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英雄までの物語  作者: ノンプロット
一年期七月下旬〜 反英雄
38/113

三十五話 ヴェルウェラお婆さん

時系列が最新に戻ります。







7月20日。

この日は、丁度午前10時にバルト王国の東門から巳浦とイジャエがデルヴァ森林へ遠征任務に向かった日。


同時に。














「だよな!

それで俺ーーーーーうわ、すげぇ。」


「あ?……………誰だ、あの超美人。

髪長ぇ、腰より下まで伸びてるか?」









「何が学院だ。

別に雑魚に興味は無いけど、此処は矢鱈とあいつの、


「ーーーーー巳浦の気配がする。

薄れてはいるけど、眼鏡の魔力も有るね。」








2年の団体戦最終日。

午後5時の下校時刻に、何やら異様な来客が来ていた。





松薔薇は体で直ぐに異常を感じ取り、一瞬で表情を切り替えて校庭から学院内のエントランスまで飛んでいく。


すると、居た。

黒人くろびと、その中でも実力最高峰の紅一点。






松薔薇は顔に焦りを浮かび上がらせながらも、何故か怒り気味の彼女…………ヴェルウェラに対して、どうにか怒りを抑えてくれる様に頼む。


周りの生徒達も、日頃の圧倒感を放つ英雄松薔薇がここまで緊張を露わにしているのは危険な状態だという事に気付き、皆自然と黙り始める。


そうして、20秒ほどで喧騒が止む。

松薔薇はエントランス中央で周囲の生徒、いや魔力の残滓を感じ取っているヴェルウェラに情報を教えるかどうか悩んだ。






もしギルドの任務でデルヴァ森林方面に向かっている事を伝えたら私と巳浦の世界中の情報収集をする計画に亀裂が入り兼ねない。


どうにかヴェルウェラには穏便に帰ってもらおう。

一呼吸息を吸いながら、重い足を彼女へ歩ませようとした。






瞬間だった。

瞬きした瞬間、20mはあった距離からたった一歩で、無音のまま背後に立たれていた。


スキルが感知出来ない、いや松薔薇本人が相手を常に認識出来なければそもそも機能しない。


これが、黒人でしたね。

認識を改めて、態度も変える。







「おい眼鏡。

私の問いに答えてくれるよね。」


「………内容にもよります。

食事の好みとかでしょうか?」


「へぇ、良いね。

じゃあお前を直々に天界に送ってやろう。

死ねるんだ、嬉しいだろう?」






「え?」







気付いた時。

顔に掛けていた眼鏡の中心が縦に割れ、身に付けていたコートのボタンが生地部分から全て切り落とされていた。


理解した。

嘗て英雄と呼ばれる以前の私達や魔王と戦っていた頃と、全く実力が変わっていない。






当時と同じままだとすれば、相手出来るのは人間だと巳浦のみ。

或いは同じ黒人の【彼】か天使クラス。


自分はやはり超人達の中では力量不足。

言葉の利き方には気を付けなければ。




ヴェルウェラに用件を聞く。

何故突然人界の、しかも人の住む生活圏内に来たのか。








「理由なんか単純よ。

巳浦の奴、召還されたろ?20世紀も私を放置した罪を償わせるんだよ。

文句無いだろ、眼鏡。」


「いや、当人も当時止むを得ない事情がありまして、


「小さかった子供2人を放任主義の私に押し付けて、私がどれだけストレスを抱えていたか。

無論子供の血は今も残っているだろうけれど、可愛い子達とは別に巳浦は殺す。」


「いやですね、その、


「お前の事だ。

南街のゼルにあるギルドで立ち聞きしてたらさ、今日デルヴァ森林に討伐依頼をこなしに行った二人組が居るって話なんだ。

それさ、片方は巳浦でしょ。」


「ちが、違いますね。

誰ですかそれは?そもそも私は直接ギルドの実情を把握している訳では無いです。

思い込みは程々にしてもらいたい。」







「…………ふーん。

昔から、噓を吐く時は眼鏡を上に掛け直す癖があるよな、君。

まあ一応確認しに来ただけだから、もし帰って来たらこの紙を渡しておいて。」


「はぁ、手紙ですか。」


「私の居場所から何やら、まぁ伝えたい事色々書いてあるから彼奴に渡して。

来なかったら本当に地獄見せるって伝言も宜しく。」


「えぇ、分かりました。

結局恨まれる原因は彼にもありますからね。」


「そうそう。

私が受けた悲しみからは決して逃さない。

ありがとう眼鏡、それじゃあ私戻るから。」







そう言うとヴェルウェラは黒い丈長のスカートを翻し、学院を後にしようとする。


松薔薇としてもさっさと消えて欲しい思いで一杯だったのだが、








「今日は何食べるかなぁ。

昨日はソディアに合わせてサラダだったから、もう少し肉物が食べたいな。」


「私は君に合わせるよ。

そうだね、なら私も肉類にしようか。」







偶然にも正面からブレイドがソディアを連れて学院の食堂に足を運びに来た。



松薔薇の脳裏には様々なパターンが想起されたが、もう自身がどうこう出来る相手じゃないのは分かっていた為静観に徹する事にした。







ブレイドが、手を繋いだソディアの歩きが何故か止まった事に気付き自分も足を止める。


何かと思い食堂方面から背面へ顔を振り向かせると、いつの間にか誰かが両手で顔面を挟んで来ていた。






「な、貴女は誰だ!

ブレイドが困惑しているじゃないか、手を離してくれ。」


「断る。

黙っていて……………へぇ、ブレイド君ね。」






「だ、誰?

ん………………母さん!?」







周りが騒ぎ始める。

しかし当人はと言うと、良く似ているがどうにも顔立ちや雰囲気が全く別である事を把握し始めていた。

一体この女の人は。





疑問を投げ掛けようとした。

その前のめりになった体を、前からそのまま同じように歩み寄られて抱き締められている自分がいた。


訳が、分からなかった。

だけどその時、不思議にも懐かしさからくる涙が自然と顔を伝っている己が理解出来なかった。


この人は知らない人だ。

だけど、関係はある人なんだ。

巳浦爺さんみたいな………………。







あれ、聞いた事ある。

いつかの稽古の時に巳浦爺さんが言ってた、人外の奥さんの存在。


それで、俺の家はその家系の血筋だと。

もしかしてこの女性。






そのまま床に座らされると、真っ黒な魔力を纏った状態で俺を胸に再び押し込む。


周辺の人間は、そのあまりにも濃い強化魔力に気が触れて吐き気を催す者もいるほどであったが、当のブレイドは体を包む暖かさに自然と顔を埋めていた。





ソディアは体に本能的に感電魔力を纏って魔力の余波を防いでいたが、そんな中平然と眠ってしまっていたブレイドに驚く。


自身の魔力は自分に襲い掛かることはないという常識があるが、それは血縁関係でも同じ現象が起こるとクラスが話していた。

これは、つまり家族関係者。






もしやすると…………自分の御婆様になるかも知れない人。


ソディアは、魔力を弾きながらも少しずつ距離を詰めていき、傍で座り込む。






横隣に座り込んできたソディアに横目をくれると、暫し見つめた後に何を思ったのか此方の頭も撫で始めた。


何のつもりかと歯向かいそうになったが、まだ幼かった頃の母の優しい一面を思い出してしまい動けなくなってしまう。






ヴェルウェラは、他の者とは違い唯一近付いてきたソディアの事を若干普通と違うと認めていた。


気になって話をする。

うっとりしていたソディアもふと我に帰り、真面目な顔を向けてきた。







「君、ブレイドとはどんな関係なんだ?」


「は、はい!彼女です!

私を救ってくれた彼とは毎日私の家に帰る位には仲が良いです。」


「そっか、とても伸び代がある女の子だ。

流石に巳浦と私の血を継いだ家系だ、相手を見る目があるね。」


「その、やはり貴女は、


「ずっと昔だけど、1番最初の血筋元。

大英雄巳浦もとい屑親の巳浦もこの子の古いお爺さんだ。

聞いた事あった?」


「何かの拍子に少し聞いた事があります。

日頃はこのバルト王国の中心にある王城の四階で修行してるみたいです。

私も最近稽古でお邪魔しているんですが、まだ一度も見掛けないんですよ。」


「あぁ、ここ最近は恐らくギルドの入会やら何やらで暇がなかったんだろう。

あの眼鏡…………松薔薇がリーダーやってるらしい組織で何か計画を実行しようとしてるみたいだけど、どの道ここに戻ってきたら潰す。」







最後の語気に僅かに込められていた殺気は、魔力を纏っているにも関わらず言霊のようにソディアの精神に恐怖を与えた。


ヴェルウェラはそれを感じ、将来ブレイドの嫁さんになるだろう女の子は大事にしないとと思い優しさを含ませた強化魔力を頭から被せてあげる。






それは一転して嫌な気持ちも何もかもが全て吹き飛ばされるような慈しみに支配されており、周りで悪意に当てられていた生徒達もその余剰に当たり途端に体調が良くなり始めた。


ブレイドは最初からヴェルウェラの魔力に完全な適性があり、悪意も善意もどれだろうと体に受け入れてしまえる為関係ない。

だが周りはそうは行かないのでこれは助け舟となった。





ソディアは、いつまでも大きな谷間を枕にしているブレイドに少し苛つき始めて顔を軽く叩き始める。


それをもし他のものがやったら冗談でも文字通り【小間切れ】にされる行動であったが、とっくにヴェルウェラに公認の彼女兼嫁候補として認知されていた為微笑ましく見つめられていた。






松薔薇は、ソディアの人を選ばないコミュニケーション力に助けられたと思いつつ、問題はないと判断し他の生徒達をどんどん下校させる。


その前に体調を崩した者達に自然魔力を集中させて治癒する事にしたのだが、体に纏わり付くヴェルウェラの悪意に満ちた強化魔力が異常に重く中々思う様に治癒効果が表れなかった。


生徒達は、これまでの様に治癒が掛けられない松薔薇の様子から目の前にいる超長髪の黒髪の女性とは絶対に関わってはいけないと本能で解ってしまった。







そうして他の生徒達が帰っていく中。


ソディアの胸へ紺色の制服越しに顔を寄せている状況に慌て、軽快に飛び起きる。

ソディアはもう少し甘やかしていたかったと内心思っていたのだが、






「おはよう。

短い眠りだったけど、体調は大丈夫か?」


「ん?

大丈夫だよ、おばあちゃん。」


「そう。

私はもう【居場所】に戻るけど、お前には紙を渡しておこう。

私の住所とか色々載ってるから、気になったら顔を出してね…………彼女も一緒にね。」


「え!?

…………お前認められたんだな、ならもう公認じゃねえか!?

巳浦じいさんにもこの前食堂で多分OK出たし、問題な、







「あいつの言葉は当てにならない。

これからは私の言う事を信用する様に、良いね?

ブレイド。」


「え。

えぇっと、でも俺爺さんの事好きだよ?」


「……。

私も嫌いじゃないよ、二千年も愛してる。

けど昔家族を捨てたあいつに、子孫を可愛がる資格は無いよ。」







そう言う時のヴェルウェラ御婆さんの顔は、いつかの日に巳浦爺さんが凛堂とか言う男に向けた怒号の表情と同じぐらいの恐怖を感じた。


これは、素直に言う事を聞いた方が良さそうだ。







「うん、解った。」


「そうか、素直で可愛いな。

可愛いついでに教えておいてやるけど、もしお前が今より数段強くなれたら、特別な物を渡してやる。

もし、そこまで強くなれたらな?」


「あ!

それって、【狂いの漆刀】!」


「…………巳浦に見せて貰ったの?

何だつまらないの。

……………だったらあいつの【惰随】みたいな特別製を作らせる、か。」







「え、えぇっと?

何が何だか、会話の内容が解らないぞ。」


「ソディアは…………お前も強くなりそうだ。

もし人類の限界の半分まで来れたら、ブレイドと同じ様に武具をあげる。

人間の第一限界…………[50lv]まで上がれるなら、ね。」


「第一、限界?

あの、それはどう言う、









疑問が湧き聞き返そうとしたが、もうブレイドとソディアのいた場所からは消えていた。


何となしに校庭に振り向くと、既に広い校庭の入口まで移動していた。

時間にするとたった3〜4秒程度の時間で、学院入口から校舎出口までの間にある500mの縦間隔を簡単に移動したと言う事になる。






勝ち残り戦での最速記録が、フィスタの秒速18〜20m(推測)であった事を考えると、もう理解の外であることは容易に感じ取れた。

まぁ、ヴェルウェラは歴史の全体で見ても最速クラスなので例外的ではあるが。


人外の力を目で見ると同時に、その血を継いでいるブレイドに対しての周囲から寄せられる羨望や期待は凄まじい物である。






「と、とにかく飯食べようぜ。

今日は肉食べるからな、ソディアも良いな。」


「あぁ、構わないよ。

………それにしても、とんでもない女性だ。

あれだけの女性であれば、英雄とも釣り合うだろうな。」



(私も、ブレイドと並び続けられる様に努力せねばな。)






そうして本日の松薔薇危機一髪は無事に済んだ。

しかし。



















シャリン村。





村での労働を終え翌日の21日からはデルヴァ森林で任務をこなす予定を頭に浮かべていた巳浦の脳内に、何とも言えない寒気が過ぎった。


思わず身震いしてしまう。

この感じ、ヴェルウェラに怒られる時の感覚に似てたけど、まさか、な?






「巳浦様、大丈夫ですか?

顔色が悪い様ですが。」


「ん?何でもねえよ。

明日からはここを出て森に向かうぞ、しっかり休んでおけ。」


「な!?明日にはもう村出ちまうだか?

ま、また寄ってくれっか!?巳浦?」







昼の岩砕きやら夕過ぎの農作業やらをこなしながら仲良くなったロロイと共に村の民宿で食事を摂りながら、これからどうなっていくのかをぼんやりと考える。


デルヴァ森林の任務を果たしたら、そのまま更に東へ数十km進みハイデン王国に入る事になる。

そこで、恐らく一つの極みに達した反英雄レインドと一戦戦う事になる。






「討伐とか言ってたけど、殺さなくても良いんだよな?」


「何言ってるんですか?

虎の魔物はちゃんと倒して達成報告しないと終わらないですよ!」


「ん。

…………あぁ、そうだな。」


「な、何の話してるだよ?

俺にもわかる様話してけれー?」








席から立ち上がる。


悩んだ時、俺はいつも刀剣を提げる。






空間に4本の刀剣を出す。

第一剣《不折の黒刀》、

第ニ剣《狂いの漆刀》、

第三剣《惰髄暁刃》、

第四剣《回帰刃》。


其々を一〜四の順に右手、左手、右腰、左腰に。

儀礼的美を滲ませながら、四刀剣を握り提げる。






この4本はそれぞれ大切な思い出のある刀剣だ。


時にはお守りで、或る時は親の形見として。

贈り物として、魔物との交友の証に。


そんな大魔戦記時代を生きた時の想い、経験が篭った大切な【仲間達】。

それらは、死して尚言葉を発さずとも俺に付き従ってくれる良き相棒等だ。






自然と。

戦場で無意識にやっていた癖が久しぶりに出てしまった。


ふと不味い事に気付き皆の方へ振り返ると、全員が人でない存在を見る茫然とした顔をこちらへ向けて来ていた。





適当に剣達を撫でて空間に還すと、何事もなかったかの様に席に座り直し食事を再開した。


イジャエから途轍もない尊敬の眼差しを向けられ、ロロイからは一体何者なのかと問い詰められるが全て無視。






「お。

シャリン村は農作物が美味いな。

サラダと簡単に言っても鮮度が良くて甘みさえ感じさせる。」


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