第四話 魔力指導
大分展開進みます。
「イジャエや、近頃良いお人は見つかったのか?
婆はお前が心配じゃ、他の兄弟分も無論な。」
「あのね、お婆ちゃん。
私まだ二十歳よ?そんなに急がなくても良いと思うんだけど。私が気に入る殿方が居るかどうかも分からないんだし、のんびり待っててよ。」
「ふぅむ、そうは言うてもお前、最近以前にも増して見た目を気にかける様になったではないか。
前までは無かった女らしさへの気遣いじゃ、何かあったじゃろう?婆に教えてはくれんか?」
げ、おばぁちゃんは凄いな、女の事はお見通しって感じ。
うーん、婆様には言ってもいいよね。
寮の一室で静かに打ち明ける。
「その名、婆様。
数日前に王座で召喚の儀が行われたの、知ってるよね?
私、その、英雄様が気になって仕方がないの。」
「何、巳浦様をか?
やめなされ、あの方は見た目こそお主らほどにお若いが、全盛期の姿で現界しとるだけ。
実齢は20世紀を超えたる。
松薔薇様と変わらぬお人じゃぞ。」
「何より、…………わしらの遠いお父君じゃ。
幾ら血が薄れたとはいえ、それは叶わぬ恋慕という物。
お主が憧れ、その感情が転じ恋を煩うのもわかる。
だが、このわしすらもあの人と言葉を交わすと幼少の頃のお祖父様を思い出す程じゃ、涙が出てくる。」
「そんな事は分かってます!
でも、あの人の実際に振るわれる剣技や経験に基づく動き、我流に取り込まれた各四式のロルナレ剣術に、私は今現在惚れ込んでしまいました。
お婆様も本当は思っているのでしょう?」
「あの人に、ロルナレ家を導いて欲しい、と。」
「………………まぁ、の。
だが其れはもう為されている。我等に今通っている血に彼の者の血が混じっているのが何よりの協力。
これ以上あの方に頼るというのは、些か矜持や誇りに関わってくるというもの。
それが解らぬ子ではなかろうに、イジャエ?」
「くっ………なら、私は自分なりの答えを見つけるまで頑張ります。
あの人はいつ戻られてしまうか分からないのです、或いはもうこの世界に足を着けないかもしれない。
せめて、あの人が私達に指導を享受し続ける限り、凡ゆる可能性を捨てません。」
私、絶対諦めない。
あの人に、認めて欲しいんだもん。
父さんや母さんがまだ生きていた頃にだって、ここまで承認欲求が強かった事はない。
でも、あの人には心から認めて貰いたいと思ってしまう。
今日も出勤前の朝稽古だ。
毎日私達は急激に強くなっていると実感している。
あの人の教える剣技のいろは、その情報や感情には一切の邪念がない。
まるで悟りを開いたかの様に、純粋に強くなって貰おうという意気込みのみが動力源の様子だ。
こんな人が生きていた時代に産まれていたら、きっと私は猛烈にアタックしてたに違いない。
まぁ雑談して下さる話には、彼より下手すると強い奥様が居るという話ではあったが。
実の所、少々気になる事が発覚しました。
「おはようございます、ルーラン兄さん。」
「あぁ、おはよう。
私達はここ最近、童心の頃の様に距離が近くなった気がするな。
きっと気のせいではないだろう。」
「そうですね。
エイガは少し前まで自身の剣技に嫌悪感やコンプレックスを抱いていた様子でしたが、ここ数日間とても爽やかな顔になりました。」
「顔やら何やらボコボコだがな。」
「えぇ、ボコボコですが。」
「あんまり俺の話しないでください、兄さん姉さん。」
寮室からロルナレ家の者がどんどん起きてくる。
今は朝の5時。
さっきお婆様と話していた部屋は四階のロルナレ寮の最奥の部屋。
朝はいつもこんな感じで色々とお話する。
皆、近頃はとっても楽しそうに一階へ降りる。
前までは少し殺伐とした雰囲気が垂れ流れていたけど、あの人のせいで嫌でも活発に、明るくなる。
アラガン兄さんでさえ、背中を追われる身から一生追いつけない背中を目指す立場になってからは、誰よりも輝いた目をする様になった。
本当、凄いんだな、巳浦さんは。
「今日も頑張ろ。」
「おはよー皆の者〜。
俺今日から教える事を他にも増やしたり変えたりするから、もっと頑張ってこうな。
付いて来れるか?」
「「「「はい!」」」」
「他の兄妹さん達は今日から10歳、だっけ。
一式見習いアゼル、二式見習いミクルにアイミェル、三式見習いのブライスとバラン、これで兄妹姉妹は九人全員。」
「お前達四人はいつも通り俺と実戦訓練、ちび五人はそれを見て色々とメモるなり質問。
その後8時過ぎからは兄ちゃん姉ちゃんが仕事で離れるから、そっからは初歩的な体力作りと、各修得予定の式を教えてく。
良いか?」
「「「「「はーい!先生!」」」」」
「うし。
んじゃ今回は型2時間は後にして、新しい事を教えてく。
多分お前らも学生の時に習ったろう事の応用だ。
これを覚えれば知らない者や出来ない者と数段、数倍の実力差を付けることが出来る。」
何だと?
そんな手段がある訳。
ーーーーーーーいや、この人なら出来る、のか?
アラガンは疑問に思った。
学生の時に習った事。
歴史、これは関係ない。
実力に影響がない。
なら計算?
近い物はあるのかもしれないが、戦いの中でそこまで考え込む余裕はない。
なら、
「魔力ですか。巳浦さん。」
「あ、正解。
鋭いねアラガン。流石はロルナレの継承候補〜。」
「嘗めてるんですか、その言い方をされると恥ずかしいので止めて欲しい。」
「ま、取り敢えず魔力に関係する話だ。
お前達はロルナレ家だ。
俺の血が入った代からどうなのかは知らないが、見た所全員、昔から変わらず加速の魔力が伝統らしい。」
加速魔力。
肉体が空間で行う動作、例えば腕を上げる挙動や走る動きなどの慣性を当人の練度次第で加速、利用できる魔力。
魔力というのは一人につき一つが大体だが、場合によっては二つ、三つといった可能性もある。
だが使いこなせるとは限らず、全てを引き出し切れた人材はここ数百年の文献ではまず前例がない。
ロルナレ家の家系は古くから加速魔力の血統らしく、三式がスピーディな戦い方を行ったり、二式が受けからの反撃として繰り出す刺突の動作。
一式のヒットアンドアウェイが主体の高水準な戦法も全て、足のフットワークや関節の可動を最大まで活かし切ることで成り立つ。
それを現実に出来る最大の理由は、加速魔力の恩恵が大きい。
「魔力は個々人によって出力に差はあれど、基本的な性質を引き出し戦いに転用するのは共通。
加速に関しては、出力はさほど求められない。
無論知り合いにその極限系は居るには居るが、お前達が理解出来る次元じゃない、頭の隅にでも置いておけ。」
「で、今回教えてくのはその加速魔力を、戦闘中任意に使用する方法。」
!!!!
魔力を、使う?
そんなの、殆どの人間が不可能な芸当。
幾ら英雄とは言え、それを他者に教えるのは無理なのでは、
「分かりやすく今から俺が魔力を【使う】。
見て感じ取れ、その後具体的に教えてやる。」
皆がそう言われ、静かに見つめる。
次の瞬間。
「来い、【不折】。」
武道場一帯を黒い靄が呑み込んだ。
その場に居るの者の中には、魔力に当てられ冷や汗や吐き気を催す者がいるほど、瞬間的な物だったにも関わらず来い魔力の霧であった。
だが、彼の濃霧がその全貌を、一点に集中させていった。
「ーーーーーーーー何だ、これ、は。」
右手には、先程まで帯刀していなかった筈なのに、いつの間にか刀が握られていた。
鞘がない、抜いたわけでもない。
「この刀は俺の魂と共に昇華された物だ。
呼称は不折の黒刀、不折で良い。
四本ある内の一本だ。基本的にはこれ一本でも大半の人間や魔物相手には十分。」
「私、あの人が何を言ってるのか分かりません。
兄様達は分かりますか?」
「いや…………理解不能だ。
そんな事象、聞いた事すらない。
完全秘匿級のシステムだ。」
「あれは、私が手合わせをした時に振るっていた刀だ。
何処にも無いと思ってはいたが、そもそも最初から何処にも無かったとは。
一体この方はどれ程の情報を、力を隠し持って。」
「おいおい、本題はここからだぞ?
俺はまだ何も教えてない。」
(これで!?充分不可解です!)
皆がそんな事を内心ぼやく。
だが、こんなのはもう彼にとっては何とも無い事だ。
息をする様に、眠る様に、食事をする様に自然で、当たり前な事であった。
勿論、最初からこう達観していた訳ではなかったが、天界と人界を行き来している内や、天界内で友との手合わせをしている中、自然的な手段と化していった。
「で、だ。
俺の系統は強化魔力な訳だが、例えばこの道場に用意されている木刀。
これを俺が持つと、
む"むむ"む"っ。
木刀が黒く変色していく。
あり得ない。
これだけの武具汚染、魔力変質は、数年単位で肌身離さず魔力を当てなければ起こり得ないレベル。
アラガンが驚く中、他の者は不思議そうな、興味津々な顔であった。
「この木刀─────もう変質してるし。
これに魔力を注ぐと、こうなる。」
今度は、意図的な量を流し込む。
段々と、木刀の様子が狂っていくのが分かった。
最初は黒色なだけだったその材質に、軋む音が走り。
木材、竹から構成されていたその材質は、徐々に艶を持ち、鉄の様な鍍金染みた色合へと変貌していく。
そして、最後に大きな魔力の奔流を片手から流し込まれると、その限度を超えたのか、刀身の表面から魔力の霧、濃縮された液体が滲み、霧散していく様になった。
「こんな現象が肉体内では起こってんだ。
自然な出力なら、体内で自然に収まる程度。」
「度合いが強まると、体表や或いは当人の持つ物自体への作用。視覚的な変化とかが起こる。
これで言う質感や色だ。」
「で、一定以上のキャパシティを超えると、体外へとその効果は発揮される。
この剣、今ならただ振るわれるだけでも鉄を抉る程度には強くなってる筈だ。」
「それが加速魔力で行われると、端的に言えば残像やら幻影みたいな物が空間に発生する。
めっちゃ早いと言うか、瞬間的な出力が膨大で加速魔力の加速に付いて行けない魔素の粒子が体の輪郭に沿って残る。
それが出せるならそいつは一定以上のの使い手だし、速度、慣性による威力、そして視覚的恐怖、共に申し分ない。」
「お前達の最終到達地点、いや、理論値は大体その辺りだろうって事だ。
因みに俺の本流の子孫は強化魔力だった。
この前のエイガと手合わせしてたブレイドって餓鬼、俺の子供らしい。
気にかけてやんねぇとな。」
「………ブレイド、やはり普通ではなかったか。」
「私も、巳浦さんの動揺が気になって戸籍書類調べたら、どうにもブレイドって子の古ーい代の血縁者が巳浦さん関係っぽくて、疑念はあったんです。
やっぱりそうなんだ。」
「これからお前達に俺の魔力を流していく。
必ず拒絶反応が起きる。
その時身体から引っ張り出される様な、流れ出てくる魔力の感覚ってのがある筈だ、それを掴め。」
そうして、彼はアラガンの前に立つ。
「ーーーーー私から、ですか?」
「気張れよ。
キツイぞ。」
ずおぉ、一瞬鳥肌が立つ。
刹那。
叫び声の様な、雄叫びにも似た咆哮。
彼は吠えた。
「ああぁ、あぁ"あああ"ぁ、あ"あぁあ"あ"ぁっ?!」
「………お、魔力出てるぞ。
その感覚を覚えろ、一発で覚えられれば楽だぞ。」
吐きそうだ。
なんだ、これ。
こんな苦しい物なのか?
この人、この人は平気なのか?
何、何だ、何で私は、こうなっているんだったか。
キツイ、苦しいぞ。
体から、力が抜けていく感覚だ。
これは、何だ?
生命力、なのか。
分かる、解る。
今までの経験から、これは神経が研がれている時に体を締まらせていた何かの正体だと言うのが解る。
魔力。
これが、私の、本質か。
「………出来た…………出来たぞ……巳浦先生!」
「おー、よく耐えた。
引き出せるか?」
集中する。
身体から生命を絞る感覚。
ぞわりと悪寒が走る。
これだ。
体が、軽くなる。
薄く赤い魔力が膜の様に包んでいるのを理解した。
「す、凄い。
兄さん流石だ!先生、俺達にも!」
「私も覚えたいです!次お願いします!」
ワァワァと群がって来る。
教えるのは良いもんだ。
アラガンへ近付く。
体を加速魔力が包み、本人も体の軽さに驚いている様子だ。
最初は誰しもこうなる。
「頑張ったな。
型練習までの残り時間はその感覚、力に慣れろ。
忘れるなよ。」
「!!!…………はい!」
「よし、次はルーランだ。
気合い入れろよー。」
「ッ、お願いします!」
そんなこんなで、今日1日で途端に研磨された四人は、それぞれの職場で驚かれる。
エイガは、ブレイド達にもう負ける事が無いだろうと思える程に鋭く尖った突きに澄まされた受けを放ち、二人組を地に組み伏せた。
ルーランはその手際を更に一次元上げ、調理工程を普段の倍近い速度で終えていた。
アラガンは書類整理や印鑑、押印作業など日常生活に於ける面倒な業務を以前は5時間ほど掛けていたと言うのに、ある日を境に1時間と少しで完了させていた。
イジャエはと言うと、
「巳浦先生!」
「んー?」
「私今日からギルドに入るんです!
メンバーになって貰えませんか?
大丈夫です、私が先頭で身分はお隠ししますから!」
「いや、急だな。
いつからだ。」
「夜の六時ほどから。
私の寮部屋前に来て下さい。
約束ですよ!」
「おう、忘れないでおく。
6月下旬から俺も正式な教員になるらしい、お互い頑張ろうな。」
「はい!行ってきます!」
特に今現在活かされてはいないようだ。
巳浦は思う。
この子達は、俺が居なくなっても強くやって行けると。
そして、自分のみに対して絞った殺気を送る誰かの存在に、今日中に会う必要が有るとも。
「誰だ、尋常じゃねぇ殺気だ。
この感じ………………」
「へいらっしゃい!」
「メロンパン一個、牛乳二本来れ。
お代これな。」
客に渡す商品を纏める。
変わった客だ。
真っ黒な外套、フードは外してある。
瞳は空を、王城を見つめていた。
料金を見る。
ぎゃらり。
「き、金貨3枚?!数日分の売り上げじゃねえか!
あの客一体。」
「朝の3時間目は途中で抜ける!
いつものコッペパン2個に牛乳二本、これは抜かせねぇ!」
横を、一人の少年が走り抜ける。
「…………あれ、巳浦の餓鬼か。
なぁんか、久し振りに楽しくなりそうだな。」
「おっちゃん!いつもの!御代これね!じゃ!」
「待てやおい!ちゃんと店主に顔向けろや!」
「じゃあなぁ!」
全力で走る。
誰も追い付かせねぇ。
風が良いなぁ、この時間帯は。
───────。
不意に。
肩を掴まれた。
え。
「なぁ餓鬼、ちょっと話そうぜ。
俺もそこのパン屋で飯買ったんだ。
一緒にどうよ?」
「…………あんた、早ぇな。
良いぜ、学院前まで行ってから食おう。
走ろうぜ。」
「へー、息切れしねぇんだ。
若いのに偉いなぁ。
凛堂兄さんには無いからな、年齢とか老若とか、さ。」
足が、止まった。
凛堂。
凛堂・ジャクサス。
ザラデス家にある日現れ、突然その腕を鍛え上げた謎の男。
一時期記事で騒がれたけど、姿を消して以降行方知らずの奴だ。
「あんた、ザラデス家で騒がれたあの凛堂か?」
「お、知ってるんだ。
そ、君の古ーい、本当に古い父親の知り合い。」
「老若ねぇって、何だよ?どう言う事だ。」
彼は牛乳瓶を開けると、一本飲み切る。
深く息を吐くと、ブレイドにこう告げた。
「近々俺の育てたザラデス家騎士家系と、巳浦の野郎が育ててるロルナレ家落第家系を戦わせようと思ってる。
バルト闘技場とか仕切ってね。
君も見に来ると良い、席は用意してやるから。」
「何、言って。質問に答え、
「魔王凛堂。
言っても分からないでしょ。
幾らあいつの子孫でも、何も理解出来ない。」
「まぁ彼に会ったら伝えといてよ。
つっても、もう気付かれたみたいだけどな。
やっぱ化け物染みてるな、あいつは。
天使に認められた男、流石だ。」
「やっと。
面倒だから抱っこするわ。
一回で飛ぶぞ。」
「え?ーーーーーー待て待て、空飛んでるぅぅ!?」
気付いた時にはもう体を抱き抱えられていた。
ついでに、跳躍で空を飛んでいた。
凄まじい勢いで王城方面へ飛んでいく。
その時だった。
影が、上から落ちる。
理解出来なかった。
「げ、城から飛んで来たか?人外だなぁ!
やっぱ面白えっ、お前!」
「子供から離れろ、凛堂。」
上から降ってきたのは、英雄巳浦だった。
進み過ぎ。




