第五話 束の間の雑談
無い!
「一旦飯食って良いかなぁ!?
台無しになったら嫌なんだよ!」
「ん?パンか、牛乳も。
……………そういや、カッとなって飛んで来たが戦ってもしょうがないな。
俺たちの戦いは今の時代じゃちとマズイだろ。」
「何だぁ?テンション上がったんだけどなぁ、久しぶりによ。
ま、巳浦がそう言うなら俺も続ける気はねえよ。
仲間だからな。」
「馬鹿、仲間の魔王は今でもダンジョンだけのつもりだ、俺は。
まぁ、お前に一刀流の居合を教えて貰った恩は一生忘れる気はねぇけどな。」
「と、と、りあえずは、大丈夫?」
「おお、下降りるぞ。
凛堂、ブレイドの事抱えとけよ。」
「ブレイド、お前ブレイドってんだな。
どっかの言葉で剣そのものを意味する言葉だったか、良い名前だな!強くなりそうだ!」
「へ、へぇ、そう言う意味だったんだ。」
そんな会話を交わしながら、凄まじい速度で地上へ落下する。
それによる風圧、重力抵抗は半端ではなかったが、この二人が居ると一抹の疑念や不安すら湧いては来なかった。
「えっと、巳浦先生、で良いんだよね。
コッペパンと牛乳、一個ずつやるよ。」
「あ、良いのか。
うーん、王城での食事に比べて随分と静かなもんだな、性に合う。」
「俺は牛乳とメロンパンだ。
メロンパンだぞ?分かるか。
一個2銅貨もする!コッペパンの倍だ!高級品〜!」
「ま、とりあえず食うか。
ブレイド、お前三時間目はいつも途中抜けして鍛錬と食事の時間にしてるんだってな。
良い心掛けだ、俺もお前位の時は毎日連れと稽古やら走り込みしてたもんだ。
後剣の打ち込みとかな。」
「へぇー、巳浦先生って確か古い人なんだよね。
昔も今も、強くなるのは努力なんだね。
俺、頑張って強くなるよ。」
「おお!その調子だ!
巳浦、お前の子孫はやっぱり優秀なのかもしれないな?
俺が早歩きしないと追いつかなかったぞ、凄い事だ。」
「え、走ってなかったのあれ。
おかしいだろ、普通に。」
「ま、凛堂は人間じゃねえからな。
人の基準で考えても無駄だぞ、ブレイド。
まぁ俺なら片足ステップでも十分だけどな。」
「あ?言ったなおい。
だったら勝負しろよ、俺の早歩きとお前の片足跳び、どっちが速いかなぁ?」
「え、何か下らない事言い始めたぞこの人達。
不思議だな、お爺ちゃんみたいな貫禄もあれば子供みたいに無邪気になったり。」
普通の人では無いなんて巳浦先生は言うけど、この人だって人外って事忘れてるんじゃないか。
俺、ちゃんと付いてけるかわかんねぇよ。
三人は適当に学院の校庭端にあるベンチに座り、パンと牛乳を食べていた。
雑談の方が圧倒的に長かったが、食べたら10秒位で終わった。
ちゃんと噛んでないだろ。
俺が言えた義理じゃないけど。
数回噛んで後牛乳で流してるし。
でも、そんななだらかな空気も、不意に先の雰囲気へ戻った。
「なぁ巳浦。
お前、ザラデス一家に関する話は耳にしてるか?」
「王様のじいさんから朝飯の時に聞いた。
お前が関係持ってるらしいな、凛堂。
お前、立場分かってんのか。
魔王なんてのは、もうこの時代出しゃばらなくても良い存在じゃないのかよ?」
「…………お前は、そう言うと思ってたよ。
でも俺達はお前の連れの一人と同じく、この世界で
【生き続けてる】んだ。
暇なんだよ、滅茶苦茶にな。
良いよな、ファイナルガードやエンドカードのお前さん達は、時間軸があやふやな天界で暮らしてんだ。
年齢の概念だって俺達より下なんだから上なんだかも分かりゃしねぇ。」
「っ。涼木や永澤がファイナルガードになった経緯は良く知らないが、俺が好きでこうなったと思ってるのか?
原初の…………プライモの奴が俺を認めて、勢いで高位の存在に昇華させた時の俺の気分が、よ。」
「知らないな。
俺達は勿論、黒人の奴らだってもうお前らの知ってるアイツらとは考え変わってると思うぜ。
もうバラけてるからどこに居るかもわかんねぇけどよ。」
英雄が、気を立てていた。
こんなの見たのは俺が初めてなんじゃないか。
でも、そんな感想も一瞬の内に閉ざされる。
「そうそう、お前んとこのロルナレ家と俺が作り直したザラデス家、国家間での学院戦を申請する予定だ。
時期は10月。
そっちの五人とこっちの五人で取り敢えず個人戦をやってもらう予定だから、その事を伝えといてくれ。
これ決めたのハイデン王国のおっさんだから、俺に言っても止められねぇから。
じゃ、また後で会おうや、巳浦。」
「次やる時は………………俺も出るつもりだ。」
「!…………………何だと?」
「お前も出ろ、巳浦。大将戦は俺と戦え。
三勝の時点で片側の勝ちになるんだが、どの道俺達の存在を世界全体に認知させる必要があると思ってな。
ど派手に見せてやろうと思ってる。
宜しくな、じゃあな。」
「待てよおい!ふざけてんじゃねぇ!凛堂ぉぉッ!」
巳浦が顔を上げた時、既に凛堂は学院外の人混みへと飛び込んでいた。
気配も消えてる、これでは追えない。
巳浦は考える。
この状況は何だ?
何故俺達の実力を世間に再認識させる必要があるんだ?
必要がない筈。
今更そんな戦闘をしないでどうにでもなる筈。
どうして。
考え込んでしまう。
思考が纏まらない。
プライモならこういう時どうするんだ。
あいつならきっと、
『僕にとってはどうでも良い、君以外はね。』
とか役に立たない事を言うんだろうが、俺の知る中であいつは全世界のNo. 1かNo.2の実力者だ。
武力による解決で終わらせるか。
武力解決。
それはこの場合でいう学院戦を受けるというニュアンスではなく、規模的に言えば国を壊滅させると言う感覚だ。
あいつなら10分あればぶっ壊せるだろう。
面倒事は即終わらせる男だ。
だがそれはそれとして。
この戦い、
「受けるべき、か?」
「俺は見たいよ、先生の戦い!」
「っ、ブレイド。」
遠い息子。
強くなって欲しい気持ちはあるが、今の世界の環境では中々そうも行かない。
何かこの子を強くさせられるキッカケ、状況はないか…………。
ーーーーーーーーーーいや、そうだ。
「ブレイド。
お前、ロルナレ家のエイガと戦ったんだよな。
強かったか?お前からしたら。」
「強かった。
仲間が居なかったら無理だった、絶対に。
でも、何で今その話を?」
「なぁ、ブレイド。
お前を強くさせられるなら、俺はこの学院戦の光景、お前に見せてやろうと思う。
お前は見たいか?学長やエイガ先生、俺が別国の教員と、さっきのアイツと戦う試合を。」
そんなの。
「見たい、絶対に観たい!
俺、先生達の事凄い尊敬してんだ。
エイガ先生なんか前も本気じゃなかったのに、最近変なオーラみたいなのを纏い始めた気がするし、巳浦先生の底の見えない力を少しでも観たい。」
「ははっ、そうか。
お前がそう言うなら、やるとするか。
てかお前、魔力の感覚を肌で感じ取れたのか。
…………手、出してみな。」
不思議そうな顔をしているが、何の心配もなさそうに突き出してくる。
その手に、強化の魔力を、【大量に】流し込んだ。
アラガン達の数倍多い量を、だ。
常人のみに限らず、現代の武人程度ではその場で気絶、嘔吐する程の濃度だが、この子は如何なのだろうか。
流されていく魔力は右手を伝いブレイドの体へ纏われていく。
本来ならこの時点で悪寒や鳥肌などの生理反応が起こるが、その様子はない。
いや、そんなものではない。
こいつの体は、それが自身の物であるかのように馴染ませ、一瞬にしてその強さを上げた。
魔力の強さのみだが、既に10〜20レベルの絶対量が、30近い数値になった。
恐らく一時の限定的な効果だろうが、これは一体。
血が繋がってるからなのか。
「うお、先生。
何か先生の体、浅黒い霧みたいなのが飛び散ってるぜ。
それ何なんだよ。」
「もう見えるのか。
お前、相当才能あるな。
今見えてるのは魔力だ。
ついでに気付いてなさそうだから言っとくが、お前からも出てるぞ。」
「体外へ魔力が霧散する程の人間は、その時点である程度強い事を意味する。
お前今、学校の先生達より強いかもしれないぜ。
その様子だと、もしかしたら"アレ"も使えるかもしれないが……………流石にまだか。」
ブレイドは、何故か全身に漲って来る力み、生命力にまだ困惑していた。
話も聞こえてはいなそうだ。
「まぁ良い。
ブレイド。」
「ん?何先生。俺今自分の体見てんだけど。」
「お前、どの辺りに住んでる。」
え?
「えっと、今いる学院街のすぐ東隣、ベル住宅街。
何で?」
「お前、明日の朝5時過ぎから王城の一階、武道場に通え。朝から3時間俺や先生達がやってる稽古をお前もやるぞ。」
「え。………………それって俺場違いなんじゃ、
「来い。
次の4時間目になるまでの10分ちょっとでロルナレ家の教員にもこの事は伝えとく。
お前、自分の剣を磨きたいと思った事くらいあるだろ。
なら、今言った場所に来れば間違いなく強くなる。
お前なら付いて来れるだろうし、何より俺の、遠い子供を育てずにはいれん。」
子供。
ん、どういう。
「今更なリアクションだな。
何となく誤魔化している雰囲気があったがきっぱり言っとくぞ。
お前は俺の遠い息子だ、だからどう控えめに接しても贔屓するって事だな。」
「で、それで一つ言えることがあってな。
俺の子供はかなり昔にロルナレ家で出来てて、今残ってるロルナレの家系はその時産まれた子から続いてる枝だ。
つまり先生達は腹違いの兄さん姉さんだ、遠縁だがな。」
「う、嘘だろ……………俺、これからどういう空気で話せば良いんだよ、今分かんねぇよ、何だよ。」
「この事は遠回しに伝えてはいるから向こうも今はわかってる。
午後の訓練を受けるか受けないかは自由だが、話してみても良いと思うぞ。
ついでに今のお前の力、強くなったエイガに試してみると良い。」
ブレイドの脳内は情報でパンク寸前だ。
どういう事だ、でループしてる。
無理もないとは思う。
こんな事急に言われても、理解なんか出来るものか。
俺が、あの人達と遠縁って、そんなの言われなかったらずっと気付かなかった事だ。
俺は、現状どういう立場なんだ?
深く考え込んでいた。
そして、気付けば昼休みが始まっていた。
版は写し忘れてしまったが、先生に話で引き止められていた訳だし、そこは問題ないだろう。
そんな事よりも、先ずは昼飯か。
普段より食った飯が少ないから、少し多めに買わないとだ。
ブレイドは何処か呆けた表情で学院へ向かった。
「さて。
俺はさっきの学院戦の事、アラガンに伝えとかないとな。面倒臭ぇ。」
ブレイド、お前は強くする。
これから俺がいなくなった後、お前が仲間を守り切れるだけの力を、必ず付けさせる。
巳浦は内心考えを決めていた。
7月、8月の団体戦、9月の魔力授業の期間、そして10月の学院戦。
3ヶ月で確実にブレイドを強くすると。
そして巳浦も腹が減ったので王城に帰り食事を摂るのだった。
献立は牛筋煮込みのビーフカレーだった。
どうしよう。




