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英雄までの物語  作者: ノンプロット
一年期七月下旬〜 反英雄
77/113

七十四話 二人の薔薇







9月7日、夜8時頃。


ダンジョンとロロイは目的である【書記収集】が一時様子見となった事で暇になり、ダイエン共和国からバルト王国へ松薔薇と共に戻っていた。

話を進める必要があるからだ。




それとは別に巳浦達3人もバルト王城へと向かい二階の食堂で全員夜飯を食べていた。

まるで当時の若い頃を思い出し、松薔薇も普段の固い態度とは違い会話に気楽さが見えた。


だがバルト王国だけで現在四人もの英雄が居るのは流石に過剰であり、今後の対応も決めなければならない。

そんな時。








ダンジョンがルーランに肉物のお代わりを頼みつつ適当な提案をする。

昔みたいに四人で固まって旅すれば良いんじゃないですか?と。


松薔薇は立場上勝手に動くとギルドに乱れを生む可能性がある為却下したが、他3人が喜んでしまい頭を抱える。

ロロイは訳も分からず端っこで飯を食べている。








松薔薇は現状を一から話す。

巳浦は10月初めの学院戦には出ず子孫のブレイドが出る。

そして転生前に居た娘がその相手として戦う。


涼木、永澤は子孫との約束の関係でバルト王国に滞在して学院にて臨時教師を務める。

本来9月は魔力に関する座学などの時期だが特別に午後13〜17時の魔力操作授業をこの二人直々で稽古付けする内容に切り替えた。


巳浦は九月末までハイデン王国に居なくてはならないので8日の早朝に馬車で帰るそうだ。







そうして一旦の身辺整理を着けたところでダンジョンとロロイは別国に乗り込んで見聞を広めるつもりだと松薔薇へ伝える。

確かに悪くないと思いそれに許可を与え、翌日から未だ国交の浅い斜め方角の国々を目指す旨を伝えて再び食事に戻った。


(北東と北西に、南東と南西。)

(各方面にも3箇所の大規模な国等がある。

しかし国交が浅くギルドもその地域に根付いていてあまり私の権力も響かない。)


(辛い旅になりますよ、ダンジョン。

ですがまぁ、貴方に心配するだけ無駄ですね。)




そうして内心で話を区切り、この日は幕を閉じる。



















「ーーーーねぇ君、付いてきて問題ないの?」


「うるさい!

僕は貴女のせいで辛い人生を送ったんだ!その溜まった負債を返してもらうんだよぉ!」


「うーーん、そう言われてもなぁ。」





「ネイシャ様に似て、綺麗ですね。」

「召還国は何処ですか?」


「………………北東。」


「の、何処ですか。」


「っお前うるさいぞ!良く分からない奴の癖して僕を誰だと思って、」





「誰ですか?」


「だ、誰ってその、王様だよ…………」


「そうですか。

にしては風格がありません、ネイシャ様とは大違いですね。」


「ーーーーーこ、この馬鹿女ぁぁぁっ!!」






「ーーーーあれ?」








すると。

急にネイシャの絹の外套越しにお腹へ抱き付き隠れてしまう。

というより唸って泣いている。


7日の午後一時を過ぎてイルディア公国へ帰還するネイシャに言い寄って離れなかったデルゼロを仕方無く馬車に同行させて半日。

常足の馬車に揺られながら夜中午前1時になった頃にこのぐずりは流石に疲れる。




ネイシャが静かに宥めつつ左に座らせると、ゆっくりとした穏やかな自然魔力を纏いデルゼロの顔を胸元に埋めさせる。

突然の事に驚くが、デルゼロは教養としてそれが何かを知っているし自身も使える。


アーナム魔術絶技【母愛の精神】。

対象の心を落ち着かせ、且つ安堵を受け入れる状態になった相手へ愛に満ちた自然魔力を流し込む。



デルゼロは幼少に姉に慰めてもらう時にやって貰っていたのを思い出し、ここまでに見せていた喧々とした態度から一変し無言で顔を押し付けて甘え始める。

エルメルもそれを見せられて小さい頃に母に甘えていたのを脳裏に想起し温暖な気持ちになる。


そうして眠りかけのデルゼロの額に優しく息を掛ける。

これもアーナム第一魔術【再生の息吹】と呼ばれる技術の一つである。



ゆっくりと優しい顔でネイシャに抱き付いて眠るデルゼロごと布を掛け、エルメルに午後1時頃にイルディア公国に着く事を聞いた後一緒に眠った。




エルメルはまるで親子の様な二人を見て少し笑うと、自分も同じ様に眠りに就く。

眠る寸前、少し意地悪した自分に恥ずかしさを覚えたが大人げなかったと少し反省した。
















「北東にあるボルダン議長国とは雰囲気が違う。」

「ここが、イルディア公国………」


「何してるの?早くおいで。」


「うん。

ーーーーーあ、咄嗟に。」


「別に気にしてないから、ほら早く。」


「…………………母様そっくりなんて、ずるい。」








イルディアに着くとデルゼロはその豪勢な街並みに見惚れていた。

ネイシャは自分がフォンツォ王の時もこんな物だったと疑問に思ったが、デルゼロの代には既に国も廃れていた様だ。


帰国したネイシャに国民が声を掛けようとするな、横にくっ付くデルゼロを見て邪魔をしない方がいいかと遠慮する。




正直言ってデルゼロは男らしさのある背丈もなく、童顔で綺麗な薔薇色の髪を耳下まで揺らしている。

黒っぽい薔薇髪のネイシャよりよっぽど明るい髪をしているのに、性格は矢鱈と傲慢で卑屈だ。


どうにかしてあげたいが、如何せん彼の事を詳しく知らないので上手く取り入るのが難しい。

すると、エルメルが耳打ちする。








「ネイシャ様。

彼、寝ている時にずっとネイシャ様にしがみ付いて寝てましたよ。」

「きっと小さい頃に両親と過ごした時間が恋しいのでしょう。」



「うん、そうだろうね。

でも、私はこの子の4代前だから従姉妹の高祖母に当たるし親近感も湧きにくいんじゃ。」



「従姉妹?子供は居なかったのですか。」



「うん、私25歳くらいに死んだんだよね。

自由奔放な女王ではフォンツォ王国を危機に陥らせるとか言われてね。」

「母方の姉の息子が皇帝だったアムザ皇国と、父方の兄の息子が帝をやってたインディア帝国の両方から冒険者を辞めて王として振る舞えって怒られてさ。」


「でも別に国なんかどうでも良かったから、色々な国に旅に出たりしてて。

その旅の最中どこかで私の存在を邪魔に思っていた刺客に食事へ毒盛られちゃって。」


「それでインディア帝国、フォンツォ王国、アムザ皇国とアーナム大教会の接点だった私が死んだせいで彼方此方の国々が大騒ぎになったらしくてね?」

「何処の国がやったんだ?戦争だ!とかで国内の内乱とか仲良しだった交流国へ争いを仕掛ける様になっちゃって。」


「きっとデルゼロは、没落する頃にフォンツォに生まれたんだろうね。

名前からして一応四箇所の血は通ってるんだろうけど、性格や外見からして王たらしめる程ではなかったんだろうね。」


「だからさ、あの子は私にとって身代わりみたいな物なんだ。

代わりに国を継いで頑張ろうとした最後の王。」

「フォンツォは女しか王になれないから、男が代々務めるイルディア帝国の王だったとは思うけど、性別が違うだけだしね。」



「そ、そんな事が。」



「そんなに気にしなくて良いんだよ?

悪いのは私だって分かってる、その分あの子には身内として責任を取るべきだと思うし。

だからまぁ、ボルダン議長国?に帰す時も一緒に行こうと思ってる。」


「それくらいは許してね?」



「はい、勿論です。」








デルゼロは今の話を聞いていて思う。

ネイシャは、自分と違って根から自由な人なのだと。

それでいて過去を引き摺る事もなく明るく生きている姿は、今の自分と逆の物である。



デルゼロが悪い訳ではないが、しかし頼れる帝王でなかったのも事実である。

静かに暗い顔をするデルゼロの頭を腕で寄せてやり、ネイシャは彼をどうしたらいいのか直接訊いてみる事にした。


デルゼロは困惑するが、強気な性格で物言う姿がフォンツォ女王であった母に良く似ており、旋毛に感じる彼女のお腹の感触に甘えながら呟く。







「……………じゃあ、ずっと母様と呼びたい。」



「私が?…………君の母か。」



「僕、12の頃に母様を金品目当ての賊に殺されてるんだ。

それで荒んだ父様に厳しく育てられて、ここまで強くなった。」

「でも、大好きな母様が死んで僕の拠り所は無くなったんだっ!」


「でも昨日の朝に貴女を見て、自分が召還された事に初めて意味を持てた。

絶対に離れたくないって、思っちゃった。」

「だからネイシャ、良い?」



「ーーーーーーうん、分かった。」



「!!………ありがとうっ。」







そう言うと恥ずかしがる様子が無くなり、堂々とお腹に抱き付いて来る。

どこかで引いていた一線が無くなり、素直に甘えるデルゼロは本当に子供に見える。


と、そんな空気に。







騒がしい輩の声が聞こえる。

これは何事か。


分かり易く俗物といった外見の男達が、ここイルディア公国に似合わず闊歩している。

ネイシャとエルメルは面倒に思い脇の歩道を歩くが、気紛れに目線が合いその顔と体に視線を向けて来る。



そして図々しく股を開いて歩いて来る。

明白に此方へ近付いてくる5人程度の集団を前にエルメルが割って入る。


相手を選びなさい、そう忠告する。

だがそのエルメルの身に付けるメイド服越しの強調される谷間や陶器のように透ける絹色の髪に目を止めると、今度はエルメルに体を向ける。







「俺達は銅腕章パーティー【五獣】だ。

聞いた事あっか?」



「いえ、そんな低レベルな名称は聞いた事がありません。」



「くぅぅぅぅぅ、俺達もまだまだかぁ。」

「いんや兄貴、この女が世間知らずなだけですよ。」

「お、そうか?んじゃあ1発力見せますか。」



「?何をするつもりですか。」







その隊長に当たる男。

ゲレルは身に付けている長袖のyシャツを捲り、左腰に差してある鉄剣を取り出す。


エルメルはそれに警戒するが、彼は徐ろに振り上げるとそれを下ろす。

そしてエルメルの胸元を縦に裂き下着諸共給仕服を左右に破る。



突如露になる彼女の素肌に歓声を上げ、胸を隠す彼女の手を掴み隠す手を退かす。

恥ずかしさより悔しさが勝ち胸元を気にせず顔に唾を掛ける。

するとそれすらも舐め取り明らかに興奮した様子でエルメルに詰め寄る。







「お前良い女だなぁ、久し振りに惚れた。」



「っ、私は貴方のような下手物を好きになる程変わり者ではありませんっ!」



「ふぅふぅ!弱いのに気は強いなぁ!良い!」






「ねぇねぇ兄貴、後ろの女も凄いですぜっ!」



「止めなさい!その人には近寄らないで!」



「そうは言われても、近付いちゃうぜっ♪」








そうして不相応にもネイシャに近寄り、そのあまりの別嬪振りに奇声を上げる。

ゲレルは子分に片割れを任せると、エルメルを抑え込み建物の白壁に押し付ける。


そしてネイシャは妙に焦った顔で何やら不安げな顔をする。

それを恐怖と取り違えた取り巻きがわくわくした様子でネイシャに近付く。



だが、確かに聞こえた。

逃げろ、と。


その意味が、良く解らなかった。

だが数秒して身に染みる。








腰巾着の一人に指差す。

デルゼロだ。


急に子供が指差すのを見て見せ物じゃねぇと手振りで帰そうとする。

しかしゲレルはそのやりとりを見て餓鬼の雰囲気が妙に重い事を把握する。




部下に急いで離れるよう指示するが、馬鹿が察知も出来ず子供に対して上から見下ろす。


その時、微かに聞き取る。

忠告はした、その一言だけ。








「さっきから何だてめえ!

俺達大人の邪魔はしちゃいけねぇって親に習わなかったのかぁ!?」



「ーーーーーーー5。」



「ああ?何だ急に。」



「ーーーーーー4。」



「あ、あぁ?何だこの空気?

お、重えぞ?」



「ーーーーー3。」



「くっそ餓鬼!てめえの仕業か!?

気色悪い雰囲気止めろォ!」



「ーーーー2。」



「クソ、何なんだよそのカウントはぁ!?」



「ーーー1。」







ゲレルが叫ぶ。

離れろ!そう大きく。


周りもそれを聞き振り向く。

それは、正に瞬きの後。







頭を両手で抑え込み大声で唸り散らす子分が、目を見開き口から多量の涎、いや胃液だろうか?

口内の液という液と尿を漏らし溢れさせながら右の掌を翳し続けるデルゼロを前に狂気染みた姿を晒す。


ネイシャが隊長だろうゲレルに早く退くよう声を掛ける。

するととうとう嘔吐し始めた部下を引っ張り退散して行く。



デルゼロの表情はまるで怒ったレイブンと瓜二つの無感情であり、彼の抱える闇を垣間見たのだと実感する。

腕を下げ溜息を吐くと、デルゼロは後ろ姿のみの彼らへ言葉を吐く。







「次会う事があればこんなに優しくないよ。」



「へ、へぇ、まだ上があるのかい!?」



「というより、単純に殺気を込めた魔力を当てただけだよ。

次はそうだね、君にやる事にしよう。」

「嫌なら、もう二度とイルディア公国に足を運ぶな。」



「…………怖いねぇ、ふらっと立ち寄ったのは失敗だったな。」

「あ、兄貴ぃ、帰りましょうよぉ。」

「あんな餓鬼見た事ねぇ!同じ人間かぁ?」

「うっ…………おっおぉぇ………」

「うわやめろお前!汚ねえな!」







そうして一行を帰したデルゼロは、エルメルに自分の白い外套を着せる。

そんな紳士的な少年を見た周りの婦人、紳士達から拍手が送られる。


彼はそれを気にも留めずネイシャ達と中央の公爵邸へ向かう。






因みに先の【五獣】は、1人辺り20〜25lv程度の実力があり各地で素行の悪さを問題視されていたのだが、この日の出来事を境に一転して静かに仕事する様になったそうだ。


何故か質問すると全員して青い顔になり下を向くため理由はわからなかったが。

余程の事が有ったのだろう。

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