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英雄までの物語  作者: ノンプロット
一年期六月某日 英雄巳浦召還
5/113

第二話 英雄、その片鱗

情報多めです。



かちゃ、かちゃ。








「流石は王室きっての調理人じゃ!バターの溶かし具合、肉の繊維の解し加減共に理想形。

これからもよろしく頼む!はむ、うんまぁいっ!」



「ありがとうございます。

…………それで、その、其方の方は一体。」








もぐっ。

ばむっ、むごっ。


其処には、300gの肉皿を既に5枚程空けている男が居た。

そう、巳浦である。


こちらの掛け声に反応し、食器を一旦置く。








「ん?話してないのか。

まぁ、バルトのじいさんの知り合いだ。」


「は、はぁ。知り合い、ですか。」


「何だよまだ何か証明が欲しいってか?

何なら納得すんだよ?」








………言っていいものか。

王室関係者には必ず、ある共通点、いや、及第点がある。


それは、

【ロルナレ剣術】を修得している事。


この男がバルト王の知人だというなら、まず覚えていなくては話が合わない。

言おう。








「バルト王の知り合いの方であるなら、ロルナレの剣術を少し見せてもらいたいのですが。

……宜しいですね?王。」


「むっ!面白そうじゃあないか。

なぁイジャエよ、お主も見てみたくはないか?」


「え?………た、確かに。」







食事中、少し棚の書物に目を通していた。

そこに書かれている話だと、どうにも。

【彼乃英雄、四式乃使ひ手】

とある。


これは、四式を単体で覚えているのか、それとも。





巳浦は少し考える。


見せる、とは言われても、何を、どう披露するのだろうか。

この料理人は、どうやら幾らか剣の道に嗜んでいる様子。


そうと来れば、まずは基本の中でベーシックな一式って所か。

オーソドックスな全局面型。


まぁ一先ずの証明にはなるだろ。








「あー………一式でいい?」


「一式?………分かりました、見せて貰いましょう。」


「…………あ?」







何故か料理人は剣を抜いていた。

それの意図は、間違いでなければ手合わせとなる。


判断に迷うな、これは。







「おいおっちゃん、俺はどうすればいい?」


「お主の技量、ここに居るロルナレ家の第二継承候補であるルーランにどれほど通用するのか、見せてみぃ!」


「巳浦さん、お兄様は強いです。

…………油断しないで。」


「そういう事です。

ほら、貴方も剣を抜いてください。

その重そうな黒剣を。」







……………へぇ、良く見れば確かに、良い重心だ。


体勢による重みが、差し出されている右足へ集中している。

突き刺しに近い挙動が予想出来る。

って事は、







「お前、三式か。

良い体重の掛け方だ、踏み込みの強さが解るぞ。」


「………っ!?な、何故、三式と……?」


「は?見りゃ普通に分かるだろ。馬鹿にしてんのか。」


「い、いえ!そのような事は決して………」








何だ、この男は?

私の型を、一瞬で見破った?


………いや、おそらく違う。

見て予測の様に言い当てたんじゃない。


最初から、【知っている。】

三式を、とっくに理解している。

もしやこの男………。







「えっと、じゃあ行くぜ。」






しゅずっ。

剣が、鞘から抜かれた。


その刹那であった。







「ーーーーーーーーーえ、




「ぼさっとしてんなよ。

その鉄剣、質は割と良いが、強度ばかりで柔軟さに欠けるな。

展性に乏しい鉄は、武具の寿命の短さに直結するぞ。

もっと良い剣にしな。

後、そもそも三式なら剣じゃなくて細剣のが良いぞ。

イジャエみたいにな。」







私の剣が、次の呼吸の時には叩き折られていた。

いや、切断されている。


これは、何が起こった。







「イジャエ、見えたかの、今の。」


「い、いえ、何も見えません。

瞬きはしてませんでした。

瞬間的に息が止まった感覚に襲われましたが、その後には今の状態に。」


「………貴方は、今一式を振ったのですか。」







ん?

そりゃあ俺がそう言ってんだからそうだろ。


頷く。







「お恥ずかしい事に………見えませんでした。」


「は?見えなかったって、俺の動きがか?」


「はい。イジャエ等も恐らく視認出来ていないかと。これでは証明にはなりません。

が、もう説明は要りません。貴方は、どうやら何か違う世界に生きている方の様だ。」


「ん。じゃあ、説明は良いのね。

お疲れ様。」






そう言い彼は剣を仕舞う。



ッ。





ぎりっ。







「ーーーーーちっ」




「………何の真似だ。ルーラン。

もう終わりだろ。お前今、剣士の美徳を穢してるぞ。

早くその調理ナイフを仕舞いな。」




「貴方は私を分かっていない様子!

私は、何が何でも勝つ事を信条としているのです!」







こちらに握られている右手のナイフを落とし、左手で掴む。

慣れてるな。


がむしゃらではあるが、その意気は良し。

ナイフを持つ左手を右手の手刀で叩き落とす。







「ぐっ」




「その信念良いと思うぜ、俺は。でもま、その矛先を俺に向けるのは間違っちまったな。」




「ーーーーっ。

…………そう、ですね。」





「まぁ、気が向いたら稽古でもしてやるよ。

俺が先に動いちまったせいで、お前の三式、まだ見れてねぇし。ははっ」







この、男は。

いや、この人は。


乱した気を整え、再び皆が席に着く。







「にしても、このステーキマジで旨いのな。

じいさんが気に入るのも分かるぜ。」


「じゃろう?これは幼少から趣味で続けていた調理が、個人の域を超え王室専属にまで登り上がったこのルーランによる一品じゃ。

ちなみにアシストは無し、一から十まで全て個人で手掛けておる、だから誰も作れん。」


「へぇ、凄えじゃん!

こんだけ旨いなら、それだけでもう充分強みあるよ、あんた。

もうこんな時代だ、料理人の家系なんてどうだ?」


「ぶっ!わ、笑わせないで下さい!ロルナレ家が武家から料理人の家系になるって、どういう事ですかぁ!」


「調理術一式!へあ!二式!ざぁっ!なんつってな!ははははははっ!!」


「…………変わった人だ。独りで強く生きて積み上げられた観念が、簡単に作り変わってしまう。」






何となく分かってはいた。

上階から途轍もない量の魔力が流れ込んできた時、

きっとその時が来たんだと。


不躾にも肌で感じたいと思ってしまったのは、全部我儘。


この人は、間違いなく、彼の英雄。

その1人。







「四刀剣の巳浦。私は貴方に弟子入りしたい。

この程度では生意気でしょうか?」


「へ、弟子入り?」


「イジャエもどうだ?一緒にこの方について行き、より高みを、嘗て騎士の家系として輝いていた頃のロルナレ家の誇りを、取り戻したくはないか?」


「それは、そうですけど。

急ですね、お兄様。

そもそも、簡単に弟子入りなんて言いますけど、まず受けて貰えるわけ、


「あぁ、別に良いぜ。人を育てるのは初めてじゃない。

見た目には分からんだろうが、俺はもう何千年って生きてる。

気長な工程も悪くないって知ってるからな。

良いぜ。」


「な、何千、年?」


「それは本当か?巳浦よ?」


「嘘ついて何になる。

今は加速文明記、だよな。

文献に載ってるかは知らないが、俺は今から大体二千年ちょい前に産まれた人間だ。

大魔戦記、分かるか?」




「「「大魔戦記っ!?」」」







大魔戦記。

現代、加速文明記に至るまでに幾度となくその呼び名を変えてきた歴史の中で、最も人類の存続が左右されたと言われる、奇跡の時代。


現代にはほぼ使用者のいない【スキル】。

現在詳細不明の魔王の巣、【迷宮】。

空を飛び生活した【黒人】。


今ではもうその姿を消した者達、概念が互いにぶつかり合った時代。

そんな時代の中に、彼は生きていた?


だとしたら、この人は。




皆が唖然と固まる中。

卓上にあった肉料理、野菜類の蒸しや煮付け、その七割ほどをこの男は平らげていた。







「いや、本気で美味え。

俺の時にこんな飯があればなぁ。

いや、松薔薇はもっと美味かった気もするけど、記憶が曖昧だ。

兎に角味付けも良い。香辛料か?食欲が上がる。」


「…………っ!松薔薇、じゃと!?」


「うお!びっくりした!何だよじいさん、もう飯ねぇぞ?」


「もう満腹じゃわたわけ!それより巳浦よ、お主今松薔薇、いや松薔薇様と言ったか?」


「お?おお、戦友だ。

てかあいつも英雄だよな?」


「そうです。ですが彼は、」















「御存命です。

今も尚若い姿のまま、バルト王国ギルド、しいてはギルドの協会それ自体を頂点で指揮する、会長です。」



「あー、そういやあいつ不老薬だか不死薬だか使ってたなぁ。

天界にもいねぇし、一人で暇じゃないんかな。

会いに行くか、後で。」




「っ!簡単に言われますが、彼は世紀を跨ぐ仙人の様なお方。現存の英雄。

現代に於けるトップのギルドメンバーが、数名護衛についているとも噂されています。

突拍子もなく会う事は無理です。」




「あー、成る程。まぁアポイント取っておいてくれよ、久しぶりに話したいんだ。

俺は時間飛んでるから記憶なんて実際はねえけど、あいつはマジで1秒たりとも時間を捨てず記憶してる。

どんだけ変わったか気になんだ。」




「………儂が、今回の件をギルドに無断ですると思うか?既にあの方は既知、心配は要らん。」




「そっか。なら良いよ。あ、ちょっと体鈍ってるから一階の武道場借りるぜ。まだあるよな。」







そう言うと、彼は何ともない様子で一階へ向かっていった。


王は考える。

この男は、果たして我々にとってのキーとなり得るのか。

隠しているある事実が、先の光景を見た上でも尚、王の思考を鈍らせる。







「魔王は、健在だ。

そして、余興と称し我々人類と近々ゲームをすると言う噂がある。

松薔薇様もその話を聞き、これまで渋っていた英雄召還に許可を下した。

世界を危機に陥らせる可能性が現代にあるとすれば、それは天使や魔王、そして黒人。

彼ら超常の気紛れによる戦闘だ。」




「そして更なる現実がある。

それは、英雄は何も彼ら四人ではないと言う事。」


「召還のスキルを持つ人間によれば、大魔戦記以前や以後の時代に、同等の存在と言える人間の魂が、複数存在していると言う事らしい。

そして、その者達は既に、何処かの国で召還を終えている、と。」


「とある伝記には、天界なる空間に高尚な魂を縛り、上位の存在として世界へ現界させるシステムがあると記されている。

そしてその天界という空間も、我々のこの【表界】にある天界と、反対の【裏界】なる世界にある天界の二つがあると。」


「天使様はこの事を知らず、向こうの者らはいざ知らず。

世界の意思が作り出した複数ある書物の一巻が、バルト王国には仕舞われている。」


「いつからだったか。

平和な時代となった今の世になって、今更この様な書が地上に落とされた。

世界は、まだ我らを、認めてはいないのだろうか。」





















「私達もご一緒します!」


「どうか私らも御同行を!」


「え、良いけど、只の型流しだぞ。

我流も混じってるし。良いの?」


「尚更見てみたいです!」


「えぇー。」







どすっかなぁ。

一人で動きたいんだけど。


弟子入り認めちまった手前、門前払いって訳にもいかねぇ。

うーむ。







「ルーランは良いのか?」


「はい。貴方の動きを、私達に見せて下さい!一挙動も見逃しません故。」


「いや、緊張すんだけど。

まぁ、んじゃ分かった。

まずは一式からな。順に二、三、四式って動いてく。

バステ母さんが俺によくやってた教え方だ。」







そうして動き出した彼の一式。

それは、二人が幼少に目にした老齢の老人、ジャマイ・ロルナレトの洗練された型に、いや、更にそれらの動きから無駄を無くし、実戦に使える様にした動きなのが分かった。



それから、2時間ほど流しは続いた。


















「ーーーーーーーふぅ、終わりー。」




「はぁっ、ぐっ、キツっっ。」




「私も、まだまだ体力不足か。

これで第二候補とは笑われてしまうな。」





「いや、悪くなかったぞ。

イジャエは一式、ルーランは三式の型をほぼその通りに動かせてる。大差はないと言って良い。

まぁ、その【ほぼ】って部分が埋まらない所なんだけど、気にする必要はない。

血を流さなきゃ【ほぼ】の部分は得られない、もう時代じゃないんだよ。」





「っっ、なんて人だ。」




「私達が、甘かったんでしょうか?……痛っ」




「違うだろう。

この人が凄い、いや、狂っているんだ。

これはもうロルナレの剣術を超えている、原型はあるが、ほぼ我流だ。」


「ほぼその通りなんて言ってはいるが、関節の可動域も、筋肉の質も、使っている武具や積んでいる経験も、何もかもが私達にない物だ。

ミルナ婆様が見たら号泣する程の剣術人間。」




「そう、ですよね。

私、こんなんでも王様にその技量を認められて王室の付き人になってる訳ですし。

そんな私達がこんな子供みたいに、いやもうそんなんじゃない。

これは、





「あー眠っ、ちょっと休むわ。

確か寮は四階だったかなぁー。」







この人は。










「「人外だ。」」





















四階、男性寮。

ーーーその一室。





「おやすみー。」







これは、彼の、一割にも満たない。






マイペースに続きます。

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