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英雄までの物語  作者: ノンプロット
一年期七月下旬〜 反英雄
78/113

七十五話 突然の戦い






9月9日。

昨日イルディア公国で起きた騒動を通話結晶で教えられたレイブンは、ダイエン共和国のA地区中央にある男性寮で日々の鍛錬をより一層厳しくする事にした。


必要な時、守れないのは駄目だ。


この前俺の回し蹴りを余裕で受け切ったウォーレンとかいう野郎、強かった。

多分【俺】じゃ勝てない。




ーーーー【先代】は知らないが。

血者にとってblood skill【血の呪い】で他者の力を借りる事は個人としては負けを認める事と同義である。

故に以前のネイシャ戦や松薔薇戦でも力を借りる事に拒否反応を起こしたのはそれが理由。


裏天使に要求されて断ったのは、どちらかと言うとロウスが怖いからというのが理由だが。

(歴代で唯一自身が発明した能力も無しに肉体性能だけで乗り切っているレイブンは血者内からも認められているが。)




そうして自身の部屋で朝〜夜までぶっ続けで筋力鍛錬に励むレイブンを静かに扉の外から聞き耳立てている親衛隊男性陣はその修羅の如き修練に涙が止まらなかった。


尋常ではない強さは、文字通り尋常ならざる鍛錬の末に身に付くものなのだと染み染み理解する。

そうしてダルフ兄弟や双子のアーリー達は自身もまた翌日から気合いを入れ直す事を決める。




そうして離れようとしたらレイブンに壁越しに声を掛けられる。

何か不味かったのかと心配になるが、








「お前ら。

八月末まで付けてた稽古、明日の10日から再開するぞ。

嫌だろ、弱いままなのは。」


「俺はもう自由の身だ。

当初の召還理由だった国の防衛も暫く不要だろうから、付き合ってやる。」


「9時から12時の3時間だけだがな。

アルバはブレイドとか言う有望な餓鬼を育ててるからホールは無しだ。

稽古は外の広場だ、9時より前に来て準備しておけ。」



ーーーーーはい!









そうして一行は未だ激しい息遣いを聞かせてくる部屋を後に自室へ戻って行く。

この時点で9時頃だったが、レイブンは食事の時間以外を全て鍛錬に充てていた。

(ネイシャと喋る時は別。)


この後も午前0時になるまでその激しい運動が微かに部屋を揺らし、別室の者達にも聞こえていた。

弛んでいた自制心に喝を入れられ、ゲンシェルドやドルフ、皆が気合を入れて明日の準備を整えるのだった。

















「ぐぼぉっ!?」



「どうしたブレイド、早く立て。

ほらごー、よーん、さーん、にー、」



「ーーーーっ分かってるっよっ」



「よしよし良い子だ。

ーーーーー外も、賑わっているな。」



「あぁ、そうみたい、だな。

あのレイブンとか言う凄い人が、稽古付けてんだろ?俺も戦ってみたいな。」



「ほう、それだけ余裕があるのだな。

では私との稽古で一度も膝を付かなくなったら許可しよう。」



「えぇぇぇぇえええぇぇっ!!?

いや無理無理無理ーーー」








「うるさいなぁ、もう。

僕は寝てるのが好きなのに、毎朝9時に決まって叩き起こされるんだよ、その声に。」



「あ、えーっと。」



「プライモで良いよ。

君は確かに強くなる感じがするし、まぁ良い。」

「それはそうと何か君も強くなってない?」



「ん?私の事だろうか。

まぁそうだな、他の者では無理な打ち込みの威力と範囲。

何より機転を効かせた対処に日々刺激を受けているからな。」

「ブレイド、お前のお陰で私はずっとお前の上から指導出来るぞ。」



「うげぇ、嬉しくねぇ…………」






「それはさて置きーーーー休むなぁっ!!」



「うぉおぉあぁー!?無理だぁぁ!!」



「あ、こら!逃げるなっ!!」








プライモは追いかけっこをしている二人を見つめながら部屋を出てくるマリウェルの気配を感じる。



今日も今日とて魔力を封印されてるね。

あのロウスのskillはかなり凶悪だな、僕だろうが誰でも封印される可能性がある。


プライモは横ひ足を伸ばす自分の横で胡座座りをするマリウェルに少し注意するが、どうにもこの天使はかなり雑な面があるみたいだ。

人との距離感も近過ぎるし、これじゃ少し親心ってのが湧いてくるよ。







そうこうしながら稽古の風景を見る内、昔の21世紀に巳浦と修行していた日々を思い出す。


裏界と呼ばれる別世界で一線を画す猛者達と戦う日々。

その最中でも互いを鍛え合いその修羅の世界を生き延びた。




一部僕でも勝てない奴がいたけど、あれはおかしいから良いか。

皇帝、いつか勝ちたいな。


そうして懐かしむ眼をしていると、マリウェルが何を考えているのか分からないといった表情で自身の股に正面から座り込んでくる。

こういう隙のある一面は良くないよ、本当に。




マリウェルに質問されるが、ただ昔の事を思い出していただけだと返し立ち上がる。

今日は気紛れで戦いたくなったから、ちょっと遊ぼうかな。







鬼の様に追いかけ回すアルバに一言声を掛けて外に出る。

用件は何だと訊かれたので、軽く伝える。


レイブンと戦う。

そう淡々と。




それは、聞き捨てならない内容だ。


アルバが木刀を収めてブレイドを手招きする。

まだ警戒を解かないので先に扉から出ると、後ろから付いてきた。

最初からそうしろ。














「ダルフ、もっとジャブとストレートに魔力を維持したまま打ち込め。

それじゃ相手に届く頃に解けちまうぞ。」



「ぞうっ言われでもっ動げんのだッ。」



「オーリー、弓は近付かれない事を意識しろ。

当てる事に意識してるだけじゃ間合いを詰められるぞ。」



「ず、ずいまぜんっ。」

「れ、レイブンがっ強過ぎんだよっ!」



「ゲンシェルド、【瞬纏】の精度は悪くないが攻撃に切り替える時の魔力は残せよ。

守るより避けるのが最善だからな。」



「あ、あんたが強過ぎてっそれ所じゃっ」



「グーミル、日々クラスとか言う坊主と魔巣に行ってそれか?反撃術って取り柄がゲンシェルドに奪われそうだぞ。」



「あれば弾いてんだっ!俺は受けてるのっ!

……………膝痛ぇぇぇ。」







「ーーーーうんまぁ、こんなもんだよな。

育てるのは大変だなぁ。」



「ねぇレイブン。」



「あぁ?誰だ………………プライモか。

何だ朝っぱらから、珍しいな。」



「僕と戦おうよ。」

「っ!」








その言葉を聞いた途端、レイブンに血の様な流液魔力が纏われる。

いつ見ても彼の魔力は特殊な色をしているな、と呑気に見つめるプライモと比べてその身に纏う魔力は既に臨戦態勢である事を解らせる。


他の者達はアルバに言われて直ぐ様館の入り口付近に設置されているベンチに座る。

ブレイドも同様だが、当然の様にアルバと二人だけで特別席だ。


親衛隊は普段からあれ位優しかったらなと思うが、冷たい眼を向けられすぐに真面目な顔に戻る。







それぞれがステップで後ろへ距離を空ける。

そしてレイブンが当然と言った顔で【血の槍】を持つと、プライモもそれに応える様に自由の剣を召還し右手に持つ。


既に高濃度の魔力が両者の肉体に纏われており、周囲の空気が鉄の様に重くなっていく。




レイブンが息を呑む中、プライモは提案する。


ロウスとか言う女性と代わってほしい、と。

レイブンは一瞬思考が止まると、明らかに苛立った様相でそれを拒否する。




けど君では勝てないよ、と告げられた瞬間。

投擲された血の槍を余裕で弾き飛ばすと、数m飛ばされた位置から血の追尾で再び向かってくる槍を皮一枚で躱し長い本体部分を自由の剣で切り裂く。


そのやり取りがあまりに早く、アルバですら残像を捉えている状態であった。







レイブンは強度もそこそこに有る血の槍が容易く

折られた事を警戒しつつ、もう一本出す。

そして今度は近接戦を挑む。


全開に魔力を纏わせれば魔素が緩衝材となり強度も上がる為、先程の様に分断するのは困難。




だがそもそものプライモの斬撃が異常に重く、一撃受けるごとに地面の舗装された石に足が減り込む。

それはまるで上級の魔物に匹敵する威力であり、それを人の身で放つ剣士が居るものかと脳内で議論が始まる。


そんな時でもレイブンは切り抜けてきた死線を思い出し諦めず限り限りで流し防御越しの直撃を避け続ける。

それは正しくレイブンがゲンシェルドに指導していた事の実践であり、全ての武人にとって見本となる対処であった。





プライモが突きを放つと、それに対し槍の側面を合わせて上手く逸らす。

薙ぎ払いには槍を縦にして受けるのではなく上体を可能な限り横へと倒し斜め上へ外す。

振り下ろしには一瞬槍を横にして受けてから縦に切り替え地上真下へいなす。


素晴らしい動きである。

しかしその攻防が1〜2分続いた頃。






プライモが自由の剣から雷電の剣へと変える。

それはつまり【受けられない】と言う事であり、また違う対応をしなければならない状況。


プライモが放つ斬撃には高濃度の電気が流れており、槍に触れた時点でレイブンの肉体に電流が走る。

それにより鈍る肉体への追撃は分かり切っている。



そう考えていると目前で薙ぎ払われる。

それに対しての答えは。








「ーーーーへぇ。

血の拳、とか言ってたっけ。」



「あぁ、遠距離攻撃が出来る。

これで受ける瞬間に魔弾を撃って剣を弾き飛ばせば直撃は避けられる。」



「うん、面白くなってきた。」

「じゃあ、消せない攻撃はどうかな。」








そう言い普通の振りの様に振るった剣からは、凛堂戦で見せた魔力の波が放たれる。

これは、まずい。


血の拳で消せる様な次元じゃない。

血の拳を左手にも生成し両腕から魔弾を撃つが、少し止まるだけですぐに迫ってくる。


普通に考えておかしいだろ、と思うが先程の攻撃で多少だが中間が弱った。

そこに対して血の拳を消し即座に血の槍に切り替えて全開の魔力を込めて迎える。




槍を持った右腕の手甲を内側にする姿勢で正面の魔波へ突き刺す。

投擲の際は掌が内側になる様にするが、持って突く場合は大抵この向きだ。



そうして全身の筋力で受け止めると、数秒の鍔迫り合いの末雷電の剣の攻撃を消す事に成功。


親衛隊の男性女性が歓声を上げるが、レイブンは一切の気を抜かず右腕を右半身ごと前方へ突き出した姿勢のままプライモを凝視していた。






彼は、レイブンの肉体に流れた電流が幾らか効いている事を理解していた。

すると間を空けず今度は炎火の剣で斬撃を撃ち出してくる。


レイブンはそれを予測していたとばかりに全身に魔力を纏い、最大まで脚に力を込めて直進する。




熱魔力の影響は予想出来ない、まず短時間で消し飛ばすのが有効。

そう考えて右手に持った槍を腕ごと伸ばし切り真っ向から衝突する。


それにより周囲へ弾ける熱魔力と流液魔力が地面を焼き、血溜まりを作る。

そしてこの攻撃も5秒ほどで相殺し切ると、右腕を激しく火傷した事に気付く。



これでは上手く握れないと判断し、左腕に持ち替える。






それを見てプライモは褒める。

素晴らしい判断だ、強いね。


レイブンは未だ上から見下ろす態度に怒りが溜まり、一気に踏み込んで15m程の距離を0.5秒で詰める。

プライモはその軌道に残る赤黒い魔素の残像に美しさを感じたが、既に目元まで迫る槍に炎火の剣を割り込ませて弾く。


当然の様に弾いているが、勢いが乗っている分通常より重い攻撃だった。

それを平然と受けて弾く事が、人としての理を超えている証拠だ。



そんな時、レイブンの様子が一変する。









「おい、出てくるな。

邪魔するなーーーーバックス。」


「お前本気で邪魔だから、引っ込んでろ。

ーーーー俺なら問題ない、か。」


「黙れ、俺がやるのに意味があるんだ。

普段から脳内で騒がしいんだよ、俺が戦ってる時は黙ってろ。」


「………………頭が痛ぇ、これは無理だな。

悪いプライモ。」



「何が?」



「人が代わるぞ。」








そして眼を閉じた次の時。

見開いた目に移る者は、もうレイブンではなくなっていた。



176〜7cm程度で自身と大差無い背丈だが、異常な程に血管が走り目に見える程筋が張った筋肉。


力み過ぎて常に震える両腕と両足の筋量も凄まじく、元々筋肉質なレイブンと比べて倍程の筋肉がある。

小さいダンジョンと言った外見だ。


バックス・バーストと名乗る男はプライモを見るや否や一瞬で飛び掛かる。


その踏み込みから此方に辿り着くまでの距離20m、そして到着までの時間、0.3秒程。

レイブンであれば0.6秒は掛かる、その速度は実に倍。




秒間60mと言う恐ろしい踏み込みに、プライモは一気に警戒を強める。

何とか炎火の剣で防御をするが、打ち込まれる左裏拳の衝撃が武具ではなく自身へと伝わる。


独特な体術を会得してるのか、真面に胴体へ痛みが走る。

この男の体術は、防いでも意味がない。



咄嗟に炎火の剣から斬撃を撃ち出すが、まさかの正面防御だ。

と言うか真正面から殴っている。


そこから5秒程度で消し飛ばした。

幾らか火傷は負っているが、レイブンの時と比べると大分軽い。







黒髪を目元まで垂らすバックスに対して一剣を止める。

とうとう2本目の剣となる自由の剣を召還し左手に持った。


バックスが左半身を前のめりに左腕をくの字に上げて構え、プライモも2本の剣を下に垂らし視線を交わす。


緊張の空気。

が。






首に掛けてある通話結晶が光る。

それに気付くとバックスが何やら一人で言い争いを始める。


プライモが疑問の目を送るがバックスが手を振ってそれを遮ると、それから喧嘩の口振りで騒ぎ始める。

どうやら脳内で諍いが起きているみたいだ。




そこから諦めた顔でプライモに顔を向けると、瞬きの後にレイブンに戻っていた。

そうしてプライモに一言終わりを告げると急いで通話を開き誰かと会話を始める。


今までの緊張感は消え、熱心な顔で喋り始めるレイブンに遠くから手を振って別れを伝えると少し疲れた顔で館へと戻って行った。







観戦者は突然の終わりに間が抜けたが、それまでほぼ息を止めていた事に気付き荒い呼吸をし始める。


アルバすらも汗を垂らす程の最上の試合。


ブレイドは途中からアルバに抱き付かれて胸に顔が埋まっていた為中盤辺りから良く分からなかったが、やっぱり反英雄も原初ってのも化け物なんだと改めて尊敬する。





それとは別にアルバの茶色いセーター越しの胸の感触が忘れられずその日はずっと気まずかった。


アルマは本当に自分がゆくゆくは叔父さんになるのではと、そうでなくてもこの若さで義理の兄になる事に恐怖していた。

そんな事があった10日であった。


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