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英雄までの物語  作者: ノンプロット
一年期七月下旬〜 反英雄
72/113

六十九話 ようこそ





9月6日。

午前11時30分頃。


ブレイドとクラスはE地区守護者のエヌルに連れられてA地区に訪れていた。



ここは他の地域と比べても明らかに豪奢な飾り付けや建物が多く、露店や大衆食堂がある様な雰囲気は一切無かった。

道を歩く人々は皆ドレスや燕尾服、背広スーツといった高価な服を身に付け道行く。


この空気は、二人には合わなかった。

そうして半径1km程度に詰め込まれた異様に爛れた街の中央に大きく陣取る、直径100m程度の外壁が現れる。

ここらしい。








右門の入り口に立つ門番達へエヌルが挨拶を通し、二人は内部へ入場する。

門番も遠目から子供が来るので何かと思ったら先日親衛隊を討ち倒し、剰え国内最強のアルバにかなりの抵抗を見せた少年たちであった。


突然の来訪に理解が追いつかずにいたが、招待された以上やはり認められてたのだろうと内心羨ましくも思う。



そんなこんなで二人が外壁を潜ると、そこには親衛隊13人が総出で横並びに待っていた。

そして待っていましたとばかりにドルフやエンジーナ達が手を振って挨拶してくる。

此方からも手振りすると、アルマと呼ばれるアルバの弟らしい人物が少し外方そっぽを向きながら声を掛けてくる。









「んっん、良いか君たち?

僕達はこう見えて国で偉い人間なんだ、ここには身分による序列は無く代々力で順位を決めている。」

「それで、その、姉さんに力を見せた君!

ブレイド君!」


「は?はい。」


「あーっとそのね、君に会いたいって人が居るんだけど。

ーーーー凄く危険な人だから、気を付けてね。」


「あー、はい。

(危険?あんな強い姉さんを横に置いて危険って、一体どんなーーーーー。)」








ーーーーーー。

あれ、体調悪かったっけ。


なんで、妙に頭が痛いような。

………………これ、魔素の影響に似てる………?



それは、いつの間にか居た。








ブレイドの背面に人が立っている。

真っ白な長髪を縦に二度折り返して中間を縛る女の子。


三度見する程端正なその女子は、ブレイドの背中に頬を当てて体を擦り付ける。

だがそれに対しての興奮は一切なく、奇妙な圧に腰が浮き上がるような感覚で一杯になる。



親衛隊も無音でそこに居た彼女に遅れて気付いたのか、一斉に挨拶を送る。









「お早う御座いますマリウェル様!」

「今日も綺麗でーす!」


「お、俺もそう思いますっ。」

「ぼ、僕も!ーーーですっ。」






「お早いですねマリウェル殿。

プライモ殿は?彼が来る予定では。」


「…………就寝中。

暫し起きぬ故、代役として観察。」


「はぁ、そうですか。

ほらブレイド、彼女に挨拶しろ。

クラスもだ、早くしろ。」





「「お、おはようございます。」」


「………………うむ。

両者、特別。」








そう言われると英雄の子孫ですから、と言葉を返す。

すると彼女は調べる様に顔を寄せてあちこちから覗き込んでくる。


ネグリジェのせいで隙だらけの胸元がちらついているのにも関わらず、二人は勘の様なものが働き危険信号を全開に感じ取っていた。



その様子を見て二人に感心したマリウェルは何やら考える素振りを見せながら瞬きと共に消えていた。

彼女等天使の特性である魔素化により文字通り消えているのだ。


だがロウスの契りにより魔力を封じられ、結果的にskillやSpecialも封印されているので今はただ霧の様な存在である。

そしてこのA地区内から出ようものなら彼が飛んでくる為どの道逃げられない。

なので大人しく帰っている。

ーーーーそれだけではないのかも知れないが。





息が詰まり荒く深呼吸をする二人に不思議そうな顔をする守護者達であったが、アルバだけは動じぬその顔に汗を垂らしており鼓動も激しくなっていた。

真の強者だけが理解する、本質的な恐怖だ。


それから二人に改めてアルバから話を広げる。









「良いか二人、よく聞いておけ。」


「お前達はこれから月末までこの国に預かる。

凛堂から4日の夜に頼まれた件だからな、大切に扱うと約束する。

ーーーー特に、お前はな。」


「……………あぁ、俺か。」





「横のクラス、お前はセルペアナを容易く打ち破っていたな。」


「え?そんなそんな!」


「慇懃だな、素直に認めろ。

お前に関しては正直私くらいしか稽古を付けてやれん。

相性が特殊で基本的な武器では相手にならんだろうから、魔巣に入る事を勧めておこう。」


「えぇぇぇぇっ!!?」


「心配するな、その魔巣を担当する守護者と組んで行って貰うから寂しくはないぞ。」


「いやそういう話ではなくてですね?

私はーー」


「隠すな、お前が遠距離も近距離も強い事は分かっている。

一見貧弱だが奥に秘めた凶暴性には目を見張る物がある、寧ろ他の守護者への良い経験になるだろう。」


「私は仲間と探索したかったんです………っ!」


「ふむ、だったら条件ありだがそれも良いぞ。」









アルバがブレイドにも指を差しつつクラスへ言い放つ。

それは、何と。


ブレイドの顔が、冷めていく。

いや、青ざめている。









「【ブレイド以外】の3人で行け。」


「ーーーーーー?

いや、おかしいだろ!?」


「お前だけは駄目だ、分かってくれ。」


「嫌だ!俺もあいつ等と探索したい!」





「クラスぅぅぅぅ!!お前も何とか言えぇ!」


「ではよろしくお願いします。」


「クソが手前ぇぇぇぇっ!!」




「良いじゃないですか、あの人ならば魔巣でなくても良い練習になりますよ。」


「な、なぁに調子良い事を。

お前俺の事嫌いなのか!?なぁ!」


「大切な友達ですがーーーーー時には。」


「やっぱお前の都合しか考えてねぇだろ!?」








そうして一人狂っているブレイドに、後ろから手が回る。

急で驚くと、アルバが優しい目付きで見つめてくる。



この際伝えておくべきなのだろうと、ブレイドはある事を口にする。

それは、ソディアという彼女がいる事。


それを聞くとアルバは一つの言葉を返す。








「別に結婚はしていないのだろう?」


「え?ーーー訳ありだからさ…………」


「私には訳も遠慮も要らないぞ?

ほら、口では拒絶しても静かに抱かれているじゃないか。」


「えぇっと、あぁっ。」





「姉さん止めてくださいっ!

僕が弟から義兄になりますから!

この歳でですよ!?」


「別に良いだろう、アルマ。

それにそのソディアとかいう子は普通の女の子だろう。

私の方がお前には相応しいぞ?」


「ーーーーーーーいや。」









アルバの手を優しく降ろすと、ブレイドは嘗ての後悔を思い出して苦い顔になる。

それは守護者達からしても意外な態度であり、まさかそういう事なのか?と疑問を抱く。


そしてブレイドの口から告げられる内容に、大きな衝撃を受ける。





表代表4人とその連れ2名、裏代表4人。

それ等に起きた激しい戦闘と、生々しい現実。


それはブレイドが二度敗北し、あの守護者を破ったフィスタ、クラス、フレムでさえ全員脱落した事実。

信じられない内容であったが、他の者達が唖然とする中アルバはその話に出て来た二度の敗北という部分に注目していた。



聞くと、二度目の敗北はソディアとかいう彼女相手だと。

いや、当人達はお互いに負けたと思い込んでおり実際には引き分けという扱いではあるらしいのだが。


その子に興味を覚えたアルバは、いつか戦ってみたいと思っていた。







そうして諦める気の無いアルバにかなり厄介な事情になったと頭を抱えるブレイドであるが、クラスは飛び上がり起き上がり喜び回っている。


真面目に殴り飛ばしたくなって来るが、兎に角ブレイドはアルバと共に生活する羽目になる様であった。

これからどうなるのかと恐怖と心配で一杯になるが、アルバはそこまで思い詰めないで欲しいと優しく声を掛ける。



気持ちの問題ではないと思ったが、その配慮には母を連想させる節があり確かな安心感があるのも事実であった。

アルマが見るからに嫌そうな顔をして何やら譫言を呟いていたが、その気持ちが痛い程理解できるブレイドもまた口から魂が抜けていた。





















「飯美味ぇ、なんだこれ。」


「ふふ、A地区だからな。

大衆食堂とも違った良さがあるだろう。」


「でもさアルバ、ここって安くないよな。

一皿に3口分くらいの牛ステーキって、見るからに高そうだし。」


「まぁそうだな、でも安い食堂と比べてはいけないぞ。

金がある人は金を落とさないといつまでも経済が回らないからな、お前も先日の闘技場で貰った13枚の金貨は使っておいた方がいいぞ。

暇な時は外出して色々と見て来ると良い。」


「おう!ーーーーー何だこの魚?美味っ。」


「………………ふ。」









A地区西側の中間にあるこの洋食屋。

平均して5銀貨程度の値段でありまず普段食べる事はない料金だが、アルバはそれを既に5品ほどブレイドに奢っていた。


周りの紳士淑女達も掃除機の如く食べ進める少年を興味深く見つめていたが、何より最強と称されるアルバが不可思議な母性を放っている事に不可解な視線を送っている。


そんな空気も無視して自身もまたゆっくりとナイフを使い上品に食べ進める。

雑に食器を使う子供と、静かに食事を摂る母親にしか見えなかった。





アルバは今後の生活について話す。

①朝7時までに起きる事。

②7〜8時は自由時間。

③8時から食事を摂る。

④9時から12時まで稽古。(地獄)


⑤正午過ぎに食事。

⑥13時から16時まで稽古。(地獄)

⑦16時以降は自由時間。

こんな日程らしい。

嫌な、予感がする。







嫌な空気感で楽しげに語るアルバに薄らと鳥肌を立てていると、丁度食事が終わり戻る事に。

11時30分から正午まで暮らす寮部屋を見たり建物を一周見学したりしており、時刻は現在13時。

ーーーーつまり。


アルバが口にする。








「戻ったら早速稽古だ。

本気で来い、受け止めてやろう。」


「ーーーっ、分かった。

でも、前みたいには行かないからな?」


「ふ、そうか。

楽しみだな、これから一ヶ月。」


「…………そう言われると、保たない。」

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