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英雄までの物語  作者: ノンプロット
一年期七月下旬〜 反英雄
44/113

四十一話 ルール破りの試合








《本日は、突然の招待に応じて頂きありがとうございます。》


《会場内の上方に設置しております板状水晶や一般区画に設けている会館内の水晶でご鑑賞なされる方々も、よく注目してご覧頂きたい。》











長い髪を後頭部で一纏めにして垂らす男。

灰色の髪を肩まで伸ばし、どこかを見つめる男。


両者は、意外にも大事になっている手合わせの会場に少し緊張していた。




いや。

正確には目の前に立つ圧倒的な強者を目に、どう戦うかを考えていた。










レインドは、以前に凛堂から言われていた情報を思い出す。

【あいつに攻撃は当たらない】

という一言を。


それが何故の発言なのかは分からなかったが、それも戦いの中で見るしかないだろう。

どの道レインドの戦法は攻めが起点となる為、守りに徹して良い事があるとも思えなかった。


よって結論としては、前進。







「何とも不思議な物だ。

こうして目の前に立たれると、あまりに隙が無くてどう行っていいものか。」



「は、そうか?

まぁ俺は様子見のつもりで行くから、徐々に手合わせを発展させていけば良いだろ。

初っ端から飛ばすのは無しだぞ。」



「解っている。

では、時刻も後三十秒ほどに差し迫って来たし集中するとしよう。」



「あぁ、楽しみだ。

よく仲間と手合わせしてた時、お前みたいに突撃ばっかりなのに強ぇ奴がいてな。

それと同じ様な戦いになるのかと思うと躍る。」









巳浦は右腕を前方に突き出す。

下向きに開いた掌に、途方もない量の魔力が集約していく。





レインドも急激な魔力に気付いて思わず見上げてしまった。

その時観客とレインドの視界に映った光景は、神秘的にも見える物であった。







「ーーーー四本の剣が、自分から握られようとしている。

何だ、あの能力は。」








「そうか、【狂い】はやる気にならないのか。

【惰髄】も気分が乗らなそうだな、じゃあ。」








瞬きの間に先程までの魔力が一つの刀剣の形へと成っていく。

それは単純な、しかし美しさを感じる鋭い刃を剥き出しにしている漆の如き刀であった。






無知な人々はそれを見てただ燥ぐのみであったが、レインドはそのたった一本の刀を目にして全身に殺気を纏った。



何が手合わせだ、とんでもない血の匂いがする。

これはきっと、猛者すら人除けする程の濃度。

レインドは反射的に両手に重力魔力を溜め始めていた。








巳浦はその【不折】と呼ばれる刀を右手に握り締めてレインドに向き直った。

既に時刻は8時を迎え、ハイデン国王が小煩い実況を宣っていた。


だが、両者既に完全な集中状態にあり会話など聞こえはしなかった。


レインドが、ある事を訊く。








「お前には、確か【四刀剣】という通り名が有ったな。

先程の様子からすると四つの剣を内包している様だが、どんな絡繰だ?」



「絡繰か、俺もある日を境にこうなってた。

だから何故かと訊かれると、返答に困る。」



「成る程、面白い。

では、手合わせと行こうか。」



「おう、来い来い。

お前相手に攻めると駄目そうだから、こっちは守る事にするぜ。」







「ふんーーーー地獄を見せてやる。」







突如レインドが左腕を後ろに向けると、手に溜めた重力魔力を瞬間的に高密度に潰す。

それと同時に金切り音の様な爆発音が鳴り響き、







「ーーーーなっ!?」






たった。

たった一瞬で端30mから吹き飛んできた。


その勢いのまま空中から右脚の横回し蹴りを喰らい、巳浦は慣性を乗せて飛ばされる。






刀を地面に突き刺し勢いを殺すと、刃先に魔力を流し込んで瞬間的に放出する。


空中に舞い上がる。

だが。







「ーーーーおいおい飛んでくるのかよ。」



「当然だ。」







真下にいたレインドは、力を込め左脚を重力爆発と同時に踏み込ませて跳躍した。

突如として地上戦から空中戦に移り、戦況は混沌であった。






巳浦は刀に魔力を込めて放ち、上手く滞空を続けていた。

一方のレインドは何度も地上や外周の壁を踏み付けて空中にいる巳浦へと飛び掛かっていた。


それは客観的に見ると、空に浮く剣士を拳士が殴り込みに行く異常な状況であった。






「楽しいなぁおい!

ここまでやる羽目になるとは、流石反英雄!」



「お前こそ、剣士なのに飛ぶとは納得が行かないな。

二人共素手禁止に刀剣禁止の筈だが、普通に忘れていたな。」






「あ。

……………周りも盛り上がってる、問題ない!」



「その通りだ。

それならいっそ、








レインドは地上に立ち止まると、身体中から魔力を大量に練り始めた。

巳浦は何となく行動を理解したが、周囲はそれを見ても無関係とばかりに盛り上がるだけである。





右腕に集められた魔力は、手を中心に半径1m程の空間が歪んで見えるだけの重さが掛かっていた。

それはレインドの右掌に全て集められ、そして。







「ん。

ーーーーーーおま、それスキルじゃねえか!?」



「今更言うな、解っていただろう。

ーーーー【重拳】。」







それは段々と左腕、右脚、左脚の全てにも宿り。


空中に飛び上がったレインドが落下する前に四肢のどれかを起爆する事で対空し続け、即座に起爆箇所にスキル【重拳】を溜め終えるという荒技であった。





巳浦は空中で縦横無尽に爆発を繰り返し軌道を変えてくるレインドを目にし、自身もスキルを使うか悩んだ。

しかし巳浦のスキルは範囲が大きすぎる為、仕方なく刀剣を替える事にした。







「悪いな【不折】、【回帰刃】と交代だ。」




ーーーーーー………。




「お前の力は1番範囲がマシだからな、この状況には合ってるだろ。

て訳で、宜しく。」



ーーーーーーあぁ。







そうして瞬く間に切り替えられた刀剣を見てレインドは危険を察知し後ろへと飛ぶ。

先程まで自身がいた位置に、振り抜かれた刀身から打ち出された魔力の斬撃が飛ばされる。



レインドは、その際にスキルを使った様子や魔力を消費した気配がない事に気付いた。






一旦両足で飛び続けながら両腕の重拳を撃ち出す戦法に切り替える。

それを撃ち落とす為に振り抜かれる度、刀身自体から斬撃が発生している事を確認した。


理解できなかった。

何が起きているんだ。







「お前の新しく出したその剣、それは何だ?

何故刃を振るうだけでスキルが出る。

どうしてその際に魔力を消費する様子がない。」



「コイツはな、俺の半身の様な剣なんだ。

材質も特別製で、俺の魔力に全て置き換えられてる。

振るうだけでこの刀が周囲の大気を【強化】するから剣圧、風圧の類が全て斬撃になる。

面白いだろ?」



「出鱈目すぎるが、確かに興味深い。

では、それで手合わせ願おうか。」








「おうーーーーーーっと?!」






時折通常の爆発より強烈な爆発を使う時がある。

その場合の速度は他の爆発移動の数倍速く、一瞬で正面に潜られる。


そして、縦回転からの左踵落としが襲い来る。

しかし、予め爆発の音に反応して刃を正面縦方向に振るっておき、踵部分に斬撃を当てる。






異様な対応の速さにレインドは驚愕する。



普通は守りに徹して相手の後を突くのが心理。


それを当然の様に予測して落とした。

少しの怯えもないのか、お前は。

凄いな、少なくとも私より精神的に上なのは確かだ。




続けて放った右足の回し蹴りも強化した左腕に凌がれる。







「大した物だ。

だったら、猛攻で仕掛けるッ。」








「んーーーーおっ!」







右足を数回高速で突き出して来た。

数度は躱し、何度かは剣の腹で流す。


だが、その連続攻撃は段々と火花を上げる。







左脚の回し蹴り動作が見えた。

右肘を前に向けてくの字に曲げ、剣先を下に向け縦向きに構える。


一撃を受ける。





が、防いだと同時にレインドの右脚から爆発音が聞こえる。

回し蹴りの隙を無理矢理反対の足の回し蹴りで誤魔化してきた。


流石に処理しきれずに咄嗟の左腕で防ぐ。

だが、無理があった。






「くっそ……ッ!」



「隙だぞ。」



「何、







空中で身を背中反りに一回転させ、強力な縦回転蹴りを放ってくる。


それはこれまでの攻撃よりも一際強力で、脊髄反射的に放った回帰刃の斬撃を軽く消し飛ばして巳浦へ直撃した。


鈍い響きが体を巡る。






幾らか威力を殺したとはいえ、直接当たった左脇腹の痛みは凄まじく。


よろけて地上へ落下していく。

レインドはその隙を見逃す事なく追尾する。







レインドは内心、巳浦が加減をしている事に気付いていた。

自身はあくまでもスキルを使うわけにはいかない状況で、不利な筈の接近戦に態々付き合う。


どう見ても勝敗度外視で楽しんでいるだけであった。

レインドも全く全力ではないが、巳浦の場合は今も欠片も底が見えなかった。







痛みで撃墜していく巳浦に対し、両腕から【重拳】を撃ち出す。


ーーーーーー手合わせもここまでか。

そう、心で呟いた。








ーーーー勝手に終わるなよ。


そう、耳に聞こえた。

即座に真下を見直す。








黒い奔流が、レインドへ衝突する。

何が起こったのか、理解出来なかった。


ただ理解しているのは、自分が回帰刃とは別の攻撃で斬られたという事。

根本的に威力と範囲が別物であった。






(何だ、この鋭利に削り取る様な暴風は。

先程までのただ平たく叩き付けてくる感触の斬撃とはまるで別物。)






一瞬飛び掛けた意識を瞬時に呼び戻し、真下へ振り向く。

巳浦の持っていた刀は既に回帰刃ではなく、柄部分以外を全て鋸の様に小刻みに尖り散らせる凶悪な容貌の刀であった。


それは、【狂いの漆刀】。

黒人からの贈り物であり、大切な四本中の一刀。







「………狂いを使う気は無かったんだが、少し焦っちまった。

まさか【剣圧拡散】を使わされる羽目になるとは思ってなかったよ。

強いな、結局俺もスキルを使っちまった。」



「…………その剣、生前見た事がある。

黒人の男が持っていた、確か【ウォーカーブレード】とか言っていた。

それも同系統のものなのだろう?」



「へぇ、黒人くろびとの事知ってんだな。

俺が生前、ある奴に気に入られて貰ったんだ、良い刀だぞ。」



「ふ、羨ましいな…………ぐっ」








剃刀で切り付けられた感覚が全身に降り掛かり、

浅い切り口が十数箇所残った。


レインドにもまだ余力は残っている。

が、この巳浦という男の限界が真面に探知出来ず当惑していた。





(何という男だ。

一刀一剣、どれ一つを取っても英雄の武具として相応しいほどの力を持っている。

それを四本、自在に使い分けるだと?)




全身に魔力を練り出し、それを維持する。

1stskillが【重拳】。

此方は2ndskill【重剛拳】。





先程までの様に爆発による瞬間的な慣性で生身の攻撃を出すのではなく。

重力魔力により高重量と化した肉体、それを全身に纏った魔力を瞬間的に爆発させて凶器として振るう技である。







「常に練り出し続けている為重拳の様に攻撃の時点で魔力が切れることは無い。

その分燃費は悪いが、威力は数段上と思え。」



「怖い技だな。

よおし、危険な感じがするからこっちも一段ギアを上げるぞ。」



「何。」








巳浦は、手に持っていた狂いを一時的に大気に消し、新たに四本の刀剣の影を空中に出現させた。


そして、何やら数秒ほど悩んだ後に突如周囲を黒い霧が包み視界が潰される。






刹那でその魔力を逆立ちからの両足回転蹴りで吹き飛ばし、直ぐに前を見る。

その時、レインドは目を見開いた。







「……………二刀流。」



「どうした?結構居るぜ、二刀使いは。

二刀に関しちゃ俺が1番下手だけどよ、へへ。」



「…………は、ははは、面白い。

俺の時代にここまでの人間は居なかった、反英雄でも良い事はあるものだな。」



「強さは努力だ。

それが才能にしても研鑽に因るものだとしても差異はあれど努力はしている、だから強い奴の事を好きになる。

性格が良いとか容姿が良いとか色々有るけどよ、強さは不純さが無い分素晴らしい、だから猛者と出会えると嬉しいのはどの時代の人間もそうなんだな。」



「……………そう、らしいな。

ここまで来たら、【最後】まで使っても良いだろう。

お前には、それを受ける資格が大いに有る。」











「ーーーー【重反転】。」



「………………3rdskill。

お前、本気の本気じゃねえか。」



「説明不要。

行くぞ、大英雄。」









巳浦も、その本気の姿勢に感化され。

いや、将又警戒してか。


両手に握る不折と狂いに魔力を込めてskillを放つ準備を仕掛けた。

それは、当然の礼儀であった。



互いの視線が交錯する。

言葉は、不要。









爆発が起こる。


目前まで飛び込んでくるレインド。

それを迎え撃とうとする巳浦。





そこからどうなるのか、目で追う事ができず超常現象を見る様な心境で観戦する観客席から何かが飛び込んで来た。


二人が互いに衝突し掛けた瞬間、間に途轍もない大きさの大剣が突き刺さる。

それは両者の攻撃を受けても微動だにせず、双方の衝突を抑え込んだ。






レインドと巳浦が冷静になって上を見上げると、威圧感すら感じる筋量を誇るスキンヘッドの大男が突き刺さる大剣の柄を左手で握って逆立ちしていた。


ダンジョンである。







「お前ダンジョンじゃねえか。

何しに来た。」



「私達の戦いに割り込むとは、何という男。

……………お前は、魔王ダンジョンか?」








「お二人共、skill禁止とか武具禁止だとかの決まり事破り過ぎっすよ。

周りを見て下さい、後1秒遅れてたら二人の攻撃の余波で観客が危険な目に遭う所っした。」



「あ………」



「成る程…………」



「後、2人とも良い戦いでしたよ。

久し振りに地上に戻ってから見た戦いで初めての興奮する戦闘でした。

お疲れ様っす。」









《最後は謎の大男による乱入で終了!?》


《時間にして10分にすら満たないものの、その内実は極限まで圧縮された物となりました。》


《もし今回の試合に関して興味を持たれた方がおられましたら、是非王国宛に質問など受け付けておりますのでご自由に。

もしかしたら誰かの提案した企画が通るかも解りませんよ?》








ーーーーすっげぇ戦いだぁぁぁあぁ!!

こんなの人間が出来るのかよ!?


ーーーーお母さん、僕大きくなったら学院に入りたい!


ーーーーファンクラブ設立よぉぉおぉ!!
















そんなこんなで手合わせは終わり、二人は観客の声援や握手を適当にあしらいつつ階段を上って四階寮へ戻っていった。


二人共良いタイミングで割り込まれて集中力が切れてしまった為、階段で寝た。

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