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英雄までの物語  作者: ノンプロット
一年期七月下旬〜 反英雄
71/113

六十八話 特別試合








9月5日の激闘を終え後日。

その日は闘技場内の医務室で1日を過ごした四人の内、ブレイドとクラスの2名が朝9時頃に凛堂に呼ばれ左通路の右側に掘り下げられている地下階段を登り上へ戻って来ていた。


朝っぱらから魔物と素人の賭け事が行われているのか大きな歓声が挙る中、両者はこれから具体的にどうなるのかを考えていた。

そんな中当然の如く通路で並び待っている闘技者達は前日に大激戦を繰り広げた学生の二人が元気そうに通路を歩くもので興味津々に見てくる。


見た所15程度の少し腕に自信がある輩だと見抜き興味など微塵も湧かなかったのだが、何故か凛堂が並んでいた。

ーーーーーーなんで?




話を聞くと何やら面白い人間が一人居るとの事で、興味本位に対戦を申し込んだらしい。

凛堂を相手に出来る人間なんかまず居ないし、

英雄に匹敵する人間なんか今の世の中には。


そう、思っていた。

どうやら人間ではあるが違うと、言い始める。

ーーーーーそれは、【黒人くろびと】。


ブレイドは以前会った婆さんを名乗る母によく似た女性を思い出す。

彼女も確か、松薔薇からそんな風に呼ばれて。




そうして凛堂がワクワクしながらイタズラ心で出場するに至ったらしいのだが、何故か二人とも偽名を使って出ている。

曰く本性は隠しておきたいと、有名人だな。


相手の名前は、テン。

テン?……………10。

何となく、そう連想した。





そうこうしている内に試合は消化され、10時。


先日騒ぎを起こした男、【黒堂(凛堂)】。

不運にもその相手となる男、【テン】。


そのマッチメイクについて実況係であるおっさんの解説が入る。











「先日あの人間離れの力を見せた謎の男。

ーーーーー黒堂ォォォォォっ!!」


「対するは全身を麻布に隠すこれまた素性不明の男。

ーーーーーテンンンンンンンんっ!!!」


「かの化け物相手にどこまでやれるのか、非常に楽しみであります!

それでは、カウントに入ります!」


「10!9!ーーーーーーー」









「よぉ、どこかで会ったか?

多分なんだけど、生命終記の時の銃剣使い?」


「ーーーーーへぇ、よく覚えてるねぇ。

そそ、そうだよ、いつも二人組のな。」

「今回は小銭稼ぎに出てみるつもりだったが、アンタがいるせいでどうにも楽には稼げないみたいだ。」

「でも試合中に客が金を賭ける事もできるらしいし、そっちに大盤振る舞い期待だねぇ。」


「はいはい、がめついと。

でもそれも、俺が勝ったら全部無しだぜ?」


「へ、黒人舐めすぎだぜ、魔王の凛堂さんよ。

俺達の強みは、まぁ怪物3人を除き武器の作成技術にある。

巳浦の奴が使ってる【ウォーカーブレード】、あれも今となっては中期型だ。

あいや、確か【狂いの漆刀】とか呼んでたか。」






「時代は四十世記ィィっ!

俺達の技術は二千年進み、お前ら上位高位の存在が操る武器を超える物を作ったんだヨォ! !」


「見よ!この輝き!圧倒的に造形ィッッッ!」





「ーーーーーうわ、イケてんじゃねぇか。」


「そうだろ!そうだろ!?」









そう言って外套を脱ぎ捨てると、女の様な顔をした少年?が現れる。

肩に付く程度の黒髪をカチューシャで後ろに纏めている分顔が良く見えるのだが、実に可愛い。


それに、声は普通に高めの中性声で奇妙な感覚に陥る。

凛堂からしてもあまり関わって来なかったのでその気色悪い外見に戸惑っていた。

(当人は外見など微塵も興味がないので世間的な印象を理解していない。)




しかも服の基準を理解してないのか謎に黒を基調として女物の服を身に付けており、訳の分からない造形の良い変態にしか見えなかった。

無駄に絹製で質の良いスカートを膝下に揺らしながら凛堂に宣言する。









「お前みたいな戦闘狂いの変態野郎に負けてたまるかヨォ!あぁんっ!!?」


「………………お前はその、自分の服の意味分かってんのか。」


「…………あぁ?服?これがどうした。

仲間の女が使ってる服借りて来たんだよォ。

丁度魔物狩りで服の予備が切れてな、まぁ動きやすくて悪くねぇなぁ。」


「そこだ、お前男だろ。

何普通に女の服着てんだよ、常識狂いの変態野郎が。」




「「ーーーーーやるか?」」








途端に。

吐き気を催す程の殺意に染め上がった墨の様な強化魔力を噴出し。

見る者を恐怖に染め上げる程の天変地異を体現した様な強化、加速、電気の魔力の嵐。


直径100mの会場内を完全に支配する、両者の絶対的な魔力。

それらが秒で本人に収まったかと思えば、二人が武器を構え始める。

ーーーー始まる。




帯刀している予備の刀達ではなく、魔力を極限まで圧縮し形を成す【迷宮刀】。

プライモに以前使用した刀だ。


綺麗な光沢と非常に薄く長い本身が特徴的であり、黒色の刀身にも関わらず日の光を浴びると全て反射する性質を持っており見る者を取り込む魅力を持っていた。

厚さも刀の平均である7〜5mmを下回り脅威の2〜1mmとなっており、長さは本人の身長である182cmと同じく180cmで柄54cm本身126cmの長刀であった。

(平均が柄3割、本身7割程度とされる。)









一方の彼ーーー彼女?いやいや、彼。

彼の武器はと言うと、これまた興味深い形状を誇っていた。


長身の銃と言った形状なのだが、先端の銃口部分に刃が取り付けられている。

そしてそのロングバレル(発射部分の長さ)に対して矢鱈と大きな弾倉が持ち手に取り付いているのだ。

それは矛盾であり、まるで散弾銃の形状と機関銃の弾量を合わせた様な、奇怪な物であった。




それの銃口付近を右手、握りを左手で持ち準備万端と言った顔である。

それは凛堂にも言える事だ。


ーーーーーーあぁ、我慢出来ねぇ。

動いたのはテンである。






銃を左手に持ち左半身を前に向けて片手で撃ち込んでくる。

凛堂は開幕の数発が飛び込んでくる軌道を銃口から予測して全て切り落とす。

初っ端から恐ろしいやり取りである。


なのだが、どうやら集中している様子の凛堂に対して未だに意識が雑なテン。

何か、おかしい。




それは見ている観客には分からなかったが、クラスとブレイドには分かった。

何か、隠している。

何だ?まだ何か有るのか。


予想はーーーーーー的中してしまう。







銃口を片手ではなく両手で持つ。


凛堂はそれを見て反射的に危険を感じたのか。

全開の魔力を込め両足で真上に跳躍する。


そしてーーーーー到達する。









「ーーーーーーおいおいおい、嘘だろ。

お前それ、狙撃銃か散弾銃の類だよな。」


「おうよ。

威力は狙撃銃、発射数は散弾銃。

ーーーーー連射力は、拳銃だ。」


「ーーーーー面白ぇぇぇぇっ!!」









凛堂が立っていた直線上に地鳴りの様な音を鳴らす銃撃が連続して射出されていた。

耳が数秒麻痺して聞こえなくなる程の音圧を放つ銃撃である。


反対側の壁にまで到達して止まる散弾の総数は、実に100。

一発の弾薬に20粒の散弾が込められており、それを秒速5/秒で撃ち放ってきたのだ。



そして弾倉にはこれが予め100発詰め込まれている。

魔王級でなければ既に負けているか、大きな不利を背負う事になるだろう。









そうして上空50mまで秒で飛び上がった凛堂に対して地対空で連射してくる。

散弾数が多く防ぎ切れないため飛び上がっている時点で居合の構えを取り3秒溜めていた。


そして、レイブンの【血の拳】による砲撃すら軽く消し飛ばす威力の魔素の塊を刀身から地上へ放つ。

それを視認したテンの動向を見て驚愕。









違う黒、白、灰の三つの弾薬の内先程まで撃っていた白の弾が込められていた弾倉を取り外し、黒の弾薬が込められた弾倉を取り付けたのだ。

(元々腰の横に一つずつ替えをベルトにより付けていた。)

そして、迎撃する。


ポンプ式で1発ずつ排莢する代価に、その弾は凄まじい破壊力を誇る。




迫る横幅10m、縦2mの巨大且つ激烈な斬撃に、爆撃の様な射出音を鳴らし銃撃を打ち込む。

凛堂の迎撃を、更に迎撃で落とした。


空中で完全に勢いを殺された魔素が霧になって消えていく。

凛堂も驚いた顔をしている。


だがテンの射撃は止まらない。







続けて何度も撃ち込まれる単発の弾丸に対しそれならと通常の刀による斬撃で切り落とす。

これは最初に撃ち込まれた時の20装填弾と違い1装填弾な事もあり手首に来る衝撃も重く、その弾の圧力でいつまでも上空に打ち上げられる。


クラスも銃を基本形態として使うが、この異次元の攻撃に理解が追いつかず口を開けっぱなしにしていた。

ブレイドは、凛堂の途轍もない刀捌きに見惚れて息が止まっている。








そうしていると、凛堂が何やら自身の3秒溜め斬撃を盾にして更に連続で居合の構えを取り始めた。

それはテンには見えておらず、角度的に左通路側にいたブレイド達だけが目視していた。


1〜2秒で六発撃ち込まれ消滅した斬撃の先には、既に3秒溜め終えた凛堂が更に連続して斬撃を放って来ていた。

これにはテンも目を飛び出させ、焦って弾を撃ち込む。


その間の3秒で上空50mから着地した凛堂は、秒速50mという速度で飛び込み一瞬で形成をひっくり返した。

つくづくーーーーーーーー魔王。








テンが黒弾倉に十分な残弾を75発程度確認すると、強気に迎え撃つ。

凛堂にとっての近距離とは普通の武器の長さからすれば間合いが遠く、相手本人は攻撃が届かないという有利な側面がある。


しかしそれを反対側、正面側に銃撃する反動で逃走→攻撃と高速循環させる事で瞬間的に秒間60m近くの速度を出し凛堂の秒速50mの速度を人一人分程度躱していた。


凛堂からしても自身の攻撃を避けられる状況はあっても逃げられるのは珍しく、本気で楽しくなっていた。



そうして超速の戦いが繰り広げられる。

ーーーーーまぁ、問題も起こる。










空撃ちが起きた。

テンは把握する。


毎秒1発の間隔で撃ち出入りを続けたせいでたったの1分30秒程しか状況が保たなかったのだと。

しかも1装填弾でないと威力が低く弱い反動しか付けられないため逃げる事が困難になるのだ。


なのにも関わらず、テンは灰の弾倉を速取り付けて追ってくる凛堂に対し真っ向から迎え撃った。

その結果は。









「ーーーーーうぉっ」


「ヘッ!本来はこの戦闘法なんだよォッ!」


「ちょお前っ!!ーーーーうぉっとっ!」









凛堂の斬撃に銃撃を放ち軌道を真下に落とし、地面に刀が食い込んだ隙に先端の刃へ強化魔力を纏わせーーーーーーーーー届いた。


凛堂は自身の身に付けている左右開きの黒コートごと切り裂かれ、久しぶりに真面な攻撃を受ける。

これは闘技場のルールとしては別に問題ではないのだが、魔王という上上位の存在としての威厳がそれを許せなかった。




突然頭を抱えて呻き始める。

周囲も何事かと思い見守る中、凛堂は萎えた顔でテンを見る。


テンも魔王という存在がとても誇り高いのを知っている為一撃直撃を当てられれば流れが変わるのではと思っていたが、まさか戦意を無くすとは思わなかった。


テンも意外な態度を見て拍子抜けと言った顔をしていたが、当の凛堂は持っていた武器すら空間に還しその場に足を伸ばして座り込んでしまった。

これは、終わりなのだろうか。









「おい、終わりなんか?」


「正直余裕で勝てると思ってたから衝撃を受けてな。まぁ黒人も流石だわ。」


「へへ、強いだろ?

でも俺も久しぶりに全力で戦ったから気分も晴れたぜ、あんがとよ。」


「へいへい、まぁ取り敢えずお疲れ様。

にしても良い武器だなぁ、全く読めないわ。」


「でも次戦ったら通用しねぇんだろ?

お前らはそういうバケモンだからなァ。」


「まぁそうだけどよ、戦いに二度はねぇ。

何たって魔王は誇りがあるからな、これが戦争なら俺は死んだも同然なんだよ。

ーーーーお前、よくよく見ると本気で男に見えなくなってくるな。」


「まぁそれは昔から仲間にも言われてんだ。

おまけに髪が伸びるのも妙に早くて一月で3cmも伸びやがんだぜ?普通の三倍早ぇとよ。」


「ハハ!そりゃあ大変だなおい。

この試合は盛り上がったみてえだ、今回はお前の勝ちで無事闘技場側九割で無事金貨50枚だとさ。」


「……………でもよ、お前があのまま続けてたらどうなってた。」








「勝ってたぞ。

犠剣は周りに人間が居るせいで使ってないだけだからな、本来なら居合斬撃を放った直後に5秒溜めちまえばそれで詰んでたろうな。」


「馬ー鹿、そもそも加減無しで魔力纏えば黒弾以外の白弾と灰弾程度9割相殺出来ちまうだろ?」


「……………そりゃあお前、楽しくねぇだろ。」


「まァね。

んだからまぁ半々で分けようぜ、見せ場作ってもらえて俺も気分良いんだよォ。」


「え?真面目に?良いのか?」


「うんうん、マジマジ。

右通路の右側面に掘り下げられた地下で受付してたから、そこで賞金貰ってくるわ。

お前は一先ず左通路側に帰ったら半周して右通路側に来いヨ。」


「なら悪くねぇわなぁーっ!ハッハァっ!」









そうして凛堂が途中で棄権し、まさかのテン側勝利となった。

そうして会場が10時半を迎える頃。

ーーーー。


















「ホラ、25枚な。」


「いやぁ悪いな。

ーーーーーそういやお前、なんで金が必要なんだよ?俺もお前らの事言えねぇけどよ。」


「あん?それはまぁ、服買うのとか高級な魔物の素材をギルドから買い取るのに金が要んだ。

今使ってるこの武器、極稀にしか生まれない70LV相当の【鋼鉄スライム】を使ってんだ。」


「指先くらいで平然と1金貨とかしやがる。

それをたっぷりまるまる一体買い取ったから500金貨はする一級品って訳だ。」




「まじかよ、糞高ぇじゃねえか。

でも金さえあれば作って貰えるなら俺も趣味程度に欲しいな、例えばーーーーー鞘とか?」


「別に作れるぞ、どの程度の質を求めるかで当然値段は変わるし材料と金は持ち込みだけどな。

41世紀になってからは飛空艇で移動すんのやめて皆んなバラバラに暮らす様になったしな。

あーでも、ヴェルウェラは今バルト王国辺りって言ってたっけな。」


「飛空艇はどうしたんだよ?

あの魔力を動力に飛ぶ超絶機械は?」


「北側の壁外すぐにある監視塔の横に置かせてもらってんだよ。

別に監視員に下界証明書を見せて許可貰ってるから大丈夫だぜ。」


「そうか。

ーーーーーいや、お前今どこいんだよ。」










「ーーーーバルト王国から北に100km。

天然の遺跡がある冒険者御用達の場所さ。」


「…………………ヴァンデル遺跡か。

あそこは国程確りした機関がねぇからな、集まった冒険者どもで集落が出来てるんだよな。」


「そそ、んでそこで身分隠して静かに暮らしてんだよ。

戦いは好きだけど今の時代中途半端に目立っても良い事なんかねえしよォ〜。」


「まぁ、後で暇あれば行ってみるわ。

そんじゃお疲れさん。」


「おうおうっ。」










その後駆け付けて来た二人に色々と質問攻めに会うが、適当に流す。


そうしているとダイエンE地区内では既に闘技場を家の中継で見ていた国民達が常識を超えた戦いに打ち震えていた。

外に出て来て態々声援を送ってくる始末だ。


だがその中には先日の親衛隊戦を褒めてくれる声もありブレイド達は嬉しく思っていた。

すると、周りの人々を退かして馬車から降りてくる者が一人いた。

ーーーーーこのE地区を担当するエヌルである。









「朝っぱらから何凄い試合してるんでーす!

多分他の親衛隊さん達も皆顎外れる勢いで見てましたからぁ!」


「午前9時半頃にA地区を馬車で出て、10時頃の中継を何となく見てたら貴方が戦い始めてるもので驚愕でしたよ、もーう!」






「そーれーと、丁度私の所に皆いるので連れに来ましたー。」

「一回A地区まで来て、そこからは各自好きな親衛隊を一人選んでペアで活動してくださーい。」

「それじゃあ行きましょうねぇ子供達ー。」


「ーーーーーあぁっと、フレム君とフィスタ君の様子は?

まだ無理そうです?」





「フィスタは分からないけど、フレムは右足に亀裂入っちまってるみたいで。

今は松葉杖借りて動くぐらいがやっとだよ。」


「えぇ、正直地面が固かったのでしょう。

夢の中で固い、固い!って呻き声上げてましたから。」


「そうですかぁ、なら今は二人だけ来ます?」


「それが良いな。」

「私もそれで。」


「はーい分かりましたぁ、馬車の座席に。」








凛堂は先の戦いで少し魔力を消費したので飯を食べて来るとどこかへ消えた。

その間、二人は再度の往復でA地区に向かうのであった。

時刻は、現在10時30分過ぎ。

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