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英雄までの物語  作者: ノンプロット
一年期七月下旬〜 反英雄
65/113

六十二話 魔王、原初







九月四日。

午後10時時点。








「遅い。」


「す、すいまぜッ無理ッ。」


「クラスは罰筋200。」


「は、はい"ッ!

ーーーーあれ、他の二人は?」







フィスタとブレイドは余裕とばかりにダイエン共和国の東検問所へとっくに辿り着いていた。

秒間10mなら166分40秒を理論値(時速36km相当)として到着するのだが、だからと言って3時間弱で着いた訳では無い。


フィスタとブレイド達は全速力で走ってもゴールまでは全く保たないのが分かっていたので軽く力を抜いて早歩き程度までギアを下げていた。

※そうなると平均時速7km近くに下がる為間に合わず罰を受けるので女性の走り平均と言われる時速10kmに調整して丁度午後6時に間に合う様にした。






ブレイドは日頃から住宅街外周の走り込みをしているので25kmの全力走行が可能なのだが今回は四倍と桁違いに長い為様子見で走っていた。


しかしフィスタも日頃自宅寮にて日々の反復跳びや全身運動を各千回日課としてこなしていた為何とかブレイドの少し後ろに着いて来れた。


これにはブレイドだけでなく凛堂も感心したのだが、問題はフレムとクラスである。








「フレムは午後7時(時速9km)、クラスに至っては午後10時(時速7km)ね。」

「こっちの二人を見習え、基礎が無いと戦いの最中に体が動かなくなるぞ。」


「僕は早歩きと走りの間で辿り着いたけど、クラスはやっぱり体力ないんだね。」


「は、はいっ、そうですねっ。」






「それでも普通の人間なら100km自体移動出来ないから、お前らは見込みありではあるんだがな。

英雄の血を引いてるんだ、こんなんで成長を止めさせねえぞー。」


「はい!」

「うん。」


「なぁ凛堂、検問所の人達が不審者見る目だけど。」

「俺達4時間も屯してるからな、不審者だろ。」






「あー。まぁ、大丈夫だろ。」


「駄目です。

午後10時以降は受付終了ですので、入国希望であれば翌日午前7時からでお願いします。」


「え、マジで?俺達金も無いし野宿は嫌なんだよね。」


「駄目です。

4時間も彷徨いてる方が悪いでしょ。」








全員がクラスを見る。


え、私のせいですか?

すいませんすいませんすいませんっ!




しかしクラスを責めても何も変わらない為5人は諦めて検問所付近にある屋根付き壁無しの休憩所(四阿)のベンチやテーブルで休む事にした。


検問官も疲れて所内に帰っていく。

今日は動けそうにない。






凛堂は疲労で動けない二人と自主練に励む二人をそれぞれ横目で確認すると、少し場所を離れた。


用があるのは検問所。









「なぁ検問官。」


「何だ不審者。

入国は明日からだぞ。」


「はいこれ。」


「ん?何だこれは。」








…………………。

検問所から飛び出てきたかと思えば、突然謝り出した。





フレム達全員が何事かとボヤ騒ぎを確認しに来る。

すると凛堂の近くにいた検問官が連絡水晶を取り出して何処かへ通話を繋いでいた。


一体何が。








『何だ?此方は自室で休んでいるのだぞ?』


「す、すいません!

しかしその、検問官では対処出来ない方が来ておられてまして。」


『?誰だ?こんな時間に、碌な人間じゃないだろう。』


「はい!人間ではありません!魔王様です!」


『……………………何だと?本当か?

解った、例外として入れて良い。』

『それと、丁寧にもてなせ。』


「は、はい!了解しました!アルバ様!」







「て事は、入って良いのか?」


「勿論です、許可は得ました。

お連れの方達もどうぞ!」


「「「「はーい。」」」」

















「ーーーーで。

入ったは良いものの、何かこう、寂しい国だ。」


「私も教科書で知っていましたが、ここまで貧富に差があるのですね。」

「あぁ、バルト王国とは大違いだ。

ここは確か、最下位地区だったっけ。」

「えぇ。

右上から左上まで時計回りに文字が振られていて、O〜Z地区に分けられています。」

「なるほど、んじゃあ此処はQとかRか?」


「Rだ。

北OPQ、東RST、南UVW、西XYZの順だ。」








周りの人々は決して綺麗とは言えない解れの多い服を身に付けていた。

だから此処にきた5人の服装が小綺麗なのが良く目立つ。


すると、なにやら良い匂いが漂う。

途端に腹が減り始める。







「なぁ凛堂、腹減ったよ。」


「うーんとなぁ、金ねぇしなぁ。」





「あの!旅人ですか!」


「ん。

何だお嬢さん、俺達不審者だから話しかけない方がいいぞ。」

「「「「巻き込むな!」」」」


「いえいえ!

そんな身形で芳香が匂っている方は大抵他の国の方ですから。」






「実はその、家の料亭に余りの食材がありまして。

良ければおもてなしさせて下さい。」


「マジでか!?」

「「「「本当!?」」」」


「えっ、えぇ。

但し味が合うかは保証出来ませんが。」








そうして年季の入った眼鏡を掛け直す彼女に着いていく事にした。

腹が減り過ぎて四人は死に体だ。












「お父さん!外国の人だよー!」


「なぁにぃ!?よく連れて来たぁぁ!!

お金は要りやせんぞ、客に出さない部位や葉物ですからな!」


「それでも全然ありがたいよ。

お前ら四人は適当に座っとけ。」






「「「「はーい。」」」」


「若いのね、15歳くらい?はいお茶。」








そう言って茶器と飲み物を用意してくれる女性は丁度ロルナレ家の姉さんや兄さんと同じ年頃に見え、馴染みやすい歳であった。


クラスが今日あった物事を説明すると驚いていた。

普通人力で移動なんかしない、馬車とかが常識だ、と。


……………しかし、自分自身国を出た事が無い為渡航者は皆羨まれると説明された。

ーーー何だか、横隣でここまで変わるんだな。





そうこうしていると濃いソースの匂いが木製の器から出ているのに気付く。

これは。









「へいよ!キャベツの芯と牛の赤身端、小麦麺の端切れを自家製のソースで絡み焼きしたぜぇ!」


「焼き麺、いや焼きそばか?」


「さぁさぁ、食材の質の悪さは腕で補うのが俺の技術よ!食べてってくんな!」


「あぁ、頂く。

お前らも準備ーーー食ってんじゃねえよ。」







「うんめぇぇええぇぇっ!!?」


「知らねぇ味だ、ソースだっけ?美味い。」


「バルト王国は出汁や醤油が多いですからね。

是非学食に出して欲しいです。」


「……おじさんの料理だから美味しいのかな。」







「くぅぅぅっ、良い事言う子達だぁっ!

何用で此処に来たかは知らんが、今日はテーブルで休んでって良いぞ!」


「お、ありがたいね。

でも俺はちと用があるから飯食ったら少し出るわ。

四人は適当にしてろ、明日の朝7時頃に出るからな。」


「お前俺の肉取ってんじゃねぇ!」

「残してたのか、俺の為かと思ったぜ。」

「黙って食べなさい!」

「………うるさい。」







「ーーーーまぁいいや。」






そうして一旦店を出る事にした。















人目を気にする事もなく、凛堂は国中央へ視線を向ける。

何故か、理由は明快。


………………天使の気配。







眼鏡を外す。

途端に止め処無く滝の様に溢れる魔力。


それは、向こうに対しての通知。

ーーーーしかし、何の反応も無い。






これは妙だ。

普通なら気付いてるはずなんだが。

仕方無い、行くか。


脚部に魔力を集中させる。

観衆は渦巻きの様な凛堂の魔力に吸い寄せられ皆立ち止まっていた。


そして、その力をありったけ地面に蹴り付け空中へ跳ぶ。







(此処から中央までだいたい28kmか。

そうだな、560秒位で着くか。)







そうして秒速50m級の速度で高速飛行をしながら20秒置きに地上に着地して跳躍を繰り返す。


その道中で空中から着陸する謎の男に唖然としている周囲を無視して何度も跳び続ける。

尚、翌日にその事で騒ぎになる。


そうして跳び続けた。















目下に見える。

此処がダイエンの中心部か。


魔力を解いて垂直に落下する。

すると。








「お前か。

この時間帯に入国したという自称魔王。」


「姉さん、この人。」


「あぁ、何となくレイブンに似てるな。

でも、根本的に違う部分がある。」







「此奴は、明らかに人間の力を超えてる。」


「人でも空を飛べる奴は居るぜ。

世間知らずのお嬢さんよ。」


「そんな世間は知らない。

何用だ?何故A地区に?」


(ーーーほぉー、強者に慣れてるな。)


「言っとくがこの場には私達以外に目立つ存在は居ないぞ。」


「そうですよ。

機関親衛14隊も僕と姉さん以外は寝てます。」








「ーーーーそっか。

んじゃ右の別館に居る濃い魔力と、お前達の裏にある本館一階左部屋の奇妙な魔力は何だ?」


「「っ!!」」








アルバは即座に剣を引き抜く。

ーーー抜こうとした。





瞬きの内に懐に潜り込まれ、鉄の鞘ごと握り潰されて抜けなくなっていた。

有り得ない、何だこの男は?








アルマが遅れて反応し同じく抜き出した剣を、何故か防ごうともせずに左手前腕で受ける。

訳も分からず兎に角切り掛かるアルマの剣は、不条理にも腕の外郭で綺麗に止まってしまう。


黒いコート服と纏めて両断するつもりが、服すら切れていない。

なんで?どうして?







欠伸する。

それは、二人では戦い以前の問題である事を暗に伝えていた。

ーーーーもしや、本当に?


凛堂は適当に二人の肩を叩くと、淡々と説明する。









「取り敢えず俺は天使に用がある。

居るんだろ?本館の一階に。」


「だから、さっきから何を」


「ーーーー解るよな?」








っ。

その含まれた殺気が、アルバにとっては刃物が首に喰い込んでいる状況に等しい圧になる。


静かに首を縦に振る。

アルマは口外禁止の内容を認知した姉を見て、状況が危険である事を理解する。






静かに振り向くと、申し訳無さそうな顔をしたアルバと困惑するアルマが本館へ入って行く。

凛堂もそれに続く。


その顔は普段では想像出来ないほど真面目な顔付きになっていた。

















ノックされる。

それに静かに返事をすると、アルバとアルマが顔を見せる。


マリウェルは何か起きたのかと思いベッドから立ち上がる。

するとその後ろから禍々しい魔力を纏い立ち入ってくる男を視認する。




ーーーこの存在は。









アルバとアルマは約束を守れず外部の存在を招いた事を謝ると、真っ青な顔のまま戻って行く。


そうして凛堂は見た事のない天使を目視する。


それは裏天使から見ても同じであり、マリウェルも遅れながら真剣な顔になる。

そして用を訊く。








「私に、用か。」


「あぁ、大有りだな。

魔力の質がどこか違うんだよね、お前。」


「…………裏天使マリウェルと言う。

初めまして、魔王。」


「っ!ーーーー裏界の。

なるほど、俺もお初にお目に掛かるな。」







適当に中央卓の右に置かれた椅子に座る。

マリウェルは向かいに座らず何故か卓上に胡座を掻いて座りこむ。

凛堂の目線が丁度マリウェルの胸辺りにあるが、これは普通の異性なら我慢出来ない位置取りだろう。


しかし両者共人間ではない為その辺りは気にしない。

ーーーしないが、凛堂はマリウェルと違い人間社会の常識に慣れているので即刻止めさせる。






仕方無いと言った顔で今度こそ対面の椅子に座るかと思えば、何故か凛堂の膝上に正面から抱き付いてくる。

ーーー何でこう、女らしさが無いんだ?


とは言えこれも注意するとどうなるか分からず面倒なので取り敢えずこのままで喋る。








「私に、何か?魔王よ。」


「息掛かる距離だけど…………良いんだ。

まぁ、大分重要な話があってな。」


「……………書記か。」


「あぁそうだよ、何だあの内容は?

表に喧嘩売ってるって事で良いよな?あ?」


「私に、言うな。

あれは意思が望んでいるのだ、逆らうな。」


「………………可愛い顔して、中身は人形だな。

こっちの天使は全員男なんだけどよ、性格は人間らしくてお前らより完成されてるよ。」








マリウェルがその言葉に反応する。

それは、何故か理解出来なかったが頭を駆け巡り自然と。



乾いた音が鳴る。

凛堂は突然自分の顔が右に飛ばされて理解が遅れた。

ーーーー右手で左の頬を叩かれた。




マリウェルの顔は明確に怒っており、しかしそれは本人にとっても謎の行動であった。

だが凛堂は笑う。









「何だよお前、怒れんじゃねえか!

機械みたいな印象受けたけど、この世界に来て何か変わりでもしたのか?ん?」


「……………ふん、黙れ。」


「まぁ、俺にビンタなんてそうそう出来ないぜ。

早いんだな、いや、魔力が異常に少なくて感知出来なかったのかな。

兎に角だ、お前らだってあんな糞親に従う必要ないんだぜ。」


「……………しかし、それは。」


「知ってるとは思うけど、そもそも意思様は前に俺達表の存在と戦ってこっちの主張を認めたんだぜ?

何を今更でしゃばって、餓鬼すぎるだろ。」


「意思の発言、それは摂理。

凛堂、貴様が間違い。」








子供の体で生意気にも抵抗してくるこの天使は、どこか葛藤しているように見えた。


凛堂はそれをどこか憐れにも思ったが、此方にも大事な仲間がいる。

顔を両手で挟み少し頬を潰す。




当然嫌がるが、無理矢理抑えて少し不細工な顔付きになるのを笑う。

マリウェルは微かな力で手を押し退けようとするが1mmも動かなかった。


そうして低い声で唸る彼女の頭を軽く撫でる。

それが何故か分からず不可解な顔をする彼女に何を問い詰めても仕方無いと思い膝から降ろしてやる。







マリウェルは自身を簡単に殺す事も出来る状況なのにそれをしない凛堂を見て、ただ力を振うだけの存在ではない事を把握した。


そうこうしていると戸を別の誰かが叩く。


そうして入って来たのは。






凛堂と視線が合う。

お互いに強者である事を理解すると同時、一歩遅れて同時に思い出す。









「ーーーープライモか?何してんだ?」


「ふ、凛堂こそ。

…………マリウェルに何か用でも?」


「あぁ、書記の事でな。

もしも意思が俺達に喧嘩売ってるんなら、即買うつもりだって伝えたんだよ。」


「うん、それは困るな。」


「あ?何言って、」










凛堂は皮一枚で自身の刀を間に呼び出し防ぐ。

その目前で、極光に昇華された濃度の自然魔力を纏った剣が鍔迫り合いになっていた。


ーーーーープライモの自由の剣。

異常な膂力で吹き飛ばされそうになるが、態と剣を解除し体勢を崩させる。




しかし、再度呼び戻した剣で居合を放った瞬間、別の何かに衝突して防がれる。


それは。









「ーーーー大地の剣召還、空中待機。」


「……本当に化け物だよ、お前は。」





「会話はいらない。」








そう言い無の表情を送るプライモに久し振りの恐怖を感じる。

無言で振るわれる自由の剣に対して右腰から抜刀した勢いの刀を左真横へ薙ぐ。


その居合を防いだのは更に、別の剣。




おいマジか、こいつちょっと本気だよな。

二番目の宙に浮く剣、それは、








「激流の剣召還、空中待機。」


「面白ぇ外出ろやぁぁぁっ!!」



















金属を叩き合う様な音がA地区に響き渡る。

その音を聞き駆け付ける14隊が目撃したのは。







強烈な流液魔力を纏った剣に防がれると、その文字通りの流す力で体ごと持ってかれる。

そうして刀を消滅させると生身の体へ自由の剣が振り払われる。


なんて攻防だ、尋常じゃねえ。

だが、この高揚感はいつ振りだ?







再度召還する刀で2、3秒に20回程度の打ち合いをする。

その一撃一撃が並ののskillに匹敵する威力であり、受けを間違えると防御ごと吹き飛ばされる。


しかもこれで全然本領出してねえんだから逝かれてるよ、この野郎。








「流石にやるね。

面倒だなぁーーー重抑の剣召還、所持。」


「うお4本目かっ。」


「凌いでみなよ。」









振るわれる重抑の剣の軌道上に強烈な引力が発生する。

腰から重心を外すと一瞬で転かされる。


そんな状態で激流の剣が周囲を飛行しており、突っ込んでくるその剣を弾くと刀と体が持っていかれる。

ふざけ過ぎだろ。



しかもプライモがもう一本浮かせてる大地の剣。

ありゃ自身の体力と魔力の自然回復力を跳ね上げる糞剣だ。

どうにかして破壊しねえとな。


プライモの剣は耐久の概念があり、一定の損傷を負うと折れてしまいその戦闘中呼び出せなくなる。

それが狙い目だ。







瞬間的に後方へ飛び、滞空中に呼び出した刀を右脇に差す。

そのまま右手は鞘に添え、左手は柄に置く。

左足を前、右足を後方に固定し一言口にする。





 





「ーーーーsummon skill《犠剣》。」


「っ。」








急激に刀へ集約される三色の魔力。

電気、流液、強化魔力がそれぞれ凛堂の肉体へ作用する。


電気魔力による全身の筋肉への信号の加速。

流液魔力による肉体の血液の循環の高速化。

強化魔力による慣性の強化。


その三重の魔力併用により生まれる異次元の斬撃。




プライモは溜息を吐きながら重抑の剣を空中から投擲する。

するとそれに対して三色魔力が混合した電流を従えた薙ぎ払いが打ち出される。


それは意外にも遅く、アルバ達にも目で追える程度の速度であった。

……が。








重抑の剣による影響を完全に無視して薙がれる刀による被害は、災害に等しかった。




凛堂を中心に反時計に振られた刀の威力を受けた重抑の剣は簡単にへし折れ、更に全く衰える事のない余波が周囲360度方向へ甚大な魔力の衝撃波を発生させる。

威力で言えばこの余波だけで巳浦のskill《刀衝》や《剣衝》を軽く上回る。


プライモは即座に別の剣を生み出す。









「ーーー炎火の剣、雷電の剣、空中待機。

大地の剣、激流の剣、回帰。」


「…………………へぇ、本当すげぇ。」









空中に浮いた二つの剣から放たれる魔力斬撃はその凛堂の余波を更に消し飛ばす程の威力を誇っていた。




更に今度はプライモの二剣による余波が凛堂へ襲い掛かる。

それに対して命の危機を感じた凛堂に、魔王の力が呼応する。








《ーーーSatan skill《堕落の魔王》発動》


「ん………………顔面を覆う三色の濃霧。

魔王の真骨頂、か。」


「………………hahhhhhhahahh………」








アルバは、レイブンに感じた狂気とは全く種類の違う恐怖に腰が抜けてしまう。


しかし、他の者達は全員して団子の様に固まり震えている始末。

まだアルバは耐えた方だろう。







プライモは、古い記憶を思い出す。

Satan skill《魔王》。


この力は意図的に発動出来ず、死の危険を感じた際に自動で発動する。

魔王が天使に対して対となる扱いを受ける真の理由はこれだろう。


自我を失う代償にその魂を魔物に変質させ一時的に天使級の力を振う。

ーーーこれは、もう殺し合いだ。




プライモが珍しく本気になる。

これは滅多にない事だ。


そして唱える。









「全回帰。」





「ーーーー不避の剣、自由の剣、所持。」


「雷電の剣、炎火の剣、携帯。」


「重抑は無理………毒致の剣、空中待機。」


「大地の剣、激流の剣、地面待機。」





「ーーーーよし。

じゃあやろうか、凛堂。」


「ooooooooaaaggghhhhhhh‼︎‼︎」













「………………待て!」








間に走って来たのは、マリウェルだった。

それに反応してプライモは止まったが、凛堂は止まらなかった。


無造作に振るわれる上空からの切り下ろしですら、三色の魔力が強引に混じり竜巻を吹き起こす。

マリウェルは想定しない行動に振り向いて目を見開く。


その刀はマリウェルの眼前へ残り1cmまで振り抜かれていた。

ーーーーーーーーー。




(ーーーーーーーーー全回帰。)










ーーーーーー不避の剣。

それは落雷の如き閃光を一瞬起こした。


そして、凛堂の刀とマリウェルの顔面の間に即座に割り込む。



そして箍の外れた凛堂と一本に魔力を集中させたプライモによる本気の鍔迫り合いが起こる。








反応の遅れたマリウェルは突然眼前で発生する強烈な攻防に呆然とする。

プライモが何とか止めている間にその場から離れると、その後すぐに耐え切れず元いた地面へ凛堂の攻撃が直撃する。


爆撃の様な魔力の奔流が吹き荒れる。

プライモはその地上との間に挟まれ、折れ掛けの不避の剣で何とか耐えていた。


しかしそれも時間の問題だろう。








(ーーーー厳しい。

自由の剣なら受け止められたけど、それじゃ割り込みが間に合わない。)


(全くさ、こんな時巳浦なら、どうする?)








そしてーーーー不避の剣が中心から折れる。

嫌な金属の音が響く。


ーーーーーーーいや、違った。

それは思ったより、悪くない音だった。













プライモの目前には極大な大剣が挟まれており、渾身の踏ん張りで凛堂の攻撃を受け止めていた。


……………ダンジョン、ドミニオン。

思いもしなかった増援。






ダンジョンがプライモに目線を配ると、即座に引かせる。

そして、全身に自然魔力を纏う……全開で。


なんと、凛堂の肉体ごと空中数mまで飛ばす。

圧倒的な膂力の差。


これが、最強の魔王か。

ーーーーふ、やるね。





凛堂へ声を掛ける。

しかし応答は無く、見境もなくダンジョンへ襲い掛かる。


ダンジョンは一瞬だけ真面目な顔付きになる。

すると、突然脚に魔力を集中させて凛堂の腕を掴みながら空中へ跳躍する。


ーーーー上空、100m。








14隊が目を飛び出させながら空を見る。

いや、それを見る。


そこでは、まるで昼間と錯覚するほどの光量を放つ膨大な自然魔力を左手の大剣に凝縮させ続けるダンジョンが、右手で掴んだ凛堂を更に上空150m近くまで投げ飛ばしていた。


これが、人外の戦いである。

唱える。










「Special skill《迷宮大剣-投擲》。」


「ghhhhhhhhhaaaaaghhhーーーーーーー









それはまるで、地上から上空へ落ちる雷。

自然現象の雷樹、その物。

小規模の竜巻と摩擦で発生した電流がダンジョンを軸に真上へ放たれる。


ーーーーそれは、凛堂へ直撃する。


その瞬間半径50mにも及ぶ電撃と爆風の嵐が上空150mで巻き起こる。




そしてダンジョンは当然の様に地上へ爆撃の様な音を立てて着地する。

ーーー着地点は人の形に陥没していた。








プライモがダンジョンに礼を言う。

ダンジョンは悲しそうな顔を凛堂に向けていた。


魔王は、ああなったら一度瀕死にならないと戻らない。

同胞に牙を向ける悲しみに暮れていた。



そんなダンジョンに話を聞く。

何故ここにいるのか。









「凛堂がダイエン共和国でトラブルを起こすんじゃないかって松薔薇が心配して、自分を急遽バルト王国から派遣させたんすよ。

前日にあった急な連絡のせいで絶対に問題が起こると確信してたんすね。

見事的中っす。」


「うん、そうだね。

ーーーーー君が居て、助かった。」


「らしくないっすよ、プライモ。

貴方なら簡単にとはいかずとも勝てる筈じゃ?」


「訳があったんだよ。

状況が絡んで本気出せなかったんだ。

……………誰かを守るのって、難しいね。」


「ふ、そうっすね。

ーーーーーお、凛堂が落ちて来た。」








地面に激突する。

凛堂の服は千切れ飛んでおり、殆ど全裸になっていた。

アルバ達女性陣が正気に戻って悲鳴を上げる。


凛堂はプライモに何とも言えない顔を見せるが、それでも一言謝った。

プライモもマリウェルに干渉されたくない親心が芽生えていたせいで刃を振るってしまった事を謝る。





尚マリウェル本人は自分の力が封印されている事を恨めしく思った。

力が抑え込まれてなければ、魔力攻撃を無効化可能なのに。

この場にいる皆が危うく死ぬ所だった。


…………………何を、私は。






マリウェルの感情を野生で汲み取ったダンジョンは、静かに歩み寄ると一言助言する。


それは、思い遣り、気遣いだ。

人の持つ感情っす、と。



先程の戦いの鬼神の如き姿と、そう言うダンジョンの優しい姿が、彼女にはとても明るかった。









14隊の男性陣が凛堂達3人へ近付いてくる。

それは、子供が英雄や憧れの人を見る目であった。

グーミルが先陣を切る。








「あの、ダンジョンさん!」


「ん、何すか?」


「半端じゃない力ですね、体付きも普通じゃない。それは元からなんですか?」


「いや?これまでの長い生で鍛え上げて、身についた肉体っす。

最初は細かったっすよ。」


「そうなんですか!?じゃあ俺も頑張れば強くなれますかね?」


「勿論、肉体の努力は基本報われるっす。」


「おっす!」








「すいません、えっと、凛堂さんですよね。」


「あ?誰だ?」


「ゲンシェルドです。

その、魔王様ってのはみんなそんなに体が丈夫なんですか?」


「ま、どうだろうな。

魔王は全員種類は違うけど鍛えてるからね。

俺は魔王だと三番目に頑丈かな。」


「三番目!?じゃあ、あのダンジョンとか言う魔王は一番ですか…?」


「おう。

二番目がガイダル、四番目がライメス、五番目がレイバルだ。

さっきの攻撃、ライメスは限り限り死なないけどレイバルなら死んでたな、はは!」


「そ、そうですか。

ーーーーまぁですね、自分体を頑丈にしないといけないんです、戦法的に。

でも柔軟性も必要で。」

「さっきのプライモさんとの戦闘、時々宙で躱したり関節の可動域一杯に捻って避けたりしてましたよね?あんな動きが理想なんです。」


「そっか、まぁそれは誰でも出来るかもな。

ただ死ぬほど大変だ、覚えられるといいな。」


「!は、はい!」







「ーーーあの二人、何をしに?」


「君に会いに来た人と、止めに来た人。

まぁ無事に終わったし、戻ろっか。」


「ーーーあぁ。

それとプライモ、助かった。」


「うん、君は唯一交流出来る裏天使だ。

大切にしないとね。」








凛堂はそんな中、ダイエンに訪れた目的を思い出す。

魔巣の攻略だ。


手短に伝えると、丁度先ほど話していたゲンシェルドがJ地区を担当する守護者だったらしく自身の地区の魔巣を探索したいたら自分も付き合うと言う。

だがそれは断る。



今回連れて来た武者修行四人組で独自に探検したいと伝えると、アルバが横から割って話してくる。










「魔巣は危険だ。

レベル30はないと許可が降りん。」


「ん,全員30はあるぞ。

丁度って位だけどな。」


「何?16でか?…………早すぎる。」


「そりゃあ、英雄の子供だからな。

お前らとは出自が大分違う。」


「そうか、まぁ、それなら。

但し、その前に後日全員を連れてA地区に挨拶をしに来て貰う。

やはり地区を担当する守護者とは面合わせするべきだ。」


「まぁ、そこまで言うなら分かったよ。」








そう言って静かに帰っていくダンジョンや凛堂達の姿を見て、14隊は思い返す。


ーーー鬼神、魔神。

そう例える以外形容できない化け物。


光景を思い出し鳥肌が立つ。

だが、何とか事なきを得た。



















ダンジョンは9月2日、反英雄と国を渡る松薔薇からある依頼を出されていた。

ーーー迷宮の探索である。


もしかしたら、魔王の棲家である迷宮にも何か隠されているのではないか?と。


その為バルト、イルディア、ダイエン、ハイデン国の調査終了を区切りに一旦他国の調査をやめてそちらに尽力して貰うという話であった。





だが、迷宮は魔王本人達も知らぬ内に構造が変わる。

魔王100階に渡る単純な小部屋の様なものが縦に続いており、その部屋一つ一つの環境や魔物が変化している。

これは探すにも骨が折れるっすね。


誰か、協力者がいる。






9月4日。

激動の日。

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