わせ、彼女の流し込む金色の魔力へ抵抗する。




まるで浄化されるように凄まじい勢いで消し飛ばされていく魔素に構わず練り出せるだけ体に纏い続ける。


その状態から変化しない彼女の隙を突く形で左手に持ち替えた不折を突き刺す。

勿論《刀衝》と《剣衝》を同時に使用して。








「どうだオラァっっ!ーーーーーなっ。」


「素晴らしい人間だ。」

「認めよう、お前は最も優れた人だ。」





「原初から始まり個を増やした人類。

英雄と呼ばれる者も居るが、所詮はお前未満の者しか居ないだろう。」

「ーーーーー付いて来なさい。」


「あ、あぁ…………っ?何してっ。」








右脇に欠片も刺さらず止まったままの不折を邪魔そうに退かすと、180cmはあるだろう上背に金色のローブを靡かせながら巳浦を優しく抱き抱え遥か上空へ飛び消えて行った。


周囲の建築物は瞬きする内に完全に修復されており、その戦いを知る者は誰も居なかった。
















目が覚める。

そこは白い景色と白の大理石で造られた建物のみが存在していた。


本質的に気付く。

ここは裏天界である事を。




すると寝転がっている巳浦の背中を蹴ってくる者が居た。

以前にブラッド&プライモと一悶着あった長髪をオールバックにする天使、エラウェル。


さっさと起きろ!と両脇を持たれ起こされるが、魔素を急激に失った倦怠感で足がよろつく。

仕方無さそうに魔素を凝固させ椅子を作り、そこに座らせて貰う。


意外と優しいな。








「あ、目覚めたんだ。」

「その様だ。」

「………おはようございます。」


「成る程、お前ら裏の天使って訳か。

何となく魔力の感覚がサキエル達と似てる。」





「ふん、そんな事はどうでも良い。

問題なのは、何故貴様の様な表界の人間が裏界の、ましてや天界に来ているのかという点だ!」


「いや、俺も知らねえよ。

金髪の自称世界様に抱えられてからの記憶がねえんだ。」


「ーーーーーーましい。」

「ーーーーーーるい。」

「ーーーーーーいきだ。」

「ーーーーーーせなーい。」


「…………………何だって?」







エラウェルが巳浦の頬を叩く。

続いてラミウェルと呼ばれる司祭服の女が腹を殴ってくる。


次にザラウェルと名乗る眼鏡の女性に頭突きをかまされ。

最後に黒のローブを身に付けたラキウェルに股間を蹴られた。



もう巳浦に体力は残っていない。

そんな中大声で叫ばれる。








「私ですら拝謁するのみでそれ以上は無いというのに!羨ましいぞ貴様ぁぁぁぁっ!!」


「我々は日頃見る機会すら真面に無いのです。

それを貴方は……………狡いです。」


「人間如きが意思様に触れ、抱かれるだと?

ふざけるな、生意気だっ!」


「調子乗り過ぎだよー、君。

今の所1%も許せる要素なーい。」




「いや、俺だって別に嬉しくねぇよ………」


「「「「………………は?」」」」


「いやぁ最高だったな。」


「「「「ふむ。」」」」


(何なんだよコイツらっ。

天使も普通に感情あるのは分かるけど、有りまくりじゃねえか。

見た目は凄い綺麗だし全員して白い髪だから正に天使って感じはするけど。)








すると、奥にある宮殿から先程戦っていた世界の意思を自称する女が出てくる。

途端に畏まり片膝を突く彼女達とは別に椅子に倒れ掛かる様子の巳浦を見て意思が軽い足取りで浮く様に駆け寄る。


それを横目で見る彼女達の目は血走っていたが、知るか。

意思は巳浦の左首筋に優しく噛み付くと、先程使用していた金の魔力ではなく翠の自然魔力を大量に流し始めた。



エラウェルが嫉妬から反射的に立ちそうになるが、周りに抑えられる。







そうして20秒ほど強く吸い付かれ唇の跡が綺麗に残る頃には全ての魔力と体力までもが回復していた。


感覚的にはダンジョンの自然魔力による自己回復と同程度といった速度である。

そのまま椅子から立たされると上から見下ろされ始める。


気味が悪く外方を向くが、頬に両手を当てられ向きを戻される。

そして今度は流れで自然にキスされる。




明確な殺気が横から飛んでくるが、此方はそれ所ではない。

意味も分からず、しかし抗いようの無い腕力で締められ離れることも出来ない。


そのまま1分程吸われると、嫌でも顔は赤くなり恥ずかしくて仕方が無くなってくる。







そして、気付く。

先程の接吻により自身の肉体に変化が起きている事に。


自身の肉体に掛かっている枷が解かれた様な、爽快感。

これは、まさか。





世界は言う。

お前の制限を解いた、100から140lvまで上げられるようになった。


そう告げられる。

喜びを感じたのも束の間、そんな至難を簡単に遂げるこの存在は、本当に世界なのか、と実感してしまう。



最後に優しく抱き寄せられて程良い胸元に顔を埋められる。

不思議と一人親で育ててくれた母を思い出し涙が出て来る。


その後四人の天使にそれぞれ両手両足付近に付かれながら話を聞かされる。









「我は思う。

最も優れた人間であるお前にこそ、世界を壊して欲しいと。」


「な、何でそんな事俺がっ!」


「直接やるのも悪くない。

が、我は傍観者であるのが本質。」

「人類律には、隠された最後がある。」


「隠されたって、何だよ、それ…………」






「魔物の【試闘】、黒人の【試験】。

魔王の【試合】、天使の【試練】。

原初の【試命】、そして、」


「世界の【宿命】。」




「宿命……………何が、あるんだ?」


「我に従い世界を破壊するか。」

「それか、」







「我という世界を、破壊するか。」


「ーーーーーーはっ?」









思考が止まる。

便宜上呼称が同じという意味ではなく、本当に違うという事か?


世界=空間を壊すのか。

世界=意思を壊すのか。




そんなの、俺一人じゃ分かんねぇよっ。

松薔薇だったら、こんな時なんて答えるかな。


そんな悩みの巳浦に続けて声がけする。









「生命終記の際に交わした約束、これ以上意思は干渉しないという話。」

「あれはいわば【我が干渉しない】という話であり他はその限りではない。」


「だから巳浦、もとい大英雄。

お前が人類を代表してこの話を聞くが良い。」

「我に屈し世界の秩序を破壊するか?」

「それとも我に抗い、秩序を取り戻すか?」


「選ぶが良い。」





「悩む余地なんか無いね。」

「俺は、絶対にお前を消し飛ばす。」


「ーーーーーーそう、か。」








心なしか口元に笑みを浮かべた気がするが、次の瞬間天使四人に手足を拘束される。

そのまま天界の地上と言える大理石の外周まで連れて来られると、そこから投げ飛ばされた。


ここで別れ、という事か。

ーーーーーそういえば、宿命を達成した場合何が得られるんだ?



そう疑問に思う巳浦に意思が最後の言葉を掛ける。

ーーーー本当の自由が、手に入る。







なるほど、ね。

やる価値大有りだなっ。


一応万全まで回復させてくれた礼だけ大声で伝えると、そのまま意思によって空間に開けられた門を潜り表界の扉へと飛ばされた。





その後四名の天使に命令を下す。

ーーーー表界にいる英雄と反英雄を潰せ。


その言葉を掛けられた四人の天使はどさくさに紛れて意思の突き出す右手を両手で握りながら直ぐに準備に取り掛かった。









意思は思う。

自身が生み出した原初、魔王と言った存在では無く。

人間と言う自身も知り得ない潜在性を持った存在にこそ、可能性を見出したい。




その日を境に、巳浦の表情に闘いの火が戻った。

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