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英雄までの物語  作者: ノンプロット
一年期七月下旬〜 反英雄
45/113

四十二話 後悔への別れ

大分情報が増えます。







7月22日の激戦の後。

両雄の存在はハイデン王国に留まる事を知らず、他国にも伝播した。


その見るだけで気圧される内容の手合わせは映像水晶に保存され。

翌日の23日から参考資料という体でハイデン王国の学院教本に即記載の為刷り直し。

映像を複製した板水晶は一つ5銀貨という中々高価な値段で売りに出されたが座席分の2500個が抽選販売開始となる正午から1時間で完売。











ハイデン王国。

五階王座にて。






「銀貨換算で1万2500枚、金貨なら1250枚。

白銀貨12.5枚分じゃと!

こりゃあ良い売り上げだわぁ。」



「おいハイデンの王様よ、俺達には幾らくれるんだ?

まさか一文なしって事はないだろ?」


「私達ありきでの稼ぎだ。

そんな事をしたらこの国を破壊する可能性を検討する必要がありそうだ。」



「ちょい待たんか。

ちゃんと取り分は用意するわい。

前回の会館用意の費用に警備人件費じゃろ、昨日の水晶販売に用意した抽選会場でまた会館を使ったから、費用は……………」








そうして国王が手記に金額を書き出していく。

会館費用は2時間単位での貸切となり費用は約35金貨、二度の貸切で約70金貨となる。

ギルドの腕利きを雇って掛かった警備費用は一人2時間で2金貨。

四人ほど雇っていたので2回分で16金貨。


後は手合わせ観戦中のドリンクサービスで1銅貨×2500人分と翌日の販売会場内でも1000人分のドリンク費用が掛かり合計3500銅貨。


全て合わせると111金貨の費用となった。







「残りが1139金貨で、白銀貨11枚と金貨39枚。

金貨部分は面倒じゃから切り落としてザラデス家達に駄賃として渡すが良いかな?」



「問題ねえ。」


「構わない。

好きに使わせてやってくれ。」



「ふむ。」







王座の中央にある巨大な卓上にて貨幣を振り分けていき、最終的な取り分が明らかになる。





………………。







「ハイデン側には5枚、お主達には3枚ずつ渡そうかと思う。

本来なら出ぬ筈の利益だった故お主らに大きく還元する結論に至った。

不満は無かろう。」



「す、凄い稼いじまったぞ。

こんなに良いのかよ?」


「私も同感だ。

此方からすれば只自分達の興味本位で行った手合わせでしかない物を、商として扱って利まで。

それに私は反英雄であり、



「それはもう問題外じゃ。」


「…………何だと?何故だ?」







国王は語る。

あれ程の武力を誇り、一体どれだけの研鑽を積んできたのかは全員に伝わったと。

これからハイデン王国を護る為、その英傑としての力を奮って欲しい。





レインドは絹の髪を揺らし後ろへ振り返る。

自分は何故たった数日でこうなったのか。


全ての切っ掛けは巳浦であった。

奴が私の馬鹿げた提案を飲んでいなければ、どちらかが死に値する傷を負うか本当に死に至っていた筈。

当初の目的であった安寧とする世界への報復心は露と消え、横に立つ男に対して出会ったばかりにも関わらず信頼を向けていた。


もう、私には何も残っていない。

だがそれはこの場合良い意味になるのだろう。

エイレーンに対して、やっと正面から言えるような答えを持てた。


巳浦へと向く。







「私は、これからお前と暫しの間共に生活する訳だ。そこで今の内に訊いておきたい事がある、いいだろうか。」


「む、なんだよ。」



「おっと、私は退いとこうかの。

ではまたの。」







巳浦はレインドに頼まれて女性に代わる。

態々何事かと思っていると、何の予兆も無しに壁に押し倒してくる。


理解が飛んでしまい、目が四方へ向く。

何なんだ、何を話すつもりだ。


双眸は此方を捉えている。







「ーーーーお前には、現在家庭はあるか?」



「無い。

それが………なんだ。」



「生涯でお前に嫌われても構わない。

だから一つだけ言わせて欲しい。」










「ーーーー私と、共に生きてくれ。

巴、お前を離したくないんだ。」



「………………ぇ。」









放心。

レインドは今、確かに告白した。


本気かどうかを疑う余地のない、覚悟の決まった顔だ。

見ているだけで息が詰まりそうになる。






必死に思考を回してどう対処すべきか考えるが、一向に答えが出ない。

何だ、こいつ私の事をその、本気で。


顔が固まってしまう。

だがその様子を見て畳み掛けるかの様に両の手を背に回して抱擁してくる。


そのまま耳元に話し掛けて来る。







「私は気付いた。

エイレーンの生まれ変わりが、きっと20世紀に誕生した君なのだろう。

そうで無ければ、説明が付かないんだ。」



「どういう、事?」








首には、とても細いチェーンで巻かれたロケットペンダントが有り。

それを開いて中の写真を見せて来た。


……………………私。

いつ、写真を。







「これがエイレーンだ。

私が生前結婚していた相手の女性。

見たら解るだろう?君と、双子かと思える程に似ている事に。」



「嘘…………こんな偶然、あるの。

だって、女の体の時だけ右目の下に出来る小さい黒子が、この人にある。

似ているとか、そういう次元じゃない。」



「私は女性状態での君の裸を見た事はないが、もしや臍の右側にも黒子が有るんじゃないのか?」



「…………あ……ある。

髪の生え方とか、目付きとか、全部同じ。

そうか、これはレインドが固執するのも当然か。

私が悪かったんだな。」







私を抱き寄せたまま、レインドは唇に親指を添わせる。

そして黒のロングスカートに右手を忍ばせ、左太腿を撫ぜて来る。


私も、不思議な程に嫌悪感がなくそれを受け入れてしまう。

寧ろレインドの事がとても愛おしく感じてしまい、此方から左頬にキスをしてしまった。


本来なら親友だろうと斬り飛ばしている所業だが、そんな怒りや不快感が何もない。









……………………。










「ーーーー今は、もう良いだろう?

何か希望があれば、また後で聞いてあげる。」



「あぁ…………情熱的なんだな。

自分から擦り寄って来るとは思わなかった。

とても、彼女と似ている。」



「ふ、そう。

………あぁ、さっきの話、まだ答えてなかった。」









レインドは、途端に眼を驚かせて緊張し始める。


自分から告白した割に、意外だな。

…………とても踊る様な気分だった。





両の掌を頬に添わせて。

一言だけ訊き返す。








「お前は、私がどう答えるか解る?」



「…………………『喜んで』。」



「っ。

…………………そう、思考も同じなのね。

だったら、きっと良いのでしょう。

………一回だけ口にするわ。」





















「……………………ごめんなさい。」



「……………な、なぜ。」








心が、割れそうな程痛い。

きっと、私が最初から女で産まれていれば、この人と家庭を持っていた。

エイレーンとして生きていた昔の様に。


確証はない、だけどその人は私なのだろう。

記憶は無くても、魂がレインドを求めるんだ。


でも駄目だ。






力なく肩から手を落とすレインド。


彼は、全ての情報が頭から抜けて何も考えられなくなっていた。




何故、自身を先程受け入れてくれた彼女が?

どうして、なんでだ。

なんで。

私が、悪かったのか、きっとそうに違いない。

謝らないと。

まだ、間に合うはず。








「私が、悪かった。

事を急ぎ過ぎたのだろう、きっとそうだ。

段を踏まず迫って、君を傷付けたんだ、そうなのだろう?」



「…………………レイン。

彼女の記憶を、私の経験を思い出したの。」










「レインドではなく……………レイン?

今、確かに渾名で私を。」



「えぇ、今の私は10世紀に生きていた時の記憶を思い出した私、エイレーン・ブラスト。

と同時に、巴。」



「これは、奇跡なのか。

生写しではなく、本人だったのか?

では、私はもう本当に、復讐する必要が無くなった?」



「この記憶は、ずっとは保てない。

エンドカードの権限で幾つか前の人生に関して記憶を取り戻した状態。

後1分で二度と思い出せなくなる。」








1分。

たった、1分?


それを聞いて、レインドは怒号の様にも取れる程の声量で謝り始めた。








「私はァッ!!

君を助ける事もッ、自分を救う事も出来なかったァァッ!!」



「えぇ、酷い歴史ね。

反英雄ではなく、貴方は英雄になれた。

私さえ居なければ、貴方はきっと白き歴史に名を残していたでしょう。」



「どうでもいいっ!!

他なんて、力なんて要らないィッ!!

君を守る事も救う事も出来ない拳なぞ、屑同然だァッ!」



「…………私の事は、もう良いよ。

五年暮らせて、とても幸せでした。

嬉しかったわ、楽しかったわ、レインド。」









そう言う彼女の顔は、好物を食べている時の朗らかな顔だった。

レインドは、彼女の体から何かとても大切な物が霧散していくのを眼で見た。


それはきっと、彼女の、私と出会い生きた幼少からの記憶。

幸せに満ちていた、あの永遠の景色の記憶。





エイレーンは、最後に………最期に私の前で両手を合わせる。

水を掬うように、魂を救う。

それに、全ての魔力を込めて。


だがそれが周囲に漏れる事はなく、全て掌に集約される。

そして、私に渡す。







「寂しくはないから。

ごめんね、とても遅くなってしまったけれど。」



「この、光は?

とても暖かい、温かいんだ。」



「えぇ、もし私達の子が産まれていたら、こんなに温かったのでしょう。

だから、今この瞬間に落としましょう、生を。」



「……………まさか、この、子は。」











レインドが数秒間逆光に眼を閉じていると、いつの間にか自身の腕に赤子が眠っていた。


そして別れを惜しむように。

エイレーンは子に呟く。








「産まれてくれてありがとう。

一緒に居られずごめんね、【レイレン】。

記憶は無くても、母さんは一緒に居るからね?」



「…………あ、あぁ、私達の、娘、か。

そうか、魂は共にあったんだ、エイレーンと共に居たのだな。

そうか、そうか。」



「じゃあ、私はもう逝くね。

もう逢えないけど、天に還ればきっと会える。

だから、精一杯この子の為に生きてあげて。」

「心配しないで、巴に伝えておくから。

貴女の娘だから大事にしてあげてとね。」



「そうか、分かった。

解ったよ。

本当に、ありがとう。

また、いつか。」



「うん、じゃあね。」










ーーーーーー疲れた。

体力が全く残ってない、その子に持っていかれたみたい。

レイレン、良い名前ね。






「あぁ、もう戻ったのか。

記憶はどうなってるんだ?

もう、エイレーンの記憶は無いんだろう?」



「え?

………あぁ、彼女の意識はもう無い、二度と戻らない。

だけど置き土産に記憶は置いてかれてしまったみたい。」










「ーーーーーーーほ、本当に?

嘘だったら怒るぞ?」



「彼女に代わって一瞬記憶が飛んでるけど、還ったのは魂だけで記憶は頭に残ってる。

表現に問題があったのかな?心配しないで。」



「………は、ははははッ。

巴は、この子をどうするつもりだ?」



「レイレン、貴方と私の子。

直接今の私が産んであげた訳ではないけど、でも血の繋がってる子。

いえ、繋がってはいないのでしょうけど。

私はこの子のお母さんで良いの、レインド。」



「当たり前、当たり前だ。

君以外に母は居ない、もし私と一緒に居られないのなら、せめてこの子を育ててやってくれ。

私は、あまりに穢れすぎた。」



「……………それは駄目。」









思わぬ返答に、意気込んで訊き返す。

何故だ、と。


巴以外にレイレンを育てる資格のある人はいない、この私でさえその権利は無い。

どうして。








「言い忘れていた事がある。

私は今回の召還で任を負っている、世界を周る任を。

だからお前とは一緒に居られないんだ、この子とも居られない。

ごめんなさい、貴方とは居られない。」



「そう、だったのか。

いや、私は大きな勘違いをしていたのか。

君に裏切られた様な気になって、酷く落ち込んでしまっていた。

すまなかった、エイレ…………巴。」



「お前だけは、私をエイレーンと呼んで良い。

私も、お前をレインと呼ぶから。女の時はね。

勿論、男の時はいつも通りだけどな?」








そう言う彼女の顔は、いつも私に冗談を吹っ掛けてくるエイレーンの表情だった。

………………そうか、世界は私を、見捨ててはいなかったのだな。


ならば、返そう。

抗いた分、報おう。







レインドが顔を上げる。

その面からは全ての闇が落ち、巴の頭にある生前のレインドの明るい顔と同じ面持ちとなっていた。


巴は、最後に優しく微笑んで笑うと地面に寝込んでしまった。







レインドは、彼女の胸にレイレンを抱かせてそのまま二人を抱き上げる。

そして寮の自室まで運び、全身に幸福感を抱きながら家族を護る様に抱えて眠りに落ちる。

















そんなやり取りを、王と護衛のザラデス家が見守っていた。




長男のブレイは真剣に号泣して。

長女のベレッタは次女のレベルタと三女のベイルを両脇に抱えて三人顔を真っ赤にしていた。

(無論パムルスはバルトで任期中の為居ない。)




王は、これから二人と謎の赤子に関してどう処遇を下すか頭を抱えていた。

が、それは二人が目覚めてから考える事にした。


現在時刻は7月24日、正午。

これから巳浦もとい巴は、二度目の親としての人生を始める。





















「ん、鼻がむずむずする。

何でしょう?妙な気分。」






ロルナレ家達は妙な突然疎外感を感じたが、それが何故なのか分からず再び業務に戻った。








追記。

巳浦が存命だった頃、黒人のヴェルウェラとの間に設けた子はちゃんと記憶に覚えがある。

だが恩師のバステ・ロルナレスに頼まれて渋々残した子供は実際に見た事すらない為、文字通り育てた事がなかった。


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