六十七話 第四試合
驚きの連続となります。
最高峰の試合を三戦続けで見て、観衆や親衛隊、凛堂達全員の気分が高まっている中。
何と言う事も無さそうにフレムが自身の右ポケットからライターを取り出す。
周囲はそれで何をするつもりなのか良く分からなかったが、当人の戦闘において重要な役割を持つ。
対戦相手となるゲンシェルドは、白拳法着の袖を折り左半身を前のめりに左手を前方、右手を縦に畳み構えを取る。
それに対してフレムはただ左右へ怠ける様に揺れながら立ち続けるのみ。
それの意図は分からなかったが、彼なりの構えなのだろう。
集中を再開させる。
「良いですかー?始めますよー?」
「カウント怠いですねー、3秒前からでー。」
「「え。」」
「「3ーーーー!2ーーー!1ーー!」」
未だエヌル&ウヌルの不意打ちに放心しているゲンシェルドに付け込む様に。
素早い判断で左手に熱魔力を纏うと、それを瞬間的に掌の中心に圧縮する。
そして現れるーーーー青い炎。
ブレイズ。
君が教えてくれた炎がどれだけ通用するか、確かめて来る。
フレムの移動に合わせ左腕に宿す青炎が空中へ残火を残す。
それは火炎そのものと対峙した様な熱気であり、それでいてとても美しい光景であった。
目前まで迫って来るフレムに対してゲンシェルドが取った行動。
それは左膝へ体重を掛け前傾姿勢になり、左手を正面へ突き出す格式ばった構えであった。
僕の攻撃を、受けるつもりか?
やれるなら………やってみろよ。
フレムは左手のひらに宿したピンポン玉程度の青炎を握り潰し拳に纏ませる。
そして単純な突き(ジャブ)や打ち上げ(アッパー)、横打ち(フック)を使用する。
「成る程ーーーーー受けるっ!」
「だから、無理だってっ。」
当初は高熱に灼かれ受ける手首や手甲の皮膚を焼かれていたが。
徐々に、徐々に。
ーーーーーーあれ、何で平然としてるんだ。
フレムの熱に対しゲンシェルドは対応してしまった。
それは物理的に受けてるだけではなく、魔力の衝突に合わせて該当箇所に必要な分の魔力を纏わせて熱から保護していたのだ。
肉体の強度自体はそもそもゲンシェルドが優っている為熱が通じなければフレムは只の鴨である。
しかしこれ程冷静に対応出来るのは何故なのか?
理由は単純、レイブンに以前まで毎日稽古(拷問)を付けてもらっていたからだ。
彼の加減した体術ですら真面に受けていては骨が保たないので、常に魔力を放つ無駄を省き最低限必要な魔力のみ被弾箇所に帯びる技術を体得したのだ。
その名もーーーーーーー【瞬纏】。
魔力操作に長けているクラスでも簡単には真似られない技術を前に、フレムは激しく動揺していた。
何で?どうして防がれる?
どうしてコイツは平気な顔をしてこの炎を防げるんだ?
分からない、何が起こって。
困惑して集中が切れた瞬間を確認したゲンシェルドは、間隙を縫う重い捻り正拳突きをフレムの顔面に炸裂させる。
それは、真面に入ってしまった。
「!フレム!大丈夫ですか!?」
「集中しねえと勝てねえぞ!早く対応しろ!」
「ふ、対応出来る物ではない。
俺のこの技術は、化け物を相手にして体得した努力の結晶だ。」
「子供の人生じゃ分かり得ない地獄を。
ーーーーー俺は経験したんだァァッ!!」
「ゲンシェルドの奴、俺の事恨んでるな。」
フレムは潰れた鼻を抑えて、裂けただろう肉を敵意のある魔力で焼く。
その魔力は先程まで纏っていた青の炎ではなく通常の赤炎であったが、その量が尋常ではなかった。
ゲンシェルドもその異変に気付く。
ーーーーーーもういいよ。
面倒臭い、本当に面倒臭い。
最初からこうすれば良かった、守りようがない攻撃をすれば良かったんだ。
そうだろ?
ゲンシェルドを静かに見つめる。
そのあまりに殺意のみに染め上げられた眼球は魔物のそれであり、魔巣に棲む化け物と同等の危険性を持つと判断し再度フレムを意識する。
フレムは左手で取り出したライターの着火蓋を何度か開け閉めして動作を確認する。
それは一見隙のある時間に見えたが、彼が放つ殺意に満ちた熱魔力が舞台に蔓延しゲンシェルドの冷静さを奪っていた。
ーーーーーいや、或いはそれは正解だったのかもしれない。
フレムがライターを真下に向ける。
そして今まで一度も成功しなかった事を試す。
拡散していた魔素全て、彼の左腕を伝い着火器へ流れ込む。
そして当然溜め切れず溢れ出てくる魔素。
しかしその勢いが異常であった。
人の足程の太さの炎が波形を作り地を進む。
その波動に触れるだけで火に炙られた様な熱気を浴びる。
ゲンシェルドは慌てて両足に魔力を纏わせる。
だがフレムの変化はそれでは収まらなかった。
フレムを中心に15m半径へ波動を生んでいた魔力の全てが、更にその出力を高める為にその範囲を縮小させていく。
それは秒を刻む毎に1mずつ狭まり。
ーーーーーー15秒後。
ゲンシェルドは、思考を止めた。
それは、人間の成せる技では無かったのだ。
「ーーーーーあぁ、この感覚か。」
「何だ、その姿はっ。」
「さぁ、君が招いたんでしょ。
じゃあ……………行くよ。」
左腕の脇を締め手を真下に向け。
フレムはとうとう、空中浮遊を身に付けた。
クラスでは魔力総量の関係で不可能である芸当であり、魔力操作の精度も低いフィスタやブレイドも当然不可能。
これが、才能である。
しかし長くは保たない、早々に終わらせる。
未だに唖然とするゲンシェルドの反対側。
自身の背後へ左腕を向けると、それに合わせて出力を高めて秒速10mの速度で襲い掛かる。
だが先程までの地上に限定されていた時の肉弾戦とは別人の様な自由奔放な体術に悪戦苦闘する。
空中で左腕を自由自在に方向転換し、様々な角度から勢いを乗せた回し蹴りや踵落とし、殴り下ろしを振り回す。
さながら鳥の様に自由に動き回るその姿と、蜂の様な殺意に溢れる攻撃の苛烈さ。
それはレイブンから見ても感心する程の動きであり、自身が若い時に戦っていたら負けたかも知れない程の力を持って感じ取っていた。
苛烈な空撃が一瞬止まる。
それに遅れて反応したゲンシェルドだったが、肝心の当人が視界に居なかった。
なのに何だ、この胸騒ぎは。
どうして観戦席は皆。
ーーーーーーーーーー上を見ているのだ?
見上げる天。
そこには際限なく大気を上に突き抜けていくフレムが居た。
そして高度50mといった所で止まる。
今から起こる事を、ふと理解してしまった。
ゲンシェルドは急ぎで魔力を練り出し全身へ流し始める。
そして、来る。
過去最大の出力を真上に向け、右手は真下に。
真下に対して自身の肉体にも重力が響く程の速度で落下。
そのまま右足を下方へ突き出し、左足は右足の太腿内側に支えて(つかえて)姿勢を固定。
飛び蹴りの極致。
その威力は、LV30が出して良い威力を超えており、推定50LV級の威力を誇っていた。
尋常ならざる火炎の渦を全身に巻き上げ、隕石の如く落下する飛び蹴り。
それが、秒速30mとこれまたフィスタやアルバの必殺と並ぶ速度を拵え。
ーーーーーーゲンシェルドの構えていた両腕の防御箇所へ減り込む。
その衝撃は直径100mはある会場全体を軽く揺らす程であった。
そして本人ごと地面の煉瓦へ激突すると、その衝撃で半径1mの陥没が起こる。
想像も出来ない固さの煉瓦を砕く威力と、それら両方に挟まれたゲンシェルド。
皆が心配する中、動かないゲンシェルドの襟を掴み起き上がらせるとフレムは中央へ放り投げて宣言する。
「はい、僕の勝ち。」
耳が痛い。
それだけの轟音が会場を包む。
当然ながら観客達の叫びである。
五月蝿そうにしながらも満更でない顔のフレムを見てクラスが駆け付けて祝いの声を掛けようとした時。
フレムが倒れる。
その彼の右足からは多量の出血が確認出来、まず間違いなく骨に亀裂か骨折が起きていると判断出来た。
直ぐにアルバ達に声を掛けて急ぎで救護室に向かわせる。
そして、合計4回に渡る試合に鳧が付く。
結果は、三勝一敗。
ブレイドのみ格上と対峙し敗北を喫したが、他の者達も決して楽な相手と戦った訳ではない。
だが勝った、代償も大きかったが。
五体満足のクラスのみが親衛隊代表の4名と会場中央に並び、最後の挨拶を済ませる。
「えーとですね、今回の戦い正直言って。」
「うんうん、ウヌルも思ったんですが、」
「やばすぎでーーーーーーーーーーすぅ!!」
「すっげぇぇぇぇぇですぅーーーーー!!」
飛び交う拍手喝采、雨霰。
そうして緊張で固まるクラスにも大量の声が届く。
「とっても野生的で素敵だわぁぁっ!!」
「私達の住む地区の守護者になってぇ!!」
「親衛隊になってぇぇぇっ!!」
「え、そんなこと言われても私はまだ16の子供ですけど。
それにバルト王国を出る予定はありません!」
「バルト王国の学生なのね!見にいくわ!」
「ファンクラブ作っておかなくちゃね!?」
「セルペアナ様は仕方なかったのだわ!」
「………………うるさいですね。
私は一旦医務室で皆んなの様子を見てきます。
親衛隊の皆さん、本当に楽しかったです。」
「うむ、取り敢えず今は医務室に行くと良い。
後は私が牽引して幕引きをしておく。」
そうして親衛隊14人中13人に良くも悪くも印象を残す事となったブレイド達四人は、これから暫しこの国に滞在する事になる。
先刻までは親衛隊達も内心上から見ていたが、今回の戦いを見て天才の集まりであると体感した。
仮に他の3人の誰がアルバと戦っても負けているだろう、だからブレイドは運が悪かった。
ーーー自分で指名していたが。
そうして、
9時ーブレイドVSアルバ
10時ーフィスタVSダルフ
11時ークラスVSセルペアナ
12時ーフレムVSゲンシェルド
この壮絶な試合が幕を閉じる。




