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英雄までの物語  作者: ノンプロット
一年期七月下旬〜 反英雄
53/113

五十話 反英雄同士








眼で追い切れるか限り限りの速度で振り回される血の槍。

それは時折霧に失せたかと思うと背後や頭上からその姿を現すーーーー変幻自在。




ネイシャにとってもこれほどの使い手は現役の時に聞いた【栄光の男】以来であった。

ーーーー【栄光の女】として対に扱われていたのはネイシャである。


そんな事を瞬間思い浮かべながら、彼の振う槍の軌道を見定める。






(ーーーー次の一筋、一瞬体捌きが遅れる。)






ネイシャの様に体術を極めた者には、人体の動きを予測、推察する事は容易である。

いや、簡単ではないが極限まで集中すれば視えてくる。

その結果次に振り抜かれる左下から右上への回し薙ぎが過剰に振られるだろう事を察知した。


当然の如く垂直に1m跳び上がり、足元に振られる槍を右足で蹴り落とす。







「おっとーーー





 


ネイシャは瞬時に転脚では間に合わないと見切り、始動として強烈な崩ー隕襲を選んだ。

彼の体勢が素早い蹴りの衝撃を受けて揺らいだ隙に、連撃を叩き入れる。


奥ー砕対突によりブラッドの打ち上げられた左手首を挟み潰す。





強力な肘膝の挟撃により痛みに怯む彼を横目に、締めとなる攻撃を選ぶ。


滞空が終わるまでに空中で全身に回転を掛け、勢いを付けて全力の左横から回し蹴り。

転脚を打ち込む。

(この技は地上までの距離が有るか無いかで横回転or縦回転を自由に決められる。)






隕襲→砕対突→転脚による【焉技】を入れられ。


魔力を纏っていたにも関わらず左手と右側頭部を2秒程で痛めつけられたブラッドは、一瞬で彼女と密着で戦う危険性を理解した。




だが、ブラッドの中で一人の男が騒ぐ。



















『ブラッド、代われ。』


『………マルテス。

俺がやるからあんたは出てくるな。』


『見てられねぇ。

お前は近接、相手は密接だ。

その違いを解っていて何故土俵に付き合う?』



『ーーーーーー愉しいんだ。

ここまで強い人間と闘えると思ってなかった。』


『負けたらどうしようもねえだろ?

俺がこの状況で1番役に立つ血者だ、無理そうなら……………解るな。』


『あぁ。

でも今はやらせろ。』


『他の奴らが出てきたら騒ぎになりかねねえ。

もし勝てるならさっさと終えちまえよ。』









血術を使う者達は、世代を超えて未来の後継者達の魂にその人格を宿らせる。

他の血術使いが反英雄になっていないのはそう言う事情であり、歴代6人を全員合わせて一人の反英雄という扱いでもあった。




ブラッドは、槍を霧に還しそれを両手に纏う。

ネイシャはそれが手甲を覆うメリケンである事を直ぐに確認した。






ブラッドが、飛び込んで何かをやろうとしていたネイシャに対して右手の正拳突きを放つ。

その右手に嵌められた装具から砲弾の様な圧を伴う魔力が射ち出された。


ネイシャは眼前に突如放たれたそれを躱し切るのは不可能と判断し、フォンツォ刀術奥ー腹往なしを選択する。

攻撃の進行方向に全身ごと退き、攻撃の側面に剣ーーーではなく手を合わせて横に退かす。






fourth skill【血の拳】を初見で破られた事に驚いていると、お構いなしにネイシャが踏み込んでくる。




左手に握った槍を突き出したが、それを刀術焉ー皮躱しにより皮膚先で避けて全速力で脇に飛び込んでくる。


待ち構えて右拳を左斜め下へ打ち込むと、その際に守りの甘くなった右腕の手甲へ刀術絶ー柄踏みによる左裏拳の打ち下ろしを当て、派手に体勢を右へ蹌踉けさせた。








(不味いーーーー)








血の眼が捉えたのは、完全に回避不可能な距離で自身の腹部へ捻り込まれる体術ー顎震。

加速魔力の鮮やかな紅色が腹回りを中心に周囲数mへ吹き荒れる。


ネイシャは、勝ちにも近い絶対の自信を持って上を見上げる。

彼はーーーーーー。







「よぉ、弟子に酷いkoとsてkれたna?」



「な、何。

ブラッド?いやーーーーーーオールバックの。

貴方を私は記憶で見た。」



「そうか。

マルテスーエルムってんだ、ブラッドーエルムでも良いぞ。

ブラッドの奴が危険そうなんで、仕方無しに俺が出る事になった。」








身長は些か萎み190近くから180前半になった様子だが、その肉体から放たれる圧力はブラッド以上である。

この男が、先程までブラッドが使っていた【血の拳】の本来の使い手。







(これも血術の一つ?

どういう理屈か分からないけど、人間そのものが存在ごと交代してる。

魂に人格が宿っているとか、そういう訳でもない。)








人格ではなく、人が宿っている。

文字通りブラッドの魂には、血術使い5人の魂が棲み着いており、状況に応じて代表者を変える事が出来るのがbloodskill【血の呪い】。

ーーーーブラッドのskillである。


この能力が原因で歴代でも屈指の危険性を誇っており、彼を殺す為に当時の2世紀からギルドの前身と言える機関。

【討伐組合】が設立された程。


しかしその話はしない。

今の舞台は2世紀ではなく、41世紀なのだから。









良く見ると、自身の打ち込んだ筈の攻撃が腹筋によって遮られていた。

寧ろ自分の右肘を痛めてしまう程の反動があり、ブラッドとほ打たれ強さに根本的な差がある事を感じ取った。


全身に纏う魔力を加速から強化に切り替える。






それを見ていたマルテスは感心する。

魔物相手じゃなく人間相手に驚かされる事が珍しく高笑いを上げた。


ネイシャの身の振りや足の踏み込みに一瞬掛かる重みがここまでで見せてきた力の倍以上ありそうなのを視認し、マルテスもまた全身に魔力を纏い始める。






ネイシャは、当初ブラッドが行った様な両の手に魔力のメリケンを嵌める能力かと思った。

ーーーーだが、次第にそれが検討外れであるのを解らされた。



彼の足元から順に固まっていく赤黒い流液魔力が、段々液状から固形状に固まっていく。

それは10秒ほどして完全な姿として全身を覆った。

正に鎧と呼ぶべき容貌である。







「……………っ、それは貴方の能力?

ブラッドはメリケンだったけどどういう関係?」



「簡単な話だ。

あいつは俺達から現役だった頃のskillの一部を借りてるだけなんだ。

血術固有のskillと当人固有のskillは実は別に存在出来るんだよ。

俺の【血の拳】は遠距離と中距離で戦う力が欲しかったから創り上げたskillだったって話さ。」



「へぇ、それじゃブラッド本来のskillもあるの?

色々気になる人達だね。」



「ーーーーーー使い手と入れ替わるのが血術固有としてのbloodskill。

本人のsixskillは、歴代の血術を行使出来る事だ。

紛らわしかったか?」



「うーんと、それじゃつまり。

貴方達は他の人の能力を使えないんだね?」








それを言われると、彼は顔面を隠していたバイザーを持ち上げて此方に目を向けてきた。

そして一言、当然の様に言葉を放つ。








「要らねぇ。

仮に俺が倒れたら他の血術使いが最高で四人順不動に出てくるんだ。

一人一人が一歩違えば反英雄級の実力を持っている、それを連戦出来るのか?お前は。」



「そ、そういう事になるのか。

それは無理、全然無理。」



「……………はぁ、なんだか戦う気が失せてきたな。」








「え。」



「ーーーーーーあいつ、結局喋ってただけじゃねえか、手伝えっての。

あぁネイシャ、この戦いお前の勝ちでいいぞ。」



「急に、どういう事?

終わりが分からなかったんだけど。」



「………………まぁ要するにだ。

マルテスのテンションが下がって戦意無くなったから戦闘終了って事。

他の奴が出てくると面倒かも知れないし続けたくなかったから本当にお終いだ。

愉しかったよ、今日の事は忘れねぇ。」



「あ、うん。

私も久しぶりに本気で動けて嬉しかった。

生前の想い人を想起したよ。」








8月13日。

午後11時過ぎの夜中。




二人はその後別れる様な雰囲気を出しはしたが一旦宿屋に戻ってまた一緒に休む事になった。


ここまで自身の本気を引き出させた人間はほぼ記憶になかった為両者少し高揚感が残っており、年代や実力が近い事もあって暇潰しに雑談をし始めた。


その会話内容は、自身の知る強者、猛者の話。

他には存在するらしい魔王、魔族(黒人)、そして天使に関しての話題。

とても楽しい会話となった。










そして後日。







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