六十三話 ダイエン闘技場
9月5日。
先日説明されていた朝七時からの出発に備え、四人はR地区内の食堂で身支度をしていた。
店の人達は朝の食事まで出してくれ、礼が尽きる事はなかった。
そうして準備ーーーと言っても荷物の纏めだけだがそれを終えると、今更ながら凛堂が居ない事に気付いた。
何か用があって出掛けているのかと思っていたら、何やら騒々しい声が聞こえてくる。
方角は………西側から。
「最下位地区に用なんか無い筈が、まさか子供の迎えで来る羽目になるとはな。」
「まぁ、そう言う時もありますよ。
話が本当なら俺達と同じくらいの実力はあるみたいですしね。」
「信用しろー。
まぁそうだな、気になるなら手合わせしてやってくれ。
気に食わないなら置いてっても良いぜ。」
「ふん、それを判断するのは私以外の者だ。
A地区の魔巣は踏破されてるからな。」
「おう。
ーーーーおーーーーーーい迎えだーー!」
「「「「……………」」」」
周りの住民や店のおっちゃん達も目を強張らせて道から離れていく。
そして綺麗な装飾の鎧を身に付けた馬を走らせてここR地区に訪れたのは、凛堂と他14人の強そうな人達。
どういう状況なんだ?
うーん。
クラスが推測で話した内容を片耳で聞く。
ーーーなるほど、この人達は最上位地区から下位地区までを担当している騎士という事らしい。
そんな事を確かに教科書で見た気がする。
ちゃんと覚えてんなぁーーーにしても。
馬車から降りてくる鎧を身に付けたその20代半ば辺りに見える男女は、その誰もが自身達と同じ程度の魔力を放っていた。
つまり、ロルナレの騎士より実力は上。
凛堂から聞いたザラデス家の騎士達と同じ程度の力があるという事になる。
ふーん、それって強いんだよな。
四人が同時に得物の木剣やライター、メリケンを取り出す。
そして同じく魔力を纏い存在を主張する。
すると、アルバがその気配に気付き、先頭に構えていたブレイドに声を掛ける。
他の民衆は機関親衛隊の隊長と会話をする謎の少年に興味津々と言った様子である。
しかしアルマや他の人間は自分達が用件を訊く予定であった事を訴える。
それも然りげ無く無視して、ブレイドの事を近くでよく見る。
ブレイドは茶髪の綺麗な女性がこの中での頂点である事を把握したが、何故ここまで距離感を詰めてくるのか理解出来ていなかった。
何の用があるというのか。
そうして困惑しているブレイドの容姿や強気な表情、黒を基調とした服装がレイブンに似ているのが気になってしまい、
彼の頭を撫でながら軽く提案する。
「なぁお前。
私の所に来ないか?」
「え、でもA地区はもう終わってるって。」
「関係ない。
私と戦おう、強くなれるぞ。」
「えぇっと、凛堂?この場合は?」
ーーーー良いぞー、そいつ結構強いだろうからな。
そんな事を言われてしまった。
そして魔巣の危険性を理解している他の13人もフレムやフィスタ達に自身達と特訓しようと言い始める。
凛堂としては魔巣を攻略した方が経験になると言ったが、親衛隊13人全員が顔を青くして横に振り始める。
何だよもう、つまんねぇな。
凛堂は仕方無いと言った顔で承諾する。
が。
アルマを筆頭とした守護者達が何故ブレイドだけを贔屓しているのかアルバに問い詰める。
ずばり全てが気に入ったと伝える。
日頃から手合わせして貰いたくても出来ていないのもあり恨めしそうな顔を向けられる。
(そんな顔されてもーー。)
アルバが手甲を外し、ブレイドの手を握って馬車まで連れていく。
妙に距離感が近くて恥ずかしくなる。
全員矢鱈とあの少年に積極的なアルバの様子を見てもしや年下の好みな男子が好きなのかと疑い始めた所で、全員が馬車の荷台や内部座席に乗り込む。
そして、馬車数台はとある場所へ向かう。
それは、
「ここは………………広いな。」
「そう思うか?ここはダイエン共和国で親衛隊交代を賭けた試合を行う闘技場でな。
他にも捕らえた魔物との戦闘に賭け事をしたりと、まぁ戦いで盛り上がる為の場だ。」
こうして一行が向かったのは、中位E地区。
右斜上の北東に在るこの闘技場に訪れていた。
そしてE地区を担当するエヌルが振り向いて軽く自己紹介を始める。
「どうもー、エヌルです。
このE地区を守護してまーす。」
「今日は、皆さん四人と戦いたい守護者4人を募ってここダイエン闘技場で興行試合を執り行いまーす。」
「席数は1000程度、一席金貨一枚でーす。
売れた金額は参加してくれた守護者さん4人とお子様四人の各ペア同士で割って下さーい。」
「というかダイエン共和国は血の気の多い国なのでとっくに満席でーす。
いつも暇な道楽人が押し掛けてるのでどうぞ1割を八当分で12〜13金貨頂いちまって下さーい。」
凛堂は一転して湿気た顔付きから明るい表情になる。
緊張で固まっている四人の肩を叩いて鼓舞する。
本気でやれ、それだけ期待されてんだぞ?
それにその金は後の資金にも小遣いにも使える、本気出してこい!
ーーーー学院での特訓の成果、見せてみろ。
そう言われて、全員が修行を思い出す。
七月半ばから八月末まで続けて来たガトレット達裏代表生徒四人組との手合わせで、確実に力を上げてきた。
それが他国の守護者とやらにどれだけ通用するのか。
やってやるよ。
フィスタが拳を前に突き出して宣言する。
「俺は、殴り合いの出来る奴がいい。」
そう口にするフィスタの前に、ある男が出てくる。
ダルフ、以前レイブンに粉砕されたドルフの弟である。
拳闘を好んでおり、またとない絶好の機会と見て拳闘家同士の戦いを申し込んだ。
そうしてフィスタと視線を交わす。
ーーーー実力は、五分だ。
お互い臨戦態勢に入り掛ける。
それをエヌルに止められると、次は守護者陣営から申し出。
ゲンシェルドだ。
「俺は、守りが得意でな。
攻撃に自信のある奴が良い。」
「……………火力は、僕が高いよ。」
「細いな、やれるのか。」
「君でしょ………心配は要らない。」
「分かった。
んじゃあ宜しくな。」
そうして第二試合の予定が組まれる。
そうして気が進まない中クラスが前に出る。
他の守護者達が少し心配になる程固まっている様子の彼を見る中、凛堂がふざけた事を言う。
「お前それでも松薔薇の子孫かーーーー!!」
「え、え、えぇ!?」
一斉に守護者達が顔を上げる。
現代まで、人界を守って来たとされる英雄。
それの血縁者。
そのブランドに釣られて一人が名乗りを上げる。
K地区担当のセルペアナだ。
クラスの前まで行き、注意深く観察する。
クラスは対応に困るが、何かを確認して納得した様子になると改めて戦いを申し込まれる。
真剣な顔付きで言われ、反射的に頭を下げて承諾する。
礼儀正しい子だなぁと周囲が思う中、最後の1組を決める。
それは、
ブレイドが前に出る。
そして一言。
「俺は、一番強い人がいい。
尊敬する人の背中を超える為には、普通の戦いじゃ意味が無い。」
「だから、その条件で頼む。」
「そうか。
ならやはり私だな。」
「ーーーーアルバさん、だっけ。
強いんだ、やっぱり。」
「あぁ、最近一つ覚えたものがあるんだ。
お前に使うので二回目だ。」
「へぇ、面白そうだ。
んじゃ、エヌルちゃん宜しく。」
「年上にちゃん付け厳禁でーす。
でも分かりましたぁ、んじゃあ景気良くアルバさんの組からで宜しくお願いしまーす。」
そうして午前8時半。
E地区闘技場にて大きな戦いの予感を過らせながら当事者8人が入場する。
それ以外の者は右入場口に凛堂、左入場口に機関親衛隊10人が特別席で待機している形となる。
そして。
「アルバ、手合わせ宜しく。」
「あぁ、宜しく。」
9時現在。
第一試合が始まる。




