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英雄までの物語  作者: ノンプロット
一年期七月下旬〜 反英雄
59/113

五十六話 三人目の魔王







ーーーーーーーーー。


ーーーーーー奴は、不在か。

無駄足だったか。






【万屋ダンジョンさん】。

8月末にそこへ訪れている者がいた。



……………魔王、ガイダル。

ダンジョン程ではないが背丈は大きく190cm。

渋く年齢を重ねた壮年の顔をしており、ダンジョンと同じスキンヘッドである。


魔王の中で隊長的役割を担っており、各地で動きを見せ始めている凛堂やダンジョン等に接触しこれからの行動を伝えようとしていた。





しかし、噂を聞いてやって来たら蛻の殻。

折角ダンジョンの好物であるマシュマロを公国で仕入れてきたのだがな。

置いておくか。


ガイダルは、意外と世話好きでもある。






彼が計画している内容。

それは近々起こると思われる世界の意思の行動。


それを御する事が可能な力を持つ者達を集め、嘗ての生命終記の再来と言える偉業を成す事。

魔王や天使と言った存在の親は意思と言え、子の自由を妨げる親など居ない。


横暴は、二度も許すべきではない。

そんな反抗心に勘付き各国へ書記を送っているらしいが、魔王や天使が暴れる訳が無い。

全て出鱈目だ、ふざけている。




ガイダルが戦いを起こす?

そんな内容を記していた書記がイルディア公国にあった。


上位、高位の者が事を起こそうとしている?

そんな冗談を記した書記がバルト王国にあった。

全て、意思の情勢操作でしかない。




(流石、自身の都合で世界の人類全てを抹消しようとしただけはある。

所詮、我々の考えなど表面でしか認可していなかったのだろう。)




そんな物だ。

世界の意思など宣っているが、実際の真逆。

糞程に不必要な整理、管理を自ら行いたがる傀儡の様な存在。


意思の成した偉業と言えば、人間を作り我々の様な別種の存在を創り出した事だけだろう。

生みの親だからその結末を握って良いと勘違いしている様だ。






ガイダルは今各国で起きている英雄召還の騒ぎ。

書記による実質的な政治管理を全て把握済み。


それを魔王や天使に伝え、可能であれば後々国家の上層部にも情報を共有しようと考えていた。

だが、何にせよ最初は頼れる仲間であるダンジョンを足掛かりにしようとしていた。


ーーーー居なかったが。

少し残念に思いながらもその場を後にする。







その時。

向かいの道を歩いていた者が万屋の建物へ視線を向ける。


そこに一瞬感じた気配は既に消えており、何故か半開きになっている入り口の扉が気になり閉じておく。




ガイダル。

ガイダル・ボルセス。


又の名を。

ーーーーーー【時の男】。

























「……………ごめんね、レイブン。

私もう行くね。」







9月1日。

午前、一時。




全員が寝静まる時間に、ネイシャは一人目を覚ます。

以前から伝えずに内密にしていたバルト王国への移動を決行する。


自室の机に仕舞っていた手紙を一通、机上に。

謝罪を書き記した内容のそれを一つ置き、自身の気配を完全に消し去る。







廊下へ出る。

音は静かで、様々な寝息が聞こえる。


そこから物音一つ立てず摺り足で下へと向かう。











そうして一階に降りる。

この時間帯は流石の警備員も帰寮しており監視はいなかった。


薄暗い視界をそのままに、入り口まで垂れたカーペットを歩いていく。

冷たい空気が喉を冷やす。






出口となる扉に手を掛ける。

ーーーーーこれまでの出来事を思い出す。




アルバや他の子達と一緒に楽しく談笑して。

レイブンと毎日お昼の散歩をして。


……………あのマリウェルとも、意外と仲良くなれた。

共同で洗濯なんかもしたのを思い出して少し笑ってしまう。




(あぁ、楽しかった。)


(こんなに楽しい時間を過ごせて、嬉しかった。)




ネイシャは、公国より受けた任務を実行する為。

足枷となるレイブンに無断でこの国を出る。


それは彼の後を考えると取るべきではない選択だが、そんな事を言ってはいられない。




ネイシャは、自身より明らかに強いのが判っている大英雄巳浦と。

………戦わなくてはならない可能性が高いのだ。


下手をすれば現界し続けられない傷を負い、天界で永い眠りへ戻される事になる。

そんなのをレイブンが許すとは思えないし、事実昨日までずっと彼に甘えられていた。


お昼寝やら食事も、一緒に過ごして。

アルバが彼に好意を向けているのは知っていたけど、傍観するつもりだった私もいつの間にか彼の事をーーーーーー。






雑念が頭に過る。

だがそれを払い除け、扉を開ける。




少し夜光に目が眩むと、目前には。







 









「……………レ、レイブン。

………なん、で?」



「あぁ、お前の魔力反応が消えたのが判って。

まさかお前…………国から、出るのか?」



「ーーーーーうん。

そろそろ行かないと、公国への示しが付かないからね。

ごめんね、私は今日からバルトへ向かう。」



「……………また、ここに戻ってきてくれるか?」








……………。

それは、解らない。


そう、言い出せなかった。

無言になってしまう。




顔を俯けるネイシャに近寄り、何の前触れなく。




彼女の暗い顔が、目を見開く。

レイブンはネイシャの背に手を回し、






ーーーーーっ。

息が、止まる。




彼女は、されるがままに彼に身を預ける。

そして、そのまま暫く。











「ーーーーー私、貴方の事が、



「言わなくて良い。

言っても、俺が悲しくなるだけだ。

叶わないなら、夢を見せてくれるだけで良い。」



「わ、わたし…………………ごめんね……」



「もう良いよ。

ーーー今から1分俺の耳には何も聴こえない。

誰がどんな音を立てても、俺には解らない。」



「…………………レイブン。」








そこから直ぐに、彼は両目を閉じた。

腕を組み、指と足を交互に揺り時間を測っている様だった。




その意味を察し、ネイシャは別館から外へ繋がる外灯道を進む。






レイブンにとっても、まさかここまで大切に思える人間が出来るとは思っていなかった。

この世界に現界した当初は、ただ自由に過ごせる環境が欲しかった。


だが、時を経てネイシャと言う女性と出会い。

彼の人生観を一新する様な感情が頭を支配していた。




だが、そうだとして相手がそうとは限らない。

ならせめて嫌ってくれでもしたら楽だったのに、彼女はーーーーー俺を。


そんな一瞬の後悔が、頭を回転する。

次第にそれは彼の体を巡り始め、段々と瞼が開いていく。

もう、十分時間は経ったろう。




彼は、口に残る柔らかい感触を大事に記憶して、自身もまた後ろへ振り返る。

ある種の踏ん切りが、付いた。


そう、思った矢先。








「ーーーーーー何で。」








レイブンがその場を振り返ると、すぐ後ろに此方へ顔を向けるネイシャの姿があった。


それがどういう意味なのか一瞬考えたが、その前に彼女が口を開く。







「私、やっぱり貴方の事が……………好き。」



「ーーーーーー良いんだな、本当に。

もう、二度と離れられないぞ?俺はそういう執念深い男だからな。」



「歓迎するよ?…………ずっと、一緒に居よう。

未練を残して行くのはもう嫌なんだ、それは前の人生の時に十分味わったから。

私にとっての後悔は、貴方の存在だけ。」



「俺も、唯一の心残りはお前だけだ。

昼下がりにお前に膝枕して貰った時や、好みの食事を当てる遊びをしてた時間。

ーーーーそれを忘れる事は出来ない、俺の頭の半分はお前で埋まっちまったんだ。」



「アルバも、そんな貴方の行動を日頃から見て少しずつ自分の立ち位置を理解してた。

でも、貴方が直接何かをしない限りその優しい関係はずっと続くから、彼女も止めはしなかった。

……………それも、今日までだね?」



「あぁ……………俺も行く。

弟子共は中途半端にしか教えてやれてないが、まぁ仕方無いな。

また帰ってくれば良いんだ、だろ。」








そう言って自然と彼女の纏う白い外套の頭巾を被せてやる。

自身もまた、身に付けているジャケットの上に浅黒い外套を羽織る。




そうして9月1日午前2時手前。


ーーーーダイエン共和国から、二人の反英雄が姿を消した。














当日朝。

大きな騒動が起こっていた。




アルバ達がネイシャを呼び出そうと部屋を訪れるとそこには手紙が置かれており、謝罪の文と共に国を去る旨が記されていた。


そして男性寮からもレイブンの姿が消えており、守護者達は何が起こったのかを理解する。






本館にてそれ等の魔力移動を真夜中に感知していたプライモとマリウェルは、これから何か起こる予感を抱いていた。


そして、それは的中してしまう。



















夜間を爆走する、二人の人影。


両名は、ダイエン中央から国外までにある28kmもの距離を20分足らずで駆け抜けた。

周囲の静まり返った時間帯なので遠慮要らず、全開で走ったのだ。




そんな二人は、ダイエン共和国から東へ100kmの地点にあるバルト王国へたったの1時間弱で移動し切れてしまう。

1h辺り108kmの移動距離に相当する速度だが、ペースが遅れていた。


エルメル・ブラスト。

付人の存在があったので二人が片足を担ぎ移動していたのだ。

ーーーー因みに、気絶している。








2名は西の方面から50km地点にある街。

観光街べレアに足を踏み入れていた。


此処は競馬、力試しなど娯楽の多い街。

二人はそんな歓楽街が静けさに包まれているのを肌で感じながら黙々とその中を歩いて行く。






しかし、良く思うと睡眠を中断して動いていたので眠気も来しており。

二人は宿らしき建物を見つけ、偶々起きていた店主に銀貨を9枚渡して2階の大きな一部屋を借りる事にした。












二人はエルメルを一旦ソファに寝かせて冷静になる。

ーーーーーーあれ、勢いで動き過ぎたか?




時既に遅し、早朝には騒ぎになる。

お互いにこれからの目標を書記の収集と定め、一旦朝まで寝る事にした。


ダイエンの人間に目的地どうこうと言う話は一切していなかったので動向が露呈する事はない。

安心して寝に入る。




ーーーー勿論、二人は互いに手を握り額を擦り合う様にしてその関係を如実に表現して寝た。


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