五十七話 王国、その陰で
動いてなかった部分を動かします。
9月1日。
丁度学院では団体戦が終わり魔力に関しての座学が教えられる時期となっていた。
以前8月下旬。
実家に帰ったブレイドは謎の大男と訛りの強い男性等と共に自宅で過ごしていた。
何かしらの事情がある様だったが、自分には関係無かった。
ソディアの事も母に知らせる事が出来たし、裏で起きている騒動には興味無いとばかりに怠けていた。
ただ、あの丸頭の男は前に会った凛堂とか言う男と似た気配を感じた。
それはつまり人外であろう証明であるのだが、危害を加える様子が一切ない上に巳浦爺さんと仲間って話だから全然気にする事は無かった。
8月末に興味本位で手合わせして貰ったら、俺の木剣を素手で握り潰されたせいで試合にすらならなかったのは良い思い出だ。
ソディアも戦いたがっていたが、逆にヴェルウェラ婆さんに手も足も出ない程に扱かれて疲労困憊になっていた。
そうしてお互いに特別な境遇にいる事に深く感謝しながら国内へ戻る。
何故か丸頭ーーダンジョンさんも連れと一緒に来たのだが、何やら王城に用があるみたいで学院で別れる事になった。
此方は此方で魔力に関して学ぶ時期に入ったのだが、なんとフレムは魔力に関しての入学時成績で一位だった為に座学免除となる。
代わりに基礎体力を伸ばす為にブレイズと放課後の手合わせなどをして腕が鈍らない様に頑張っていた。
(午前8〜11時の座学、12〜16時の座学どちらも暇で逆に辛いとか。)
午後、5時。
全員が9月からの重い座学に悲鳴を上げている。
ブレイドやフィスタは座学が非常に苦手で二人して苦しんでいた。
ナジャやソディアは無難にやり過ごしていたが、9月は二人にとって辛い期間となりそうだ。
「あーあ、実践だけで良いんだけどなぁ俺。」
「気持ちは分かるけどよ。
魔力に関しての話っつうから面白いのかと思えば、細かい理屈ばっかで駄目だった。」
「お二人はもっと考え方を改めるべきです。
私は既に六年間で出される単位や教科の項目はほぼ全て暗記してしまったので今更何の苦労もありませんが。」
「お前それ言いに来ただけだろ!消えろ!」
「そうだ消えちまえ!」
「え?いや別にそういう含みはなかっ、
「………つ、疲れた。
全員静かにしてよ、俺が疲れる。」
こんな様子で皆が仲良く話すのは久しぶりだ。
七月〜八月は兎に角過酷な時期で、ゆっくりと過ごす時間が無かった。
六月の訓練期間の様な気分になり全員して騒ぎたい雰囲気だったのだ。
ーーーーフレムだけ本気で疲弊していたが。
団体戦も終わりソディア等と一緒に帰る瞬間が減った分、これからは以前の様に馴染みと遊ぶ時間が増える事になりそうだった。
それともう一つ。
「あ、ブレイド。」
「おうガトレット。
他の奴らは?もう帰ったのか?」
「多分ね。
僕、日頃から話す相手が君くらいしか居ないから団体戦が終わったのが寂しくて。
ーーーーファンみたいな人は居るけど、弱い人には興味無いし仲良くする気も起きないよ。」
「うーん、俺達の方もしょっちゅう絡んでくる奴らが増えたよ。
やっぱり六年生に匹敵するかそれ以上の力の一年ってなると良くも悪くも目立つんだろうな。
挑んでくる奴は基本居ないけど。」
「はは、そうだろうね。
彼女さんと一緒で、このバルト学院ではトップの剣使いだ。
おまけに魔力出力に関しても双方フレムやブレイズ等一部を除くと次いで並ぶ位だし。」
「馬鹿お前、出力と威力は別だろ。
正直お前の左手から放たれる掌底は一番の破壊力なんじゃないのか。
俺の魔剣も前に負けてるしな。」
「うーん、そういえばそうかもね。
だけどここ最近は君の魔剣も当時より更に磨きが掛かっているし、魔力を飛ばす真空剣に関しても広く浅い型と狭く深い型で威力と範囲に差を付けられる様になったじゃないか。
手合わせの時も速攻型か範囲型か判別出来なくて厄介になったと思うし。」
「まぁ、それはそうかもな。
けど俺やお前だけじゃない、皆七月から八月に掛けて手合わせを繰り返して前より強くなった。
二年、三年になった時に今回経験した勝ち上がり戦と同じ結果になるとは思えない。」
「次は絶対に勝ち残るからな。」
「ふ、頑張ってね。
僕は結果的に最後まで残れたから団体戦は六年間免除になるみたいなんだ。
フレム君が魔力授業を六年間免除になるのと同じでね。
だから、これからは応援するね。」
「おう。
………っと、そろそろ帰るわ。」
「うん、また明日。」
そんなフィスタとブレイドに関しても、六月の対エイガ戦で勝利という功績を残した影響で五月の体力作りの授業は免除になっている。
クラスも中間試験、期末試験を無しにされてる為実力主義であるのを実感する毎日だ。
今日は大人しく一人で東の住宅街にある寮に帰る事にした。
………もっと、強くならないとな。
夜。
バルト王城四階にある寮のある一室で休んでいたダンジョンとロロイは、トランプで遊んでいた。
年甲斐もなく盛り上がる両者に松薔薇が混ざりに来る。
途端に全く勝てなくなる二人を横目に淡々と情報を伝える。
「ーーーーーバルトより西方100km地点にあるダイエンに滞在していた反英雄が2名共に姿を消しました。
ダンジョン、貴方は巳浦の代わりにこの国に来たんですよね?
もし反英雄が暴れる様なら、鎮圧を頼みます。」
「最初からそのつもりっす。
サキエルにこの時計も貰いましたし、必要な分だけ力を制限出来ますから日頃の心配も要りませんよ。
因みに今は1に設定してるんで、20LV相当まで力は落ちてます。
どうすか、面白いでしょ?」
「………天使の権限は相変わらず凄まじい。
では、常日頃から手違いで物を破壊する事も無くなるんですね。
安心です、では任せますよ。」
「それと、ストレート。」
「えぇ?………ワンペアっす。」
「おらは………無しぃ。」
そうして暫しの間三人は遊びに耽っていた。
だが。
「ま、松薔薇様!緊急のお話が!」
「ん、何ですか。
アラガン程の男が珍しいですね。」
「い、いやそんな事は……兎に角!
一旦下まで来てください!」
「反英雄を名乗る存在がこの城に訪れたのです!
バルト王国に巳浦様は居るのか、と城内を訊き歩んでまして。
対処可能なのは松薔薇様だけではないかと。」
「…………早速ですか。
ダンジョン、分かってますね?」
「はいっす、何かあったら自分が前に出ますよ。
松薔薇はそこまで戦闘向きじゃないすから。」
「すみません。
では、ロロイは後ろを着いて来てください、世の中見聞きするのが目的なら良い機会です。」
「え!?良いんだか?ーーーー行くだ。」
夜の10時頃。
この王城の一階に、あの二人が訪れる。
それは、当然ながら城内を動き回るロルナレ家の者に見つかった。
しかし、顔を隠した二人の内大柄な黒外套の男が放つ魔力に訓練場で【巳浦】が見せた気配と同じ実力差を感じて大人しく話をする事に。
要件は単純。
「この国の書物を見せて欲しい。
それと、もし巳浦って男が居たらそいつを出してくれ。
殺さなきゃいけなくてな。」
「そ、そんなの出来る訳無いです!
私達がこの国にいる限りは手出しさせない!」
「折れておいた方がいい、弱者に俺は止められない。
ーーー強い気配も感じない以上、この国に英雄級の猛者は居ないという証拠だ。」
そう言うレイブンの肩を、ネイシャが軽く突く。
それと無しに示す上階への道を見上げる。
そこに居たのは、明らかにこの場にいた騎士等と格の違う貫禄を放つ黒コートの眼鏡男。
そして、190cmの自身よりも一回り大きなタンクトップの男。
ーーーー成る程、魔力を隠す術が有るのか。
レイブンには知り得ない技術である。
松薔薇が口を開く。
要件には答えられない。
この国に巳浦は居ない、そして貴方達を返す訳にはいかない。
ーーーー降参して貰います。
何とも強気な一言目である。
ネイシャが外套の頭巾を外す。
その姿を見るやロルナレ家の人間は余りにも可憐で華やかな風貌のネイシャに対し戦意を削がれる。
しかし、松薔薇の横に居るダンジョンはその女の歩みを見て直ぐ様涼木と同系統の人間だと理解する。
そして、【自制の時計】のギアを5に上げる。
途端にダンジョンから放たれる気配が瞬間で英雄級に跳ね上がり松薔薇やレイブン達を含むその場の全員がそのスキンヘッドの男に視線を向ける。
何とも無さそうに後ろの階段に座りながらも全く意に介さない顔で三者のやり取りを見守るその大男に一種の危険を感じながらも、ネイシャが前に出る。
一瞬手を横に翳して制止しようとするレイブンに一言大丈夫と告げ、更にもう一つ言葉を掛ける。
「レイブン、血の槍を頂戴。
アレがあれば、もっと戦える。」
「ーーーー分かった。
俺は今回は後攻か、先攻は任せた。」
「Second skill【血の槍】。
合わせてfifth skill【血の追尾】。
これでお前の手元から離れても即座に戻る、好きに使え。」
「ありがとう。
ーーーーインディア剣術、見せてあげるよ。」
そう言いながら血の槍の中間を右手で握る。
頑丈で且つ殺傷力も高い彼の槍は、剣ではなくとも十分にインディア剣術に耐える強度を持っている。
掌の上で軽く回しながら、背の後ろで左手に繋いだりと簡単な慣らしをする。
それを見てダンジョンが待ってましたと言わんばかりに階段の上で立ち上がると、ゆっくりと階下に降る。
松薔薇とレイブンは互いに視線を通すと、簡易的に勝敗の条件を取り決める。
その一
続行不可能の時点で敗北
そのニ
敗者は勝者の条件を呑む
そうしてダンジョンとネイシャ。
両者の戦闘が始まる。




