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英雄までの物語  作者: ノンプロット
一年期七月下旬〜 反英雄
43/113

四十話 ハイデンでの朝









翌日。

巳浦ーーーー巴は、全部で五階あるハイデン城の四階に当る関係者専用の寮、その最奥室で目を覚ます。










(ーーーーーー何があったんだっけ。)


体が熱い。

掛かっている布団から出ようとする。


だが、






「行かないでくれ。

行動するなら私も一緒に連れて行け。」


「…………レインド。」


「昨晩お前をこの両腕に抱きながら寝た。

いつ以来だろうか、生前振りだろうか?とても心地良い気分で寝られた。」


「そうか、それは良かった。

でも私が手洗いに行く時くらいは離れていろよ。」


「あ、あぁ。

そうだな、すまない。」


「あぁ、取り敢えず顔洗ってくるからまたな。」







そう言い残し少々足早に部屋から出る。

一旦冷静になりたかった。













周囲を見渡すと、どうやら現時刻は朝の7時ほど。

普段ならとっくに起きて稽古の真っ最中という時間帯だが、今日からは生活リズムが変わりそうだ。


正面で忙しそうに働いている様子のメイドを捕まえる。






「少し訊きたいんだけど、手洗いはどこに有る?

朝の目覚めが重くて顔を洗いたいんだけど。」


「はえ?

ーーーーと、巴様でしたか!失礼しました!

お手洗いは現在の四階北通路最奥室から中央の一本廊下を戻って頂き、螺旋階段伝いに三階〜二階まで降りて下さい。

そうしたら二階の東側に設けられている食堂が有りますので、朝の御食事とご一緒に。」


「そうか、ありがとう。

…………食事か、レインドも呼んでこよう。」


「レインド様の事は私達も良く存じ上げてないのですが、それでも今日はこれまでに無い程落ち着いていらっしゃる様子です。

酷い時は魔力が滲み出て四階の他の部屋や、最悪三階の練習場まで魔力が垂れてきて恐ろしいんですよ?」






「そ、そうなの。

どんな生活を送ってたんだ、あいつ。」






すると。

何かに気付いた様子のメイドが一瞬で顔を紅くして布巾を渡してくる。

突然の事で反応が遅れたが、反射的に受け取る。


何故渡されたのか分からなかったが、メイドが口元に指を刺す仕草をしてそそくさとその場を離れていく。

どういう事、






「……………これ、血。

え、なんで。」






唇の端辺りがほんの少しだけ出血しており、十秒ほど呆けて理解した。


あいつ、寝てる私の唇を噛んでたな。

無意識なのだろうけど、どれだけ寂しかったんだろう。


(ちょっと痛い感じもするけど、甘噛みが偶々口を切った様な感じだ。

まぁ、仕方無いか。)








兎に角部屋に戻ってレインドを呼ぶ事にした。















「今日の朝食は巴様の滞在感謝も込め、少々華のある内容にしました。

お気に召しますと幸いです。」






「おぉ、これはなんだ?」


「巴は知らないのかい?

これは私が、生前妻に作ってもらっていた好物なんだ。

現代ではもう主流の料理として残ってはいない様なんだが直接作り方を料理人に教えて再現してもらった。

君にも食べてみて欲しい。」


「へぇ、庶民的で良いね。

白い柔らかな生地で肉の餡を包んだ、可愛い料理だ。」






興味に駆られて美味しそうに食べ始める。

だが、その表現を聞いたレインドはあまりの郷愁に思わず涙を流していた。


(それは、生前にエイレーンが私の作った小籠包を口にした時に語った感想だ。)





奥行きは縦向きに十畳、18.2mで約20mほど。

横には10mちょっと程度の幅となるので、縦向きの畳が横に12枚分並んでいる中々の広さの食堂。





その内の中央席に二人は座して食事を摂っている状況であったが、他に起床して食事を摂ろうとしていたザラデス家や家来の者達は雰囲気を察して入口から覗いていた。


あまりに団欒としている状況にのんびりと入るにも入れない空気感になっていた。

だが。






「うぁあ、腹減ったわぁ。

今日は何が出てくるのかなぁって、二人共もう来てたんだな。

朝から起きるの早いねえ。」


「凛堂か。

私は今巴と食事を摂っている、邪魔にならない位置で食事を摂れ。」


「はいはい。

今日は朝の8時から稽古だから、【お前ら】も宜しく。」








ーーーーーーっ!!

入り口で覗き込んでいたザラデス家の者達が声を掛けられ、驚いている。


しょうがなくぞろぞろと出て来て、ブレイ達を筆頭に席の端に座り始める。







それを見ていた巴は、ベイルが何故居ないのか疑問に思った。


(依頼報告とは別用件だから馬車に乗せてもらえなかったみたいだけど、家は此処よね。

どこに居るのかしら?)







席を立ち、少しザラデス家の者達に近づいて行く。

頭を短く刈り揃えている年長者らしき男が居たので、その者に聞いてみる。






「もし、名前はなんて言うの?」


「え?

ーーーーは!ブレイ・ザラデスと言います。

何か用でしょうか?」


「ベイルが居ないと思ったんだけど、何処に居るのかしら。

昨日外で別れてから見てないのよね。」


「ベイルでしたら、朝の六時ほどに起きて食事を摂り、そこから八時辺りまで一人で稽古をしていますよ。

一人だけ力不足である事をガラベル父様やハイデン国王から考慮され、一人で体の基礎を作っているみたいです。」


「そっか、ありがとね。

横の女の子達も、ベイルみたいに可愛い妹がいるのだからちゃんと内緒で特訓とかしてあげてね。

訓練は魔物との戦いに備えるのが目的なのだから、一人で鍛えていてもあまり意味は無いわ。」






「は、はい!あの子の面倒を見る様に。

態々のお言葉感謝申し上げます!」


「これからは私達二人が時折覗くようにします。

それと、良ければ八時からの訓練を見に来て頂けると嬉しいです。」


「な、ベレッタ姉様何を!」


「良いレベルタ、訳は有り有りとは言え女性の身で実力を持った人なんて歴史にはまず居ないわ。

かの大英雄と評される巳浦様、もとい現在の巴様に訓練を見て貰えるなんて素晴らしい事は今から2ヶ月の間だけなのよ?

凛堂様はいつも素手でしか稽古してくれないから、良ければ木剣か何かでお教え願います。」






随分と積極的な子ね、ベレッタちゃんか。

ベイルと良いパムルスと良い、ザラデス家の者は皆自信や誇りに満ち溢れている。


これも凛堂の教育のせいなのかしら。







当然の様に承諾すると、ブレイやベレッタ達は内心喜んでいるのが伝わって来た。

レインドがそんなやり取りをしていた私達の元に近づいて来ると、意外な話を持ち掛けてくる。







「なぁ巴、私と手合わせをしてみないか?」


「え。」







黙々と食事を摂っていた凛堂が、それを耳にして思わず大きな声を上げる。


反英雄と言われてはいるが実際に戦う所を見た事は無かった為、手合わせとはいえ戦うと聞き反射的に興奮してしまった。





幾つか訂正をする。

①女性の君と戦う気は流石に無いから男性の状態で戦う。

②スキルの使用は無し。

③巳浦木剣、レインドは布を巻いての保護試合。

以上三つの条件を前提として稽古をしようという話だ。


これは巳浦としてもとても面白い話で、矢継ぎ早に首を縦振りした。







ザラデス家との合同稽古は今日は一旦無しにして、まず八時初っ端に巳浦対レインドという人類最高峰の手合わせが執り行われる事になった。


この話は国王の耳にも入り、即座にハイデン王国全体に速報として流した。






三階は王城でも最も広い空間となっており、高さ15mで円形のホール状となっている。

(観客や他所者は兎も角王城の者達は日頃から三階ホールを見ているので慣れている。)


周囲の観戦用座席数は円状且つ階段で二段目と三段目まで用意されており、全てで1500程度となっている。


中央は奥行30m、横30mの弧を描いた空間となっており、そこで日頃の稽古などを行なっている。








急遽国に知れ渡る試合の内容。

一席につき金貨一枚という中々のお値だが、1500席の予約はたった10分ほどで売り切れた。





それとは別に映像水晶による放送も決定となり、其方は一般区画の中央にある館 会館内にて行われる事となった。


因みに会館の方も大きく、高さ15、奥行20、横幅25m程になっており、座席数は1000程度となっている。

此方は正面に設置されている縦8m横20mの巨大な水晶板に映像が映し出される訳だが、催しによって一席あたりの金額は異なる。

今回は一席一銀貨となる。








そうして、軽い気持ちでレインドが提案した手合わせは意外にも大事になっていく。


広さに関しての設定云々は一応現実での建築物を参考にざっと決めています。

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