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英雄までの物語  作者: ノンプロット
一年期七月下旬〜 反英雄
75/113

七十二話 プライモと魔王二人








「ねぇ凛堂。

彼はやっぱり強いっすか。」


「んー、まぁな。

少なくとも仮面出さなきゃ荷が重すぎる。

お前がどうかは知らねえが。」


「前提としてこっちの戦力は個々だと負けてる扱いっすからね、世間に教えてやりましょ。」

「僕達の力を、存分に。」


「あぁ、良いなそれ。

俺この前テンに負けて少し憂さ晴らししたい気分だったからさぁ。

ーーーーーんじゃま、片方が攻めて綻びを補助する感じで行くか。」


「そうっすね。

お互い近接型ですし、間合いも広くて邪魔。

それで行きましょう。」








プライモは、目前から竜巻の如き魔素の猛風を巻き上げるダンジョンを見つめる。


自身の間隔で悠然と歩みを進めるダンジョンの姿は堂に入っており、プライモが右手の剣を直前に突き出しているにも関わらず堂々と。


凛堂に関しては腕を組んで後方で様子見。

さぁ、この怪物相手にどうするか。






プライモが踏み込む。

少数使用だと効果が上がる八剣を一本で使用した場合、最高で身体能力を倍増させる事が可能である自由の剣。

この状態でのプライモの打ち込みは、速度、威力、防御力、魔素出力全てが倍。


相性によっては最も辛い場合もあるこの自由の剣携帯状態での攻撃を、





脳に響く程の金切り音。

ダンジョンが全開に力を込め大剣の柄を右手、左手を刀身の鎬(横面)に添えて危なげなく受け止める。

その打ち込みにより地面に脚が50cm近く減り込むが、それを気にも留めず受けた攻撃ごとプライモの全身を薙ぎ払いで吹き飛ばす。


これには凛堂も苦笑いを浮かべる。

自分は以前その打ち込みで飛ばされかけたと言うのに、平然と止めやがった。

これだからコイツは。




そしてプライモも嘗ての古い記憶にある彼と全く同じ強さである事を認識し、空中で召喚した重抑の剣に乗り浮かされた高度10m付近で滞空。


ダンジョンが操る迷宮大剣、あれは厄介だ。

頑丈だし刃長も2m10cmはある、横幅も40cmはあるな。

凛堂は別軸の強さ、どうしたものか。


空中で更にもう一本。

炎火の剣を浮かべ、秒速10m程度で飛行しながら炎の斬撃を放つ。

縦10m中心3m程度の斬撃である。








ダンジョンはそれに対して大剣を両手で握り右横へ構える。

そして眼前に迫るかという時、只全開の力を込めた左への叩き付けで直撃を避け地面へと攻撃を流した。

その余波が直撃した地面は直径4m程度抉れていた。


その荒技を見て、思わず巳浦が声を上げる。

涼木達も同様に盛り上がり、それは周囲の英傑達にも言える事であった。


何よりネイシャは、自身が通用しなかったあの魔王が本気を出したらここまでの存在なのだと理解して戦いを挑んだ無謀さに震えていた。




ダンジョンは軽く息を吐き大剣を地面に突き刺す。

そして今度はこちらの番だと告げる。

プライモはこの距離から何をするつもりだ?と怪訝そうな顔をするが。








大剣に魔力を込める。

それは、2、3、4秒と経過する毎にその規模を大きくさせていく。

そして10秒ほど経った時。

ガイダル達も知らない攻撃を、ダンジョンが撃ち出す。




大剣に纏われた半径にして5m近い膨大な幅の魔素を上空へ向ける。

そこに加わる、詠唱。


ーーーーー《迷宮大剣・極砲》。

それは、瞬きと共に起きる。




天へ吼えるかの光景。

対象を捉え放たれる、縦横10mの円から打ち出された超高密度の魔素光線。


最大距離にして100〜200m近い前方までを全て消し炭にする閃光纏いし光。

それを見た英雄等は、幾らなんでも異次元だと皆が皆息を止めてしまった程。




弱点は溜めに10秒と言う凄まじい待ち時間がある事だが、これを止めに行っても真正面からダンジョンを止める必要がある、不可能に近い矛盾。









プライモは、自身と同じ耐久度を誇る重抑の剣と炎火の剣が2本とも砕け散るのを見て警戒を最高値まで上げる。

残った自由の剣と別に雷電の剣を左手に持ち、2本でダンジョンへと空より襲い掛かる。

だが単純ながら堅牢である大剣による防御を破れず、ダンジョンに止められる。


しかしダンジョンも先ほどの攻撃には魔素を浪費した様子で息が上がっているのが目に見えた。

このまま行けば何処かで隙が生まれる。

そう思い好機を見た矢先、





斜めから薄く長い刀が横入りしてくる。

凛堂の救援だ、これにはダンジョンも感謝する。


だがプライモからすれば折角の好機を潰され不快で仕方無かった。

そして交代と言わんばかりにダンジョンが後方で胡座を掻く。

仕留められない歯痒さに後ろ髪を引っ張られるが、それ所ではない。




凛堂による長い刃の斬撃はこちらの間合いを超えており、しかも以前と違い重抑を失った制限で上手く姿勢を崩す事もできない。

かなり困ってしまった。


何とか自由の剣による補助で凛堂相手に少し有利な打ち合いを進めるが、彼が時折みせる居合は2〜3秒で巳浦のskillと同等の威力を持つ巨大な斬撃を放つ。

邪魔で仕方無いが、止めに行くと即座に抜刀してくる絡繰だ。






上手く隙を突き刃を横に流して懐へと潜る。

そして自由の剣により威力と速度の上がった単純な斬撃を入れるが、凛堂がコートに仕舞っている刀剣が盾となり上手く入り切らなかった。


まぁそれ越しにも痛みはあり左の鳩尾を左手で抑えて何歩が引く。

それを逃す筈もなく同じ歩数で間合いを詰める。




そして自由の剣を瞬時に消したかと思うと、雷電の剣を右手に握る。

凛堂が危険を察知したのも束の間、右手で突きと同時に放たれる一筋の電撃が凛堂の刀身による防御ごと強烈に感電させる。


凛堂からしても滅多に無い激痛に呻きを上げるが、そこに追撃と言わんばかりの雷電の剣による薙ぎ払いの斬撃。

それは何とか痛みを堪えて左腕で握った刀で相殺するが、反動で後方へ飛ばされる。







プライモが間隙生まぬ連撃を仕掛けようとした時、凛堂の右脇に差された刀が居合を構えていることに気付く。


それは飛ばされながら溜めていた為、既に2秒分の魔素を含んでいた。

横幅10m、縦2mとテン戦で見せた斬撃を打ち出す。

しかし咄嗟に雷電の剣による斬撃で殺し切る。

此方も横10m、縦3mと炎火の斬撃級の攻撃で相打ちとなったのだ。

(縦向きか横向きかの違いでしかない。)






溜め無しでの斬撃で相殺されるのに笑いが出てしまうが、そんな笑いを止める連撃が襲い来る。


英雄等からすれば凛堂1人取っても勝つのは困難と言うのに、それを相手に常に8割近い有利を取るこの怪物は何だと。

そんな感想が雨の様に止まない。







そうして追い詰められる凛堂が、一旦上空へ跳んで距離を作った。

プライモは一瞬反応が遅れてしまい一歩遅れて空に跳び上がるが、それが決定打となった。


既に跳びながら右脇に溜めていた居合が、5秒の時を迎える。

そして抜かれるのは《犠剣》。





凛堂を中心に輪状の魔素が剛速で振り抜かれる。

基本として魔素を飛ばす攻撃は秒速10m程度となるが、犠剣はその魔素による攻撃ではなく刀身本体の攻撃が最も危険である。

が、余波の魔素出力でさえも巳浦の《刀衝》《剣衝》を凌駕する威力を誇り到底無視出来る攻撃ではなかった。


プライモは以前の再現とばかりに再び雷電の剣による斬撃を放ち何とか半減させる。

(前回は炎火の剣と雷電の剣を同時に使用していたので今回は殺し切れなかった。)








流石の威力にダンジョンも拍手で応援する。

お前も来いよと言いたくなるのを抑え、更に溜め続けていた居合から二度目の《犠剣》を放つ。


ーーーーー古い昔。

鎖国に訪れた魔王凛堂の戦う姿に心を打たれた切咲は、若き日の光景と同じ強き姿を見られて感激の涙が止まらなかった。




そしてプライモは決死の魔力を込め、雷電の剣でその眼前へと迫る刀と打ち合う。

だが異次元の威力に健闘虚しく刀は1秒程でへし折られてしまい、薙ぎ払う勢いでプライモは空中50m高度から地上へ撃墜する。









上手く着地する事は出来たが既に、

【重抑の剣】【炎火の剣】【雷電の剣】

主力の防御手段、攻撃手段が潰されてしまい悩まされていた。


取り敢えず大地の剣を空中に呼び、右手に自由の剣を握る。

回復体制だ。



遅れて地上に降り立つ凛堂の黒を舞わせる風体は、文字通り絶望を感じさせる程の圧を放っていた。








テンは以前の戦い、やはり加減していたのだと知り呆れ声を出す。

するとヴェルウェラが滅多に見せない興奮した顔を見せているのに気付き焦って声掛けする。


お前が出たら試合が滅茶苦茶になるぞ!

そう言われて頭を冷やし席へと座り込む。



黒人の中で最も好戦的である彼女。

しかしお眼鏡に適うほどの強敵は居らず、最近はめっきり静かだった。

だがよりによってこの場で暴れるのだけは勘弁して欲しい。


何とか抑えてくれた辺り成長したのだな、と。








この試合を通じてプライモと言う最高の存在と手合わせしたいと思う者達。

魔王と呼ばれる怪物と戦いたいと思う猛者達。


皆が理由は違えど戦ってみたい欲求に駆られていた。

今も目前で行われる剣戟のあまりの速度、そして技量の高さに剣使いとして目を奪われる英雄が続出していた。

ーーーー試したい、自分の力を。



そんな中、プライモは勢いの上がってきた凛堂と後方で佇むダンジョンの二人は流石に相手し切れないと判断して松薔薇へ声を上げる。









「ねぇ松薔薇ぁぁぁっ!!」


「え!

ーーーー何でしょうか?」


「コイツらやっぱり強いってっ!

もう1人仲間が欲しいっ!誰でもいいっ!」


「え、仲間………………」





「おいおい珍しく弱気だなっ!

そんなに魔王は強いかぁっ!?」

「まあ確かに2人はやりすぎっすね。」


「黙れよお前らっ普通に考えて体力が足りないよっ!

僕は別に神様じゃ無いんだからっ!元から人間なんだから300lvでも200lvの魔王と大きな能力差は無いんだってのっ。」








その呼びかけに応じるかの様に。

沢山の挙手が挙がる。


松薔薇は採決を採らねばならない立場上出られないが、元々出たくないので結構であった。




そうですね、この中なら誰が。

ーーーーーうん、そうですね。


そうして1人が指差される。

しかしその当人は全く挙手に参加しておらず呆然とした顔であった。

だが松薔薇から大声で舞台に上がる様に言われたので嫌々ながら上がる。








魔王側もその人間を見て警戒も込めて動きを止める。

プライモが一先ず名前を訊く。


軽く服を叩き埃を払いながら名乗る。









「ーーーー嫌というのに、全く。」


「ベルデーナ・ガレトロ。

この私自ら戦う事は滅多に無いぞ、感謝しろ。」




「はは、強気だね。

じゃあ刀使いの方頼んでいいかい?」


「な、アレとか?

………………やはり帰っても良いか?」


「う、嘘だよ嘘。

じゃあ大剣の方宜しくね。」









「承ったぞ。」


「お嬢さんが僕の相手っすか。」


「そうらしいな、化け物。」


「な、化け物って!?

何なんすかもう印象悪いなーーーー」








「黙れ。」







ダンジョンの頭上へ跳び上がると、大剣による防御越しに本体へ横反時計回りから左後ろ回し蹴りを与える。

常に接触の瞬間に合わせて最大出力の電気を纏う事により、防いでも殺し切れない体術。


しかし同等の英雄なら焦げる様な痛みに顔を歪ませるはずが驚いただけの様子で喋ってくるダンジョンに瞼を見開いてしまう。




素手の右突きを咄嗟に防ぐ。

防いだが、強烈過ぎる攻撃を受け切れず両腕を真上へ弾き飛ばされる。

そこへ左の横振り(フック)を打ち込まれる。


それは、確かに本人の右脇を捉えた。

ーーーーーしかし。





ダンジョンの全身へ落雷が落ちたかの様な電流が駆け巡る。

彼女のfirstskill《反電》である。


受けた攻撃に対して電気魔力を爆発させ攻撃を相殺し、且つ対象へ電撃を与える攻防一体。

それで現役の頃は敵無しであったが、この化け物は、








「あちちっ!?

さっきから痺れますねぇ、面白いっ!」


「なんだと………」


「そぉらドンドン来て下さーいっ!」


「な、馬鹿なーーー」








彼女の肉体へお構いなしに素手の攻撃を連続で打ち込む。

当然何度も何度もその反撃を喰らうが、どれも軽傷に抑えられている。


それはダンジョンの自然魔力による治癒能力が全生物最高値を誇るのが原因であった。

つまり、電気魔力の相性は最悪。



そうして30秒近い接近戦で20発程度《反電》を喰らっているにも関わらず受けた火傷を数秒で完治させてしまう異常さに恐怖を覚えていた。

このままでは追い詰められると判断し、別の技を試す。





左手を貫手状にし、そこに纏った電撃をダンジョンの胸へ打ち込む。

Second skill《貫電》、対象の肉体を通過する電撃を与える攻撃である。


これにはダンジョンも内蔵への負傷があるせいでとうとう右膝を地へ突く。

素晴らしい一撃である。







そこへ畳み掛ける様に《貫電》を頭部、太腿へ入れる。

流石に回復が追い付かず10〜20秒程度回復を要する事態となる。


それを察知したベルデーナは全開に帯電し、両の手に魔力全てを込めた最高の一撃をダンジョンの胴体へ叩き込む。




third skill《全電》。

使用時点で残っている魔力を全て使う一撃必殺の技。

両腕の正拳突きを伝い流し込まれる電撃は対象の血を沸騰させ肉を焼く。

本来なら即死、同等の存在でも防御にほぼ全ての魔力を使い切る程の威力だ。


それを一切の防御無しに喰らったダンジョンは全身から湯気を立たせて両膝を突いていた。


これには巳浦達も驚いて席を立ち上がる。









2分経つかどうかのやり取りでダンジョンを一時的に沈めたベルデーナという女性の強さに同じ英雄達も一目置く中。

黒人一、いや全体でも1、2を争う屈強さを持つ男がダンジョンの強さを警告する。


この男はフシューゲル。

大魔戦記時、大剣を担ぎ本気で向かってくるダンジョンを1人で討ち取った怪物である。

身長229cm、158kgの巨体である。







その場に手をつき激しく呼吸するベルデーナがそれを聞きダンジョンの方へ顔を向ける。


そこに居たのは、これまでに見せていた姿とは全くの別人であった。




全身に黒い円の模様が十数個出現し、無表情で身体から魔力を噴出させている。

これを見た凛堂がプライモを呼び止め急いでダンジョンを止める様に要求する。


プライモは訳も分からぬ内に取り敢えず指示に従い凛堂と共に横のダンジョンへ向かう。

その時。








消した大剣を右手に顕現させ、ベルデーナの真上から真下へ振り下ろす。

何とか凛堂とプライモが左右から飛び込み自由の剣と迷宮刀を横へ向け止める。


だが只でさえ強烈な一撃を、普段からは想像出来ない毎秒1発と言う連撃で叩き付けてくる。

これには二人も耐え切れず十秒ほどで見る見る内に姿勢が潰れていく。



急いでベルデーナに肩を担ぎ松薔薇が席へと避難させた時。

堪え切れず左右へ逃げた二人の足元へ振り下ろされた一撃は、その2mを超える刀身が丸々陥没する程の脅威的な破壊力を誇っていた。

確かにこれは真面に防ぎ切れない。





この機械的に対象を攻撃し続ける状態は、

summon skill《狂追》。


本人の意識が飛び、体力が切れ肉体が動かなくなるまで人形の様に動き続ける能力。

この状態では痛みによる怯みが一切なく、問答無用で全攻撃に対して相打ちにしてくる為もう手が付けられない。








対象が確認出来ず10秒程して停止。

少しして様子が戻ると、ダンジョンは申し訳なさそうな顔をして周りの観客や強者へ頭を下げる。


それを見た者は突然殺戮の権化と化したダンジョンの、その悪鬼を思わせる姿が脳裏から離れず鳥肌を立てていた。

それは先まで戦っていたベルデーナも同様で、まるで別物の強さを隠していたダンジョンに底知れない恐怖を感じ静かに震えていた。



松薔薇が無理もないと励まし、今回の戦いに幕を下ろす。










「色々ありました。」

「双方方共素晴らしかったです。」


「試合結果ですが、どちらも明確に決着とは行きませんでした。

なので扱いとしては引き分けにします。」


「よってこの試合。」

「プライモ&ベルデーナVS凛堂&ダンジョン。」


「ーーーーーー同率とします!」








妙に悔しげな顔のダンジョン。

良い戦いだったと互いを讃える凛堂達。


そしてその他の英雄や天使達も皆が最高の戦いを見て久しぶりに血を滾らせていた。

それ程までに影響力のある内容であったのだ。



時刻は9月7日、正午過ぎ。

興奮冷めぬ内に試合は閉幕する。


しかし、それだけでは終わらなかった。

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