七十六話 凛堂の気紛れ
「おいブレイ、何か暇だなぁ。」
「そうで、しょう、かっ」
「あぁ、暇暇ぁー。
お前らが10月初めにやる学院戦、それで本当なら巳浦とやる筈がレインドと和解したせいで無しになるしよー。」
「朝の6時からやる稽古も飽きてきたなぁ。」
「そ、それは飽きないで下さい。」
「そうです、是非ご教授を。」
「わ、私もです、はい。」
「いやでもなぁ、ちょっと行きたい場所もあったりでそこに向かいたいしねぇ。
ーーーーーあ、おーいレイレン!」
「なーに?」
「これからはお前が稽古付けてやってくれ。」
「もうお前一人で十分だし、ザラデス家もそれで満足するだろ。」
「宜しくな。」
「………凛堂さんは、どこに行くの。」
「私、凛堂さんじゃないと練習にならないよ。」
「うーん、北にあるヴァンデル遺跡って所だ。
そこに居る知り合いに頼み事があってな。」
「鞘を作ってもらうんだが、もしお前がこの練習の件を受けてくれるならお前の分の武器を作ってやってもいいぞ?」
「どうだ?」
「やるよやるよ!やるーーーー!!」
「悪いな。
数日戻れないかもしれないしそれ以上伸びるかも分からん。
ちゃんとお利口にな。」
「うん!行ってらっしゃい凛堂さん!」
そうして首を鳴らしながら面倒そうに練習場を降りていく。
そうして面倒を頼まれたレイレンは綺麗な銀髪を肩辺りに揺らしながら振り返り、ザラデス家に宣言する。
これから宜しく、皆んな。
全員がこの天才と向き合わなければならない事に辟易する。
そうして7時から彼女との稽古に切り替わり。
彼は。
凛堂は国王に外出を伝えるとその度馬車を出すかと訊かれる。
毎回走るから良いと断るが、その時の国王の真顔には笑いが込み上げる。
ここから上に100km、そこから左に100km。
そこそこあるが、まぁ大した問題は無い。
走れば40m〜、跳べば50m。
時間にして分速3km。
時速180km、そこに6分出して198km。
すぐだな。
そうして軽く準備運動をすると、ハイデン北門から走り出した。
「うーわ、酒の臭い凄いな。」
「つか、むさ苦しいおっさんばっかだな。」
「おいお前、身分の証明となる物は?」
「はい下界証明書。」
「何?ーーーーー何ぃぃぃぃぃっ!!?」
「んじゃ通るから。」
周りの列を飛ばして検問所に押し寄り、何故か秒で検問を通過する180少しの背丈がある異様な青年。
周囲の力自慢らしき男達が黙ってしまう程の威圧感を放つその男に皆が興味を持つ。
そんな中、何人かが声を上げる。
6日にダイエン共和国で開かれてた試合の奴だ!
いや、7日の時の化け物野郎だろ!
どっちも同じ奴だよ!何で此処に?
どうでも良いので無視するが、ファンと名乗る女性陣が様々な手紙を渡してくる。
要らないので丁寧に握り潰すが、周りの男どもからの視線が熱いのでそいつらに新品を渡してやる。
するとその送り主であろう女性に殴り飛ばされて困惑している男の姿がちらほらと見えた。
は、面白ぇ。
それを横目に堂々と岩の壁を跨ぐ。
そこには多くの酒場や娯楽施設が見え、遠くに見える苔むした岩の砦らしき物も見える。
歩く物達は皆それなりの鉄装具を身に付けたり剣を携帯しており、全員がここで力を付け金を稼いでいるのが良く分かる。
そうして面白げに観察する凛堂に前から歩いてくる大男が肩をぶつける。
凛堂は表面的に謝るが、その無精髭を伸ばす男は凛堂の肩を掴み勢い良く真後ろへ投げる。
騒ぎを起こすので有名な銀腕章の男。
【グロル】だ。
彼は道を譲る事はなく些細な事でも手を挙げる。
そうして凛堂にも見境なく腕を上げた。
しかし。
凛堂が何事もなさそうに頭のみで倒立しながら、真顔でグロルに問う。
俺は何かしたか?
流石に妙な奴だと思いグロルも珍しく狼狽するが、凛堂はそのままの姿勢で腕を組みながら考える。
これは、横暴だよな。
懲らしめて良いよな、うん。
そう結論付けすると前に両足を付け立ち上がり、血一筋も流さぬままグロルの両肩を掴む。
何事かと抵抗したが、全く動かない。
そして同じ様に真後ろへブリッジの姿勢で投げ、地面へ叩き付ける。
そのまま勢いで脆い舗装石を砕き肩まで陥没させる。
一切動かぬまま痙攣するグロルを見て店前の客寄せ達が驚愕の表情を見せるが、軽くコートの汚れを叩きつつ目的の店を探す。
そこから萎縮して道を空け始める人々に気もくれず、黙々と前へ歩き続ける。
道中パーティーらしき集団に誘いを受けたが全て適当に断っておいた。
俺がいたら俺だけで攻略しちまうよ。
そうして10km程進み、何やら混みまくっている武具屋を見つける。
外見は年季の入った石造りの一軒家だが、10人ほど列を作っている。
【テン・アクセサリー】これだな。
そんな列の後尾に並ぼうとするが、何やら店員だろう男がエプロンを揺らしながら走ってくる。
何だと思ったら、今日はここまでと。
いやいや、勘弁してくれ。
こっちは走りで来たんだぞと訴えるが、そんな奴居るわけないでしょうと言われた。
どちらにせよもう午前9時ですから受付は終了だと言われ、店外から大声を浴びせる。
店員は頭のおかしい奴かと呆然だが、店内から騒がしい声が聞こえたかと思うと男達が照れた顔で道を空ける。
そこには走ってくるテンが居た。
約束通り訪問してきた凛堂に喜ぶと、他の整列人を無視して手を引っ張り案内する。
怒りの声が飛び交うが、
『うるせえ雑魚ども!』
と怒鳴り付けられ唖然とする。
凛堂はテンが臍出しの袖無しシャツを着ている理由が分からなかったが、暑いからだそう。
その外見と声じゃ女みたいだろと告げるが、実際勘違い野郎がわらわら来るらしい。
笑えないな、これは。
そんな状況で注文卓を通り越して裏の工房まで連れてくる。
用件は鞘だな?と訊かれてもう一つ追加で細剣も作って貰いたいと頼む。
それは予想してなかったのか、あぁ?と意表を突かれた声を発するがまぁ良いと鋳造設備の前に座り込む。
凛堂を石の切り株に座らせると、雑に体を弄ってくる。
気色悪いと声を掛けるが、採寸だ馬鹿と諭され納得する。
時折これ目的の変態野郎がいて困ると語られ、凛堂が困る。
そうしてある程度腰回りと胴の長さ、腕の直径を目測で測ると羊皮紙に設計図を書き込んでいく。
随分と早い作業工程に感心するが、その最中に必要素材らしき名前が端々へ書かれていく。
「んー、剣身は【鉄巨人の鉄心臓】だな。」
「鍔は無しで、極端に小さく纏めるか。」
「あー、それ俺じゃなくて」
「わーってる、レイレンとか言う子だな。
この前闘技場に居る時喋ってた子だろ、綺麗だからつい目測で採寸しててな。」
「まぁ任せときな。」
「おう。」
悩む事数分。
素材リストが纏められた。
『剣身ー鉄巨人の鉄心臓
柄ー金オークの犬歯
鞘ー銀蝶の翅 』
どれも50lv〜級の大物だ。(人間目線)
遺跡内はそんな魔獣が時折湧いてくるらしいので根気強く探して狩るように勧められた。
人であれば30lv〜級の銀腕章が10人いてどうかと言う強さらしい。
それとは別に凛堂の鞘に関しても設計図が完成する。
此方の素材はーーーーーいや、これは。
『鞘ー黒鎧の兜』
これは、人間界には居ない。
【冥界】と呼ばれる強力な魔物が巣食う危険な世界にのみ棲む強敵だ。
以前現れた【呪鎧】が99lv相当なら、此奴は110lvは下らない。
人間換算で132lv級の怪物だ。
とんでもない素材じゃねえかおい。
その分期待も大きく、露骨に口がニヤける。
そんな顔が出来るのは人外だけだと言いながら、その詳細が書かれた紙2枚を持って遺跡に向かえと言われる。
これがある種の探索許可証になるとか。
下界証明書と言い面倒臭いな。
テンが右手の型を取った朱印を紙の裏面に付け、自身の名前を書き記す。
これで完成と言うと金を要求してくる。
凛堂が2年ほど前から使わず貯めていた金貨は3200枚にも上る。
月100金貨という給与にハイデン王国がどれだけ魔王へ高待遇なのかが分かる。
細剣の本身と鞘で200、鞘単体は500。
おい高くないか?と呆れるが寧ろこれを精錬出来るのは黒人だけだろと呆れられる。
まぁ確かにこんなの成形出来る奴居ないわ。
取り敢えず7枚の白銀貨を渡すとテンが目を喜ばせてそれを受け取る。
おいこいつ、絶対普段この値段じゃねえよな。
まぁ普通の素材とは比べられない労力が掛かるだろうし、兎に角準備は任せて店を出る。
店を出る道中で男共から非難を喰らうが、完全に無視されたので怒り出す。
俺達は今まで数十金貨も貢いでるんだ!と騒ぐので、
『さっき7白銀貨払ったぞ。』
と言うと皆が口を閉じて黙り始める。
目前数百メートル地点に聳える巨大な岩石の穴。
そこに近付くと、門番らしき兵士が確認を飛ばしてくる。
先の紙を渡すとその内容に思わず兜を外し凝視していたが、取り敢えずの許可は貰ったので直ぐに入っていく。
時刻は10時頃。
ここから先の展開を、凛堂はどう乗り切るか。




