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英雄までの物語  作者: ノンプロット
一年期七月下旬〜 反英雄
63/113

六十話 咆哮

タイトルはいつも適当です。








九月二日。

松薔薇は二人の反英雄と各二国を渡りこれからの指針を伝えた。


その結果として両者をギルド最高位陣に迎え入れる事も了承して貰い、それと次いででイルディア公国のボロネス公爵とも現状持ち合わせている書物を共有して協力に至った。


当然ダイエン国とイルディア国内では大きな話題となり国内ギルドで頂点を務める事になった二人はお互いに離れていても通話出来る水晶を松薔薇から貰い暇な時に話し合う生活をしている。


















ハイデン王国。

そこでは、以前とは文字通り別人になっている者が一人いた。



ーーーーレイレンである。


八月初め辺りはまだ6歳程度の体格であったが、現在9月3日時点で既に。







朝6時から行われている稽古場では、何やら顔色の悪いザラデス家の騎士達が訓練中らしき中央の二人を見つめていた。






凛堂の繰り出す居合は既に人間では目視の厳しい速度であり、それを木剣の横腹で流し対処しているレイレンはもう常人の限界を超えている。


しかも女性陣は暫く前まで可愛いと思い男性陣は愛らしいと思っていたレイレンが今や、






時折揺れる胸部に目が釣られてしまう男に蹴りを入れつつ、僅か一月程で20歳相当に成長したレイレンの陶芸品のような肉体に異性も同性も見惚れてしまう。


それは親に当たるレインドや巴も驚愕であった。

日に日に大きくなるのではなく、何かの拍子に突然成長する事がある彼女が同じベッドに寝ていたレインドにその成長した姿で抱き着いていたのは9月1日の事であった。

(レインドも最初誰か判らず混乱した程)






そうして前髪を銀のカチューシャで上に留め稽古に励む彼女が風に流す長い灰髪ーいや最終的に変色した肩までの銀髪はドレスのスカートの様に美しく舞い上がり、女として負けという次元でも無かった。


身に付ける純白の布で織られたロリータに黒いレースが裾に入った同じく白スカートを着用している彼女の服装はレインドが買った物なのだが、胸が母親に似て大きくなった影響で姫様服にも関わらず前に強調されてしまっている。






しかし可愛いだけならまだ許せるが、実力は既にザラデス家全員を同時に相手取れる程にまで成長してしまった。


凛堂も思わぬ成長速度に驚きつつ、本人はとても楽しそうに毎日を過ごしており憎むと自分が嫌いになる生活を強いられる周りは地獄である。





それとは別に巴とレインドはと言うと、あまりにも育て甲斐の無い娘に安心と寂しさを感じていた。

だが立派………過ぎる程に強くなっていく子供に将来はどれだけの子になるのかという期待感が勝っていた。


しかし巴は自分の肉体的直系子孫であるブレイドの事も気に掛けており、時折誰かを憂う様な顔をする母親に妬きを抱くレイレンは外見に不釣り合いに年相応の子供であった。







凛堂との手合わせを毎日2時間行い、それを横に訓練を積むザラデス家達の精神的圧は凄まじい。

最初はお兄ちゃんお姉ちゃんと呼ばれていたが、最近は呼び捨てになってきた。


さん呼びされているのは凛堂だけである。

※その当人も最初のお兄ちゃん呼びの方が良かったと嘆いていたが。


因みに巴はママから母、レインドはパパから父になった。

精神的には幼い部分もあるが肉体的成長に吊られて口調や人称も変化しているのだろう。







そうして稽古が終わる。

本日の目標である【直撃の回避】を難なく突破した彼女に益々期待を感じつつ、凛堂は今日は別件があると言って足早に城から出ていった。


周りは珍しく用事のある彼の動向が気になったが、それよりも自身の任務である城内の警備や監視の場へと就き始めた。






レイレンは現状不備の無い暮らしを送っていたが、却って苦労する事のない天性の性能にある種の嫌悪を感じる事が最近多くなっていた。


それはゆっくりと成長していく人達との間に生まれる心理的障壁や物理的差が社交的な彼女からしたら嫌だからであった。

しかし凛堂や父から期待されているのもあり稽古を止められず本人の気持ちとは逆に日々強くなっていく。



母にそれを相談したら

『バルト王国に行きなさい。』とだけ言われた。

それの意味がわからず凛堂に訳を話したら、片親違いの兄に当たるブレイドの存在をまた耳にする事になった。


『あいつはお前程の才能は無いがその分努力して強くなる男だ。

十月に会う事になるし気になるなら話をしてみろ。』


そう言われたのを思い出し、仄かな期待を寄せながら部屋に戻る事にする。













凛堂は現在9時手前頃、全開で走りハイデン王国からバルト王国まで移動し切っていた。

秒速40mという速度で移動し、実に40分少しで到着していた。


そして目的はと言うと、現在のブレイドがどの程度の実力なのかを観察する事であった。

このまま行けばレイレンが簡単に勝つ未来を予想出来たので軽く見に来たのだ。






検問所に下界証明書を渡して通して貰うと、そのまま足に魔力を込め人外の膂力から生まれる慣性で空中に跳んだ。


突風が周囲に巻き起こり、足場の石畳は軽く吹き飛んでいた。

そうして強大な魔力が城方面に接近してくるのを察知した松薔薇が寮から外へ飛行して行くと、正面から凛堂が迫ってくるのを視認し滞空しながら銃を向ける。






凛堂はそれを見ると前に出した右手から魔力を放出し自身の勢いを相殺、静かに城の入り口付近に着地した。


軽く警戒されてる事を把握すると同時、周囲を人に囲まれた。

松薔薇を始めとしロルナレ家の人間、巡回中の警備員達である。


が、松薔薇が即後方へ控えさせる。

事情を知らぬ者は噛み付くが、何となく嫌な気配を感じたのか一般級の者は引き、ロルナレ家も殆どが背後へ移る。



しかし、イジャエは以前ハイデン王国で凛堂と会っていたのもあり気軽に声を掛ける。








「えっと、凛堂さんですよね。

何か用があるんですか?」


「まぁね。

ブレイドは元気かと思ってな、六月の頃と比べてどれくらい変わった。」


「え、ブレイド君ですか?

うーん、私達よりは強いと思いますよ。」


「そうか、全然分からねぇな。

確か学院はこの王城を囲んでる建物それ自体だったよな?今授業中か。いつ戻って来る?」


「それなら午後五時頃に帰って来るかと。

あ、それと今はお連れの女の子も居ますから前会った六月頃?とは事情が違いますからね。」


「そうか、取り敢えず待ってれば来んのね。」


「いえ、朝の五時辺りから朝の八時付近まで一緒に稽古をしているのですが午後は別に。

というか疲れてるでしょうから。」


「ーーーーうーんなぁ、負けるなこりゃ。」








「ーーーーー負ける?あのブレイドが?

凛堂、どういう状況ですか。」


「どうもこうもねぇよ。

ハイデン王国で今俺と毎日稽古してる子が居てよ、その子が10月にブレイドと戦う予定になってるんだ。

ブレイドも気に入ってるけどレイレンはよ、根本的に出来が違うんだわ。

努力型じゃなくて才能型だ、同じ量や時間訓練してるんじゃまず間違いなく負ける。」


「成る程、出自は?

普通では無いですね、その言い振りからして。」


「ん、まぁ巳浦?がずっと古い時代に女として生きてた頃の子供だ。

それが訳あって少し前に産まれてきたんだ。

あぁ別に出産した訳じゃねぇみたいなんだが、魂の段階で溶け合ってた娘らしくてな、本人が当時の記憶を取り戻したのと同時に現界したって言うか、そんな成り行きらしい。」


「な?何ですか、それは………。

えっと、お相手は?」


「ん?レインドだ。

ほら、お前も気付いてただろうけどハイデン王国が召還してた反英雄だ。

そいつが現役で生きてた頃の夫だったらしくて、今は二人して仲良く暮らしてるぞ。」


「こ、これはまずいッ。

ヴェルウェラになんと言えばっ?」








その話を外野から聴いていたロルナレ家達は意味が完全には分からなかったが、兎に角大きな問題が起きている事は理解した。


本家のブレイド一家、分家のロルナレ家に続いて

別本家のレイレン一家とやらも存在するらしい。

色々考えるのが面倒になる相関図だ。



だが松薔薇は後の問題はさて置き凛堂に別の用件を切り込む。








「あのですね凛堂。

実は最近イルディア公国の反英雄とダイエン共和国の反英雄両者共と協力関係を結んだのです。

そこで私達ギルドとしてはハイデン王国とも協力関係を結びたいのですが、本国に戻ったらそちらの王に一言伝えて貰えませんか?」


「ふーん、面白そうだな。

内容はなんだ?理由は?」


「各地に出現している手記の照合です。

そしてそれら全てをギルドにて管理したいと考えています。

内容も世界の未来に関する物でして、これらを世界中に野放しにすると後々大きな亀裂を生みかねない。

既に先述した二国とは情報共有済みなのですが、現状の時点で気になる話がありまして。」


「そんなにか?

例えば?」








「ーーーーガイダルについてです。」


「ッ!………………何だと?」








飄々としていた凛堂が態度を変えた事に周囲は恐怖する。

しかし松薔薇は話を続ける。








「世界を嘗ての時代同様に乱れた環境へ陥れようとしている、その張本人が魔王ガイダルである。

そう断言した文言が書かれています、仲間である貴方達魔王からしたら自分達へ言われているのと同義でしょう。…………ほら、この頁。」








久し振りに真剣な凛堂の顔を見た。


松薔薇も突然の空気感に体が緊張するが、周りはその雰囲気に呑まれて静かに座り込んでいる。

それも仕方ない。


全裸で魔物に囲まれた様な怖気が漂っているのだから。






凛堂は粗方に目を通した。

そして滅多に無い感情が体を支配する。


それは。

……………怒り。



本人の持つ【強化】【流液】【電気】。

全ての魔力が雑に混じり合い全身から上空へ逆向きの滝の如く登り上がっていた。


その異常な魔力量と質の重さを見て感じ取ったのか、殆どの者が口を開いて目線を留める。

松薔薇からしても明確に勝てないと言える相手の一人であり、以前学院で会ったヴェルウェラと同じく常に緊張感のある状況である。



そして、凛堂が怒る理由。

それは至極単純な動機であった。









古い記憶を思い出す。


自分達は、世界が生まれた頃に既に存在していた。

いつから、それは分からない。


無から最初の一秒が経過した感覚なのだ。





そうして魔王は世界の始まりと言われる大地。

バルト大陸の中心に生まれた。


ガイダルーボルセス。

ダンジョンードミニオン。

レイバルーウィンタラス。

ライメスーリドゥム。

リンドゥージャクサス。


これ等五名が魔王の正体である。






その瞬間、天使と呼ばれる存在も同様に誕生していた。


サキエル。

ルシエル。

ラファエル。

ミカエル。

ーーーーそして、ルシフェル。


基本は今と同じままだが、ただ一人ルシフェルだけはこの世界に於いての失敗だった。


生まれた直後に豹変した奴は、まだ意識の覚束ない俺達や他の天使を置き独立してその場を離れた。

その後の動向は仲間内の天使にも分からないらしく、文字通り堕天して存在として今は、

…………ルシファーと呼ばれている。







そうして世界の最初に作られた二つの種族が俺達だった。

そんな頃からこれまでの41世期の間、印象に残らない記憶は全て無くなろうとも決して仲間である魔王達の事を忘れる事はなかった。

そしてガイダルは、事ある毎に衝突する魔王とそれ以外の図式を収める頭でもある。


俺は魔王や、それ以外に認めた存在である誰かを貶されるのは許せねえんだよ。

だからな、よりにもよってガイダルを貶めようとする馬鹿野郎がいるならーーーーー。








見た。

確かに松薔薇は見た。


凛堂が目を見開き、空を凝視するのを。

その眼が、冷徹な鷹の様に鋭く氷の様に冷め切った視線であるのを。

そして内面に宿る、溶岩の様な怒りを。







すると、突然凛堂は上空へ指差す。

一挙手に集中する松薔薇を気にも止めず、凛堂は大きな雄叫びを上げる。








「世界!やれるならやってみろよぉっ!

子に倒された事を根に持つ親なんぞ何度でも潰してやるからよぉっ!!

前の3900年代みてぇに!本気だぁぁっ!!」







咆哮の様な声を張り上げ、肉体から全開の魔力を放出して世界全体に自身の存在を伝えるかの様な風体だった。


事実、実力者は気付くだろう。

これが何かの前兆である事を察する筈である。





そして、魔王級の者が全力で打ち上げる魔力の波動は上空数百mまで打ち上がり、青、黒、黄の三色が色の欠けた虹の如く縦一筋に伸びる。


それは城外の街でも多くの人間に目撃され、何事かと軽く騒ぎになっていた。






しかしそれの余波を目前で浴びる事になる者達の肉体的悪影響は計り知れず。


松薔薇が後方に下がらせた者達も包む事が出来る量の自然魔力を全身から噴出させ撒き散らされる魔力を中和する。


それでも魔王の魔力量を前に凌ぎ切るのは難しい話であったが途中で凛堂が落ち着き払って右拳を地に下げた事で事なきを得る。



冷静になった後、被害を抑えていた松薔薇に軽く会釈をすると凛堂は然りげ無く城内へ入って行った。

何事だと要を聞くと、









「ん、前に巳浦の奴がバルト王国は飯が美味いって言ってたんだよ。

魔力使ったせいで疲れもあるしちょっと食ってくわ。

次いでだしお前も来いよ、色々訊きたい話題もあるだろ。」


「ふむ、確かに。

では二階へ、今日はルーランが料理担当ですから特に美味しいですよ。

それと、気になる話もありますし。

ーーーーあぁ、皆さんは各自の用に戻ってください、もう大丈夫です。」








そうして他の者が状況に置き去りにされた後、二人は学院が二時間目を迎えているであろう九時半頃に食事を摂り始める事となった。


この後松薔薇に訳を話し学院内の観察をする事になった凛堂は、飽きぬ半日を過ごす事になる。

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