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英雄までの物語  作者: ノンプロット
一年期七月下旬〜 反英雄
68/113

六十五話 第二試合

圧倒的な強化です。







ダルフは、白髪を縛って左胸に垂らす。

フィスタは雑に伸びている黒髪を適当に揺らす。


先の正体不明の男(反英雄)VS同上(魔王)の異次元のやり取りを見て観客の気分は上がっていた。

しかしその期待に応えられよう訳もなく二人して気持ちの萎えを感じていた。


だがそんなのは関係ない、自分達の目的を忘れない。




フィスタが170少しに対し、ダルフは180程度。

少し高い目線から見下ろされるのを嫌い、フィスタは顔を正面に向ける。


両者共に、両拳を布で巻くだけの単純な装いだ。

服装に関しても奇しくかな、上半身裸で服をズボンの内側へ入れて動きやすくしていた。

実況も何やら戦闘態勢の両者を見て白熱している。








そして握手。

互いに健闘を誓い後悔の無、










それは、当然の様に。

フィスタとダルフが空で腕相撲を始めた。


時間と共に魔力が纏われていき、フィスタの加速魔力による連打をダルフが強化魔力で受け止め続ける。

両者、全くの互角。





盛り上がる。

大いに盛り上がっている中、直ぐにその均衡は破れる。

ダルフが強化した腕力でフィスタをその場で回転させ始めたのだ。


体格の関係で不利なフィスタは苦い顔をしながら逆にその状況を利用し浮いた姿勢から左上段蹴りを側頭部へ当てる。

そうして両者はお互いに離れる。


二人は察する。

ーーーーー強い。







「なぁダルフさんよ、俺は前から純粋に殴り合いってのをやってみたかったんだ。」


「…………成る程な、私もだ。」


「「ーーーーーーーじゃあ、そういう事で。」」








フィスタの加速に対応出来ず先制で顔面への右突き蹴りを喰らう。

が、喰らうのを見越して全身を強化し強引に耐える。


判断が遅れたフィスタを横目に右脚を左手で掴み

手前へ引く。

そして、向かってくる勢いに対して離した左手の肘を顔面に当てる。


が、これをフィスタは右掌の割り込みで何とか防ぐ。

本当に、互角である。




そして観客達は接戦の二人へ様々な声援を呼びかける。

そんな事を気に掛ける余裕は無い。








その場で後方回転(バク転)による速度を加速させ逆立ちの体勢から時計回りに慣性を付け始める。


ダルフはそれを勘で危険と感じ最速で止めに掛かる。

まぁ都合良くは行かず空に回る左足を掴まれてしまう。


そこからの右拳振り下ろしに対し、





尋常じゃない速力で右脚の蹴り付けを右拳に被弾する。

途方もない痛みに嫌でも怯む。


その、一時の暇が地獄を生む。








「ーーーーーな、何だその動きはっ。」










「倒立しながら回転を行い連続での回し蹴りや突き蹴り、蹴り上げを放つ。

名付けたその名はーーーー【螺旋脚】。」


「ら、らせんき、」











反応し切れず。

回転を更に加速させて打ち込まれる脚撃は、ダルフの右側頭部、右首、右脇腹、右脛を全て蹴り抜く。


人体の急所を的確に潰すフィスタを見て、実況のエヌル達も鳥肌が立っていた。

これは、完全に人間を潰す為の技術であった。





ダルフが辛うじて右側頭部への被撃後に全身を強化魔力で防御した為即終了は免れた。


それでも尚、頭に直撃したたったの一発が現在進行形で吐き気と鈍痛を引き起こしている。

ふざけた運動神経だ、そんな動き出来るか。








フィスタは、仕留めたつもりであったがまだ立って此方へ闘志を向けてくるダルフを視界に捉え。


咄嗟に両腕を縦に固めて防御姿勢に入る彼に対し跳躍しながら前回転を乗せた左踵落としを両の手の間に割り込ませる。

ダルフは、腕のみに魔力を集中させた恩恵で何とか止める事に成功する。


お返しと言わんばかりに左足首へ最大魔力を込めた両拳の打ち付けを横から挟む。


これは、効いた。

フィスタが思わず歯軋りを立てるのを聞き、すかさず連続で攻める。








空に浮く左脚を掴み、全力の魔力と腕力で空中に投げる。

自身の真上1mに飛ばされているフィスタに対し。



両手へ魔力を練り、只単純且つ強力な連続殴打を打ち込んだ。

彼の必殺技、【空打】である。





フィスタは何とか魔力を纏い緩衝材代わりにするが、本来身体強化の役割を持たない加速魔力では防御は不可能。

猛烈な威力を内包する拳から打たれる正拳突きを殺し切れず鎖骨、肋骨、胸骨、そして喉仏を強打される。


悶絶する痛みとそれを許さない喉の痛みがフィスタを後方へ避難させる。

しかし当然ながらダルフも動き続けた反動で頭の痛みが悪化し立ち眩みから膝を突いてしまう。


壮絶な肉弾戦である。

会場の熱気は最高潮になる。








凛堂は騒がしいクラスの反応を無視して昔の記憶を思い出す。

徒手空拳のみで英雄に上り詰めた、涼木。


彼奴の洗練された型から放たれる攻撃は武具なしでは到底受けようと思わない鈍器のような衝撃があった。

だが、子孫もここまでやれるものか?


これは本当に、生き写しの様だな。

内心感動していた。







クラスは起きている状況が理解出来ず、

えぇ!?

何ですか今の!?

うわぁぁぁぁっ!!?

勝ちましょーーーうっ!! と騒ぎ続けていた。


フレムもそれを騒がしいとは思いつつ、確かに以前の団体戦の頃とは明確に格が違う事に驚愕していた。

それだけ、フィスタは素晴らしい成長を遂げていたのだ。




そして、悔しい思いを感じながらも視線を戻す。

そこには痣だらけの上半身を晒すフィスタ。

鼻血と顳顬からの出血で朦朧とするダルフ。


両者の姿が見えた。











フィスタは、改めて世界の広さを思い知り喜びに似たため息を吐く。



あぁ、強い奴ってのは思ったより居るもんだ。

グラプロやガトレット達も強いが、ここまで容赦が無いかと言われると遠慮はあった。


だがコイツらは完璧に潰しに掛かってくる。

だからこそ俺もーーーーー。
















本気を出せる。


空気が、熱くなる。

それは興奮による物では無かった。







フィスタの全身から爆発する勢いで赤い魔力が霧散し続けている。

それはブレイドが真空剣を撃つ際に短時間だけ練り出す魔力の出力と同等であった。


会場に吹き抜ける嫌に涼風と、目前の標的を吹き飛ばす激烈な猛風。



面白半分に見ていた凛堂や感心した様子で観戦していたアルバですら、刹那意識する。

ーーーーーーコイツ、強くねえか?

ーーーーーーあの男、強い。

そう、瞬時に脳内での評価を上げる。


レイブンですら、脅威になりかねない対象として久しぶりに顔と名前を覚えた程である。








それを目前で見据えていたダルフは、あまりの覇気に痛みも忘れてしまっていた。

放心に近い状態のダルフにフィスタは。



最高に力ませた両足で前方へ跳び込む。

それは団体戦で対ガトレット時に見せた秒速15〜19m程度の踏み込みの比ではなく、溜めに溜めるという前提でのみ。

………………秒速30mという領域に達していた。


これは先のアルバが披露したskill【瞬詰】と速度だけなら同程度。

無論彼女の場合は瞬き程の所作から放つ為使い勝手が全く違うが、だとしてもそれと並ぶ速度を鍛錬のみで会得するのは、天賦その物。



アルバが口と目を開き驚嘆する。

2秒程度予備の溜めが必要とはいえ、何という。

ブレイドと言いこの少年と言い、彼らは本当に英雄の子だというのか?


自身が秀才なら、この者達は天才。

だからこそ、私のような身近な手本も重要になるだろう。

彼女は尚更の努力を決心する。









踏み込みと同時、息一吸いの間で目下に迫るフィスタを視認した時。

それが、ダルフの最後の記憶であった。


たった2秒の内に15回の打撃。

しかもその全てが鎖骨、鳩尾、大腿骨、人中(鼻下)、眉間等、完全な急所であった。




許容範囲外の痛みに気を失い、直立したまま白眼を剥く。

ここで静止。









「〜〜〜〜〜っ。」


「こ、こらウヌル〜!黙らないで下さ〜い!」


「ーーーーはっ!」






「「この試合、フィスタの勝利でーーす!」」









轟音になり会場を駆け回る観衆の雄叫び。

この16才にしてダイエン共和国の親衛隊を下した少年、フィスタ。


そして後に待つクラス、フレム。

何と最高の1日だろう。






そんな時。

異変。


フィスタは、受けた攻撃以上の内出血を全身の皮膚全てに引き起こしていた。

その痛みと魔力枯渇による極度の疲労感で息もままならず顔面から俯せに倒れてしまう。









アルバが異常を察知し手早く会場の救護室へ担架で運ばせる。


当然だ、普通の力では無かった。

これが、身の丈を超えた力の代償。


しかし見事過ぎる戦いぶりだった。

傷が癒えたら、今度は私も手合わせ願いたい物だ。



久しぶりに心から笑うアルバ。

楽しそうではなく、明らかに愉しんでいる。


こんな様子の彼女を親衛隊は初めて見た。

そして、根っからの戦闘好きであるのだと再認識する。









そして、先程フィスタが使った技術。


一つ前の技を【螺旋脚】とし。

ーーーーーーー。






ーーーーーー風前の灯火。

消える最後に激しく落ちる花火の先端。


名は…………………………【夢儚むぼう】。


十秒限り。

無謀なる玉砕の技。

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