六十六話 第三試合
意外な展開です。
「えー、クラスくーん。」
「緊張してるんですかー?さっきまでの二人を見習うように〜。」
「そ、そんな事を言われても………」
会場に響く声援や期待の声。
この様な圧に弱い傾向があるクラスは現在精神的に追い詰められていた。
対戦相手でもあるセルペアナはてっきり彼も本番時には冷静になるものかと思っていたので拍子抜けしていた。
だが油断すると負けるのは分かっている。
ある種の作戦なのでは?
そう思えてくる程の挙動不審。
鋭い目付きで疑いを掛けるセルペアナに情けない悲鳴を上げている。
ーーーーー本当に、そういう感じなのか?
セルペアナは両顳顬に結んでいる二つ編みを後頭部に纏めて垂らす。
戦闘時は邪魔になる為だが、綺麗な緑色の髪が風に靡き自然とクラスが見惚れる。
それは愛情ではなく絶景に感嘆する感情の類であるが、当のセルペアナは突然黙って注視してくるので恥ずかしくなり焦って鞘から木の細剣を取り出す。
構えながらクラスにも武装を要求する。
クラスも礼儀と言わんばかりに途端に顔付きが一変する。
それは、以前フレムが珍しく悪寒を起こした冷血な顔であった。
豹変した面貌を突き付けてくるクラスに対して、これが彼の裏面であると判断する。
そして自身の流液魔力による青い魔素を利き手の左手を中心に剣の先端まで覆う。
臨戦態勢である。
クラスは顔面を鉄の様に固めて一切の感情を断ち切り、無言で異常な魔力操作により大口径拳銃。
リボルバーを【両手】に持つ。
これにはフレムも驚く。
以前まではそう易々と作れなかった筈………。
いつの間にこれ程高速に構築出来るように。
その当然の面で銃を作成して真顔でセルペアナを見つめるクラスに、親衛隊や凛堂も含め全員が狂気に近い印象を受ける。
冷汗を掻き始めるが、取り乱さずクラスに対して構えを取る。
左半身を前側に剣を顔の前側に突き出す、最大まで距離を伸ばす構えだ。
もう、来る。
「3!2!」
「ーーーーーーーーーーーーー1ぃぃぃっ!」
その声の終わり側に響く、発破音。
銃声だ。
セルペアナの右頬を掠らせ、出血を引き起こす。
到底反応し切れない弾速に瞼を開き驚く。
そしてクラスは一言だけ添える。
「銃戦は初めてですか。
距離が遠い程此方が有利ですよ。」
「ーーーーっ、そう、みたいね。」
「ほら、どうぞ来て下さい。」
「そう、なのでしょう。」
「どうしたんですか?
来ないと試合が成立しませんよ?」
「……………………」
セルペアナの戦闘方式。
流液魔力により肉体を巡る血液を高速循環させ、酸素の供給を跳ね上げる事により間を置かぬ繋ぎ目のない連撃を繰り出す。
が、それも距離が空いていては何も出来ない。
考えても無駄なのか?
そんなセルペアナに対して、クラスは突く。
「ーーーーーはぁ。」
「っ!な、何よその溜息は?
私も私なりに考えてるのだから、撃ちたければ撃ちなさい。」
「分かりました。」
「え。」
そう言い放った瞬間、自身の全身の輪郭を沿うように皮一枚の猶予で弾を外していく。
これは、一体。
その時、クラスが態とらしく喚く。
あ、弾が切れてしまいました。
その言葉を聞いて、セルペアナは憤怒する。
態々武器を捨てたな……………っ?
容赦なく脚の血流を高速にして通常以上の力みを生む。
そして右足を軸に飛び込み2、3回のステップで距離を詰めた。
クラスは思っているよりも早い対応に驚いていたが、セルペアナの悔しそうな顔を見て途端に申し訳ない気持ちに襲われた。
そして、掛けていた眼鏡の繋ぎ目に突きを喰らう。
そして、破壊される。
日頃から首の角度で光が入りクラスの顔は良く見えない。
だが幼馴染は知っている。
ーーーー超絶美顔である事を。
風圧で後方に流れる耳に掛かる程度の長さの黒髪と、前髪の隙間から見える貴公子の如き顔面。
セルペアナの理想像である黒髪のイケメンその物であり緊張が解ける。
それに対しクラスの反応はと言うと、
「ーーーーーー眼鏡、壊したな。」
「………え。」
「訊いてんだよ、間違いなくお前だ。」
「だ、だから何よっ。」
「ーーーー死ねよ。」
普段の雰囲気とは何もかも別人になったクラスの態度が正に好きな男性像であり反応に困るセルペアナであったが、それ所でなく。
左脇腹を全開に蹴り込まれ、嘔吐く。
その反動でお辞儀の様に下がる頭部の顔面に対し殺意に彩られた左膝蹴りが真下から決まる。
女性陣が全員完全に引いている。
セルペアナも訳が分からず鼻血を出していたが、食らいっ放しと言う訳にはいかない。
反撃で後ろに引いてからの踏み込み左突き刺しを放つ。
それを完全に見切られ右耳辺りに掠らせるのみに抑えたかと思えば、左半身が前のめりになっている瞬間を捉え自身もまた左半身を踏み込ませ右肘打ちをセルペアナの顔面に当てる。
此方は対応し切れず強烈に入る。
観客の眼鏡系男性陣も気持ちは分かるのだが、異様な怒りを見せるこの少年に恐怖心しか覚えなかった。
凛堂も松薔薇そっくりな切れ方に笑いが堪えられなかった。
女性方は黒髪の美少年が豹変した様子で親衛隊のセルペアナを肉弾戦で潰す光景に大半は悲鳴、一部からは黄色い声が上がる。
理系から野獣系に変わり果てた相違に燃え上がっているのだろう。
セルペアナはあまりにも顔が痛く息も出来ずにいた。
クラスはその彼女を意にも介さず蹲る彼女のYシャツの襟を右手で掴み立たせる。
涙目で喘ぐ彼女にも関係なしと言わんばかりに頭突きを打ち込む。
また頭部への攻撃である。
フィスタと言い何と加減を知らないのだろうと民衆は震え上がる。
たがアルバはセルペアナの弱さが問題だと怒っている様子である。
此方もまた容赦がない事だ。
怒りで苛ついているのか身に付けている白シャツの制服が邪魔になり手早く脱ぐ。
すると内着は無く印象以上に発達した上半身が露になる。
フレムはその肉体を見てフィスタの次、ブレイドと同等の体格であると理解する。
無論それと持久力は別の話だが、戦闘中なら基本問題にはならないだろう。
出来上がった肉体に端正な顔と、表裏の激しい性格。
女性達は皆クラスという不可思議な男子に大大々注目である。
セルペアナも観客なら同じだったかもしれないが、そんな状況ではない。
銃倉内で生成された弾丸六発を二丁分。
全て細剣の鍔付近に打ち込み無慈悲に破壊する。
セルペアナは唖然とする中、リボルバーという過剰戦力を空に投げ捨て消し飛ばすと、素手に自然魔力を纏い手錠を作り出す。
それを悶える彼女の背中側に回した両手に嵌めると、蹴り飛ばし正座で土下座する形にさせる。
恐怖に支配される中、見上げるとそこには蹲踞(不良座り)から首を傾げて見つめてくるクラスが居た。
右手にはいつの間にか破壊された眼鏡が握られていた。
エヌルとウヌルはもう戦闘にならないと判断して実況伝いに終わりを告げるが、クラスが一向にセルペアナへの尋問を終わらせない為対処に困っていた。
彼女の顎を左手で持ち上げると、無表情に質問する。
「これは特注で調整して貰ってる上、度もかなり高いから簡単には作れないんだ。
俺は普段大人しいが、馴染みと出会うまでは喧嘩上等だったんだよ。」
「いまてめぇの顔は良く見えねえが、てめぇは俺の顔が良く見えるんだもんな。
ーーーーー許せねぇな。」
「ーーーーーー目、潰すか。」
「!?ん"っっんぅッ!!」
「嫌か。
でも俺は嫌な事されたからな。」
「罰として1日このごめんなさいシールを右の頬に貼る。
次の日の正午まで付けてろ、分かったか。」
「!んっんっ。」
「……………………」
「宜しい。
では手錠は外しますね。」
「……………っ?
ーーーーーえっと。」
「どうぞ、戻ってください。
勝負は私の勝ちで、ありがとうございました。」
「あ、え、えぇ。」
「眼鏡は後で弁償して下さいねーーー!」
そう言いながら右ポケットに仕舞っていたのだろう眼鏡箱を取り出して予備の眼鏡を付けて帰って行く。
フレムもまさかクラスがここまで凶暴であるとは知らず、思わずこの後の祝勝でさん付けしてしまった。
セルペアナは自身をここまで圧倒する年下の男子など人生では経験がなく、理想的な外見も相まって呆然と背中を見つめていた。
しかしアルバが背中を叩いて説教してくるので意識が戻った。
そんなアルバを先頭として親衛隊全員が思った。
ーーーーこの少年達は化け物だ。
「いやぁ、色々ありましたけど勝てました。」
「次はフレムの番ですね。」
「あ、はい。」
「ん?何ですかそのさん付けは。
普段通りにして下さいよ!」
「はい、分かりました。」
「んもう!」
そこに横から凛堂が入ってくる。
良い戦い振りだったと。
クラスは頭に血が昇るとあまり記憶が定まらなくなる特性があるので明確に何をしたかが曖昧であったが、凛堂が打って変わって前よりも対等に話しかけて来るので困惑していた。
そうこうしている中、フレムが呼ばれる。
対戦相手となる青髪の男、ゲンシェルド。
彼は日頃から髪を伸ばしており、それを左右でそれぞれ二つ編みに纏め後頭部で時計状になる様に縛っている。
明らかに体術を専門としているのが伝わる。
しかしゲンシェルドは苦そうな顔をしていた。
お前も、何か秘密があるのか。
そんな顔をしている。
手振りで無いと伝えるが、疑って止まない。
首をすかしながらも、カウントが始まるその時まで待つ。




