第三話 2対1
前書きが一番悩む。
「試合は10分。
長々とやっても体力持たんだろうし、毎度この時間でやる。」
「フィスタ、ブレイド。
お前らは優秀だ。正直、俺が生家にいた頃のお前らくらいと比べても既に身体能力では上かもしれん。」
ーーー本当かよ
ーーーだとしたら凄いな、あいつら
「だがな、俺も腐ってるとはいえロルナレ家の人間だ。
簡単に一本は取らせん。
と言うよりも、この授業は教師から一本を取れる前提で行ってはいない。
どれだけ俺がお前らを危険視、警戒しているかと言う話だ。」
「今この場で傍観者となっている他90名少しが、お前達と俺との手合わせに目を向けている。
どうにもお前達は毎日見る度に少しずつ強くなっているらしい。」
「俺も、出せる限りの全力を出そう。」
先生が全力だってよ!
普通ありえねぇって。なぁ?
でも、ブレイド達ならもしかして……
そんなこんなで今非常に盛り上がりを見せるのは、先日の作戦会議を終えボコられた後、極限まで感覚を尖らせている二人と、それを肌で感じているエイガ・ロルナレト教師。
流石にこれだけの殺気、いや、そう感じてしまうほどの気迫を持ち戦いに臨んでくる生徒はそう居ない。
というか居るな。
「良いかフィスタ。
作戦通り行くぞ。俺が先生の手を止める。」
「俺はその間この拳を先生にねじ込む。
だけどそう簡単にはいかねぇ。
だから今回から新しく、
「同時攻撃を決める。」
「ほぉ、同時攻撃を、ね。
それがどれだけ難しいのか、お前達は分かっているのか?息を合わせ、お互いの動く速度もどちらかに合わせなくてはならない。
得物、それのリーチも異なる分、攻撃が当たるまでの間隔も負担となり得る。出来るのか?」
「出来る出来ないじゃないんですよ、先生。
俺達は、成功させる為に昨日から徹夜で、
「筋トレ、してたんで。」
「……………お前ら、それとどう関係があって連携に繋がるんだ?」
「単純な話です。
どっちの方が種目回数を終えるのに時間を掛けているのか、どちらがより質良く動こうとしているのか。
色々と分かるもんですよ、筋肉は嘘を吐きません。」
「そうっすよ、先生。
俺らは、毎日この学院街の外周を、何周も走り込んでるんです。
そんだけじゃない、毎日各部位を鍛えてる、肩、背、腕、脚、腹、全体を一週間で周るルーティーンで。」
「そうしていると結構分かってきたんですよね、先生が、実は思っているよりもスタミナ不足だってこと。」
「……っ!」
そう、俺はスタミナがあまり無い。
ロルナレ家でも継承候補最低、どう足掻いても小手先で誤魔化すくらいしか能がない。
それですら、ルーラン兄さんと比べても中途半端な出来で、イジャエと比べても体力不足。
他の姉様兄様に至っては最早見向きもされない始末。
だけど、そんな俺でも、この二式、いなしの型で、どうにか稽古は耐えてきた。
そして今はこうして、訓練の単位を受け持つに至る。
この子達に見抜かれるとは思っていなかったが、だからといって現状が大きく変わるわけではない。
どう来る?2人共。
二人は、其々が既に武装を終えていた。
ブレイドは木剣を右手に握り、左手は自由にしている。
フィスタは、手に布を巻き、皮膚の裂傷等を抑える。
いつも通りだが、その風体は、既に騎士や冒険家、控えめに言っても学生の域を超えている。
何故かは分からないが、魂の鬩ぎ合いで、押されている気がした。
だが、エイガも剣の鞘を手に持ち、準備は整っていた。
その構えからは、苦労や経験が滲む。
三人が緊張し始める。
「えーっと、それじゃあ、ホイッスル吹きまぁす…」
「…………」
「………………」
「………」
「よ、よーーーーい!」
ピーーーーーーーーッ!
どんっ!
っ!
「先手は貰う!」
「なっ!先生ずりいっ!」
持っている木剣を初手で弾きに来た。
慌てて受ける。
「ぐっ!」
身体的な成長差があり、力でやや押される。
だが、
「おらぁっ!」
「っ!なんて雑な突きだっ、お、重いっ。」
「助かった、初っ端からフィスタだけ孤立させに来やがった、想定外だ。」
「あぁ、きったねぇ、糞みてぇな教師だな。」
「失礼だなぁ、勝ちに徹底しているだけだ。何分、スタミナ不足で、ね。」
「言葉を盾にしやがって!今まで一回もこんな事しなかっただろ!おらっ!」
雑に剣が振られる。
避ける、避ける、弾く。
「当たれよクソがっ!ーーーうぉわっ!?」
すぅぅぅぅぅぅっ。
「な、なんか、雰囲気が違ぇぞ?」
「あぁ、先生本気で、マジなんだな。」
「それ意味同じだぞ。」
エイガ先生は二歩ほど後ろに飛ぶと、持っていた鞘を両手で握り、切先をこちらに向くよう後ろ斜め上に構え始めた。
それは、今までに一度も見た事が無い、【型】の様な物だった。
流石に攻め込めない。
「どうしたんだ?二人共。
攻めて来なさい。」
「いや、そうは言われても、それなんすか?
………何つーか、打ち込めない。ヤバい気がする。」
「俺も、ここまで硬い構えは初めて見たぞ。
拳を打ったら、手がどうなるか想像出来ねぇ。」
「ふっ、感性が鋭いな。
今の判断は正解だ。
もし今打ち込んでいたら、
どっ。
正面から消えた。
どこにーーーーーーー
「危なかっただろうね。」
がごぉっ。
気付いたらフィスタが飛ばされていた。
見て分かる皮膚の痣、違う、出血が起きてる。
嘘だろ、この人どこまで力を隠して、
「集中しなさい。」
「っ!」
踏み込んでくる音。
考える暇もなかった。
「ぐおおおぉぉおっ!何だッ、このっ、攻め、ッ!」
片手持ちでの突き刺し。
もう片手に持ち替えての別方向からの刺突。
これって、何か、細剣の動きっぽい様な。
っ!
「あぶねえっ!」
「本当、良い反応だよ、君は。」
対処を考えようも、頭を回す暇がない。
早い、とにかく。
これは一体、何なんだーーーーー
ぼがぁっ。
「…………うぼぇっ!」
水月に鞘を打たれた。
これは、きつい。
倒れ込んでしまった。
不味い。
「終わりにしよう。
10分も持たないみたいだ。」
「いや、先生、まだ───まだだぜっ。」
「…?
………まさか、
後頭部に、凄まじい上段蹴りが入る。
ハイキックだ。
「な!ーーーーーうごぉっ!!!?」
「俺が倒れ込んでたから油断したか?あれで倒れたままって思い込んじまったのは、先生ならあれで倒れ伏しちまう衝撃だからだろ。
俺達はそんなにやわじゃねぇ。」
「ま、まだ、意識があったのかーーーーごぶぇっ!」
ダメ押しに木剣の腹で旋毛を殴る。
「俺も、動けんだけどね。
…………痛っ、いってぇぇぇぇぇぇええっ!!?」
「俺も。
いやぁ、キッツイぜ、連携も何もなかったな。」
「…………負けだよ、俺の。
凄いな君らは、才能あると思うよ。」
「……………。」
「………いや、先生さ、流石にフィスタが起きてたの、分かってたでしょ。
でも、何か起きると予測出来てて、追い討ちせず放置。
納得そこが納得いかない。」
!
気付いていたのか、ブレイドは。
野生児というか、何という感覚の鋭さだ。
こういう子が家に産まれていれば、婆様も喜ばれたのだろうか。
きっとそうに違いない。
私なんぞは、この程度。
生徒にすら勝てん、軟弱な男さ。
「後もう一つ。
さっき先生が見せたあの型?………みたいな奴。
あれ、多分あのまま数秒、十数秒打ち当たってたら間違い無く俺が倒れてた。」
「何か、流派みたいな物だよね?
確かロルナレ家は古い時代、今はザラデス家が後が後釜に着いた騎士の家系を元は担っていた、古い武家だったって聞いた事がある。
今だって、こうしてその当時の名残から人を育てる教師の職に就く人が多いらしい。」
「…………結構詳しいね、その通りだ。」
「さっきのあれって、俺達には教えてくれないの?
あれを覚えれば、もっと生徒が強くなる。
俺だったら一日中教えて貰うね。」
「そう言って貰えるのは嬉しいんだけど、生憎俺は人に教えられる程の次元には至っていない。
これでもまだまだ半人前、良くて二流、三流だ。」
「え、マジで。」
「マジかよ。」
「うん、大真面目だよ。
俺は、ロルナレ家では落ちこぼれに近い。
ロルナレには【式】って物があってね、さっきのは全部で三つある内の一つ、二式だ。」
「全局面的な一式、受け流す守りの二式、スピードのある三式、それぞれが各個強みを持つ。
で、人に型を教える資格があるのは、全てを完全に使いこなせる人じゃないといけない。」
「…………でも、今はそれをできる人も居ない。
居なくはないけど、極められてはいないから、現状ロルナレ家は結構危ない状況だったりする。」
「そういう、もんなんだ。
先生は受けが上手かったけど、二式ってんだな。」
「俺は剣なんか使わねねぇから良く理解出来んが、あの練度は一瞬鳥肌が立つ程だったぜ?これで三流はねぇだろ。」
「各式につき三人の修得者がいてね。
俺は二式を覚えた人の中では3番目、全体で数えたら下から8、9番目ってところだと思う。」
「今ロルナレ家で一番才能有る当主候補と言われているのが、第一候補、この学院の若き学院長、
「ーーーーーーアラガン・ロルナレトだ。
一番上の兄さんね。」
アラガン・ロルナレト。
ザラデス家が騎士の家系に着いた現代に於いても、引けを取らない程の技量を持ち、三式全てを修了した人。
一応は一式の一番目。
ルーラン兄さんが三式の一番目だけど、それに逼迫する程の技量。
今最も実力ある人だ。
「分かったかい?話はもう終わりだ。
申し訳ないが負傷中だ、後の数十分は一旦お休み。」
「了解っす。
ーーーーーー脇腹痛えぇぇぇっ。」
「鞘で突いたからね、大丈夫?
今の内に手当てしておくと良い。
………それと、二人に重要な話がある。」
?
なんだ。
「内の学院は面白いルールがあってね。
もし訓練で【教師を倒す】みたいな成績を残した生徒がいれば、問答無用で組の最優秀者となる。
因みに先着一名若くは一組。
おめでとう。」
「………マ、マ、マ、マ、マジ?」
「え、二人してっすか。」
「一組に該当するね、素晴らしい連携だった。
一応訓練中の映像は水晶によって学院室や職員室で確認されているんだけど、今回のも向こうに見られてる。
一年生Aクラスの100人の中で、最も訓練の単位における特例成績を修めたフィスタとブレイドは、これから卒業した後に、その功績を大きく見て貰える。」
「だから俺も、ほぼほぼ本気でやった。
それだけ今回は気迫を感じたから。
でも負けた、その年齢で大した物だ。」
「「ーーーーーよっしゃあぁあぁあああぁっ!!」」
ーーーーーフィスタ凄ええええ!
ーーーーー私達じゃ無理よね?
ーーーーーブレイド格好良かったぜ!
この日、二人は大きく成長した。
無論フレムとクラスもそれを見ていた訳だが、
「ま、不味いですね。
これでは私達は、他の単位で最高の評価を貰わなくてはならない。
あ、私は一応学問の単位で最高を修めていたんでした。」
「…………俺、入学式の時に魔力計測で一位取ってるし。」
「気色悪い魔力数値出てましたからね。
魔力の系統は抜きに単純な出力平均が100〜300という中、貴方だけが直接視認出来てしまうほどの炎を空間に出していた。
出力は2742、9月から始まる魔力授業も免除、異例も異例です。」
「………でも、クラスも中間期の六学年総合問題、数式、歴史、文学、全部正解で一位。
それによる六年間の中間期テスト免除、凄いよね。」
「因みにあの二人は先の凄まじい戦いにより功績が認められ、六年間の訓練免除だそうですよ。
どうやら我々は、頑張っているみたいですよ。」
「妥協すんなよ、お前達。Aクラスは有能が多い。
四人も才覚のある人材がいるとは喜ばしいが、俺から見れば初歩も初歩。
これから卒業までの六年間、より精進に励め。」
「!な、なぜ兄さんと姉さんがっ。
そ、その黒装束の人は一体。」
エイガが驚く。
どういう訳か、イジャエ姉さん、ルーラン兄さんに、学院長でもあるアラガン兄さんまでが揃い、ある男の前に跪いていた。
一体、これは。
「何だ?……………………なんだよ、この人。」
「ありゃあ、ヤバいなんてもんじゃなさそうだぜ、ブレイド。
ーーーーーーー息が詰まる、汗が出てきやがる。」
敵意が無い筈なのに、何で、体が動かなくなんだよ。
どうして、この人から目が離せない?
この男は、何者なんだ。
男は三人のただならぬ雰囲気の有る三人の大人の肩を叩き、エイガ先生の前に座る。
「え?…………な、何でしょう、か?」
「水晶で見てた。
二式、結構綺麗じゃん。
自信持てよ、エイガ。」
「え?貴方、何故それを。」
「エイガ、この人は今日から新しく教員となる、巳浦殿だ。色々と教えて貰え。」
「そうですよエイガ。
この人に稽古を付けて貰うと良いです、私達も今朝ボコボコにされてますから。」
「え、兄さんと姉さんが?
…………良く見ると、アラガン兄さんも顔やら腕やら、あちこちが痣だらけに。
何が起こって、
「ま、稽古だ。
2時間型練習、彼との手合わせ。
お前も今日から他の兄さん姉さんと同じく王城の一階でボコるから、宜しく。」
「よ、宜しくお願いします!」
「やっぱり敬っちゃうよな、この人には。
俺も学長室で初対面の時、本能から跪いた。」
「私も、最初会った時に抱き締められて、でも不思議な事に、従っちゃいました。
それが正しい反応だって、頭が告げて来たんです。」
「私は少し違ったが、鈍い頭でも分からせられた。
今思うと、何で失礼な対応を取ってしまったのかと。
この人に少しでも勝とうだなんて、嘗めた考えだった。お前も、これからは一緒に強くなろう、エイガ。」
「な、何が有ったのかは全然理解出来ないけど、また一緒に練習出来るんだね、俺達。
嬉しいよ。」
Aクラスの生徒は、気絶した。
無論ブレイド達四人も含め。
理解出来なかった。
あれだけ苦労した戦いの後に、それがまるで指遊びだったと言われたかのような衝撃。
理解したくもない。
記憶が飛ぶ刹那、倒れ込むブレイドをその男が支えるのが分かった。
そして何でか、その人は泣いていた。
嬉しそうな、安堵のような表情で。
でも、今は疲れた。
もう、お休み。
学長室。
「参りました。」
「いや、何もしてねぇから。
気持ち悪いから早く立てって。」
「凄い。兄さんにはわかるんだ、実力があるからこそ、遥か先の次元の人だと分かったんだ。
私には分からなかったが、流石だ。」
「私も分かりませんでした。
初対面で初の異性ハグされて驚きましたけど、どうやら古〜いお父さんらしいので、全然オッケーです。」
こんな感じで学長と出会い、学院室職員室のある棟から別棟一階、一年生教室へ連れてかれた。
やっぱりこうなる。




